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天才ラーメン王、全てを失い異世界で無双する  作者: とみた美味いろは


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第三の救世主 ナカムラ・シュンイチ

《 ゴウ 転生30日目① (天海聖暦769年) 》魚屋ベン&ケイ


 キンブタ店主誘拐未遂事件に遭遇して、敵対国や悪徳組織SSCのラーメン覇権への本気度を感じた。いや、それ以上に得体の知れない恐怖を感じた。俺も俺のやり方で進める為に行動開始しないと… 朝食をベンとケイと取りながら考え事をしていた。


「ゴウ、何ボケッとしているのさ」


「あっ すみません。ベンにお願いがあります。今度漁に行くときは俺を連れていってほしいです。お手伝いさせて下さい、有償で」


「王様より巨額の資金提供があっただろう。ゴウは働かずにラーメン戦争に勝つことだけに専念すれば良いぞ」


「それだけでは俺はダメです。一から一人でどこまで出来るか知りたい。とにかく一度船に乗せてほしい」


「うーん、分かった。 それなら漁師について話そう、知っておいてもらう必要がある」


 この国の漁師の7割は一般庶民だが、3割の漁師はベンのように元近衛兵や元軍人だ。王国から使命を受けて、怪しい船や軍船の見張りをしている。もう一つは、新種の魚介類を発見したと情報が入ると、見つけた海域に漁に行き捕獲した魚介類を第三の救世主のナカムラ・シュンイチが作らせた海洋研究所に運ぶ仕事だ。


「今までは平和だったから、俺の漁船は新種の魚が見つからないかぎりあまり出番が無い。それと、怪しい船の調査に行く場合は危険なので連れていけない。ただ、他の仕事は沢山あるのから手伝ってもらうぞ。それでいいか?」


「はい、お願いします」


「俺は漁師の仕事を始めてから改めてナカムラ様の偉大さを知った。ゴウもシマモト様の回顧録の中に出てくるから読んだと思うが凄いよなぁ」


◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦


《 第三の救世主 ナカムラ・シュンイチ (天海聖暦690年) 》


 転生した中村旬一(ナカムラ・シュンイチ)の引き受け貴族はロッシ公爵家に決まった。ロッシ公爵家は代々女系の貴族で、昔は他の貴族から婿をとり血を繋いでいたが生まれるのはすべて女性だった。ここ数代は、優秀な女性を養子にしている。


 現当主のエマニエル・ロッシ公爵も王家の親戚から養子に入った人物だ。綺麗な水色の長い髪が印象的な美人で、少し前まではグルンジ王国一の美人と言われていた。46歳。


「ナカムラ様、私はエマニエル・ロッシと申します。エマニエルとお呼びください。ロッシ家が救世主様のお世話が出来るのはとても光栄ですわ。よろしくお願いします。これはナカムラ様専属に選びましたメイドのキャミ、こっちは従者のメルリ、漁師の娘です。外にはメルリがお供します」


 キャミは笑顔が可愛い青髪の子だ、メルリは美人だが隙が無い雰囲気の茶髪の子だ。


「ずっと説明ばかりで正直イライラしていました。早くこの国の海や魚を見たいです。みなさん、よろしくお願いします」


「はい、かしこまりました。いつでも視察に行けるように手配は済ませております。今日の夕食はメルリが選んだ魚を使用した料理をご用意しております。明日に備えて沢山お召し上がり下さい」


 王城からロッシ公爵家に移動して少し緊張が緩んだ。流石に王様達には緊張した。ここも大豪邸で身構えたが、そこには優しい雰囲気が漂っていて安心した。それにメイド達がヒソヒソと「ナカムラ様 カッコイイ!」「救世主様ってあんなに素敵な方だったの」と話しているのが聞こえた。まったく好かれた経験が無い私がカッコイイだと!? 少し気分が良かった。


 美人のエマニエル公爵を筆頭に、ロッシ家の全ての管理を任されている家令もベニスという女性で、この屋敷は女性が仕切っている。王城の説明で聞いた、私の引き受け貴族は身分に関係なく優秀な女性の人材を集めていると云うのは本当のようだ。ベニスの睨みでメイド達が静かになった。


 翌日、漁師の娘という従者メルリの案内でナカムラの視察隊は漁港の小さな魚市場に向かった。今日は出来るだけ少ない人数で行きたいとお願いした。総勢10人、ナカムラとメルリ以外は元兵士で救世主様の警護だ。メルリが選ばれたのも漁師の娘で魚に詳しいだけではなく剣の腕前が一流だからだ。いざという時、太ももに忍ばせている短剣を振るってナカムラ様をお守りする使命を受けている。


「おっおー! 凄い、この魚たちはどれもユニークだ。これは面白いぞ!」


 つい大声出して、市場中の注目を浴びてしまった。どれも見たことがない魚ばかりだ。さすが異世界、楽しくなってきた。調べたい事、やりたい事が沢山頭に浮かんだ。さらに眺めていると気が付いた。


「メルリ、質問。ここではタコ・イカは獲れないのか? それに蟹や海老、貝類、それとウニも。この市場には魚しか並んでないがどうしてなのかな?」


「えっ、ナカムラ様は食べられるのですか? この国ではあんな恐ろしい生き物を食べません。巨大なタコやイカは漁師を襲います。魚と一緒に網にかかったら海に投げ捨てます。その時に奴らの足が絡みついて気持ち悪いし、吹き出す黒液も苦手と父が言っていました。蟹や海老そしてウニ、これはもう分かるでしょう、見た目で悪魔です。昔、貝類を食べていたようなのですが、食中毒になる事件が頻発してからは、貝=毒になりました」


「メルリ、身体が近いよ、くっ付き過ぎだよ。」

「いいんです、私、ナカムラ様のこと…」


「お前ら、邪魔だ! 買わないのに生意気な顔して突っ立っているんじゃねぇ」


 男がボーっとしているナカムラの胸元を掴むより早く、メルリの短剣が男の喉元に突きつけられた。早い!


「あなた! このお方の胸元を掴もうとしましたね。このお方を手荒に扱うという事は国王陛下を馬鹿にすることですよ。分かっていますか?」


…私、ナカムラ様のこと…の後は、守らなくてはいけないので…か? …ドキドキした…


 短剣を突きつけられている男と一緒いた2人の男は、隊員に取り囲まれ、只事ではすまない事態になったと恐れて平謝りだ。


「申し訳ありません、どなた様かも知らず大変な失礼をしました。ご勘弁ください」


「もう放してあげて下さい。確かに私達は仕事の邪魔になっていたようです」


 魚市場視察の後は、東側にある丘に登り海岸を一望し、さらに東に下り海岸まで歩いた。ナカムラは「ここが最高の立地だ」と一言洩らすと、隊員に公爵邸へ帰ると指示を出した。


――――――


 夕刻、ロッシ公爵邸ではナカムラから今後の調査研究の方針が語られる予定だ。エマニエル公爵が4人の専門家を連れて来た。向かって左の者から紹介された。


「ナカムラ様からの要望がございました者達を呼んでおります」

◦魚介類研究の助手として選んだキャロラインとチェリー

◦建築設計家のケント

◦建築工事監督のタロウ

「全員が秀才です。キャロラインとチェリーには20人以上の優秀な者が付きます」


「みなさん、よろしくお願いします。それでは座って下さい。メルリも座って、会議にも参加してもらいます。それでは私の今後の計画を話します」


 市場や港で見た魚の種類の多さや形に魅了されたナカムラは、これらの魚の養殖を成功させる為に、魚の生態を研究する必要があると強く感じた。その為にも今日確認して来た海岸に大きな生簀を数多く作り、合わせて研究所を作る事を指示した。


 魚は網で獲り、出来るだけ傷つけないで運ぶこと。生簀には魚の種類ごと、そして雄雌ごとに分けて入れる。研究調査事項はナカムラが指示した通り行う事が説明された。日本とは違い、魔石の利用や、シマモト先生が発見し進化させた緑水の利用効果が楽しみだった。


「メルリ、漁師は魚を傷つけず獲って来てくれるか。どうかな? ダメなら別に専門の船を手配しなくてはならない」


「父に言って漁師仲間に掛け合ってもらいます。おそらく大丈夫だと思います」


「エマニエル、建設費用がかかり申し訳ない」


「ははは、大丈夫ですわ、もう、ベニスが王国の財務官に掛け合って全額王国が負担してくれることになりました。どう掛け合ったかは聞かないほうがいいわね」 


「みんなが、生簀と研究所の建設と魚の研究調査をしている間に、私は西の森林の手前に広がる湖、池や沼、そして川の調査に行ってくる」


「あっ、そうだ、キャミあれを持ってきて」


 港で漁師が捨てようとしていた大きな蟹と海老だ。


「本当にですか?」と言いながら、他の給仕と一緒に大皿を運んできた。


「そんなに驚かなくても…茹でてあるのでもう動きませんよ。私が食べてみせますから怖がらずマネして食べてみて下さい。日本では高級品ですよ」


 ナカムラは、皆の想像しなかった美味しさに驚いて喜ぶ声を聞きながら

「この美味しさは、明日からの成功の前祝いですよ!」

 と言ったが、自分にも言い聞かせた言葉でもあった。

 

◦◦◦◦◦◦


 天海聖暦690年 捕獲した魚を生簀に入れてスタートさせた養殖の研究は大成功だった。ナカムラ自らも漁船に乗り込み魚の捕獲の指示をした。さらには転生前の日本では変態魚君と呼ばれる原因となった海水魚を淡水で養殖することに成功し、さらには淡水を海水に変える、あるいはその逆も成功した。魔石と緑水の効果だ。

 

《天海聖暦695年》

 魚の養殖で大きな成果を挙げて勲章を受ける。

 ナカムラ、シマモト、マユミの3人の転生者にとっては魔道技法や魔石を利用した実験は、転生前の知識と研究では解決できなかった山積みの問題も簡単に乗り越えてしまい、成功の連続は楽しい体験であった。


――――――


《 ゴウ 転生30日目② (天海聖暦769年) 》魚屋ベン&ケイ


「実は、久しぶりに魚の捕獲要請が来ている。ゴウ、一緒に来い」


 ナカムラが捕獲出来なかった魚がアンコウだ。浮いた死骸が発見されたことあったが生きたままの捕獲は出来なかった。生前ナカムラは、アンコウの養殖を成功させ、研究所のみんなでアンコウ鍋パーティを開きたいとよく話していたという。研究所にはアンコウ用の水深40mの特別な生簀も完成させていた。


「アンコウは深海魚なので見つけ(にく)いですよ」


「それが、見つかったのだ」


 ベンの漁師仲間が、ある海域で首から下げていた魔石のお守りを海に落としてしまった。それは結婚したばかりの彼の嫁さんから貰ったものだ。皆の制止を振り切り海中に飛び込んだ。かなり潜ったところの砂底にお守りが見えた。手を伸ばした瞬間に大きな口に腕を飲み込まれそうになった。慌てて抵抗し腕を引き出した。少し血が出たが、大したケガではなかった。息絶え絶え、やっとの思いで水面に浮かび上がった。しかし、掴んだお守りは離さなかった。


「その新婚さんの話だと、前に見たアンコウの死骸と大口の魚が似ていたと言っている」


 今回の捕獲に対しては、救世主のナカムラが要望していた魚とあって、捕獲成功には多額の報奨金が出るらしい。


――――――


《 アンコウ捕獲 (天海聖暦769年) ゴウ 転生35日目 》


 5日後、アンコウ捕獲にはベンの船を含めて2艘で出発した。ベンの船にはケイとゴウ、そして案内役として新婚さんが乗船した。目的の海域に着いたベン達は調査を開始した。砂底に、餌として持ってきた小魚や海老を何匹も放してみた。大きな口を開けた魚が砂から出て来た。ゴウが想像していたよりかなり獰猛(どうもう)そうだ。


「間違いない、アンコウだ! しかも沢山いる。やるぞ!」


 2艘で底引き網を引きずって漁を開始した。アンコウはすぐに網にかかったが、生きたまま捕獲が命題なので網を引き上げられない。そこで網を沈めたまま引きずって海洋研究所まで運んだ。数匹生き残ったアンコウを、水深40mの生簀に入れることができた。


 海洋研究所のスタップはナカムラ様の夢が叶ったと盛り上がった。後で聞いた話では、他のアンコウは魔石入り箱に保管し、ナカムラの命日に救世主を偲んでのアンコウ鍋バーティーを開いたらしい。


 アンコウの生きた捕獲に対する報奨金は、ゴウが想像できない程の高額だった。報奨金は毎年プールした分に積み上げていく形で、参加した漁師仲間それぞれが3年遊んで暮らせる額を超えていた。



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