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天才ラーメン王、全てを失い異世界で無双する  作者: とみた美味いろは


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キンブタ店主誘拐未遂事件

《天海聖暦769年 ゴウ 転生24日目》


「ラーメン戦争が勃発するのは間違いないらしいですよ」

「ベンから報告を聞いているわね。私とサクラはアーサー王子から聞いたわ」


「はい、ベンから聞きました」


「もう敬語は禁止よ」

「そうするよ」


「戦争という表現はなんか違和感がある。色々なラーメンの味を楽しんでもらいたいなぁー 俺はとにかく楽しくて美味しいラーメン人生を目指すよ」


「そう言ってもね、ラーメンの評価でグルンジ王国の財政を揺るがす事態になるのはやはり戦争ですよ」


「こら、またサクラは! ゴウにプレッシャーをかけて取り組ませてはダメとアーサー王子に注意されたでしょう」


「大丈夫、サクラに言われると、ハードロック、いや妙に親近感のある言葉になるというかプレッシャーにはならないよ」


 3人が話しているのは魚屋の2階から引っ越したゴウ部屋だ。引っ越しと言っても魚屋と同じ建物だ。庭を囲むように四方に建物が繋がって建っている。庭の中央にプールがあり、その周りに堀が作られて魚がプールの外側を回遊している。プールは魔石を使って露天風呂にもなる。この大きな建物は、ベンとケイの結婚祝いと長年の功労を称えてベルナード国王陛下から恩賜おんしの品として授与されたものだ。


 引っ越したゴウの部屋は、中庭が見える窓があるが外側には窓がない。安全を考慮して選ばれた部屋だ。広くて会議が出来る程の大きなテーブルがあり、毎日、マリーとサクラがやって来る。


「そういえば、シマモト様の自叙伝特別版の前編を読んだ感想をちゃんと聞いてなかったわ。ゴウ、今日出かける前に聞かせて」


「とっても感激したよ、俺、何度も泣いた。やはりシマモト先生は天才だった。一緒に仕事したかった」


「もう少し詳しく聞かせて」


  国民が飢える寸前の状況で、しかも農業という概念が無かったような国だから実現出来た事かも知れないが、穀物農場は王国が直接管理し、田畑の作業員を日本で云うと国家公務員みたいな待遇にした。王族や貴族が農民から窃取するような慣習とは無縁だ。


 国民が必要な3年分の穀物の備蓄には倉庫の数が不足していた。また、火災のリスクを避ける必要があった。そこで貴族や商人に穀物倉庫を国内に分散して建てさせた。多額の費用が掛かるが、穀物倉庫に穀物が入って無い時でも、倉庫保守管理代として常に王国が支払う事で納得させた。穀物の生産保管を安定させた手腕は見事だった。


 話したい事は他に山ほどあったが長くなるので今日は絞って…


「そして俺がシマモト先生を大天才と思った事は、〘貴重な物は食べて保護する〙という発想だよ」


 調査中、シマモトは岩の影の湿地に生えていた水草を発見した。隊員の誰もが初めて見たという珍種の水草だ。匂いを嗅ぐととても香ばしい。試しに焼いたり蒸したりして食べてみた。こんなに美味しく個性的なものは他にはない。他の場所にも群生しているか調査させたが見つからなかった。


 凡人の考えだと貴重な植物として、採取禁止の保護植物となる。先生の考えは斬新だ。シマモトの日本での体験では、ただ保護しろと言ってもうまくいかない例だらけだった。保護する!を超えて、増えるように保護しないと失敗する。「増やした量の20%は食べても売っても良い」だから本気で保護し増やせと指示した。結果、今では当時の500倍以上に増え、管理担当者は高価な水草の売り上げで潤った。


「まだまだ話したいけど、また今度に。そろそろ出かけよう」


--------------------


 そこは街の中心部から少し外れた入り組んだ路地の突き当りにある店だ。看板だけは大きく、〘ラーメン キンブタ〙と書いてある。サクラお気に入りの店で、神レシピの通りに作っているが、原価の高い材料を使うと、この立地での客数では厳しいと考え、工夫して安い材料で作っている。それが逆に独特の味わいで人気になったという。


 カウンター席に座りサクラが常連客らしく慣れた感じでオーダーした。

 

「マスター、ラーメン3つね。私の分は肉追加に麺大盛でお願い」


 出て来たラーメンは醤油ラーメンに大量の肉がトッピングされていた。サクラのラーメンにはさらに大量の肉がゴロゴロとトッピングされて迫力満点だ。なるほど大食漢のサクラが好きな店だ。


…スープ、肉、麺、それぞれは旨いがバランスが悪い。ただ、発想は良い…


 店内を見渡すと席は満席になっていた。なかなか賑わっている。食べ終わり、店から出ると外に行列が出来ていた。


「サクラ、ここ凄い人気の店じゃないか」と言ったが、サクラは何かに気がついて店に引き返そうとしていた。女性三人組が営業中の立て看板を蹴り倒して店内に入って行くのが見えた。店内から慌てて客が走って外に出て来た。


 サクラが店内に入るとマスターはすでに眠らされていた。おそらく誘拐をする為だ。サクラを見て3人とも短剣を構えて脅してきた。サクラも剣を構えた。


「メイドちゃん、忘れ物かい? 怪我するから早く外に出な!」


 相手の威嚇が終わらないうちに、サクラが素早い動きで3人の短剣を跳ね飛ばし取り押さえた。3人はマリーが呼んだ治安維持隊に引き渡された。


 後に聞いた調査報告によると、3人とも不正移住民でSSCのメンバーだ。幹部からの指示で人気のラーメン店主の誘拐を実行するところだった。彼女達の自白により今まで分からなかった女性の不法移住民の潜伏先が5ヵ所判明し家宅捜査が行われた。そのうち2ヵ所は逃げられたが、3ヵ所で20人を逮捕する事が出来たようだ。その20人からさらに情報を得られるだろうとの内容だ。またまたサクラのお手柄である。


 この店は1年後にゴウのアドバイスを受けてリニューアルをした。豚の骨が入った寸胴に、大量の豚肉と背油を入れて、肉汁の旨味が詰まったコッテリのスープに仕上げた。具材には寸胴に入れた豚肉を取り出して味付けした煮豚チャーシュー。そして、シマモトが開発していたが需要が少なかったモヤシを安く仕入れ大量にのせた。麺は、たんぱく質と灰分が多い小麦を使用したやや黒ずんだ太麺だ。その食感は「ワシワシ」と日本のラーメンマニアが表現する弾力感がある。


 この世界の最初のガッツリ系ラーメン店だ。


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