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天才ラーメン王、全てを失い異世界で無双する  作者: とみた美味いろは


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ラーメン戦争、世界一美味しいラーメン宣言

《天海聖暦771年 春月1日 異世界開店日より481日後 (ゴウ転生後961日)》


 ついにこの日がやって来た。ラグール湾の外海は世界各国の船で混雑している。この密集している状況で嵐が来たら海難事故が起きかねないが、春月の1日から20日は、ここ100年、1度も海が荒れたことがない。穏やかな天候が続く季節だ。ゴウ達一行は各国の貴賓客が乗船した後に船に乗り込んだ。


「ワーッ 大きい!」

「これがトラキール帝国の巨艦なのね」


サクラもマリーも乗船前から船の大きさに圧倒されている。スタッフのルーシーとカミラは戦艦の迫力に身体が少し震えている。声も出せない。


 ベンとケイは、船の前後にある彫刻を見て叫んだ。


「やられた! 考えてもいなかった」

「まさかだわ、世界の要人を乗せる船に悪魔の魔石投擲兵器を配備したままだわ」

「金の装飾が施されて豪華だ」

「悔しい、あたいが見ても悪魔の兵器が美術彫刻のような荘厳さがあるわ」

「しかも、飾りではないな。いつでも使えるように整備されているようだな」

「謀られたわ」


 ベルナード国王が送った親書への回答は、黒の巨大戦艦は派遣しないだった。しかし、魔石投擲兵器の脅威を見せつけてきた。

 

 ゴウ達一行が案内されたテーブル席は一番前の席だった。俺達は王族でも貴族でもないと言ったが、それにトラキール帝国の案内人は反応しなかった。


 金の装飾が施された大屋根の下には1,000人を超える世界各国の王族や貴族が、煌びやかな衣装を着て集まっている。とても戦艦の上にいるとは思えない光景だ。世界の上流階級の人々の集まりを初めて見たゴウは圧倒されていた。そんな中、セレモニーが始まった。


「皆様、本日はようこそお越しいただきました。ありがとうございます」


 拍手が船の大屋根と甲板に反射して鳴り響いた。


「トラキール帝国ベルゴス・ダークリス皇帝が主催する『世界一美味しいラーメン宣言』の宴を開会します」


 司会の開会宣言に再び大きな拍手が鳴り響いた。


「まず、これからの予定をお話しします」


◦1◦最初に、ラーメンを食べていただきます

 このラーメンという食べ物は皆さんご存じのとおりグルンジ王国発祥の食べ物です。神レシピを使って作る神ラーメンは世界的な人気になりました。しかしながら近年では観光客から少し飽きたとの声が出始めているとの情報が多く入るようになりました。

 この席にグルンジ王国ベルナード国王陛下より神ラーメン改変の拝命を受けた皆様をご招待しました。改変にはかなりご苦労されているとお聞きしました。我々が改善した神ラーメンを参考にしてください。世界一のラーメンをお楽しみください!


◦2◦次に、ベルゴス皇帝よりご挨拶と宣言をさせていただきます

 皆様が存分にラーメンをお楽しみいただいた後におこないます


◦3◦続けて、宣言記念パーティーを開宴します

 開宴の挨拶と乾杯は、ラーメン発祥のグルンジ王国の国王陛下にお願いします


◦4◦下船後は、王都ラグールのメインストリートにある高級ホテルに宿泊していただきます

 ほぼ全ての高級ホテルの貴賓客室を8日間分貸切りました。各国の皆さまに事前にご連絡しておりますそれぞれの高級ホテルにご移動してゆっくりとお過ごしください。宿泊費用は全てトラキール帝国が支払い済です


◦5◦翌日からは、ラグールの街中で神ラーメンを食べてください

 本日食べた我々のラーメンと比べてください。トラキール帝国が作り出したラーメンの方が美味しければ、我々の「世界一美味しいラーメン宣言」に批准してください


「それでは、開会します!」


「ハハハ」


 ここまであからさまに当て馬にされるとは…ゴウは苦笑いするしかなかった。


「いやー、すっかり見世物にされました」

「まったくですわ、私達、無能な奴にされましたわ、ハハハ」


 ルーシーとカミラも苦笑いだ。


「そろそろ調理が始まるようだ」 


 厨房室は15室設置してあった。それぞれの厨房室は8つに仕切られ厨房には同じ内容の調理器具が並んでいた。1つの仕切りの中に5人が配属されている。15室×8仕切り×5人で600人も厨房にいる。ありえない人数にゴウは驚いた。普通ならこの大人数では混乱してしまう。突然、ビッと笛が鳴った。


「軍隊だ!」

「あれは軍人だ」


 ベンとケイが直ぐ反応した。目を丸くして厨房の様子を見ているのはゴウ達だけではなかった。船上にいる皆が驚いて見つめている。短い笛の音で、同じ動作、同じタイミングで麺の茹で上げから盛り付けまで全く誤差無く同時にラーメンが出来上がった。600杯のラーメンが一瞬で出来上ったのだ。


 一番近い厨房からゴウ達の目の前にラーメンが運ばれて来た。内側は白だが、外側は金色の派手な器だ。


「世界一美味しい醤油ラーメンです」


 確かにこのラーメンは美味しい。神ラーメンを何度も作って何度も食べる。これを繰り返し少しずつ改良してきた努力が分かる味だ。


「うん、普通に美味しいね」


 急に耳元で囁くサクラの吐息でピクッとゴウは身体を捩った。


「ゴウのラーメンを食べ過ぎたせいか、オイシイけれどモノタリナイです」


 もう一度同じ醤油ラーメンを600杯作った後に、違うラーメン作りを始めたのがゴウも分かった。最初の笛の音がビッビッと2度鳴ったからだ。


「次は、世界一美味しい味噌ラーメンです」


 そして、ビッビッビッと3度鳴った。


「今度は、世界一美味しい塩ラーメンです」


 3つのラーメンともレベルの高い美味しいラーメンだったが、ゴウのメンバー達にとってはそれ以上でもそれ以下でも無かった。


 それでも会場は大盛り上がりだ。


「こんな美味しい神ラーメン、ラグールでも食べたことがない!」

「新神ラーメンだ!」

「これは世界一だ!」


 世界一! 世界一!世界一! コールが自然と沸き上がった。コールが続く中、ゴウ達のテーブルに近づいてきた人物に真っ先に気づいたのはベンだった。


「ベルゴス・ダークリス皇帝陛下、お招きをいただきありがとうございます」


 皆が頭を下げた。皇帝はベンに目もくれずゴウに話しかけた。


「お主がゴウか? 会ってみたかった」

「何故、俺、いや私などに会ってみたいと」

「まあっ良い、薄々分かっておろう」

「今日は勉強させて頂きました」

「このラーメンの率直な感想を聞きたい、他の皆にも感想も聞きたい」

「私が一番驚きましたのは、あの軍隊式で一糸乱れぬ調理姿です」

「そこか、この将軍が優秀な部下を集めて訓練した」

「将軍のドラクダール・バルカルです。軍人の威信をかけて特訓しました」

「これは妻のマリオラと娘のイサドラだ」


 噂にたがわない、皇妃のマリオラは絶世の美女だ。瞳に吸い込まれそうな魅力があり見つめてはいけないと咄嗟に視線を避けた。避けた視線の先で皇女のイサドラの視線と衝突した。父親ゆずりの鋭さがある切れ長の目にドキッとした。娘も美形だ。


「ワシは味の感想が聞きたい」


 丁寧にゴウは感想を話した。神ラーメンをここまで改良するには、素材選びから調理方法までの多くの苦労と努力をされたことを想像できたこと。このラーメン作りに関わった方を尊敬すること。神レシピを改変したこのラーメンは、今日まで食べたどの神ラーメンより美味しい。これらはゴウだけでなく皆同じ感想として話した。


「素直だな、ライバルのラーメンの味にケチを付けるどころか美味しいというのか!」

「嘘は嫌いですから、美味しいものは美味しいと言います」

「それではそなた達も世界一美味しいと言ってくれるのか?」


 マリーが割って入った。


「皇帝陛下、そのお返事は明日までお待ちください」


 深々と頭を下げたマリーに皆が続いて頭を下げた。


「そうだな、分かった。お前たちの立場があるからな。急ぎ過ぎた」


 宣言するタイミングになったと皇帝に司会からの伝達が来た。上機嫌の皇帝が金細工で装飾された豪華な手すりのある階段を上り演説台に立ち両手を上げると、世界一! 世界一! 世界一!と続いていたコールが止まった。来賓に、参集してくれた御礼を述べた。いよいよ宣言の時間だ。


「今日食べたラーメンは、これまで食べたどの神ラーメンより美味しかっただろう!」


 また世界一!のコールが響く。ベルゴスは手のひらを使い歓声を抑えた。


「『世界一美味しいラーメン宣言』我々トラキール帝国が作るラーメンは、世界一美味しいラーメンである」


 大きな拍手と世界一!のコールが続く。ふたたび手のひらで歓声を抑えた。


「もう一つ大きな発表がある、それは世界一のグルメシティ計画だ」


 グルンジ王国の北側にある未開拓地に都市を造っている。そこでは今日食べた世界一美味しいラーメンを筆頭に世界一と言わしめる数々の料理を提供するレストランを造る。豪華なホテルも沢山建てる。街には水路を張り巡らし、街路は植樹された木々が整然と並んだ水と緑の都になる。新都市の完成は5年後を目指している。新都市完成後は、奇跡の街と呼ばれているラグールを凌駕する世界一の美食の街にする。


「トラキール帝国、ニュー・エル・ドラード計画だ! グルメで世界平和にも貢献する」


 拍手と歓声が鳴りやまない。今度は歓声が自然に収まるのを待った。


「トラキール帝国は、世界一のグルメシティを創ることをここに宣言する!」


 大きな歓声を上げているのは、トラキール帝国の属国となった国々の招待客なのは誰の目にも明らかだ。それでも会場は大きく盛り上がったのは間違いない。


 ここで司会からの案内に変わった。


「これより、世界一美味しいラーメン宣言記念パーティーに移ります」


 宴の閉宴時刻も閉宴の挨拶も無く、各自自由に楽しみ散会となると説明があった。


「グルンジ王国ベルナード・ファン・グルム国王陛下、開宴の挨拶をお願いします」


 ベルナード国王が演説台に上がっても拍手の数は多くない。トラキール帝国の属国の連中が無視しているからだ。この逆風の中で国王が何を話すかはゴウも知らない。


「いやー ついに『ラーメン戦争』が始まってしまいました!」


 御決まりの歓迎の挨拶の後にいきなり「戦争」の言葉が出て驚いた。会場内もザワツキ出した。世界中の多くの国から「奇跡のグルメ国家」と呼ばれているグルンジ王国の威信にかけてラーメン戦争に立ち向かう。今日食べさせてもらった美味しいラーメンを参考にさせていただく。この挨拶にザワツキがさらに大きくなった。


「プレゼントを用意しました。皆さまの宿泊ホテルにお届けします」


 1つは『グルンジ・ラーメン・ガイド・マップ』。明日からのラーメン食べ歩きに役に立つ。監修は、レストラン案内本「ジャポ」編集長エンリケ・ロベールが務めた。世界的に人気の雑誌の特別版という形で作った。


 もう1つは、『ラーメン戦争時代のラーメン批評500』。著者は、評論文に人気がある料理評論家のカルロ・マルタン公爵だ。ラーメンのみの評論本は初めての試みだ。


「どちらも挿絵入りの本です。明日からお役立てください」


 司会が早く乾杯をしてくれと国王に視線を送った。


「トラキール帝国ベルゴス・ダークリス皇帝陛下、お集りの皆々さま、これからのラーメン戦争が平和な戦いでありますように願いまして、乾杯!!!」


「かか 乾杯!」「乾杯」… なんとも微妙な雰囲気の乾杯で開宴になった。


 予定通りにベルナード国王一行とゴウ達は乾杯後すぐに下船した。帰りにお土産を渡された。かなり重いのが気になって港に着くのを待ちきれず小舟の中で箱を開けてみた。今日のラーメンの器と同じものだ。たしか表側は純金製で内側は希少な鉱石を砕いて作った陶器だと司会が言っていた。金の細工が施された箸とレンゲも入っている。


 こんな高価な物を招待客全員のお土産にするとは驚きだ。あらためて強大な国を相手にしているのだと考えたら身体に震えが来た。無理やりこれは武者震いだと自分に言い聞かせた。


 港にはカルロ公爵とエンリケ編集長が待っていた。2人と最後の確認をした。


「お疲れ様、首尾はいかがですか?」

「予定した全てのホテルに本を運び終わりました。指示があり次第、本を配ります」

「ベルゴス皇帝がホテルに到着したら行動開始です」


▽▽▽▽▽▽


 艦上のパーティー会場から少しずつ客が下船し最後に残ったのは属国の賓客のみとなった。皇帝は「傀儡(くぐつ)ども!」と呟いた。奴らの国を帝国の属国にして奴らを操り人形にしたのはベルゴス皇帝自身の指示であるが、どうも奴らを見ていると腹が立つ。早めにお開きにした。


 小型船に乗り換え急ぎラグール港へ向かわせた。皇帝はベルナード国王の挨拶に怒っていた。こんな小国の王がワシに向かって平和と言いながらも「戦争」と言い放ったのだ。あからさまなワシの挑発に怒るのは当然とはいえ予想外の挨拶だった。


 トラキール帝国は、第一王城通りの一等地にある大きな超高級ホテルとその両側にある高級ホテルを貸し切っている。皇帝は港に待機させていた豪華な馬車でホテルに向かった。到着早々にホテルの支配人が手紙を差し出した。


「ベルゴス皇帝陛下、ベルナード国王からのご伝文です」


 ドラクダール将軍が受け取った封書を皇帝が奪うように手にした。封を破いて伝文を読みだした。

............

伝文

※平和なラーメン戦争の幕開けを記念して※

 明日発売予定の3冊の本を謹呈させていただきます


1.食べ歩きガイド『グルンジ・ラーメン・ガイド・マップ』は500軒以上のラーメン店の場所が一目で分かります。簡単にラーメンの特徴も書いてあります


2.『ラーメン戦争時代のラーメン批評500』は、500軒以上のラーメン店のデータと実食した300杯を超えた数の批評文がイラスト入りで掲載されています


3.『ブラック自叙伝…本屋の再生からブラックラーメンまで』は、書店オーナーのダミアン・ハーベスト・ブラック氏の自叙伝で新発売のラーメンにも触れています


◎並びのルール…特例緩和期間を設けます

 グルンジ王国内の決まりで、ラーメン店の行列には王族や貴族であっても必ず本人が並んで入店することが原則です。特例措置として明日より8日間は代理で並ぶことを許可する通達を出しました。お時間を有効に使い色々なラーメンをお楽しみください

............


「本はお部屋に運ばせます」


 読んだ伝文を放り投げた皇帝は声を荒げた。


「直ぐここに本を持ってこい!」


 慌ただしくホテルのスタッフが本を抱えて来た。ロビーのソファで皇帝が本を眺めだした。近くのソファで、マラリオ皇妃やイサドラ皇女も本を手にした。


「やられた! 謀られた! 神ラーメンの改変が失敗続きの情報はなんだった」


 ドラクダール将軍が怒った。


「ゴウはクワセモノだ。我々のラーメンを神ラーメンより美味いと言ったのは嘘か!」

「あの男の目は嘘を言っている目ではなかったわ」

「とにかく明日から食べ歩いてみましょう。自分で並ばなくて済むのは助かるわ」


 皇帝が放り投げた伝文を拾って見ながら話すマラリオとイサドラは冷静だった。それにつられてドラクダールも少し冷静になった。


「そうですね、こんなに沢山の種類の改変したラーメンが我々のラーメンより美味しいわけがないと思います」


「部屋へ行くぞ!」


 皇帝の足取りはイライラしている時の足の運びだ。怒りが収まっていない。その後の皇帝は、グルンジ王国のホテルで一番豪華だと云われる特別な貴賓室のソファで明け方まで本を読んでいた。その様子を何も言わずマラリオがそっと見つめていた。


□□□□□□


 グルンジ王城 特別室


「アーサー、カール、今日は苦労だった! 」

「父上、今日の挨拶には驚きました。あの帝国に宣戦布告したようなものです」

「腹が立ったのじゃ、どのみち本を見たら宣戦布告と思われるからじゃ」

「早速、ベルゴス皇帝から使者が来ましたね。対応はあれで良かったですか?」

「心配するな、ワシらの意地じゃ! あれで良いのじゃ!」


 使者はベルゴス皇帝からの伝言伝達者として来た。伝言内容は、本に書いてある中でも特に食べるべきラーメンを示せと。そして案内役にはゴウを指名してきた。この対応は国王がカールに一任した。カールは使者を待たせて親書を書いた。

…......

 要約した親書の内容

◦食べるべきラーメンは、全ての店のラーメン

◦どの店もプライドをかけて個性的な新しい味のラーメンを作り上げた

◦その味にこちらで優劣や優先順位を付けられない

◦食べ歩いて好みのラーメンを探す楽しみを味わっていただきたい

◦案内役をご所望されたゴウは大事な仕事を抱えており対応できない

◦代わりに街の地理に精通している者を数名案内役として派遣する

…......

「長い一日じゃったな 明日に備えてもう休むとしよう」


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