38. 高台のラーメン研究室
《日本》
ゴウ(竹岡一進)が全てを失ったあの日、海岸沿いの高台にあった『海の拉麺一進研究室』には3人の研究者がいた。研究室を作るにあたり、ゴウがSNSを使って研究スタッフ募集の動画を流した。恋人の山本渚が、竹岡が話しをしている映像を編集して制作した動画が評判になり、驚くほど優秀な研究者達からの応募があった。
竹岡は採用した3人の為に研究室の近くの山林に点在していた空き家を3軒借りた。3人とも今の住まいは大量の研究資料や書籍類の重みで床が抜けそうだと笑っていた。それを聞いた竹岡は引っ越し先の一軒家を床の補強や水回りのリフォームをして3人の研究者を迎え入れた。
興梠三郎 34歳
前職…帝都医化学研究大学・医療薬学部教授。最年少の教授に抜擢された天才型の研究者。研究の成果を巡り先輩教授達や外部の研究者とトラブルとなり退職。3年間限定での就職を希望した。3年以内に課題の地産地消の食材とラーメンとの最高の関係を科学的に解明して商売に役立ててみせますと意気込んだ。成果を上げたら、医療薬学研究の分野に復帰する条件をのんでもらい研究室の室長として採用された。
大沼ユリ 31歳
前職…財団法人 身体科学研究所・ヒトゲノム等研究部副部長。努力型の研究者。これはと思いついた研究対象には成果が上がるまで寝る間も惜しんで食らいついた。周りから、スッポンのユリと陰口を叩かれていた。その凄まじい粘りで最高の成果を上げた。しかし、研究成果の発表をしようとした途端、信頼していた上司の部長と外部の研究者に裏切られ人間不信に陥った。別の業種で楽しい研究をしたいと応募した。副室長として採用された。
空野ミカ 29歳
前職…外資系大手通販会社、自然食品サプリ・原糸の奇跡カンパニーの研究員。大学院生の時代に書いた研究論文が会社のCEOの目に留まりスカウトされ入社した。期待の新人として入社したものの先輩達から陰湿な嫌がらせにあった。そんなことは全く気にしない性格だが研究内容が楽しくなかった。新しいサプリを開発し、先輩達に実力を見せつけてから退職した。楽しく美味しい研究がしたいと応募し採用された。
……
この3人の研究者は、社長の竹岡からくれぐれも気を付けて帰る様にと言葉をかけられて建物の外に出た。家族の安否を心配したが、3人それぞれにSNSで家族から無事を知らせるメールが届いた。安心したら、引っ越したばかりの家が気になった。そこには貴重な資料類、大事なデータが入ったハードディスクやパソコンがある。がけ崩れの被害、漏電やガス漏れによる火災、色々考えると不安なり車に飛び乗った。
興梠と大沼は、興梠の4WDクルーザーに乗って家に向かった。空野は、愛車の4WDワゴンで家に向かった。山林にある家に行くには、研究室のある高台から一度下る必要がある。しかし、少し下ったY字の分かれ道になっている道路の左側は水没で通行止め、右側も土砂崩れで通行止めになっていた。しかたなく研究室のある高台に戻った。
空野はY字の場所の路肩で呆然として立っていた男性を車に乗せて高台に戻った。
4人は車から降り研究室に向って歩き出した。興梠は廊下の窓からこちらを見ていた中村旬一先生に気付いて、帰れない、ダメだったと顔の前で右手を振った。その時、空から光の柱が下りてきて4人の身体が空中に浮いた。下を見ると研究室が地盤ごと崩壊して海側に落ちていくのが見えた。次の瞬間、光の渦の中に巻き込まれた。眩しくて何も見えない状態だが、4人とも意識があり、知らない何処かへ飛ばされているという得体のしれない恐怖に襲われた。




