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天才ラーメン王、全てを失い異世界で無双する  作者: とみた美味いろは


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豚骨ラーメン大試作会

《天海聖暦770年 異世界開店日より115日後》


 親戚・知人・友人に畜産業者がいる店主とゴウが選んだ店主を地下空間のラーメン戦争対策基地に呼んだ。総勢40名の店主が集まった。大試作会だ。


 3日間に渡る試作会の予定だが、初日からつまずいた。SSCの監視から目を逸らすために私服の護衛隊員が協力しているが、人数が多いので時間がかかった。全員が集まるまで想定した時刻より大幅に遅れてしまった。今日から全員の店主は帰宅せず、ここの会議室で2泊雑魚寝をして遅れを取り戻すことになった。


 使用する豚の種類や豚の部位の違いやスープ作りの違い別に分けたら、10の厨房室を全部使うことになってしまった。事前に搬入させていた食材は、それぞれの厨房室に振り分けてある。各厨房室に4人の店主が入り協力してスープを作ることになる。ゴウから詳しい説明を受けた後に試作が開始される。だが、店主達の表情は冴えない。不安と不満で作業に気持ちが入らない。


「こんな作り方は邪道だ」

「従兄弟の牧場の最高の大豚を材料に使って濁ったスープにするとは信じられない」

「クリーンな神スープに対して冒涜ではないのか?」


 集まった店主達は神ラーメンに感動してラーメン店を開業している。使用している食材にも提供しているラーメンにもプライドを持っている。これまでの試作会は、最初に改良したラーメンを試食させて納得させたので問題なかったが、今回は試作数が多いので事前の仕込みは無しだった。この店主達の反応は想定済みだ。アーサー王子にお願いをしていた。


「皆さん聞いてください。第一王子のアーサー殿下が激励にご来訪くださいました」


「みんなご苦労! 通達したように国の一大事だ。来たるラーメン戦争に勝利するにはみんなの協力が必要だ。ゴウは国王も私も信頼している。ゴウの作るラーメンを何度も食べて感動した。先日も濁ったスープのラーメンを食べたが想像をはるかに超えた美味しさだった。ゴウの指示通りやってくれ。私が保証する、絶対に上手くいく」


 やはり、優秀で切れ者の次期国王と言われているアーサーの評判は高く、その激励の効果は抜群だった。


「アーサー様がそこまで言うなら信じよう」

「多分、このゴウという若者は凄い人なのだろう」


 このグルンジ王国で白濁した豚骨ラーメンを作るのは、転生前の日本で作るよりハードルが低いと感じる。日本では、特に関東や東北では豚骨ラーメンは獣臭の対策が課題だ。食べる時の匂いもだが、店内の厨房でスープを作ると店内に獣臭が漂う。色々と対策をしたとしても開店して1年ぐらい経った頃に店内に匂いが染みついてしまうことがある。


 豚骨ラーメン店を都会に構えようとすると貸店舗がある建物のオーナーから臭いを理由に入居を拒否される例が多くみられた。その為に店内でスープを作らず、別の場所にあるセントラルキッチンで作った完成品のスープを店舗に送り込むスタイルが増えていた。

 

 その点、この国には色々な魔石がありとても役に立つ。


◦促進石…日本では10時間以上かかるスープが10分の1の時間で仕上がる

◦消臭石…スープを作る釜や寸胴の中に入れるとスープの強い臭いが消える

      さらに消臭石を排水溝に細かく砕いて敷く、換気口の周りに取り付ける

      これで店内も店外も獣臭がしない


 ただし、豚骨ラーメンを食べた時に全く匂いがしないのは物足りないと感じる人もいると想像した。そこで店舗がある立地により魔石の使用量を変える戦略だ。


◦街中の一等地や建物の密集地域の店舗では消臭石をしっかり使い無臭にする

◦街外れの一戸建ての店舗では消臭石の量を少し減らす

◦郊外の周りに建物がない場所では消臭石の使用を控えめにする

 

 届いた豚は、大熊豚、巨大豚、大豚、狼豚、山狼豚、大猪、山猪の7種類だ。


 スープに使用する部位は、大腿骨(ゲンコツ)、背骨、豚足、頭骨などだ。頭の骨は良質な骨髄エキスが含まれていて旨い。好みが分かれるかもしれないので使い分ける。チャーシューもバラ、肩バラ、ロース、肩ロース、モモなど色々な肉の部位で試作する。

 

 麺質は水分が少ない低加水のものを中心に小麦等の配合の違う4種類を揃えた。


 《 麺の太さとは「幅」と「厚み」で決まる 》


 用意した麺の太さは3タイプだ。


 A 幅1.1mm×厚み1.0mm、B 幅1.15mm×1.1mm、C 1.25mm×1.1mm


 これで麺は配合の違いと太さの違いで、12種類になる


 麺の食感は麺の配合や麺の形状で大きく変わる

 麺の幅が0.05mm~0.15mmの違いでも食感が変わる繊細なものである

 

 これらの食材を見ただけでこの試作会の大変さが分かる。しかも、ここまで少し専門的過ぎる説明をしてしまったようだ。混乱を招かないうちに作って食べる、これが一番だ。


 9番と10番の厨房室には、店の立地が都市郊外にある店主を集めた。そこなら日本の九州の一部地域で行われている《呼び戻し》と呼ばれる伝統的な継ぎ足しの製法のスープ作りも可能だと考えた。ラーメンに使用するスープが減ると、別の釜で煮たてた新しいスープを継ぎ足す。使用するスープの完成までに数本の釜を経る店もある。


 富多師匠から、毎日継ぎ足して作るスープは、その日に作ったスープを使い切りにするスープと比較して、うまみ成分が3倍近くなるというデータがあると聞いて驚いたことがある。この旨味を求めて郊外まで足を運んでもらう計画だ。


 さらに10番の厨房室では、スープを作る時に出るアクをとらずに残したままスープ作りをさせた。転生前に九州のラーメン店主からアクも旨味の一つだから私の店ではアクとりはしないと聞いたことがある。一方、神ラーメンのスープ作りは丁寧にアクを取り除くのが神レシピの重要なポイントだ。


「確認します。本当にアクをとらなくて大丈夫ですか?」

「アクを取り除いたものとどう違うか3日かけて検証しましょう」

 

 アクに関してのことは、師匠の語録帳を昨晩読み直し今日の試作会に臨んだ。その中で一番興味深かったのが煮卵の話だ。


――------------

 TVでラーメンが取り上げられることが珍しかった時代、日本で一番美味しい醤油ラーメンの店として取り上げられていた店に何度も食べに行った。醤油スープの味も麺も特質することもなかった。けれど、煮卵トッピングで注文すると煮卵についた煮汁がほんの少しスープに溶けだす。溶けだした部分のスープをすすると一気に美味さが口の中に広がった。その後は美味しい醤油ラーメンとして食べ進めてしまった。


 魔法のような煮卵とその煮汁だった。そのお店は閉店してしまい煮卵の謎は25年以上解明出来なかった。ところがある会合で、昔その店の近くに住んでいて常連だったという人に出会った。煮卵の疑問をぶつけてみた。


「あーそれ分かりますよ。作るところ何度も見ていましたから」

「本当ですか? 教えてください」

「寸胴で〔がらスープ〕を作っている最中に、浮いてきたアクをすくい、卵を煮ている醤油汁の中に入れていましたよ」

「えー! アクですか!」

 ずっと解明出来なかった旨味の素は、なんと「アク」だった

------------――


 と面白おかしく話された師匠の笑顔が懐かしい。

 

 本当にラーメンは自由だ! 邪道がない!


▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫


 3日間に渡った豚骨ラーメンの大試作会が無事終了した。参加者はみんな、かなり疲れているようだ。身体もお腹も。しかし、みな満足感のある笑顔だ。今は真夜中、この時刻に散会して外に出るのは目立つので朝方まで待つことにした。みんなで酒を飲みながらの反省会がカールの乾杯の音頭で始まった。


「みんなお疲れ、良い試作会になった、乾杯!」


 3日間、第三王子のカールもずっと試作会に参加していた。本当に勉強熱心だ。「ゴウの傍にいると学ぶことばかり」というのは口癖のように毎日聞いている気がする。王子が相手で最初は緊張していたが、試作会にカールが来られない日は寂しい気がするくらいの関係になった。

 今回の参加者も最初は王子殿下と呼び緊張していたが、試作最終日には軽い冗談を言えるような雰囲気になっていた。これはカールの人柄か人心をつかむ技かは分からないが、素晴らしい王子なのは間違いない。

 

 そして、この試作会で一番勉強になったと思っているのはゴウ自身だ。あらためてグルンジ王国の大地の力、先に転生して救世主として活躍し、没後は救世神となった3人の先生方の業績の凄さを実感した。


 豚骨ラーメンの試作会にあたり、神経質に獣臭の対策に取り組んだ。熊や狼のような豚だが、いかにも獣という容姿とは裏腹に獣臭が少ない。どちらかというと少し香ばしい匂いがする。それは、この国に元々ある植物類の力、シマモト先生が開発した餌となる牧草類、ナカムラ先生が指導し開発した魚粉や海藻粉末を混ぜた餌、これらが複合的に影響し合った結果だと思う。


 仕上がったどのスープもチャーシューも優しい味がする。これはマユミ先生の功績だ。この国の豚はストレスがなく育っている。自分の持論だが、ストレスのない豚は美味しくやさしい味がする。例を上げると、マユミ先生が最初に作った大熊豚の放牧場だ。そこでは人間は囲いを作ったぐらいで、全て大熊豚の自主性に任せている。


 放牧場といっても平坦な草原も林もほとんど自然のままだ。朝、豚は林の中の草や木の実を食べながら、3,000頭ぐらいが草原に出て来る。午後になるとその中の3分の1ぐらいが囲いの中に入り用意された牧草や餌を食べる。食べ終えると寝床のある林の中に帰っていく。体調の悪い豚は、餌の囲いの隣の小さな囲いの中に入る。そこで係員の診断を受け、薬入りの餌を食べる。怪我をした豚は薬草液を塗ってもらう。その日、囲いの中に残るか林に帰るかは豚が決める。


 さらに豚は自分の寿命を知っている。 死期が近いと感じた豚は、囲いの一番奥にある建物の中に入っていく。もちろんそこが屠畜場(とちくじょう)と知っている。このストーリーに涙を流した。大熊豚とそこまで深い信頼関係を築き上げたマユミ先生を尊敬する。いただいた命を大切にしなくてはと思う。どの部位も残さず全て利用して有難くいただく、それが自分に出来るマユミ先生が残した功績への唯一の答えだ。


「ぐぅー、ぐぅー」


「あら、ゴウはもう寝たわ」

「ほとんど寝てなかったしね。このまま寝かせておきましょう」

「あっ カールも寝ているわ」

「みんなは、ゴウにまだまだ細かいことを聞きたいようだったわね」

「豚骨ラーメンは店への個別の対応で、ゴウはもっと忙しくなるわ」

「今はゆっくりおやすみ! ですね」

 

 寝息をたてているゴウとカールの傍で、2人をマリーとサクラが母親のような視線で見守っていた。その周りを私服の護衛隊員が静かに囲んでいた。その光景をそっと見つめている2つの視線があった。


 1つの視線は、ゴウが何度もその視線を気になっていた人物、転生前のゴウの恋人だった山本渚の若い頃の写真とそっくりの女性のものだ。見つめながら女性は思った。


 …その時が来たら、ゴウにどんな顔をして会ったらよいのか? 怖い…


 もう1つの視線は金髪の男性のものだ。「驚きの美味さだったな、帰るぞ」と囁き、右手を胸の位置まで上げると、数名の警護隊員と思われる男女が現れ、2人は彼らと一緒に消えた。


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