アナベル・モーリスの涙 / サクラの誘拐
《天海聖暦770年 異世界開店日より85日後》
「サクラという小娘に邪魔されました」
「大変申し訳ありません」
SSCの幹部10名が一斉に頭を下げた。ここはベルゴス皇帝から与えられたトラキール帝国内にあるSSCの屋敷の中だ。幹部達はグルンジ国内での活動をサクラというメイドに何度も潰されたと言い訳をしていた。
「最近、私の可愛いハヤブサが持ってくる手紙は、まったく可愛くない内容よ。失敗の報告ばかりだわ」
Bは、最速の鳥ハヤブサ使いだ。2種類のシャドー・ハヤブサを使う。空の色と同化する白ハヤブサと夜行性の黒ハヤブサを使い、世界中に作った拠点を経由して世界一速い影の伝達網を構築してSSCの最高幹部の1人に成り上がった。
「小娘1人に邪魔されましたとは、言い訳にもならぬ」
Aの静かな威嚇に全員震えあがった。
「サクラは、グリンジ王国最強の女剣士と言われたケイの弟子です」
「そんな事は分っている。これからどうする?」
「最強の剣術使いを送り込みました」
「帝国のドラクダール将軍も腕の立つ部下を潜入させた。協力して動け!」
「ゴウの誘拐、今度こそ遂行します」
「ベルゴス皇帝はサクラに興味津々よ。サクラも誘拐した方が皇帝は喜ぶわ」
「今度こそ失敗するな!」
◇◇◇
「サクラ、今日はいつもの笑顔が無いな」
「今日の試作会に来る会長が好きでないの」
アナベル・モーリスは、モーリスという名前のラーメン店を含め様々な飲食店を運営している。前経営者だったアナベルの父親が飲食店の経営者仲間50人程を集めてMS会を組織して自ら会長になった。食材仕入れの簡単な情報交換などをする以外は親睦会的な側面が大きい組織だった。今は、アナベルが会長を引き継いでいる。
モーリスのアンケートに、売上が少しずつ減少しているのが問題点と書いてあった。以前、サクラの知り合いの卸売業者がMS会と取引をしていた。その業者から得た情報で色々と分かった事があった。アナベルが会長になってから、食材納品業者への締め付けが厳しくなった。
具体的には、MS会に参加している全店へ厳しい値下げ要請をして、応じない業者を切り捨てた。過去に便宜を図ってもらった経緯も全く無視した。しばらくすると、応じた業者にさらに値下げの要請をした。生産者や市場からの仕入れより安く納品することは出来ないと断られると生産業者に直接交渉しに行った。小規模な農家や牧場で大量購入を条件に安く買い叩いた。さらに生産者に追加で厳しい価格条件を付けて締め付けた。採算が合わず脱落する生産者が続出していた。
元取引業者が一番怒っていたのは、アナベルがMS会の納品価格より自分のモーリス系列のラーメン店へはもっと安くする事を内密で要求してくることだ。さらにマージンと称して多額の袖の下も要求してくる。さすがにやり過ぎだ。
市場地下の秘密基地、2番の厨房室にアナベルがMS会の3人の仲間と一緒にやって来た。アナベルはショートカットの銀髪でクールビューティーという感じの目鼻立ちをした女性だ。お互いの自己紹介と挨拶が済むとキツイ口調のアナベル節が炸裂した。
「神レシピより美味しいラーメンが作れるなんて本当? お手並み拝見だわ」
それを聞き流してゴウはルーシーとカミラにラーメンを作るように指示をした。旨味とコクを引き出すためにあえて少し濁ったスープにした。材料の豚ガラの質の良さも加わってかなりの美味しさになっていると思う。
「何、この汚い濁った色のスープは残念ね。もともと期待してなかったわ、ゴウさん」
「そう言わず、食べてみてください」
スープをレンゲで飲んだ瞬間、4人とも旨いと叫び立ち上がった。そしてあっという間に完食した。それでもアナベルの口調は変わらない。
「これならイケル、 レシピを至急頂戴! 発売日までに取引業者を締め付けなくちゃ。沢山売れるようになるからもっと買い叩けるわ。フフッ、みんながウィンウィンになるわ」
何がウィンウィンだ、ますますアナベルの一人勝ちになる。まぁ、そうはならないが…
「そううまくいきませんよ。このままではMS会の店は潰れます」
意地悪く言ってしまった。
「私は自分の口の悪さを自覚していますわ。でもゴウさんはもっと酷いわ」
アナベルが会長に就任してからMS会との取引を切られた業者や生産者の数はかなり多い。その業者の家族や親戚、友人や知人、そのまた知り合いと悪い評判は広がっていた。同じ神レシピのラーメンを食べるのなら他の店に行くのは当然だ。
「理由は、2つあります。1つは業者イジメのMS会という評判が立っていることです」
「失礼な話ね。もう1つは何なの?」
「周辺の店と比べてMS会のラーメンの味のレベルが低いことです」
「これも失礼な話ね。同じ神レシピで作るから違いは出ないわ」
小さな農園や牧場主や卸業者から大量に買う見返りに激安価格で購入。お店では他のラーメン店より安く売りお客様にも喜んでもらえる。それのどこが悪いの?とアナベルが息巻く。
確かに転生前の日本でそのやり方で成功している外食企業は沢山あった。でもやり過ぎはダメだ。そういえば持続可能な社会の実現とか転生前にブームのようになっていたのを思い出した。何でも同じことだと思うが、建前の裏で一部の人に利益が集中するような仕組みは必ず何処かで破綻する。アナベルのシステムは持続不可能になっていた。
「この2つのスープを飲み比べてみてください」
最初にスープはアナベルの店「モーリス」のラーメンスープだ。
「普通に美味いわ」
次のスープは、モーリスの裏通りにあるMS会不参加の店のラーメンスープだ。
「これは美味い、前のスープとレベルが全然違う」
MS会の仲間の店主達も同じ反応だった。
「皆さんが美味いと言ったこのスープはMS会のライバル店のスープです。ライバルの各店は、みんな同じ材料を使って同じレベルのスープを作っています」
ようやく事の重大さを悟ったアナベルは顔面蒼白となった。このままでは店が潰れると言われた理由を理解したのだ。
ラーメンという食べ物は繊細である。材料のほんの少しの良し悪しで味に小さな変化が生まれる。その小さな差で勝敗が決まる。富多師匠から聞いたことがある。融資したラーメン店の経営立て直しの相談を銀行の支店長から受けた際、相談前に銀行が店に指導したのは原価削減だったと。ほぼ同じ味ならと原料を安いものに変えさせた。指導案は逆効果、味の微妙な変化で常連客を失ってしまっていた。そのぐらい精細なものだ。ましてこの世界の住人は味覚が鋭い。日本人の10倍は鋭いのではないかと感じている。
今回のスープの飲み比べのショックはかなり大きいはずだ。
「材料が違うだけでしょう! その材料を売っている業者を紹介して。私が直接行って交渉するわ。まとめ買いで安く買うわ」
狼狽えているアナベルの斜め後ろから声がした。
「そうはいかんのだ、アナベル」
「お父様、何故ここに?」
「まあ、聞け」
会長を勇退したアナベルの父親サムエル・モーリスは、最近のMS会の業者イジメの悪評とライバル店に味で負けているという評判が気になって調べていた。長年お世話になっていた業者は全て切られていた。どの業者も信頼していたまじめな業者だったが、頻繁な値下げ要求についていけなかったらしい。換えた業者も直ぐに別業者に切り換えられていた。
商売で一番大事にしなくてはならないのは取引先だと娘にしっかり教えなかったのは自分の責任だ。良い物を仕入れられなければ商売は成り立たない。取引先と信頼関係を築けば不測の事態が起きた時の支援や店の宣伝もしてくれる。取引価格も良心的なはずである。一方だけが利益が出るような強引なやり方は長続きしない。
もっと深刻なのは味の方である。ある時、MS会との取引を切られた業者が集まって残念会を開いた。その会はアナベルに対する恨みの会になる予定が、異業種交流会のようになった。一緒に新しい豚肉・鶏肉・野菜を開発してこのピンチを乗り越えようと盛り上がった。
後日、みんなで植物研究所に相談に行った。そこで「香り葱」という野菜を推薦された。その葱を乾燥粉砕して餌に混ぜ与えて育てた豚や鶏の肉は、味に旨味と深いコクが出る。さらにガラ(骨)や油は、少量の使用でも香り豊かで濃い味になる。
課題は栽培方法や飼育方法が難しいことだ。香り葱は他の野菜の近くでは育たない。豚・鶏も他の餌を食べて育った家畜類が近くにいると効果が無くなる。つまり隔離した専用の場所が必要になる。そこで残念会の有志メンバーで小さな土地を借りて試験的に香り葱のミニ牧畜農園を作った。
育てた豚のMS会の店がある地区のライバル店に試験的に使ってもらった。たった1本の骨をスープの寸胴に入れただけで味に深みとコクが出て店主達はとても驚いた。他の材料を減らしても効果は変わらなかった。評判は最高に良かったが本格的な牧畜農園を作るには資金が無かった。
そこに1人のエンジェル投資家が現れた。代理人が、投資家の名前は明かさない・失敗しても返済義務がない等の内容が書かれた契約書類を持ってきた。牧畜農園側は、販売先に関しては自分達で決めることが唯一の条件としたが、投資家は一切の制約をしないとの破格の条件で契約が成立した。
「そういうことだ。お前が取引を切った業者達が立派な食材を作り上げた」
「どうせ高いのでしょう、MS会の店は原価では負けないわ。ラーメンを安くして周りのライバル店を蹴散らすわ、売ってもらわなくても大丈夫だわ」
「バカ者! おまえは何も分かっておらん、新しい牧畜農園からの出荷も先週からスタートした。店への深刻な影響はこれからだ」
ゴウが口をはさんだ。
「あの~原価ですが、スープは骨の量が三分の一で済むので原価は安くなります」
「でも肉の方は高いでしょう」
「肉は高級料理店での採用が決まったようです。当面はチャーシューには使いません」
サムエルは娘と仲間を椅子に座らせた。
「アナベル、もう強がりはよせ。お前がなんであんなにお金が必要だったか私が知らないとでも思っていたのか」
「サムエル様、申し訳ございません。すべて私達が悪いのです。アナベルは私達の為に…」
アナベルが会長に就任した時期に、この3人を含め10人が金鉱詐欺にあった。仲間の1人が海外から来た有名な鉱物発見家がグルンジ国内にある草原の地下に眠る金脈を発見したとの極秘情報を受け取った。幼馴染で仲が良くMS会にも所属していて気心が知れているメンバーで現地の草原の土地を見に行った。言われた場所を掘ると硬い岩石が出て来た。その石には金色に光るものが沢山入っていた。我々が立っている草原の下には金鉱があると言われて全員が騙された。
最初の掘削資金調達の為に人数限定でこの土地の権利を売るという説明をされて投資を決めた。投資金と交換で土地の権利書を受け取った。しばらくしてそれが詐欺だと知った。権利書は本物だったが金鉱が無いなら土地に何の価値もない。取引業者への締め付けは、詐欺にあった10名の幼馴染を救う為にアナベルが考えた苦肉の策だった。
「アナベル、おまえが考えた策は最悪だ。10人を救うどころかMS会の店を全部潰すことになるぞ」
4人が泣き出した。強気一辺倒だったアナベルが目を真っ赤にはらして大粒の涙を流している。その姿を見たゴウは、本当はずっと辛かったのだろうと想像した。
「後は、お前が頭を下げられるかどうかだ」
「アナベル様、お久しぶりです」
「あっ オジサン」
この男性は、アナベルの子供時代から取引をしている食肉卸業を営んでいるオークル・ヤマヤという人物だ。父親の代わりに郊外の牧場に遊びに連れて行ってくれた。オジサン、オジサンと言って抱きついていた。仕事に関してもいつも良い材料を厳選して納品してくれると父が感心していた。そんなオジサンとの取引を切ってしまった時は陰で泣いた。
「本当にごめんなさい。私は馬鹿で浅はかでした」
「陰で聞いていました。あんなにお優しかったアナベル様に何があったのか心配していました。長い髪をバッサリと切って現れた日から変わられましたね。子供の頃、紅一点のアナベル様が幼馴染の10人の男の子の前で、ワタシがお前たちを守ると演説していたのを思い出しました」
「間違っていました。酷いことをしました」
「私もやり過ぎました。MS会のライバル店に絞って香り葱の豚骨を売りまくりました」
「オジサン、オークル様、MS会にも売っていただけますか?」
「もちろんですよ」
アナベルはオジサンに抱きついた。うわぁーと大声で泣いた。
「昔のアナベルさんに戻りましたね」
「オークル殿、ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます。恩人のエンジェル投資家はサムエル前会長殿と私はすぐに分かりました」
「えっ どうしてですか?」
「あんな優しい投資をしてくださる方はサムエル殿以外思い当たりません」
「ははは、しかし結果的に良い投資になりそうですよ」
「それとアナベル様、詐欺にあって購入し、売れなくて困っていた土地を買ったのは私達です。エンジェル投資家、つまりお父様の助言であの土地を買いました。牧畜農園を作るのに最高の場所でした」
もう一度アナベルはオジサンに抱きついた。続いて父親のサムエルに抱きついた。この光景を遠目に見ていたサクラもカール王子も貰い泣きをしていた。ゴウは冷たい表情から優しい表情に変わったアナベルを綺麗だなぁ~と見ていた。
右腕を突かれたゴウはいつの間にかサクラが隣にいて驚いた。サクラを見るともう一度突きながら「何ボーッと見とれているのですか!」と唇を尖がらせて囁いた。
「すみません、私も謝ります! お店は潰れません、潰させません」
「いや、私がゴウ殿にお願いしたのさ、娘にショックを与えてくれと」
「お父様!」
「私もやり過ぎた。やり過ぎはいけないな」
この地区は、香り葱牧畜農園の生産物を使用したラーメンとして地域の特徴をアピールし、さらに店ごとの個性を競わせる作戦だ。きっとうまくいく。
市場地下の秘密基地に最後に残ったのは3人だ。
「今日も勉強になった」
「カールは毎日熱心ね」
「サクラは今日も沢山食べたな」
今日の試食会はとても気を使った。ゴウは大きく息を吐きながら声を出した。
「ふぅ~ 今日は疲れました」
「どうなるか心配したわ」
「父親のサムエル前会長は素晴らしい人物だった。ゴウはどう思う」
「同感です。俺も含めてみんながサムエル殿の掌の上で踊らされていたようですね」
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
この後、ゴウがカール王子のいくつかの質問に答え散会となった。サクラは私服の護衛6人と一緒にゴウを住まいに送り届け、自分が住むアントーニ公爵邸に向かった。
歩きながらサクラはゴウの事を考えていた。このところ毎日夜遅くまで仕事をしているようだ。このままでは過労で倒れてしまうのではと心配になった。ゴウはこの国の救世主だということを自覚していない。ホント困るわ…
「キャー 何するの!」
「助けて!」
悲鳴が聞こえた方を見ると、壁を背にした2人の女性が屈強な男達に囲まれていた。
「イイ女だな、俺と付き合え!」
「へへへへ こっちの女はワシとだ」
「いや俺が先だ、イイコトしようぜ」
その瞬間、サクラの身体は動いていた。男達の間をすり抜け女性の前に立った。一瞬遅れて私服の護衛達もサクラの後を追った。護衛達は目を疑った。サクラの姿も悲鳴を上げていた女性の姿もなかった。
「おまえ達、メイドを何処に隠した」
「悲鳴を上げていた女は何処だ」
男達の逃げ足がとても速く、捕まえたのは1人のみ。尋問してもメイドも女性も知らない、その一点張りだ。捕まった男は逃げ役で本当に何も知らされてなかった。
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
「ゴウ、サクラが大変だ! おそらく誘拐された」
部屋で今日の試作ラーメンのレシピの再確認と明日からの予定の確認をしていた。サクラとは「かなり疲れているようだから早く寝なさいよ」と俺に言い残して別れたばかりだ。心臓がバクバクしてきた。心配だ。
「ベンは現場に先に行った。あたいもこれから向かう。ゴウはここで待ってな」
「ケイ、俺も行きます。行かせてください!」
「分かった、ゴウはあたいが警護してあげる。行くよ」
サクラが消えたという現場に着くと、ベンと警護隊、それにマリーも来ていた。夜中の今の時刻は船が出向出来ない決まりで、誘拐されても国外に連れ出されるのは早朝以降だ。なんとしても夜明け前に見つけ出さないとマズイらしい。壁の前まで来たゴウは叫んだ。
「この壁の中が怪しい!」
試食会で香り葱の乾燥粉末を混ぜた調味料をサクラがとても気に入った。マリーにも食べさせたいからとポーチに調味料を入れて持って行った。その香りが壁の中からする。
ベンが壁を足で蹴ると簡単に壁の一部が崩れた。壁の中に入ると床に微量の調味料が落ちていた。さらにその先にも落ちていた。これを辿ればサクラが見つかるかもしれない。
「これはサクラが、居場所が分かるように撒いたのですよね」
「その可能性は低いらしいぞ」
警護隊の検査員が壁の前に一滴落ちていた水滴を調べたところ強力な睡眠剤らしい。それを塗った長い針で刺されたら1日以上は目が覚めない。偶然に運よくポーチから少しずつこぼれて撒かれたと考えるのが自然だ。
「とにかく調味料を辿るぞ」
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ここはどこかの建物の地下室だ。天井がかなり低い。4本ある柱の1本に私は縛られている。サクラが2人の女性を助けようと飛び出した瞬間、右後の女性が何かで私を刺そうとしている気配を感じた。咄嗟に身体をひねって避けた。針が貫通したのは調味料が入ったポーチだった。同時に後ろの壁の中に引き込まれ、一回転してうつ伏せに倒れた。サクラの背中で一緒に壁の中に引き込まれた女が男と小声で話すのが聞こえた。
「痛いわ、酷いわ」「イテテテ、乱暴ね」
「その小娘、もう意識を失っているか?」
「太い針で刺したから、もう眠っているわ」
覚悟を決めて寝たふりをした。それから賊達に運ばれてこの地下室に監禁された。賊達の会話から、自分を誘拐してトラキール帝国に連れて行く計画と分かった。2人の女と襲うぞと女を取り囲んだ男達はSSCの連中で、壁の中の建物に待機してサクラを運んだ男達はトラキール帝国軍のエリートで指折りの剣術使いらしい。準備の為に男3人が出て行き、地下室の中にはトラキール帝国兵2人とSSCの女2人が残った。
「あいつらの演技、最低だわ。イイコトしようぜって、何あれっ」
「マジ、クソだわ! こんなイイ女に違う言い寄り方があるでしょ」
「おまえら、静かにしろ」
「あら、やっと話してくれたわね。あたし達がイイ女と気づいたわね」
「こんな小娘メイド1人に、あんな大がかりな仕掛けとエリート剣術士を使うなんて馬鹿げているわ。ほら私を見て」
「静かにしろと言っているだろ! 何回言わせる」
「もう1人のむっつりスケベさん、あんたはどう」
その1人の男は、サクラの傍に来た。
「この小娘はいい匂いがする。お前も傍に来てみろ、そこのアバズレ達とは違う」
「なんか食べてしまいたいぞ!」
「変だ、この娘を食べたくなった」
「あんたら、変態か、キャッキャッキャ」
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微妙な調味料の香りを頼りにして古びた建物の入り口に辿り着いたゴウ達の前に、剣を構えた3人の賊が立ち塞がった。ベンが指示をした。
「俺とケイに任せろ、下がっていろ! こやつら只者では無いぞ、みんな手を出すな!」
警備兵に守られながらゴウはマリーと手を繋いで後ろに下がった。賊達の殺気、いや狂気、おぞましい空気が漂い恐怖を感じた。2対3ではベン達が不利だ。3人の攻撃に防戦一方で全く反撃が出来ない。相手の剣先がベンの喉元をかすった。水平に振るわれた剣がケイの胸元を襲ったがギリギリで避けた。そこで2人が一瞬眼を合わせた。次の一撃を避け、ベンが右側、ケイが左側の男の剣を持つ手を斬った、同時にベンが中央の男の足を払い、よろけたところをケイが斬り付けて倒した。
ベンは相手に攻撃させて弱点を探していたのだ。いつも鎧を付けているような動きで兵士だと分かった。鎧が無い分軽い為に自覚せずに剣の振り幅が大きくなってしまう。そこに一瞬の隙が生まれる。近衛兵として鎧を付けた経験から弱点がすぐに分かった。
「さすが王国近衛兵の元団長と元副団長ですね」
「噂の剣術を初めて見ました」
警備兵が賊3人を拘束しながら感心していた。
「行くぞ!」
ベンを先頭に建物の中に入った。廊下の奥にあった地下に続く階段から調味料の粉末を見つけた。階段を下りると小さな扉が1つあった。ここにサクラが捕らわれているのは間違いない。
「ドアをぶち破り一機に制圧するぞ」と小声でベンが囁いた時、扉が開いてサクラがそろりと出て来た。
「みんなお疲れ様、ありがとう!」
ケイが叫んだ
「サクラ、怪我は無いか? 賊どもはどうした!」
「中でみんな寝ていますよ」
ゴウと繋いでいた手を放してマリーがサクラに抱きついた。
「お疲れ様はないでしょう! サクラ、本当に心配したよ」
気が付くと、ゴウも2人に抱きついていた。ホッとして声も出せなかった。さらにケイも抱きついてきて息が苦しいほどだ。
「サクラ、やつらに何をした」
ベンと警備兵が中でぐっすりと寝ている賊の姿を見て目を丸くしていた。
「このポーチに刺さった針に塗ってあった睡眠剤が強烈なの」
柱に縛られたサクラは寝たふりをしながら縄を解きチャンスをうかがっていた。2人の男が良い香りがするとサクラの胸元に鼻を近づけた。そのチャンスを逃さずポーチに刺さっていた太い針で男の首筋を軽く刺した。2人の男は一瞬で倒れ意識を失った。続けて2人の女の腕にも針を刺し眠らせた。
「ポーチのお陰で助かったけど、調味料がダメになって残念」
いつものサクラだと思ったら緊張が解けた。
「調味料は沢山あるよ。後でマリーと一緒に食べよう」
建物の外に出ると夜が明けていた。朝日が眩しかった。ゴウは朝日を見ながら意識を失った。気が付いたのは自分の部屋だった。マリーとサクラの声で意識が戻った。しばらく目を閉じたまま2人の会話を聞いていた。
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「眠ってから丸一日過ぎたわね」
「目が覚めたら過労で倒れたことにしてくださいね。疲れていたのは本当だから」
「ゴウがあんなに必死になっている姿を初めて見たわ。地面を這いずり回って調味料の香りを追っていたのよ。サクラ、サクラと呟きながら」
「睡眠剤に触れた調味料の粉末をクンクンしていたのでこうなったのね」
「すぐに倒れてもいいはずなのに、サクラが見つかるまで頑張ったのは凄いわ。よほどサクラが大切なのよ」
「私、しっかり見ましたよ。扉を開けた時、ゴウとしっかりと手を繋いで恋人同士のようでした」
「そういえば、ケイも今回は動揺していたのよ」
弟子で娘のような存在のサクラが誘拐されたと聞いたケイは、怒りと心配とでかなり興奮していた。少し冷静になれたのは、ゴウが調味料の香りを必死に追いかけている姿を見て今やれることの最善を尽くすしかないと思ったからだ。そのゴウが倒れた時は焦った。
しかし寝ているだけだと分かると、「あたいが面倒みるよ」とゴウを軽々と抱き上げて連れ帰った。埃まみれのゴウの身体を綺麗にするのに裸にして中庭の露天風呂のお湯をかけて洗い流し布で丁寧に拭いてから部屋に運びベッドに寝かせた。
「日の光の下のゴウの裸は美しかったと言っていたわね」
「まるで赤ん坊のような肌だと。見たいです」
「寝ている今がチャンス、裸にして見ましょう」
2人が毛布を捲くったら、ゴウが慌てて起きた。
「ハハハハ、目が覚めていたのはバレバレですよ」
「どこから聞いていたの?」
「いえ、今目覚めたばかりです」
「うそ、でも元気そうで良かった」




