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天才ラーメン王、全てを失い異世界で無双する  作者: とみた美味いろは


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恐怖と絶望、一瞬で積み上げてきたもの全てを失う

 異世界に転生する前のゴウの名前は、竹岡一進(タケオカ・イッシン)、漁師の家庭で育った一人息子だった。2歳で母親を病気で亡くした。その後、父親と2人暮らしをしていたが、14歳で大好きな父親を漁船の海難事故で亡くしてしまう。


 中学校卒業後は親戚を頼らず住み込みで働ける会社に就職した。父方の祖父母から、中学校の成績が優秀だからと高校・大学への進学と金銭的援助という好意の申し出があったが辞退した。周りの皆から可哀想と言われ、自分で何とかすると反発した。勉強は通信教育を利用した。睡魔に襲われながら夜間大学にも通い卒業した。


 その後は職を転々としたが貯金だけは続けた。28歳の時、貯金を叩いて珈琲専門のカフェを始めた。しかしその経営は赤字続きで1年持たずに店を潰した。珈琲豆、カップ類、インテリア、すべて竹岡がこだわり抜いたもので挑戦したが夢破れた。何が自分に足りなかったのかを考える余裕は無かった。とにかく次に目指すものが欲しかった。


 竹岡は、閉店した喫茶店の前で空に向かって大声で叫んだ。


「神様 仏様 八百万の神様 もう誰でもいい 俺に夢をくれー」

 

 叫びながら、俺はなんてベタな青春ドラマのようなマネをしているのだと自分を卑下した。自分に腹が立った。街中をフラフラと歩いた。腹も空いてきた。迷い込んだように歩いた路地裏、変わった立て看板が目に留まった。


〘農家の次男が作るラーメン 麺や 花園〙 


 苛立った気持ちのままふらりと入ったこの店で、感動のラーメンに出会った。メニューを見ると、店主の実家の畑で採れた野菜とエティブルフラワーという食用花がトッピングされているラーメンの写真が綺麗だった。食用花は農家を継いだ兄がこの店専用に栽培していると書いてあった。迷わずその[花園ラーメン]を注文した。


 スープを口にすると先ほどまでのトゲトゲした感情が一瞬で和らいだ。何故か涙が流れた。麺をすすりながら次々と口走っていた。


「やさしい!」

「美味い! コクが凄い 麺がイイ」

「俺もラーメン屋やりたいです」

「弟子入りさせてください!」


 夢が見つかった。

 最初に口走ったのは何故か「やさしい」、言った竹岡自身も驚いた。これは今まで食べたラーメンとは何かが違うと確信した。しかし店主に弟子入りの願いを断られる。


「私は弟子を取らない。あなたが本気なら代わりに良い人を紹介するよ」

「お願います」

「製麺業をしている富多康明(トミタ・ヤスアキ)さんという方で私の先生」

「はい、紹介してください。お願いします」

「ヌードル・プロデューサーだよ」


 店主からヌードル・プロデューサーの肩書がある名刺を見せてもらった。すぐ連絡をして会いに行った。お会いして富多さんから聞いた話の内容は竹岡にとっては衝撃だった。それからは富多さんを師匠と仰ぎ、多くの助言をもらった。師匠の工場にあるテストキッチンに何度も通ってラーメンの試作を繰り返した。


 竹岡一進、30歳の春、小さいながらも念願のラーメン店を開いた。開店1か月後には行列の出来る店になっていた。お客が美味しそうに食べている姿を見ながら仕事をすることに幸福を感じた。それがラーメンビジネスの成功者となる第一歩を踏み出した瞬間だ。


 40歳になった竹岡は、岩手県から千葉県の海岸沿いに36店舗を構える店主となり、『ラーメンの天才! 海岸のラーメン王』としてマスコミに取り上げられるようになった。

 

 店名は開業当時のままの「海の拉麺 一進」、日本全国に名前を轟かせる有名店だ。


◦◦◦◦◦◦


 ここは海岸沿いにある高台。深く青い海の輝きと街並みが奏でる美しい絶景が見渡せる場所に2本の大きな松の木が生えている。その木の間に小さな墓石がある。それが竹岡の両親の墓である。その近くに『海の拉麺 一進 研究室』を建てた。真下を眺めると「海の拉麺 一進」の1号店が見える。カンター12席のみの小さな店だがとても愛着がある。


 竹岡は両親の墓に花を供えて研究室へ向かった。気持ちが引き締まった。富多師匠からアドバイスを受けながら新店舗の地産地消の新しい取り組みを進めていた。今日は、その取り組みを成功させる為、海が見える自慢の会議室に4人のゲストを呼んだ。尊敬する先生方に何度も何度も手紙を書き熱意を伝えて実現した。このメンバーなら必ず有意義で面白い会議になるのは間違いない。期待で胸が高鳴る。


 いよいよ会議の時間だ。


「皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。素晴らしい先生方にお集りいただき感激しております。それでは皆様をご紹介します」


「こちらは、土壌改良と植物研究で有名な東慶農業大学教授の島本義男先生です」

  (島本義男(シマモト・ヨシオ) 63歳 東慶農業大学教授 植物研究の世界的権威)


「植物学会では土壌オタクと言われております島本です。よろしくお願いします」


「お隣は、家畜研究の第一人者、マックス家畜酪農研究財団所長の真弓京香先生です」

  (真弓京香(マユミ・キョウカ) 50歳 マックス家畜酪農研究財団所長 論文多数)


「豚さんの恋人と揶揄される真弓京香です。よろしくお願い致します」


「真弓先生にはどんな豚も喜んで寄って行くという話は有名ですよね」


「今、お声を出されたのは、魚の生息研究論文で有名な天城海洋水産大学教授の中村旬一先生です」

  (中村旬一(ナカムラ・シュンイチ) 58歳 天城海洋水産大学教授 革新的研究者)


「何故か変態魚クンと呼ばれております中村です。よろしく」


「そのお隣が、料理研究家・レストラン評論家の山本渚先生です」

(山本渚(ヤマモト・ナギサ) 33歳 料理研究家・レストラングルメライター)


「山本です、若輩者ですがよろしくお願いいたします」


「あらためまして、《海の拉麺 一進グループ》社長の竹岡一進です」

「早速ですが、会議を始めます。どうぞよろしくお願い…………」


 この時である。

 窓の外から強い光が押し寄せてきた。


「ひぇー」

「ウォーーー何が起きた!」

「うわぁー 戦争か? こりゃあ大変な事が起きそうだ」

「なんか怖い」

「眩しい!」「眩しいわ」「でも何か見える」

「なんだ、あれは!?」


 目を細めて窓の外を眺めると、何本もの光の柱が見えた。その光は海から空に伸びているのか、空から海に降りてきたものか分からない。すぐに光は消えたが、一瞬、会議室の空間が裂けたように感じた。


 光が消えた数秒後、建物が激しく揺れ始めた。立っていることが困難な大きな地震だ。しかも7分間も続いた。こんなに長く激しい揺れは経験がない。揺れが収まり海岸沿いの街並みを見渡すと、倒壊した建物や火災で燃えている建物など悲惨な光景が拡がっていた。


 竹岡は4人の先生に声をかけた。


「この研究室は耐震構造で建てたので頑丈です。安全の為、余震が収まるまでこの建物の中で待機してください」

『海の拉麺 一進』の店は、全て海岸沿いにある。海に一番近い海の味のラーメン店、それを店のPRポイントの一つにしていた。


 竹岡は父親の口癖を思い出した。

  …大きな地震が起きたら、高台に逃げろ! 凄い津波が来たら命はない…


 自身も10年前に大地震と大津波を経験していたので行動は早かった。


「緊急事態だ、全店の店長や責任者に高台へ逃げろと避難の指示を出せ!」


 スタッフに声をかけ、自らも電話をしたが繋がらない。しかし防災専門家のアドバイスで緊急時用無線を設置していたのが役に立った。すべての店舗のスタッフを避難させることが出来た。マニュアルに従い、ほとんどの店舗でこちらからの指示前に、お客様を誘導しながら高台に避難していた。対応は完璧だった。


 しばらくして、大津波が襲って来た。それを高台から傍観するしかなかった。徐々にテレビのニュース映像やメールで情報が入り、全店舗が津波で破壊された事実を知った。この研究室以外は全て失ってしまった。それでも全ての店舗のスタッフが無事だったことは唯一の救いだった。


 その後、家族の安否を心配している研究室のスタッフ全員を帰した。4人の先生と竹岡の5人が建物に残った。


「必ず店を復活させる!」


 絶望した竹岡は、こう小さく呟くのが精いっぱいだ。


 次の瞬間、建物が激しく傾いた。

 高台の地面に無数の亀裂が走り、研究室は地盤ごと海側に崩落を始めた。


 崩れ落ちる轟音の中で、死を覚悟した。

 頭の中に線光が走り、意識を失った。


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