プロローグ … 不気味な大鴉
トラキール帝国とのラーメン戦争に勝利したゴウとその仲間達は新たな紛争に巻き込まれようとしています。大鴉の不気味な鳴き声と共に物語が進んでいきます。
天海聖暦771年 夏月115日
薄暗く淀んだ空から2羽の大鴉が舞い降りた。漁師が道に落とした一匹の魚を巡って争っている。「グワッ、ガーッ」「グルッ」と喉に響くように鳴いている。その暗く低い鳴き声が、重く不穏な空気感を周辺に撒き散らしている。
〈空耳〉
… 俺はエドガー・アラン・ポーの物語詩から飛び出した知的な大鴉のネバーモアだ。お前では俺に敵うわけがないぞ。魚を渡せ! …
… 私はグリム童話から飛び出したオオガラスよ。いずれ人間の王女に戻るのよ。あなたには負けないわ! 魚は私のものよ …
大鴉が争っている隙に、大きなアホウドリが飛んで来て魚を咥えて上空に飛び去った。魚を奪われた! それでも2羽は争っている。
空耳がしたのはアン・ドーナット・カイナスだ。争いが無駄になったのに、まだ無益な争いをしている大鴉を眺めていた。悲しいなと感じていると、背後から、「うわー!」「やったー!」と声が聞こえた。
アンは急いで振り返りラーメン店の扉に向って走った。
久しぶりに天才ラーメン王の店『ゴウラーメン べんけい』が開いたのだ。事前に何の告知もなかった。それがたった今、店の扉に《本日は、特製葱ラーメンです。限定60杯》と書かれた紙が張り出された。店のスタッフが開店の木札を提げるより早く「うわー!」と声が上がり店の前には一瞬で行列が出来た。
アンは列の7番目、一緒に来ていたアルバン・クリケット・カイナスは1番前に並んでいた。アンとアルバンの2人がラーメンの研究の為にグルンジ王国の首都ラグールに滞在して30日が過ぎた。この店は滅多に開くことが無い。毎日昼前に開くか確認する為ここに来ていた。天才ラーメン王のゴウとはどんな人物なのか? どうしても確認する必要があった。
「お待たせいたしました。最初の12名のお客様、どうぞお入りください」
2人は複雑な気持ちで店内に入った。




