ゴウ、国王陛下と謁見する
《天海聖暦769年 ゴウ 転生7日目》
「シマモト・ヨシオ自叙伝特別版」を読み始めて3日後にマリーとサクラが魚屋ベン&ケイにやって来た。「こんにちは、ケイ、ゴウは2階?」と2人が挨拶した声が聞こえた。ゴウが階段を下りる前に、極秘の話があると2階のゴウの部屋に上がって来た。
「貴重な、自叙伝を貸していただきありがとう。とても興味深く読みました。凄く良い勉強になっています」
「そうね、自叙伝の感想は後でゆっくり聞かせてね。それより今日は大事な話があるの。明日、ベルナード・ファン・グルム国王陛下と謁見していただくことになったの」
…マリーから出たこの話は何事だ? 国王に俺が謁見だと? どういうことだ…
「どうして俺が国王様と謁見するのですか? その後に逮捕されるのですか?」
「ゴウ、今日は本当の事を話してね。ゴウの本当の名前はタケオカ・イッシン(竹岡一進)様ですね。日本という国から来られましたね」
「うっ!」
「転生者様を見つけたら、王様に報告する義務があります。もしも報告しないで後でゴウが転生者様と発覚したら、ゴウ以外に私達2人も逮捕されてしまいます。 ベンもケイも同じく逮捕されます。だから本当のことを話してね」
「コラ、またサクラは! 脅してはダメでしょう。今回はカール第三王子の取り計らいで、謁見と言っても非公式のものになるわ。理由は分からないけどそれを王様も望んだそうよ」
「俺の名前まで知っているのでは覚悟を決めました。転生者として監視される恐怖があって記憶が無いと嘘をついていました。ごめんなさい! 話します」
転生前の自分の生い立ちと天才ラーメン王と呼ばれるようになるまでのことを掻い摘んで話した後、明日の謁見の際の儀礼などの説明を受けた。
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《天海聖暦769年 ゴウ転生8日目》 謁見日
「ケイ! 助けて下さい」
仕立ててもらった衣装の中に、こんな豪華なヤツはいつ着るのかと思っていた服があったが、早々と着る機会が訪れた。自分で着始めたが何度やってもうまく着られない。結局ケイに助けを求めた。
お昼前の時間に魚屋に豪華な馬車が迎えに来た。ベンもケイも同行する。自分の謁見は伏せてあり、元近衛兵団長と副団長として王様の昼食会に招待され、ゴウもベンの親戚として参加を許された。これが表向きの登城理由である。
馬車は先日歩いた第一王城通りからグルンジ救世神広場を通り過ぎ、両側の豪勢な公爵家の敷地の庭や豪邸を眺めながら進むと大きな第一門の前に来た。8名の門番兵がベンの顔を見るなり深々と頭を下げた。橋を渡ると第二門があり、そこを通過すると内門がある。どの門でも兵隊がベンやケイの顔を見ただけで通過出来た。
近衛兵にベンとケイの武器とゴウの杖を預けると、いよいよ王様と謁見するのかと思い緊張してきた。
内門の中に入るとマリーとサクラが迎えに来た。
「緊張している? 今日は謁見の間は使わないからかなり楽よ。」
マリーの顔を見て少し緊張が解れた。案内されたのはお城の中でも高所にある広間で、外国からの国賓を接待するのに使用される部屋だ。すでに大きなテーブルには食器類がセッティングされていた。しばらく待つと、国王一行が広間にやって来た。練習した謁見用の挨拶をしようとしたが国王に手で制された。
「日本から転生されて来た、タケオカ・イッシン殿だな。ゴウと呼ばせてもらうぞ。今日は堅苦しい挨拶は一切不要じゃ、みんな椅子に座ってくれ」
挨拶をするタイミングを失ったまま着座した。
「ワシがこのグルンジ王国の国家主席、第18代国王のベルナード・ファン・グルムじゃ。隣が第一王子のアーサー、その隣が第三王子のカールじゃ。ちなみに第二王子のアンリは貿易の研修の為、海外留学中で留守じゃ。では食べながら聞いてくれ。無礼とは言わん」
給仕達が飲み物と最初の料理をテーブルに運び終えてから驚愕の話が始まった。
「まずはサクラ、救世神広場で賊を捕らえたのはお手柄だった。特に背の高い男はハンターZと呼ばれ世界中にその悪名が届いていたがその正体が分からなかった奴じゃ。本当の名前はブサイ・ヘナヘロで海賊出身だ。捕まえたのは凄いことじゃ。しかも強いあの男1人どころか腕の立3人の賊を同時に捕まえるとは驚きじゃ」
「〔ハンターZは、牢屋でもう一度あのメイドと勝負させろと騒いでいる。負けたのはカワイイ容姿に騙されて油断しただけだと牢屋中に響く大声でうるさい〕と報告が上がって来た。ハッハッハ! よほどサクラに負けたのが悔しかったのじゃなぁ」
…不謹慎かもしれないが、メイド姿のサクラが3人を捕まえた時、日本でライブに何度も行ったハードロックバンドの音が頭で鳴った。メイド服の衣装を着たガールズバンドで、見た目の印象とは違い高いスキルでヘヴィーなハードロックを演奏する。そのギャップも魅力だった。あっ!まずい、 俺は何を考えているのだろう…王様の話に集中だ…
「さすがケイの弟子じゃ、しかし今後は一人で危険を冒すな、心配になる」
「王様、恐れ入ります。剣の腕は、あたいが鍛えましたのでかなり上達しました。しかし、実戦経験はまだ少ないので、今後は危険を回避し安全を優先することを教え込みます」
「ふむ、サクラ分かったな、よいな! それと褒美を取らそう。欲しい物を言うのじゃ」
「はい、 ありがとうございます。今回使用した杖に仕込んだ細くて軽い刀を私専用に造って欲しいです」
「こら! サクラ! 王様に直接おねだりするとは失礼ですよ」
「よい、よい、マリーよいのじゃ。ハンターZ逮捕の価値はとても高いのじゃ」
「では、今日の本題、重大な話じゃ。詳しくはアーサーから説明させる」
「一言で話の内容を説明すると、『他国とのラーメン戦争が勃発する』だ」
皆が意味不明とポカンとしているのを気にせずアーサー第一王子は説明を始めた。笑い毒タケのエキスを3人の賊に飲ませて白状させた。このキノコの通称は白状キノコで、質問された内容を拒否しようとするとお腹が大笑いした時のように震えて苦しくなり本当の事を白状してしまう。グルンジ王国の森林にのみ生えている珍しいキノコだ。
3人は、SSCの準幹部で、中でも一番情報を持っていたのは自分がハンターZだと白状したノッポの男だ。ある国とこの悪徳集団SSCが極秘契約をした。ある国の正体はSSCの幹部数人しか知らないようだ。極秘契約とはグルンジ王国のグルメ国家の地位を剥奪して、新たに自分の国を新グルメ国家にして観光客を奪い取る計画を実行するというものだ。どんな非道な手段を使っても構わないが、それが発覚してもある国は一切関わりない事にする。これも契約内容にあるらしい。
それと、大勢の観光客がいる広場であんな騒ぎを起こしたのは、観光に来るには危険が伴う都市だと印象付ける使命を受けていたからだ。
「実はSSCの輩は、5年も前からこの王国に潜り込んで活動している。その中で得た情報から、グルメ王国の地位を崩壊させる突破口はラーメンにあると結論付けた」
その理由は明快だった。首都ラグールに500店舗もあるラーメンが同じレシピで作られている事だ。これを超える味のラーメンを作り、グルンジ王国内のどの店のラーメンよりも美味しいラーメンがあると世界に発表する計画だ。
「奴らの計画はかなり進んでいる。ラーメン屋の店主やスタッフが行方不明になった事件がここ1年で数件発生しているが、SSCの連中が誘拐して国外に連れて行った。ラーメンの神レシピも入手済みで、神レシピと同じラーメンはすでに完成している。世界中から優秀な調理人を誘拐し、彼らにラーメンの神レシピの改良を研究させている。ほぼ第一弾の試作用レシピは完成しているようだ」
「ゴウよ、ここまでの話を聞いてどうじゃ、どう思う? 日本という国では天才ラーメン王と呼ばれていたそうだな。私と同じ王様じゃなぁ ハハハ! 奴らの思惑が実現可能か聞かせてくれ」
「実現可能だと思います。食べた者全員がそう思うかは別として、神レシピの味を上回るラーメンを作ることは難しいことではありません。むしろ簡単かも知れません」
「なに! 簡単じゃと…」
「はい、日本ではラーメンという食べ物は、伝統の味を守っていく店がある一方で、それを改良したり、全く新しい発想の味の店が登場したりと様々な競争がラーメンを進化させてきました。俺、いや私の感覚では、神レシピを改良するなどはごく当たり前のことです」
「神レシピ改良が当たり前とは失礼ではないか!」
「熱くなるなアーサー、話をちゃんと聞くのじゃ」
「言葉が足りず大変失礼しました。『ラーメンは自由である』これは私の師匠のトミタ・ヤスアキさんの言葉です」
ゴウはかつて師匠から聞いた事をそのまま話した。
『日本のラーメン店、そこで提供されるラーメンは、世界で一番面白い商売であり、食べ物であると考える。ラーメン店ほど自由な商売は無い。どんなスタイルの店でどんな味付けにしようと自由である。成功も失敗も自己責任。この商売には邪道が無い。「そのやり方・味付けは邪道だ」と言う人がいれば、その考えこそが邪道である。自由という事は競争が激しい。小さな個人店の隣に資本力の大きな店が出来ても誰も助けてくれない。個人のお店が大型店に勝つことも珍しいことでは無い。下剋上も弱肉強食もあり、毎日大競争である。故にラーメン業界は常に活性化し、とてもダイナミックである』
「これは日本での話ですが、この世界にも自由な大競争の波が迫っていると思います。それがラーメンという食べ物の宿命です」
「つまり、ラーメンの神レシピを改変しろというのじゃなぁ。アーサーは神レシピ堅固派でショックだろうが、ここはゴウにどう対策したら良いか、協力してもらえるか確認しよう」
ベルナード国王、アーサー王子、カール王子の3人が深々と頭を下げた。
「タケオカ・イッシン殿、本当にすまなんだ。申し訳ない。我が王国がおこなった禁忌の実験のせいで、そなたをこの国に呼び寄せてしまった。許してくれ、償いはなんでもする」
「おおっ王様、王子様、頭をお上げください。私はもう腹をくくっております。この国の為に私が出来る事はなんでも協力します」
「ありがとう、ホッとした。天才ラーメン王の協力無しには対処出来ないと思っておった。グルメは我が王国の要で、ラーメンを崩されるのは国の一大事じゃ。話を聞きたい」
「私に1年の時間を頂けませんか? まだこの国に転生して8日しか経っておらず、この世界の事はほとんど分かりません。そんな状態では良い案も浮かびません。この世界でラーメンを作る為の必要な様々な情報を調べます。そして、自力で1年後にラーメン屋を必ず開店させます。それから本気のラーメン戦争の戦略を提示します」
「1年か、長いな、それで仕掛けられたラーメン戦争に間に合うか心配じゃ」
「大丈夫です、父上。ハンターZが白状した内容では、ある国がラーメンの宣言をするのが2~3年後、グルメ都市宣言は4~5年後の計画です」
「ふむ、分かった。それではゴウに依頼する。1年後にラーメン戦争に勝ち抜く戦略をかならず提示しその実行に協力すること。それとこの内容はこのメンバー以外には絶対口外しないこと。敵も転生者情報を調べておる。見つかったら誘拐の対象者になる。本来なら救世主が現れたと国民に知らしめるところだが、すまんがベンの親戚のゴウとして行動してもらう」
「お約束します、必ず戦略を作ります。協力するに当たって一つだけ王様にお願いがあります。ヤマモト・ナギサという女性が転生してきたか知りたいのです。少しの痕跡でもあったらその情報を下さい」
「約束しよう! 1年後にこちらで集めた情報を全て教える。それと、マリーとサクラが何者か知りたいと思っているようじゃが、安全の為に同じく1年後まで詮索しないように頼む。スパイが入り込んでいるのじゃ、知らない方が良い。それとアーサー、あの説明を」
「王都ラグールは、外国の観光客の評判で、移住したい都市ナンバーワンに選ばれていて人気だが、移住審査はとても厳しい。いや、厳しかった。各分野の一流の学者や技術者以外は移住出来なかった。しかし、近年その審査がずさんで、とんでもない輩が移住している。先日、移住審査官達が多額の賄賂を受け取ったり脅されたりして不正に審査を通した事が発覚した。数名の審査官を逮捕した。だが、不正審査で移住した輩が見つからず困っている。奴らはSSCのメンバーでスパイ活動しているのは間違いない。調べで不正移住した輩の半分は女だったが皆消息不明だ。奴らは女の尻には蜘蛛の入れ墨を入れないので見つけづらくて厄介だ」
「そういう事じゃから、皆、くれぐれも慎重に行動するのじゃ。ワシは、平和で安全なラグールを不正移住民によって荒らされるのを必ず阻止する覚悟じゃ」
昼から始まった長い会議は、夜遅くまで続いた。皆に疲れの色が見えたころ王の一声で解散となった。
「皆、ご苦労じゃった、もう終わろう。今日はお城に泊まるがよい。それからベンとケイ、2人にアーサーから話がある。すまんがもう少しここに残ってくれ」




