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天才ラーメン王、全てを失い異世界で無双する  作者: とみた美味いろは
第二章

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41. 特製葱ラーメン

天海聖暦771年 夏月115日


 天才ラーメン王としてゴウの名は世界中に知れ渡ってしまった。日本という異世界から来た転生者という事実を隠しているが、春月のトラキール帝国とのラーメン戦争で有名になり過ぎてしまった。その影響でゴウは自分の店を運営するのに苦労している。


 トラキール帝国との戦争後に知らされた真実。ゴウはそのショックが少し和らいだ春月の中頃に『7日後に店を再開する』と店先の張り紙で告知をした。すると開店日の3日前から大行列が出来て周辺地域に大混乱を起こして迷惑をかけてしまった。以来、ゲリラ的に数量限定という方法でやっている。


 今日はイベントで出す予定の特製葱ラーメンの最終テストと宣伝を兼ねて店を開く。開店直前。ゴウは店の外で何羽かの大鴉が鳴いているのが気になった。スタッフのルーシーとカミラは不吉な鳴き方だと嫌がった。


「気にせず明るくいきますよ。さぁー! 開店しましょう」


 この一言で、ゴウ自身にも気合を入れた。天才ラーメン王の作るラーメンというプレッシャーを払拭した。


 ルーシーが入口の扉に《本日は、特製葱ラーメンです。限定60杯》と書いた紙を貼り出した途端、歓声が上がり扉の前に行列が出来た。そんな歓声で賑やかな中でも2羽の大鴉は激しく争っていた。それを見たルーシーは、手に持っていた長い棒で大鴉を叩くふりをして追い払った。淀んだ空に飛び去る時の気味の悪い鳴き声が耳に残った。振り返って行列を見るとすでに限定数を上回って並んでいるようだ。列の先頭から60番目までの行列者に整理券を渡した。


「すみません、ここまでで限定数に達しました。本日は完売です」


 整理券を貰えなかった行列者が騒ぎ出した。


「えー! 残念だ」「悔しい、食べられないの」「なんとかならないのか?」

「お知らせがあります。秋月1日からのグルンジ救世神祭りの日に、救世神広場に本日と同じラーメンを提供する屋台を特別に出店します。是非そちらでお楽しみください」


 60番目に並んだお客に、麺のおかわり券を渡して、先端に《完売》の紙を貼り付けた棒を持って並んでいただいた。その後、ルーシーは開店の木札を提げるのを止め、最初の12番までのお客を店内に案内した。


「いらっしゃいませ!」


 ゴウとスタッフは明るい声で挨拶した。今日のスタッフには、ルーシーやカミラと同じ元近衛兵団員の妻達8人が加わっている。彼女達は葱農家の娘で、今は近衛兵団を勇退した夫達と一緒に、葱の出荷と販売の仕事を手伝っている。入店したお客達は大きな挨拶とスタッフの多さに驚いた表情をしていた。先頭から順番に奥から案内されて12人がカウンター席に着いた。


「噂の2人組が来ました」


 カミラがゴウの耳元で囁いた。その2人組の男女は、この王国には少ない白髪なので目立つのだ。先頭で入店してきた噂の白髪の男性は一番端の席に着いた。もう1人の白髪の女性はゴウの目の前の席に座った。


 客のゴウへの鋭い視線はいつものことだが、今日は背中にも強い視線を感じる。8人の妻達はゴウの動きを一瞬たりとも見逃さないようにと真剣に見つめている。ゴウは雑念を振り払うように声を出した。


「本日の葱ラーメンは、こちらの葱農家さんが作られた何種類もの葱を使用したものです。どうぞお楽しみください」


 1巡目の12杯のラーメンはゴウが作り、2巡目から5巡目の12杯は妻達が2人1組となり交代で作る予定だ。この為にずっと妻達と準備をしてきた。


「4杯ずつ作り順番にお出しします」


 麺を沸騰しているお湯の中に入れて茹で始めた。この麺は中太で断面が真角、加水量は小麦粉に対して34%ぐらいの中加水麺だ。しっかりとした弾力と茹で伸びしにくいことも考えて選んだ麺だ。次に器の中に揚げ(フライドエシャロット)をすり潰して粉末状にしたものを隠し味として入れた。さらに溜まり醬油で作ったタレ(かえし)を入れた。そこにがらスープを入れてかき混ぜた。


「このスープは大山狼豚の骨からとったもので、骨粉も入っています」


 大山狼豚の骨粉入りスープ、溜まり醤油タレ、この両方ともが個性的過ぎてラーメンに使用するのは躊躇する。しかし、この2つを合わせて喧嘩させたら〈雨降って地固まる〉のような効果となり、それぞれの個性的な旨味が合わさり良いスープになる。

 

 茹で上がった麺を湯切りして器のスープの中に入れた。麺を軽く整えたら、お葱達の登場だ。トッピングは手早くやらないといけないが数種類の葱があり時間が少しかかってしまいそうだ。しかし、カミラが葱の入った容器を順番通りに正確にゴウの手元に運んでくれる。まるで手術中の機械出し看護師のようだ。お陰で4杯分のトッピングも素早く済んでラーメンが完成した。


「お待たせしました、特製の葱ラーメンです」


 トッピングされたのは多種の葱のみだ。皆がそのビジュアルを見て歓声を上げた。


「凄い! いろんな葱」「芸術的だ、美しい!」「美味しそう!」


 葱だけのトッピングで完成だが、サービスで別皿に大山狼豚の肩バラチャーシューを2枚のせて提供した。


 最初に入店した白髪の男性が真っ先にスープを口にした。


「うー、うまい! うー」「うー」


 ゴウは男性を見た。その低い声は獣が唸るような声だ。男性の表情は何かに怒っているようだ。気になったが葱の説明をしなくては…


「本日の葱ラーメンに使用した葱の詳しい説明は、もうすぐ始まるグルンジ救世神祭りで発表します。救世神広場に本日と同じラーメンを提供する屋台で葱のパンフレットをお渡しします。この葱ラーメンのレシピもパンフレットの裏面にて全て公開します」


 秘密と思われたラーメンレシピの公開と聞いて、客たちは驚きの声を上げた。


「器の真ん中の葱が〘救世神の曲がり葱〙です。この葱の説明だけ簡単にさせていただきます。労力のかかる栽培法で収穫したこの葱は、旨味・甘味・風味が最高です」


……

 この世界には葱を食べる習慣が無かった。それを変えたのは、今は救世神として崇められているシマモト・ヨシオだ。転生したシマモトが、色々な種類の葱を見つけ栽培方法を確立し農産物としてグルンジ王国内に広めた。


そんな葱の中でシマモトが力を入れて取り組んだのが曲がり葱だ。転生前、福島県郡山市の《阿久津曲がりねぎ》を食べて感動したからだ。この葱は「やとい」という伝統の技でつくられている。阿久津地区の畑は粘土で作土が少ない土質だ。少ない土の量で葱の軟白部分を確保するために、夏場に葱を掘り起こし斜めに植え替える作業〔やとい〕を行なう。


これによって曲がった葱が誕生した。この曲がった葱は特有のやわらかさと甘さ、さらに葱の風味も増した美味しい伝統野菜だ。それは成分分析値でも検証されている。他の長葱と比較するとアミノ酸類やグルタミンは約2倍、糖度は約1.6倍あるというデータも公表されている。


 しかし、この葱の栽培には「やとい」という手間がかかる方法が必要で、労力がかかる。さらに曲がった形状なので棒状の葱より輸送コストがかる。残念ながら栽培面積が減少傾向にある。これを打破すべきと葱保存会が設立されている。この葱は、農林水産物や食品の地域ブランドを知的財産として保護する「地理的表示(GI)保護制度」に登録されている。

 シマモトは、転生前に竹岡一進(ゴウ)が「阿久津曲がりねぎ」をラーメンに使用するのに何か面白い方法やインパクトのある方法を模索していたことを思い出した。この世界で種子選びから始めて斜めに植え替える作業まで試行錯誤しながらシマモト式の曲がり葱の栽培方法を確立した。


生前シマモトは、阿久津の葱には敵わないが自信作が出来たと喜んでいたらしい。

……


「この葱、とびきり美味い!」「他の葱も美味い。全部違う味で面白い」

「コクのあるスープとこの麺、沢山の葱、バランス最高!」


 予想どおりの反応の声を聞きながら、ゴウは次の4杯分を作り始めた。予想外だったのは白髪の男性だ。「ごちそうさま」と代金をカウンターに置き店を出て行った。男性が使った器にはスープの一滴も残って無かった。あまりにも早い食べっぷりだ。他の3人はまだ1/5も食べていない。噂は本当だったようだ。

 

 次の4杯を提供すると、ゴウの前の席に着いた白髪の女性の質問攻めにあった。食べながら何度も美味いと叫び質問もしてくる。質問内容は使った素材や調理方法などだ。次々と聞いてくる。凄く忙しい女性だ。


「お客様は旅行者ですね。秋月1日から始まるグルンジ救世神祭りの頃もここラグールにご滞在されておられますか?」

「はい。おっ美味しい! 滞在しています。うー美味しい!」

「それでは救世神広場に出店するラーメン屋台でお渡しするパンフレットに詳しく書いてありますので、それをご覧になってください」


 納得のいかない顔をしていたが押し通した。


 さらに次の4杯を提供し、最初の入店客12人が食べ終わり、整理券13~24番の客と入れ替わった。ここからゴウは見守る側にまわり、スタッフが2人ずつ交代で厨房に入る。何の問題もなく60番のお客までの提供が終わった。妻達スタッフは事前に練習をしっかりしていたようで、8人とも素晴らしい仕事ぶりだった。


◦◦◦◦◦◦


「アン、こっちだよ」


 先に店を出たアルバンは手を振った。港の古びたベンチに座って、アンがラーメンを食べ終えて店から出て来るのを持っていた。待っていると約束していたベンチが沢山置いてある場所は若いカップル達に占有されていた。少し離れた場所に仲間外れのように置いてあった古いベンチを見て今の自分に似ていると悲しい気持ちになっていた。


「何か悲しい顔をしていますよ」

「ああ、悲しいよ」

「それにお店の中であんな怒ったような顔をしたら怪しまれますよ」

「考えたとおりだったな。あの若さとイケメンぶりに腹が立った」

「調理している時の堂々とした立ち振る舞い、間違いないわ」


「あれは、あのゴウという青年は、『海の拉麺一進』の竹岡一進社長だ」




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