ミニ豚のピー様の救い
《天海聖暦770年 異世界開店日より95日後》
新たな指令が出されベン達一行は大熊豚の放牧園に来た。ここは第二の救世主と言われたマユミ・キョウカ先生が最初に作った豚の放牧施設だ。隣接して家畜・食肉研究所が建ててある。国王は食物の研究者や技術者の誘拐を危惧していた。そこでベンに各施設に警備兵の分配と配置を任せた。ゴウはこの研究所の油の研究に興味があり同行した。当然、マリーもサクラも一緒だ。それにケイと警備部隊を合わせるとかなりの多人数だ。
放牧園に来たのはもう1つ理由がある。本来は狂暴な大熊豚が放牧園の人間と良い関係を保っていたのはマユミ先生の功績だ。寿命が15年の豚だが、シマモト先生が開発した牧草を食べると成長速度が3倍速くなる。生まれて4~6年後、寿命を悟った豚は自らの意思で柵の一番奥にある建物の屠畜場にやってくる。それが美味しい餌をもらえる交換条件のように。
しかし、その関係が崩れそうな事態になっている。ここ数日、放牧地内で作業員が相次いで襲われたと報告が来ていた。大熊豚はグリズリーのように大きくて狂暴なので襲われたら危険だ。そこで安全の為に兵隊も引き連れて調査に来た。
ゴウとマリーは研究所に残り、ベンとケイ、サクラと警備兵が、数人の職員の案内で放牧地に入った。作業員が襲われた放牧地にまで来たところで職員達が声を上げた。
「えー! ピーさま!」
「ピーさま、今までどこにいたの?」
マユミ先生の相棒だったミニ豚のピーターは、先生が亡くなってから姿が見えなくなった。120年以上生きるミニ豚だが、13年姿を見せていないので生存していないと思われていた。
「あなたがピーさま、ピーターなの? カワイイ!」
そう叫んだサクラの肩の上に乗ったミニ豚は甲高い声でピーと鳴いた。すると、林から大熊豚が1頭出て来た。隊員が弓を構えたが、ケイが射るのを止めた。
「ダメ! 射らないで、よく見な!」
巨大な豚は子豚を咥えていた。おそらく自分の子だ。その子豚の尻には矢が刺さっていた。職員は悟った。
「私達を襲う意思は無いようです。子豚を助けましょう」
薬を持った職員が近づくと、親豚は子豚を地面におろして哭いた。職員が矢を抜き止血し薬を塗って治療したがかなり弱っている。そこで2人の職員が施設まで運ぶことにした。運ばれる子豚の後ろを親豚が静かに付いて行った。大熊豚は作業員を襲ったのではなく助けを求めていたのだ。これまで職員が怪我していなかったのはその証拠だ。
「子豚を矢で射るとは誰の仕業? あたいは悲しい」
「これはSSCの仕業だ」
ベンは確信した。奴らは、研究員や技術者を一人一人誘拐したり消したりするより効率の良い方法を考えたのだと。林の中に住んでいる大熊豚を怒らせて、大群で牧場施設や研究所を襲わせる計画だろう。
ずっとサクラの肩に乗っていたミニ豚ピーターが飛び降りた。ピーピーと鼻を鳴らしながら林の中に入った。
「ついて来いと言っている。行ってみるぞ」
しばらく歩くと少し開けた場所にテントが見えた。独特の香りがした。大熊豚の襲撃を防ぐ為に熊除草の実で作った液体を撒いたものだ。テントの裏側に回り込むと数人の男女が焚火を囲んで酒を飲んでいる。焚火で子豚を丸焼きにしていた。周りに仕留めた子豚が転がっていた。奴らは酒を飲んで陽気になり大きな声を出している。
「もうそろそろ大熊豚どもが怒って施設を襲ってもいいはずだなぁ~」
「幹部の連中は酷いことを考えやがる」
「豚に攻撃をさせるなんて酷いわ」
「ははは、酷い、酷い!」
ベンが目の高さに上げた左手を前に倒した瞬間、潜んで取り囲んでいた警備兵が一斉に飛び出し賊全員を拘束した。賊の腕を背中に縛り上げて歩かせた。
林を抜け草原に出たところに大熊豚の大群が待っていた。大熊豚が拘束されている賊を見て襲おうとしていた。しかし、賊達が服に熊除の液体を塗っていたので近づけなかった。サクラの肩に乗っているミニ豚ピーターが鳴くと大熊豚は納得したように林の中に帰って行った。
「あの大熊豚の大群が施設を襲ってきたら大変なことになっていたな」
「みんな、ピーさまのお陰ね」
家畜・食肉研究所に残ったゴウはマリーと一緒に豚油や鶏油の最新の研究を見せてもらった。研究員の説明は難しかったが、多くの種類の油のサンプルを大量に貰えたのはありがたかった。
ラーメンのスープの味を決めるのは、大きく分けて3つある。
1.獣の骨や野菜類(+魚介類)からとる〘がらスープ〙
2.醤油・味噌・塩などから作る〘タレ〙
3.そして〘油〙である
がらスープの表面に自然に浮く油を利用する場合は、元々の素材の質で違いが出る。途中で表面の油をすくい取り、その油に他の食材の風味を付ける加工をして利用することもある。あるいは、加える油を全く別に作り使用することもある。そうすることで味の変化を容易にし、味づくりの幅を広げることにも役に立つ。
そんな意味で今回の油のサンプルは大きな収穫だ。




