39. 新たなラーメン戦争(国盗り合戦)勃発
天海聖暦771年 春月20日
《トラキール帝国大城の謁見広間》
一歩足を踏み入れると重厚な空気感に押し潰されそうになるトラキール帝国大城の謁見広間。その荘厳な場所で、ガイロ王国連邦のジョン・ガーゴ国王とローク・イブロ国王が、ベルゴス・ダークリス皇帝の前で口論をしている。廃国となったブン・ロイダ元国王が統治していた島国の所有権を争っていた。
複数のドンという音がして2人の王は黙った。この謁見広間は、皇帝の後側と謁見者の左右に緞帳のような幕が下がっている。その陰に槍を持った軍兵が潜んでいると噂になっている広間だ。幕の裏から槍を床に打ち下したような音を聞いて2人の王とその従者達は恐怖を感じた。トラキール帝国の槍は、刃物が付いた穂の部分と反対側の柄の先には堅い金属が取り付けられている。その音が響いたのだ。
「皇帝陛下、申し訳ありません!」
「ベルゴス閣下、謁見の場で口論をして申し訳ございません!」
「見苦しい口論を聞かされた。このままでは決着がつきそうもないな」
ベルゴスはニヤリと笑った。
「もう戦争をするしかないな、戦争で決着をつけろ!」
「えっ 戦争ですか…」
「本当に、戦争しかありませんか…」
ガーゴ王国には戦争をするまともな武器が無い。イブロ王国には戦争をする軍資金が無い。そしてどちらの国も兵隊の数が少なく戦争で勝つ自信がない。もちろんベルゴスはこれを知っていて戦争という言葉を使ったのだ。
もう一度、ニヤリと笑った。
「ワシのいう戦争は、ただの戦争ではないぞ。覚悟しろ!」
「……」「……」
「ラーメン戦争じゃ! ハハハハハ!」
1年後の春月に、グルンジ王国の首都ラグールにある救世神広場で第1回ラーメンビエンナーレが開催される。両国からそれぞれトラキール帝国側のラーメン店舗として出場してもらう。そこで評価が高かったラーメンを作った国に元ブン・ロイダ王の島国の所有権と統治を認める。新たに統治する為に必要な資金も提供する。
この説明に戸惑った2人の国王だったが、武力戦争よりはいいとラーメン戦争を受け入れるしかなかった。
「ラーメンの研究をするのに1年は短いぞ。ラグールに行って勉強するのが一番だ。分かったらすぐ動くのじゃ。対戦を楽しみにしているぞ」
謁見広間から両王国の一行が退出すると、幕が上がり槍を持った兵士が現れた。皇帝の後ろの幕からは兵士と一緒に皇女のイサドラとドラクダール将軍が出て来た。兵士達は広間から退出した。
「イサドラ、聞いていたのか。お前が何を言いたいか分かっておるぞ」
「それでも言わせていただきます。お父さま!」
「分かっておると言っておるだろう」
「お父さま! 私がゴウさまにお叱りを受けます」
「ゴウはイサドラを叱ったり怒ったりしないだろう」
「でも今回のラーメン戦争は国盗り合戦ですよ」
「ふられた相手に何を言われても平気だろう」
「私はまだゴウさまを諦めた訳ではありませんからね」
「民を不幸にしたくないお前の意向に沿ったのだ」
「それは…?」
「ラーメン戦争なら民に被害が及ぶことはない」
「うーーん」
「お前ならゴウを説得できるだろう。ふくれっ面はお前には似合わん」
「うーん、まったく…」




