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天才ラーメン王、全てを失い異世界で無双する  作者: とみた美味いろは
第二章

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43. ドクターSとマンダリン

天海聖暦771年 春月80日


《古い邸宅ホテル内》


「ドクター! ラーメンの研究? 少しも手伝ってくれないのですか?」

「マンダリンちゃん、私、ラーメンは分からないよ。お願い! 任せるよ」


 ドクターとマンダリンの2人は、10日前にグルンジ王国の美しい王都ラグールに来た。プロジェクトチームを派遣したイブロ王国は、事前に街外れの古い邸宅を借りて大改装をしていた。この邸宅を改装して綺麗にする代わりに1年間の家賃は無償になる契約を結んだ。この館を拠点にしてラーメンの研究を始める。


…………………………

《海聖暦771年 春月21日~》


 トラキール帝国よりイブロ王国に恩賜された戦艦の国王専用船室に転移した空野ミカと男性が船室で捕らえられ、その場で尋問を受ける。ガーゴ軍のスパイだと断定して即刻消してしまえと息巻いているのは、ピール・マルテルだ。


 この男は王室の総管理職のトップを務めている宮宰きゅうさい) キース・マルテルの息子だ。父親と同じ紫髪の27歳だ。


「ピール、ちゃんと尋問してからにして!」


 声を発したのは、長い金髪が美しいイブロ王国第一王女マティルダ・イブロだ。


 彼女とピールは同い年で幼馴染だ。と云っても昔から仲が悪く、互いに喧嘩したこと以外の記憶がないほどだ。マティルダは小さいころからお転婆で木剣を振り回して遊んでいた。年齢が来てガーレル帝国の剣術新人訓練に2人とも参加した。マティルダは上位の成績だったが、ピールは散々な成績で、ピールに新人訓練の話をするのは禁句となった。ピールの取り柄は数学だ。計算はだれにも負けない。損得王子と陰で揶揄されるほど損得勘定でしか動かない性格だ。


「正直に答えなさい。嘘は見抜くわ! いいわね」

「分かりました」「はい」

「最初に名前、どこからどうやって来たか? ここに来る前は何をやっていたかを答えて」


 空野ミカをマティルダが見つめた。


「まず、あなたよ」


 眼光鋭いマティルダの威圧感に震えながらミカは話した。日本という国から光の渦に飛ばされてここまで来たこと。ラーメンという食べ物を研究する仕事を始めたばかり。今の状況は夢を見ているみたいで混乱していると正直に話し終えた。


 言葉を遮らず、最後まで話を聞いていたマティルダが、耐え切れず大声を出した。


「今、ニホンと言ったな! ラーメンと言ったな! 間違いないな!」

「はっ はい、言いました」

「そんなの嘘っぱちだ。スパイの本性を現したな」

「ピールは黙って」


 深呼吸をして、男の顔を見つめた。


「次はあなたよ」


「私の名前は、ヨハン・オノ・フォン・シーボルトだ」


 同じく日本から飛ばされたが、住まいは日本ではなくUSAという国だ。日本では米の国やアメリカと呼ばれる国だ。私は医療技術研究者で、世界的に有名にな研究成果を上げている。


「えー凄い! ヨハン・オノ先生でしたか。光栄です」


「お前たち、知り合いでは無かったのか?」

「私は、道に迷っているところをその女性に助けられたのだ」


 ヨハン・オノ・フォン・シーボルトは、日系アメリカ人とドイツ人とのハーフだ。尾野一族もシーボルト一族も偉大な研究者を多く輩出している名家だ。その2つの血筋を得たヨハンは天才になると期待されて育った。ウィルスや医療技術の研究を続けたが50歳を過ぎても何一つ成果も上げることが出来なかった。


 親の七光り、才能・能力ゼロと叩かれ、ついには親族からも相手にされなくなった。両家から、お前は尾野やシーボルトの家名を名乗るなと言われた。


 失意の中、日本に逃げ込んだ。医薬・医療研究アドバイザーの肩書で企業や大学の研究機関と良い条件で契約を結んだ。高額の契約金を得られたのは、尾野家とシーボルト家という名家が後ろ盾にあると思わせた作戦が成功したからだ。


 その資金で日本でも研究者生活を続けることも出来た。日本ではヨハンに対して皆が優しかった。研究途中の成果を隠すことなく見せてくれた。そんな日本での生活を続けるうちにヨハンの才能が目覚めた。画期的な発見や医薬技術で世界を揺るがすほどの大きな成果を上げた。尾野家とシーボルト家からも一流の研究者になったと認められた。


「その方は凄い才能の先生ですよ」


 空野ミカは、興奮して話した。自分がいた世界では、医薬・医療研究の分野でヨハン先生を知らない者はいない。私にとっては神様のような研究者だと…


「ヨハンは、ラーメンを知っているのか? 作れるのか?」


「ラーメンは大好きだ。作ったことはない」


 目の前の考え込んでいる女性を見て、ヨハンは何を言ったら心に刺さるかを心得ている。


「研究すれば作れる。医薬・医療研究と比べれば簡単だ」


 マティルダは、2人を日本から来た転移者だと断定した。侵入不可能な状況の船室に現れたことや奇妙な服装、そして話の内容で判断した。横で煩く騒いでいるピールを無視して、別の一等船室に移動させた。監視を付けたが、丁寧な対応を取れと指示した。


 2人はイブロ王国に着いてから、詳しい説明を受け、正式に国王からラーメン戦争部隊員として任務につくようお願いという名の命令が下された。転移者という素性を隠し名前を変えて活動を開始することになった。絶対に転移者とバレないように。バレたら命の危険があると注意された。

 

 空野ミカは、マンダリン・スカイ。ローク・イブロ国王の遠い親戚という設定だ。


 ヨハン・オノ・フォン・シーボルトは、ドクターS。キース・マルテル宮宰の主治医で医学と生物化学の研究者という設定だ。

……………………………


《古い邸宅ホテル内》


「ドクターは、ラーメンは研究すれば作るのは簡単だと言ったでしょう」

「流れで言っただけだ。ラーメンのことは任せる」


 ドクターは、宮宰きゅうさい) のキースと息子のピールのマルテル親子から極秘の研究を許可されていた。最初からラーメンの研究など全くするつもりがなかった。


「まったくドクターは… 悩んだら相談に乗ってくださいよ」

「ああ分かった。マンダリンちゃん」


「出来上がりましたよ」


 猫街で一番だと評判のかつら制作職人の店から隊員が戻って来た。


 2人は転移した時から白髪の頭が気になった。何度染めても翌日には真っ白に戻ってしまう。かつらを作ったが、重い、蒸れる、痒くなる。悩みの種だった。ラグールの猫街のかつら職人は、腕の良い職人が揃っていると聞いて、今使用している2人のかつらを職人に渡して、制作を依頼していた。


「これは嬉しい、ピッタリ、軽い、蒸れない、そして色が綺麗!」


 マンダリンは大喜びだ。色はスカイ、空色だ。透明感のある薄い水色が美しい。


「私のも良い。かつらを付けている感覚がない」


 ドクターの方は、マンダリンのかつらの色より青が濃い目の空色だ。


「雨に濡れても、かつらを付けたまま洗髪しても問題ないそうです」

「凄いな。ところでこれは何の毛だ?」

「私も気になります」

「それは知らない方がよいそうです」

「……」「……」


「これで気持ちよく街に出てラーメン研究を開始出来ます。隊員の皆さんよろしくお願いしますね」



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