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天才ラーメン王、全てを失い異世界で無双する  作者: とみた美味いろは


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リニューアルプラン(続き) / 新国家コルデロの騒動

 トラキール帝国、大城皇帝会議室 


 陽気になったベルゴス皇帝を見てこのタイミングしかないと(ビーラ)は切り出した。


「我々が実行支配している島国で新たに民主国家として建国する国家名と20名の国家運営議員選挙日と首相選挙日が決まりました。建国と同時に支配権をSSCに完全移譲するお約束をお守り頂ければありがたいですわ」


「ラーメン戦争に勝利した後に移譲する約束だが、もう勝ったのも同然だからな、守る」

「皇帝、ありがとうございます」


「国家名は『コルデロ』、国民投票で決めたことになっていますわ。ふふふ」

「名前は忘れたが、あのヒーロー役に仕立て上げた奴が国家首相になる予定だったな」

「イバン・シーゲルという男です。しかし問題が発生しました」

「それはどんな問題だ、A」

「国家運営議員の有力候補でもある3人が、ヒーローと持てはやされたイバンを怪しいと疑いだして色々と嗅ぎまわっているらしいのです」

「早く潰せ」

「もう処理済みです」

「いつものお下劣な作戦で潰しましたわ、選挙に間に合わせますわ」

 

 1人目は崖から突き落とした。偽のメモ書きの遺書に、〔崖から身投げした女性は、実は振られた腹いせに私が突き落としたものだ。自分も同じ崖から身投げする〕と書いた。


 2人目は盗みの疑いで逮捕させた。国家運営議員選挙のライバルの家にあった応援者名簿を盗み出し、その候補者の家の本棚の中に隠した。盗みに入ったところを目撃したとの通報を受けた治安維持兵が候補者の家宅捜査を行った。そこで盗まれた名簿が発見され、候補者は即刻逮捕されてしまった。


「まったくSSCは下劣だな」

「問題は3人目です、余計な事を色々と考える奴で、勉強熱心で探求心旺盛で最悪です」

「対処が済んでないのか?」

「奴の名はターミル・ヤハタ、今はグルンジ王国の王都ラグールに行っていますわ」


 グルンジ王国は、下手な民主国家よりも国民に寄り添った国家運営をしている。その仕組みを勉強することは必ず新国家の為になるという信念でラグールに行った。ターミルにイバンを調べられるのも厄介だが、奴は後々もSSCの邪魔になる可能性がある。今のラグールは私服の警備兵だらけである。事を起こすのは得策ではない。監視はするが泳がせておくしかない。


「ターミルの帰りの船は海難事故に遭いそうだな」


「うわぁー! 皇帝こそお下劣ですわ」


□□□□□□


 カールの神ラーメン会議室


 皆が満足した試食が終わったが、カールにはまだまだゴウに聞きたいことがあった。


「麺のことで相談がある」


 この店の厨房の奥に製麺室がある。そこで2人の職人が神ラーメンの麺を造っている。試食した数量限定ラーメン、期間限定ラーメン、和え麺に使った麺は、店の麺とは違ったタイプで製法が分からないので指導してもらうか、店で使用する麺全部をゴウが指導している製麺所から購入するか悩んでいると。


「この店の神ラーメンはグルンジ王国を代表するラーメンです。今のままそっくり残しましょう」


 その上で、他のメニューの麺は購入することを奨めた。限定ラーメンも和え麺もスープやタレの違いで麺質を変える必要が出てくることが想定される。その度に指導を受けたり、新たな原料を調達したり、機械や部品を購入するのは非効率だ。麺を購入することでコストが高くなってもそれに見合う価格と品質のラーメンにすれば問題ない。それに不要な固定費も材料ロスも抑えられる。


 もう一つのアドバイスは、製麺スタッフの怪我や病気、機械や部品のトラブルで麺が造れない時のリスク管理だ。不測の事態が起こっても同じ麺を造って供給してもらえるような良好な関係を製麺業者と築いておくことが重要だ。


 転生前、富多師匠のところに、自家製麺の小さな個人店主から複数店舗を抱えるオーナーたちまでが新メニューや季節メニュー用に使う麺の相談に来ていたことを思い出した。昔からずっと同じ味で今も繁盛しているほんの一握りの老舗は別としても、開店当時と同じメニューのみでお客を繋ぎとめていくことが難しくなっていた。


 次々と新しい店が出来てSNSでもその情報が拡散し、情報を食べていると揶揄されるラーメンだが、もはや情報が溢れ過ぎて情報を食べ切れない。残し守るものと変えていくものも、新しく作り出すもの、これらに真摯に向き合うしかない。転生前の日本ではそういう時代に突入していた。


「ありがとう、神ラーメンは自家製麺、その他のメニューは製麺所、悩みが消えた」


「最後に、王子に話しておくことがあります」

「それは?」

「この店には大きな欠点があります。それは店が広すぎることです」


 何度かこの店に通ったゴウは、座る席によって麺の味とスープの味が変わるのが気になっていた。元々は何の建物かは知らないが巨大な吹き抜けの空間に丸い柱が数十本も建っている。とても荘厳な雰囲気だ。それが面白いことに〈神ラーメン〉と同化して見える。柱が麺に見えてしまう。しかし、その大空間が欠点になっている。


 厨房口から一番奥の席までラーメンを運ぶ給仕の歩数を数えてみた。テーブルや柱を避けながら歩いている歩数は100をゆうに超えていた。奥の席で食べた時は麺が軟らかく、スープの量がかなり減っていた。


「私も気になって店の改装工事を手配している。おそらくゴウと同じ考えだと思う」


 2人同時に、「反対側の壁裏の空き部屋にもう一つ厨房を作る!」


「わー、カール凄い! ゴウと同じ考え」

「さすが、毎日ゴウの試作会に通っているだけあるわ」

「ゴウの試作会に同行するようになるまで、麺の硬さなどあまり気に留めなかった」


 試作会で食べた麺はどれも美味しく、麺の食感や風味が申し分なかった。カールは自分の店で提供している麺を確かめようと、営業時間内に客として入った。案内されたのは厨房から一番遠い席だ。その日は家族連れも多く満席だった。空きスペースにテーブルと椅子を追加して店の席数は120席から160席に増えていた。


 厨房から苦労して運ばれて来たラーメンは、麺がのび、スープの量が減っていた。これは味作り以前の問題だと唖然とした。


「対策として、麺の茹で時間をかなり短くして硬く茹で上げさせたがうまくいかなかった」

「よくある失敗です」


 転生前のゴウの店では出前をしなかったが、富多師匠からラーメンの出前で失敗した店の話を聞いたことを思い出した。出前先のお客から「麺をもっと硬くして持ってきて」とお叱りや要望を聞いて、茹で時間を短くして持っていくと、出前途中に硬く茹でられた麺がスープを吸ってしまいスープの量がかなり減る。もちろん麺ものびてしまう。


 これでは逆効果、美味しくないラーメンになってしまう。反対にしっかりと茹でた方が、麺がスープを吸う量が少なくラーメンとして美味しく食べられる場合が多い。これは出前をしている店ではよくある話だそうだ。


 この店の厨房から遠い席までの長い距離、さらに客席の間を慎重にラーメンを運ぶので時間がかかり過ぎる。反対側に厨房を作ることで運ぶ距離を半減出来るのは大きい。加えて混雑時でも追加の席も作らず、空き部屋に椅子を並べて待合室にする。これで店内のラーメンを運ぶ動線がすっきりする。運ぶ時間を大幅に短縮できる。


「決戦の日まで、新メニューは極秘だが、厨房増設は早急に進める」

「『カールの神ラーメン』の成否はラーメン戦争の勝敗に大きく影響します」

「そうよ、カール、神ラーメンの代表店ですから」

「海外諸国でもカールの店が一番有名ですよ。絶対にコケたらダメですよ」

「今日はマリーもサクラも王子に厳しいな」

「ハハハ、ゴウ、いつものことだ。この2人は何故か私にはいつも厳しい」


 そこにアーサー第一王子がやって来た。


「えー! 兄上、どうしたのですか?」


「会議の前に、お前の意見を聞こうと思って来た」

「私の意見なんて…」

「ラーメン戦争と関係があるのでな。あともう一つある」


 つい最近まで兄の前では一言も話せなかったカールである。その兄が私の意見を聞きに来たとは嬉しいが、何か試されているのかと不安になった。


「もう一つとはコレでしょう」

「こら! サクラ、大切なお話を遮ってはダメでしょう」


 カミラがラーメンをアーサーの前のテーブルに運んで来た。


「マリー、良いのだ、当たりだ、もう一つはラーメンだ。これは新作か?」

「限定スペシャル神ラーメンです」


 カミラが答えると同時にアーサーは食べ出した。ゴウからの説明を聞きながら、期間限定ラーメンと和え麵の試食も終え、満足そうな笑顔になった。


「これでカールの店も大丈夫そうだな。驚いた、想像以上に美味かった!」


 久しぶりに兄の笑顔を見たような気がする。目的はラーメンの試食で、私の意見を聞くのはその口実だと考えたら緊張が解れた。が...


「カール、対処に苦慮する事態が発生した」

 

□□□◦◦◦

 新国家「コルデロ」の建国日が近づき、ターミル・ヤハタは仲間達と国家運営議員に立候補しようとしていた。そんな中、紛争を止めて国を救った人気のヒーロー、そして初代首相の有力候補であるイバン・シーゲルの素性や行動が怪しいと感じていた3人は内密調査を開始した。

 しかし、イバンに関する情報は全てブロックされていた。ターミルは素晴らしい国家運営の見学と勉強を名目に海外に渡り外からイバンの情報を探り、他の2人は引き続き国内で探ることになった。 


 王都ラグールに着いてからターミルが感じた違和感、それは見張られていることだとすぐ気づいた。ある日の夕方、見張りをまいて入ったレストランの一番奥にある衝立の裏側の小さな席で夕食を取っていた時だ。自分を見張っていた連中がやって来て、ターミルの背中の衝立越しの席に座った。


「あーあっ、ターミルの野郎を見失った。めんどうだ、ずっと見張るだけとは」

「明日、また宿泊している宿の前に張り込みだ。今日は飲むぞ!」

「消してしまえばいいのよ。仕事はそれで終了だわ」


 酒が進むと驚愕の真実を口に出した。イバンの調査を始めた1人は消し、もう1人は逮捕させたらしい。仲間がやられた!


「あのクズ野郎のイバンをヒーローにして、国家の首相にするだと。上層部は何を考えているのか分からないな」


 手品師、コメディアン、俳優、何をやっても失敗して、詐欺で金を稼いでいたのが本当のイバンだった。犯罪がばれて国外に逃走中にSSCに拾われた。SSCが実行支配しようとしている島国を内戦寸前の状態になるように仕掛け、そこにイバンを紛争を止めたヒーローとして登場させた。ターミルは、とても恐ろしい真相を知ってしまった。


 翌日からターミルは慎重に行動した。グルンジ王国、最高権威の学校『王立天海聖真校』の受付に行き、新国家建国後の教育の参考にする為に、政治・行政・指導者育成特別科の授業の見学の申し出をした。後をつけられていたのは分っていたので、大きな声でお願いした。案内された待合室で身柄の保護を申し出た。

◦◦◦□□□


「そのターミルという男は、今どこにいるのですか?」


「表向きは王立天海聖真校の指導研修生という待遇で、学園内の寮に入っていることになっている」


 ラーメン戦争を仕掛けて来るトラキール帝国の手先であるSSCが関わっているのが厄介だ。おそらくトラキール帝国もこの件に関わっている可能性が高い。ターミルの希望は、このままグルンジ王国に留まり、イバンの素性を知っているSSCの奴らを捕まえて国に帰り、イバンは偽物だと国民に知らせたい。それを実行する為の力を貸して欲しいという。


「手を貸し、ラーメン戦争決戦前にトラキール側を刺激するのはマズイな」

「過激になってゴウの活動の妨げになるのは困ります」

「しかし、このままにしておくわけには…」


 沈黙の中、「はい!」とサクラが手を上げた。

「こら、またサクラは大事な話し中に…」と慌てたマリーをアーサーが制した。

「意見があるなら話してみなさい」

「はい、特別臨時講師を利用するのはどうでしょうか」


 王立天海聖真校の武術研究・実践武術特別科でサクラは15歳まで学んでいた。毎年そこに巨大国家の一つのガーレル帝国から特別講師として軍人数名が派遣されてくる。ターミルがいる同じ学園内で特別講師に助けを求めた形にしてはどうか。天海聖真校側の希望で正義感の強い軍人を派遣してもらっている。協力してもらえる可能性が高い。これがサクラの案だ。いつものサクラとは違いかなり真剣な表情だ。


「今日のサクラは凄いな、2つの目的を果たした」


「えへっ 第一王子様に褒められました~」


 いつものサクラに戻った。


□□□□□□


 計画はサクラの考えた通りに進んだ。正義感の強いガーレル帝国の軍人達は、ターミルの話を聞いて直ぐに協力をすることを快諾した。グルンジ王国内で行動する特別許可を得て、SSCのアジトに攻め入り数名の賊を捕らえた。


 ターミルは捕らえた賊と一緒にガーレル帝国軍の船で帝国に渡った。そこからガーレル帝国軍の事実保証付きの書簡をハヤブサ便で、新国家コルデロ暫定政府選挙管理官に送り付けた。SSCの息のかかった管理官でも世界一の軍事力を持つ国からの事実保証付き書簡をもみ消すことが出来なかった。

 

 イバンは自ら内戦誘導に加担して偽のヒーローになった経緯が明るみになり逮捕された。国民からは[悪魔の俳優イバン][クズ・コメディアンのイバン]などと呼ばれて、ヒーローからクズの詐欺師に戻った。新国家〔コルデロ〕建国後に裁判にかけられる予定だったが刑務所で謎の死を遂げた。しかし、自殺としてあっさり処理された。


 一方、偽の窃盗容疑で逮捕されたのはミズーリ・シーマ。事実誤認として無罪放免となり国家運営議員に立候補しトップ当選した。イバンの悪事を暴いた3人衆の1人だとして国民から絶大な支持を得た。国民には新たなヒーロー役が必要だったようだ。その勢いで首相を選ぶ国家運営議員による選挙では、国民に圧倒的な支持を得ているミズーリに対抗する議員は現れず、無投票で『コルデロ民主共和国』の初代首相が誕生した。


 悪事を暴いた功労者のターミルは、まだ命を狙われる危険が残るとし、初代首相となったミズーリから確実に安全な状況になってからの帰国が望ましいと連絡を受け、しばらくはガーレル帝国に留まることになった。

 

《功労者ターミル・ハヤタの後日談》

 ミズーリからの連絡は無かったが、国内情勢が安定した頃と判断したターミルは『コルデロ民主共和国』となった故郷へ帰国した。真っ先にミズーリ首相に会いに行ったが、秘書官から首相は多忙で時間が取れないと断られ続け、面会出来たのは帰国して10日後だった。


 やっと会えたミズーリと感激の抱擁をしたが、その後のよそよそしい態度に違和感を持った。建国前に一緒に建国後の国民の為の法案や政策について話し合い原案も作った。その進捗状況を尋ねると「なかなか難しい。でも頑張っている」と、のらりくらりとかわされた。その挙句、大事な隣国の客人との会合があると苦しそうな嘘をつかれ部屋から追い出された。


 SSCはイバンの悪事が表沙汰になった時に操り人形をイバンからミズーリに乗り換えた。ミズーリの家族や親戚を裏金やハニートラップなどで罠にかけ、それを知られたら逮捕される状態にした。ミズーリの窃盗事件の証拠は他にもあると偽の証拠と証人も用意して脅した。操り人形化に成功した。さらに当選した他の議員全員を選挙前に調略済だ。


 仕上げにミズーリをヒーローとして国民に人気が高まるように様々な工作をした。ミズーリ人気に乗じて建国後の重要な法律や政策の全てがSSCの指示した案で採決された。


「騙された! やられた! 裏切られた!」


 大きな声を上げたターミルは書類を投げつけた。知人に頼んで集めた新しく出来た法律や政策、教育方針、税金・年貢などに関わる書類を見た。全て、国民の為になるとは思えないものばかりだ。


 誰の為の民主国家だ! 悔しくて涙が止まらない。


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