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天才ラーメン王、全てを失い異世界で無双する  作者: とみた美味いろは


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ドラクダールとケイの因縁 / キュービー亭と蜂蜜

《天海聖暦771年 春月3日 異世界開店日より483日後 (転生後963日)》


 豪華な3つの馬車が連なって郊外のレストランに向かっている。前後左右、馬車と馬車との間に護衛の兵士が馬に乗って周辺を見張っている。ベルゴス皇帝を守る為にトラキール帝国の兵士とベンやケイを含むグルンジ王国の腕利きの兵士とが合同で警備にあたっている。馬車3台用意したのは、どれに皇帝が乗っているか分からなくする為の安全対策だ。

 

 早朝、護衛兵としての顔合わせをした際、ドラクダール将軍は久しぶりにケイと言葉を交わした。ケイに「以前お会いした事がある気がしましたが…」と言われたが無視して警護の打合せに専念した。


.........

 ドラクダールはケイに対して苦い経験があった。昔、派遣され参加していたガーレル帝国の新人訓練でケイとは同期生だった。実技訓練の最終試験はグループに分かれたトーナメント方式で優勝したグループには首席卒業の栄誉が与えられる。


 グループは2名~10名で自由に組むことができた。使用する武器は木製ならどんな形でも構わないが自分で作ることが条件だ。勝敗は相手が降参するか、相手の武器を破壊するか奪い取るかで勝利が決まる。


 ドラクダールのグループは準決勝戦まで圧倒的勝利を重ねた。彼が訓練中に見つけた優秀な剣の使い手7人に真っ先に声をかけてグループを作った。彼を入れた8人のグループが1回戦を勝利した戦いを見た訓練生達からは優勝候補と目された。


 決勝戦の舞台に立つと相手は女性が2人だけのグループだ。拍子抜けした。肉感的身体のケイと細身で筋肉質のエイミーが相手だった。隣の会場での試合は見られなかったのでどんな戦いをして勝ち上がったかは知らないが、負けたグループは相手が女性だからと手を抜いたとしか思えない。


「怪我をする前に降参するのを勧めるよ」

「実技の首席卒業の座は譲れないから、手を抜かないぞ」

「いいから本気であたい達に攻めてきな」

「俺達は凄い剣の使い手が8人もいるのだぞ」

「うるさいわ、それがどうしたのよ」

「腹立つな、優しく言っているのに… 覚悟しろ!」


 遂に対戦が始まった。ケイが手にしているのは堅い木を荒く削った太くて長いかなり重い木刀だ。エイミーが手にしている木剣は木目が詰まった堅い木で細く短く軽いものだ。対するドラクダールのグループの木剣は彫刻のように削られ金属の剣と見違う程の出来映えだ。


 2人を囲み8人同時に木剣を張りかざした。エイミーの動きは早く相手の木剣をかわしながら3人の向こう(ずね)を思い切り叩いた。3人とも倒れてのたうち回った。

 ドラクダールは一瞬後ろに身体を引いて避けた。ケイは相手が振り下ろそうとした木剣の上段から木刀を振り下ろし3人の木剣を粉々に粉砕した。そのまま木刀は相手の肩や腕に当たり3人が倒れた。


 隙ありとドラクダールがケイの後から木剣を振りかざしたが、ケイの振り向きざまの一撃でドラクダールの木剣が折れた。折れ目から金属が飛び出しているのが見えた。木剣の中に金属の棒を仕込んだ悪質な反則行為だ。残った1名は抵抗せず降参した。


 トラキール帝国内で剣使いの神童と持てはやされていたドラクダールは、ガーレル帝国の新人訓練に参加出来る最低年齢より1歳若かったが特例で参加出来た。試合後、1歳年上のケイとエイミーに「お子様は来年出直しな」と卑下された。


 木剣の反則行為は黙認してくれた。お子様だからと。とても屈辱的だった。しかし、それを公表されていたら国に帰れなかった。まして今の地位には就けなかった。ケイには負い目がある。

.........


 ベルゴス皇帝を乗せた馬車には、マリオラ皇妃とイサドラ皇女が一緒に乗っている。娘のイサドラの希望で3人一緒に郊外のレストランに向かっている。


「父上、正直なことを言います。私ショックでした」


 艦上で父が世界一美味しいラーメン宣言をしたが、何が世界一か分からなくなった。昨日食べた数軒のお店のラーメンはどれも個性的で美味しくて、それぞれが一番美味しいと思ってしまった。


「あなた、私もショックです。全部あのゴウという若者が関わっていたなんて」


 店主を呼んでこのラーメンは誰が開発したかと聞くと、田舎から出て来たゴウという天才ラーメン王から指導を受けたと言う。どの店主もゴウの名前を上げた。この流れだと、世界中から来賓を呼んで世界一美味しいラーメン宣言をしたが、世界一美味しいラーメン、世界一個性的なラーメンなど、世界一のラーメンはグルンジ王国にあると宣伝したようなものだ。ゴウにしてやられた。


「天才ラーメン王か? ゴウは底が見えない奴だな」


 準備万端で臨んだが、ゴウはそれを遥かに上回る準備をしていた。そもそも我々の動きを全て把握されていた。しかもゴウは自分の戦略も行動も極秘にした。最強のスパイ組織のSSCでも情報を掴めなかった。こんな小国の青年にやり込められて怒り心頭だ。


「皇帝陛下、到着しました」


 何事もなく目的地に到着した。ここはラグール郊外の静かな森林地帯にある大きな邸宅のような一軒家レストラン『キュービー亭』だ。建物に設置された水車が小川の水流でゆっくり回っている。養蜂園が経営しているこの蜂蜜レストランは、綺麗な池やお花畑に囲まれている。周辺に果樹園や菜園がある美しい環境だ。


「うわー!綺麗だわ」


 馬車から降りたイサドラは大喜び、満面の笑顔だ。その笑顔を見た皇帝も微笑んだ。これはイサドラがマリオラに話して仕組んだものだ。かなりショックを受けていると思われる父を郊外の美しい環境に連れて来て、最愛の娘が笑顔を見せれば父の心を少しは癒せるだろうと考えた。もちろん皇帝が娘の思惑を知らないはずがない。でも、その気持ちが嬉しくて笑うだろうと予想してマリオラは娘に協力した。


「ようこそ! こんな田舎までお越しいただきありがとうございます」


 目がクリッとした2人の茶髪の女性が出迎えた。


「私が店主のリサ・キュービーと申します」

「こちらが娘のマルです」

「わー 2人ともミツバチのようにカワイイ」


 イサドラが無邪気に反応した。


「嬉しいですわ、養蜂園を営んでいる私達にとって最高の誉め言葉です」

「ごめんなさい、失礼な娘で」

「とんでもございません。それから後ろに控えているその兵士が私の夫ギルです」

「グルンジ王家近衛兵団所属で副団長補佐をしております。本日は王の勅命で皇帝陛下の護衛の一兵に加えさせていただいております」


「それでは個室にご案内いたします」


 この「キュービー亭」には個室が3つある。その中で一番大きな部屋を皇帝が貸し切った。どの個室にも厨房から直接料理を提供できる構造になっている。


「店主のリサよ、店で一番自信のあるラーメンを最初に出してくれ」

「かしこまりました」


しばらく待つと、壁の真ん中が窓のように開き、ラーメンが出て来た。


「神レシピに忠実に作った神ラーメン醤油です」


「えー 神ラーメン」「うっ」「なんと!」


 これには皇帝も驚いた。2日前に神ラーメンを改変して世界一美味しいラーメン宣言をした我々に神ラーメンを一番の自信作として出してくるとは…

 

リサには自信があった。それはゴウに指導を受けた際に現状の神ラーメンを食べてもらって最高だと褒めてもらった経験があるからだ。


◦◦◦

 キュービー亭の神ラーメン醤油を食べたゴウは驚いた。転生前に富多師匠の会社がある郡山の駅で買って食べていた弁当を思い出してしまった。

 何の変哲もない海苔の弁当だが、ふっくらとした海苔ご飯に鮭焼き、煮物、卵焼きなど全て手を抜かず丁寧に仕上げた逸品でお弁当のお手本と思った。大好きで何度も買った。


 ここの神ラーメンもとても丁寧に作り、何も足さない、何も引かない。神ラーメンのお手本だとゴウは何度も絶賛した。

◦◦◦


「挑戦的な店主だ!」と驚きざわついていたトラキール帝国の一団は、ラーメンを食べ出したら黙ってしまった。皇帝の手前、美味しいと叫べずじっと我慢している状態だ。


「父上、お父様、私これ好きです。美味しいです」


 世界中から集めた料理人に神レシピを基に神ラーメンを再現させたが、これほど美味しくはなかった。「このレベルに達してなかった神ラーメンをベースにして改変したのが帝国のラーメンだぞ」と一撃を食らった気分だ。皇帝は一言も発せずラーメンを食べた。


「次は新作です。 キュービーつけ麺です」


 つけ麺もリサは自信がある。


 麺はゴウに推薦された溝が上下に入っている太麺だ。溝入の効果で茹で時間が短縮される。さらにタレが溝に入り込み食べると麺とタレとの一体感がある。

 つけタレは敷地の池で養殖している魚を香ばしく焼いたものを使用して作った。酸味は巨大ゆずの汁、甘味は自慢の蜂蜜を使用した。つけタレは冷たいタレと温かいタレを作った。温かいタレと組み合わせる麺の上には巨大ゆずの皮を削ってかけた。冷たいタレには巨大ゆずの皮をぶつ切りして蜂蜜で甘く煮たものを入れた。

 ゴウのアドバイスを受けながら仕上がったつけ麺を食べた時の喜びは忘れられない。


「今日は特別に沢山お出しします。麺はストップがかかるまで追加で茹でてお出しします。つけタレもお代わりをお申し付けください」


◦◦◦◦◦◦

 この養蜂園は、リサが父親から受け継いで4年目だ。キュービー亭は3年前に蜂蜜商品の直売所と蜂蜜を使った料理を提供するレストランにする為に古い邸宅を改装したものだ。父からは何でも自由にやって良いと言われたが1点だけ厳守事項を伝えられた。


 父が若くして養蜂園を始めたばかりの頃、突然野生のミツバチが姿を消した。不思議に思っていたら、自分の園のミツバチの個体数が激減し始めた。他の養蜂業者も同じ深刻な状況で廃業に追い込まれた。


 そんな中、始まりの救世主シマモト・ヨシオ様が原因を突き止めた。それは白色の幹と乳白色の枝に真っ白い花が咲く「白透木(はくとうぼく)」だ。果樹園業者が枯れた白透木の枝をバーベキューの燃料にしたところ、その煙で樹木の害虫が大量に落ちて死んだのだ。


 果樹園や農園の間で話題となり、こぞって白透木を燃やした煙による害虫駆除が始まった時期からミツバチが姿を消した。この煙はミツバチには神経毒だった。成虫が脳神経系を直撃され方向感覚を無くし帰巣本能を侵したと考えられた。また、煙で汚染された花粉や蜜を食べた幼虫の生育に悪影響を与えたとも考えられた。毒でミツバチの免疫力が低下すればダニやウィルスへの抵抗力を失ってしまう。ただ、白透木は燃やさなければ、白い花の蜜も害がない。


 シマモトは我々にとってミツバチがいかに大事な存在かを国王に説いた。それを受け国王から白透木を燃やした煙による害虫駆除の禁止と白透木の厳密な管理をする勅令が出された。

 

 リサは父親の言いつけ通り、自分の所有地内はもちろん、周辺の山林に自生している白透木の1本1本に付けてある番号札を基に管理している。

◦◦◦◦◦◦


「もう茹でなくてよい! みんなお腹いっぱいだ」


 皇帝の「好きに話して好きなだけ食べてよし」と声がかかってから皆の食べっぷりが凄かった。もはや皇帝もやけ食い状態に近かった。でも美味しかった、悔しかった。イサドラとマリオラまで美味しそうに食べているのをみて複雑な気持ちになった。


「店主、つけ麺というラーメンは美味しかった。これもゴウという男のアイディアか?」

「はい。天才ラーメン王のゴウ殿と一緒に作りました」

「やはり、ここもゴウか。分かってはいたのだがそうか」


「つけタレに使った蜂蜜は、白透木の白い花の蜜が旨いとゴウ殿と選びました」

「何! 白透木は白毒木だ! 白い毒花の蜜だと!」

「なんという事をしてくれた。毒を我が皇帝陛下に食べさせたのか!」

「申し訳ありません、誤解です。白透木は毒ではありません」

「毒を食べさせておいて言い訳するのか!」

「お許しください!」


 突然立ち上がったマリオラが一喝した。


「お前たち、いい加減にしなさい。この園の白透木白花蜂蜜は最高品質よ。毒ではないわ」


 絶世の美人と言われているマリオラ皇妃に初めて怒られた兵士達は唖然とした。強い口調ではないのにかかわらず、冷たい氷の刃が突き刺さる恐怖を感じた。


「大食い部隊の兵士さんは勉強不足ね、燃やさなきゃ毒にならないわ。このラーメン批評500にも最高級の蜂蜜使用と書いてあるわ。さっさと謝ってしまいましょう!」


 イサドラの機転で場が和んだ。兵士達が頭を下げて収まった。皇帝は店主のリサに今日の御礼と兵士の無礼に対する詫びとして、トラキール大金貨1枚を与えた。リサは貰えないと固辞したが断り切れなかった。この大金貨はグルンジ王国最高の特製金貨の5倍の価値があるものだ。重い大金貨を受け取る手が震えた。


 帰りの馬車も同じ道を通る。襲撃されそうな場所には警備兵を配置している。小川の上に架けられた橋には手前側と奥側に4人ずつ警備兵が槍を持って立っている。この橋はトラキール帝国の兵が担当だ。馬から降り、ドラクダール将軍が中央にベンとケイが左右に広がって安全確認に橋に近寄った。


 突然ケイが2人の兵士をパンチで倒した。ベンも続いてパンチを振るった。ドラクダールが「うちの兵士に何をする!」と怒鳴ったが、ケイとベンは無視して向う側の兵士を倒しに走った。相手は逃げだし懐から爆発魔石を取り出し投げつけようとしたが、ギル・キュービーが率いる弓部隊の洋弓銃(クロスボー)から放された痺薬を塗った矢で倒された。

 同時にグルンジ兵は橋の下に突入した。5人の賊がさほど抵抗せず拘束された。そこで吹き矢の睡眠剤で眠らされ軍服を脱がされた8人のトラキール兵が見つかった。


 この間、ドラクダールは何も出来なかった。警備兵がすり替わっていたことを見抜けなかった時点で負けである。捕まった賊は知った顔ばかりで帝国を裏切ったクズ共だった。


 聞き出した賊の襲撃計画は、橋の中央で警備兵を装った8人の賊が皇帝の乗った馬車に小さな爆発魔石を投げつけるというお粗末で単純な襲撃計画だった。グルンジ兵の協力と活躍が無かったら、お粗末な計画を見抜けなかったお粗末な将軍のレッテルを張られるところだった。


「まだまだお子様ね、ドラクダール将軍!」

「うっ」


 私の事をケイは覚えていたのだ。また不本意な借りを作ってしまった。


▫▫▫▫▫▫▫▫▫


 春月7日

 ホテルの特別室。応接ソファに座る皇帝の前でドラクダール将軍が深々と頭を下げている。グルンジ王国滞在もあと少しとなりケジメを付ける。先日の小川橋での判断ミスと行動ミスを詫びた。皇帝の身に危険が及んだ可能性があった大失態だ。事件後、将軍失脚を覚悟していた。


「帰国後、私をクビにしてください、私は将軍失格です」

「バカ者! 愚か者! これを見ろ」

「これは?」

「橋の上で異常をいち早く発見した元近衛兵副団長のケイから聞き取りをしたものだ」


・・・・・

◦往路は橋の警備兵のうち1名が槍を左手で握っていた・帰路時は全員右手で握っていた

◦左利きの警備兵が交代した可能性があった・念のため剣は使わず殴って倒した

◦ドラクダール将軍もあと2歩進めば偽の警備兵と気が付いたはず・失態ではない

◦将軍とはガーレル帝国の新人訓練の同期だった・実技訓練の最終試験では腕の立つ剣士達を真っ先に集めた目利き能力に感心した記憶がある

◦今回の船上で将軍の笛一つで600杯のラーメンを一瞬で作った・軍人にあの繊細な作業を全く誤差無くさせた統率力は見事だった・こんな素晴らしい将軍が率いる軍隊とは戦いたくない・どの国もそう思ったことだろう

・・・・・


「ドラクダール、お前を将軍にしている理由はケイの言葉そのままだ」

「はっ」

「軍隊同士の戦いになったら、お前が率いる軍隊は世界最強だ! 自信を持て」

「はっ 涙が出るお言葉です」


 ドラクダールが部屋を出て行くと、すれ違いざまにA(エース)B(ビーラ)が入って来た。


「お前たち、かなり厳しく叱られたようだな」

「雪山を出てからこんなに叱られたのは初めてです」

「もう命が無いと思いましたわ」


 2人を叱ったのはマリオラ・ダークリス皇妃だ。




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