表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

VS課金プレイヤー

 谷間を駆け上がると、その向こうは森になっていて、どうやらそこで戦闘は行われているようだった。

 しばらく走ると人影が見える。魔法使い一人と剣士が一人。NPCだ。キサラの仲間だろう。そして、彼らと対峙しているもう一つの人影がある。あっさりとしたデザインの爽やかなイケメン。どことなく勇者っぽい雰囲気。恐らくは、課金して手に入れたのだろう特別なその姿のキャラクターは、明らかに人間が操作していた。

 ……課金してまで自分の姿をカッコよくしようとするタイプは少々苦手だ。

 見たところ、周囲に他のプレイヤーはいないようだった。ソロプレイらしい。姿形にまで金をかけているという事は、装備もきっと課金でかなり強化されているはずだ。レベルは流石にそれほど上がっていないだろうが、自信がなければこんな奥地にまでソロで乗り込んでは来ないだろう。

 ――実力者のはずだ。

 “取り敢えず、課金で手に入れた武器の性能を見極めないと……”

 課金プレイヤーは目の前にいる魔法使いと剣士に向って剣を振った。明らかに間合いの外だったので、“何をやっているんだ?”と僕は思ったのだけど、次の瞬間に唖然となった。衝撃波が発生し、対峙している二人を襲ったからだ。

 恐らく、あいつの装備している剣は、風の属性を持っていて、ただ振るだけで間合いの外にいる敵を攻撃できるのだろう。中間距離の間合いではこの上なく強い。流石、課金仕様の武器だ。魔法使いは長距離型だし、剣士は近距離型。このままでは勝負になりそうにもない。二人は攻撃を防ぐだけで精一杯のようだった。攻撃力はそれほど高くはないようだが隙がない。なさ過ぎる!

 “課金武器を強く設定し過ぎだ、運営め! 他のプレイヤーが離れていくぞ!”

 僕はその様子を見て後ろを振り返る。追いかけてきているアーサーの姿が見えた。彼に向けて、“来るな!”と合図を送る。

 あの武器は重装備タイプのアーサーとは相性が悪すぎる。近付いたら的になって切り刻まれるだけだ。伏兵として待機しておいてもらった方が無難だろう。僕の指示の意図を察したらしく、アーサーは頷くと岩の影に隠れた。サヨはそのまま追って来てくれている。

 その間で、キサラは二人が苦戦している様を見たからか、足を止めると弓を射る準備をし始めた。魔力を込めている。強力な弓攻撃をするつもりでいるようだ。

 少し迷ったが、僕はそのまま駆けて課金プレイヤーに向かった。流石に攻撃する対象が三人になったら、あの衝撃波攻撃にも隙が生まれるだろうと考えからだ。

 距離が縮まって来ると、課金プレイヤーは僕に気が付いたようだったが、特に気にする様子を見せなかった。

 油断している?

 僕はそれを奇妙に思った。突進技の“疾風斬り”を使えば、後少しで攻撃が届く間合いになる。無視して良い距離じゃない。

 それであの課金プレイヤーが、レベルの高い突進技は未経験なのではないかと僕は考えた。疾風斬りの間合いを知らないのだ。不意打ちで放てばヒットするだろう。

 だが、僕は少し考えてそれを止めた。一度当てれば次は警戒される。とどめの一撃用に取っておいた方が良いと判断したのだ。キサラの弓矢攻撃が始まれば、少しずつでもダメージを与えられるだろう。まだ大丈夫だと思わせておいて、回復薬を使われる前に一気に体力を奪う算段だ。

 課金プレイヤーとの間合いが近くなって来た。奴は僕にも衝撃波を放って来るだろう。さっき爆発音が聞こえたから、爆弾を持っている可能性も高い。相手が三人になったのを見て、面倒だとばかりに使って来るかもしれない。とにかく充分に警戒が必要だ。

 が、そう思っていると、課金プレイヤーは驚いたような顔を僕の後方に向けたのだった。キサラがいる辺りだ。そしてそれから、何を思ったのかキサラの方に向って突然駆け出したのだった。しかもかなり速い。どうもスピードアップ系の防具も装備しているようだ。

 “なんだ? 遠距離攻撃の弓矢を嫌って先に倒そうと考えたのか?”

 が、どうにもそんな感じはしなかった。その瞬発力に、僕はもっと本能的なものを感じ取ったのだ。

 とにかく、間合いを詰められたらキサラがピンチだ。守ってやらなくちゃならない。

 「おい! お前の相手はこっちだ! 僕が相手になってやる!」

 僕は課金プレイヤーを追いかけると、そう挑発した。それを聞くと、奴は変な表情を浮かべた。

 「あ? NPCがむかつく事を言うな。後で運営にクレームを入れてやる」

 「運営は関係ない! これは僕の判断で言っているんだよ? それともお前は僕が怖いのか?」

 それを聞くと奴は「はっ!」と馬鹿にした感じで笑った。

 「何言ってるんだよ? 狩るんだったら、男なんかよりも、断然、可愛い女の子だろうが?! 興奮する!」

 その発言に僕は思いっ切り引いてしまった。外見が爽やかなイケメンだけに、余計きつかった。

 “うわ! なに、こいつ。本気でキモイ! 本体の顔が見てみたい。いや、見たくないけどさ!”

 とにかく、課金プレイヤーは僕の挑発には乗らず、そのまま真っすぐにキサラを目指した。キサラはまだ弓矢を構えたままだった。魔力が溜まり切っていないのだろう。中間距離の間合いに入ると、奴はキサラに向けて衝撃波を放った。

 キサラの能力なら、充分に躱すか防ぐかはできたはずだ。が、彼女はどうやら魔力を溜め切って、奴に強力な弓攻撃をすると決めているらしく動こうとしない。そのまま、衝撃波をまともに受けてしまう。軽量の所為か、後方に大きく吹き飛んでしまった。

 それを見て、頭の悪そうな声を上げて課金プレイヤーは悦んだ。

 「うほほ~! ヒットォ! ヒットォォ!」

 “女の子を傷つけて、悦んでいるじゃねーよ!”

 僕は思わず突進技を使ってしまおうかと考えたが我慢をした。今は使うべき時じゃない。課金プレイヤーは更にキサラを追撃しようと駆け出したがそこで止まった。何かと思って見てみると、なんとサヨがキサラを心配して回復魔法を使おうとしていた。

 課金プレイヤーの目の色が変わる。

 「おー! あっちの子の方が好みのタイプじゃん!」

 そう言うと、剣をサヨに向って構える。

 瞬間、僕の頭に血が上った。

 “ああ?! サヨを狙っているのか? このクソ野郎が!”

 気が付くと、冷静に考える前に、僕は突進技“疾風斬り”を使ってしまっていた。一撃や二撃くらいならサヨだって余裕で耐え切れるだろうから、そこで慌てる必要はまったくなかったのだけど。

 僕の斬撃が課金プレイヤーに入る。

 奴は攻撃を受けて吹き飛び横たわる。半身を起こし、僕を見ると信じられないといった顔を見せた。

 それからゆっくりと立ち上がる。

 僕を睨みつける。

 「へー なにそれ? やけに自信がありそうだとは思っていたけど、あの距離で届くんだ? しかも、けっこうなダメージだよ」

 穏やかな口調だったが、怒っているのは明らかだった。

 「なるほど。遊んではいられない。オーケー。本気を出すよ」

 そう言うと、激しく風が唸り、奴の身体の周りを高速で回転し始めた。まるで竜巻。これも奴が装備している剣の効果の一つだろう。見た目からしてやばそうな気配だった。

 たじろいだ僕は、アイテムとして持っていた“手裏剣”を投げてみた。威力は大した事はないが牽制にはなる。が、ダメだった。呆気なく竜巻に弾かれてしまった。その後で直ぐにキサラの仲間の魔法使いが遠距離から火炎の魔法を放ったが、やはりそれも弾かれてしまう。

 “あの竜巻は、攻防一体のバリアってところか…… ふざけるな。あんなのどうやって攻略するんだよ?

 課金仕様の武器を優遇し過ぎなんだよ、運営!”

 奴は得意げな表情で、僕らを見下していた。

 「さあ、どうするよ?」

 “課金で強くなって威張っているんじゃねー!”

 と、ちょっと頭に来たけど、ここで挑発に乗って冷静さを失くすのは駄目だ。僕はその竜巻をよく観察をしようと間合いを取った。が、そこで「うおお!」と叫びながら、キサラの仲間の剣士が奴に斬りかかっていってしまったのだった。

 恐らく、多少のダメージを負うのを覚悟で本体を叩くつもりだろう。

 が、奴は慌てなかった。「甘いよ」と言うと、剣を構える。竜巻が剣に集中し、まるで巨大な大剣のような姿になった。その巨大な剣で薙ぐと、剣士は呆気なく吹き飛ばされてしまう。かなりのダメージを負ってしまったようだ。サヨが直ぐに回復魔法を使ってくれたから生きてはいるようだが、スタンしている。動かない。あの武器、攻撃に転じた時の破壊力もかなり高い。

 戦力が一人減ってしまったが、彼の突撃は無駄でなかった。僕は見逃さなかったのだ。

 “攻撃を仕掛けると、防御の竜巻はなくなるのか……”

 どうやらあの竜巻は、本人が攻撃しようとするとなくなる仕様らしい。

 奴の背後を見ると、ちょうどアーサーがこっちを覗いていた。僕は目で合図をする。それから後ろをちらりと見ると、魔法使いが次の魔法の準備をしていた。チャンスがあればいつでも放つだろう。

 僕は口を開いた。

 「凄い技だが、大技過ぎる。魔力消費量も半端じゃないんじゃないか? しばらく距離を取っているだけで魔力が尽きると見た」

 奴はそれを聞くと笑った。

 「確かにな。

 が、僕が大人しく防御に徹しているはずがないだろうが!」

 そして、剣を再び構える。剣に竜巻が集中した。僕は“今だ!”と思う。

 「アーサー!」

 「おう!」

 それで奴は後ろを振り向いた。アーサーは突進して来ていたが、まだ少し遠い間合いにいた。が、それで充分だった。

 僕も突進する。

 しかし、それに奴は反応した。「舐めるな!」と巨大な剣を振りかぶる。が、僕の目的は攻撃を当てる事ではなかった。チャンスをつくることだ。僕は飛び退いて竜巻の大剣を躱す。「なに?」とそれに奴は戸惑いの声。そのタイミングだった。

 「サンダー!」

 キサラの仲間の魔法使いが、雷撃の魔法を放ち、見事に奴に命中した。ただ、魔法耐性の高い防具だったのか、倒し切れてはいない。

 「お前らぁぁぁ!」

 悔しそうに奴は叫んだが、流石に一度逃げた方が無難と判断したらしく、竜巻の剣を納めて逃げようとした。

 が、そこにアーサーがハンマーで一撃を入れる。なんとか防御したようだったが、アーサーの攻撃は重い。吹き飛んだ。が、それでもまだ倒せてはいなかった。吹き飛んだ方向も悪く、僕からも距離が離れてしまった。魔法使いの魔法も準備が終わっていないだろう。これではとどめを刺せない。

 しかも、奴は懐から爆弾を取り出していた。近付かせないつもりだ。

 ――逃げられてしまうか?

 そう思ったのだけど、その時だった。

 「誰が逃がすか!」

 そう声が聞こえたのだ。

 見ると、キサラが弓矢を奴に向って構えていた。彼女はずっと魔力を溜め続けていたのだろう。

 「芯を抜く、一気通貫の矢!」

 そしてそう叫んだ。

 ゲームの演出なのか、その瞬間、辺りが暗くなり、光の筋が彼女から課金プレイヤーに向けて通ったように思えた。

 そして、それは奴の頭を見事に撃ち抜いていたのだった。

 流石、ずっと魔力を溜めていただけはある。大した威力だ。

 「ちくしょ…… やられた。これじゃ、武器を取られちゃうじゃんかよ…」

 目を大きく見開いたまま、そう呟いて奴は消えていった。

 奴が消えると、光の玉と矢印のアイコンが現れる。それに触れると、ゴールドといくかつのアイテム、そして、“風神の剣”という武器が手に入った。間違いなく、さっき奴が使っていた武器だろう。

 

 「――それ、どうするのよ?」

 

 サヨが皆の体力を回復させ、場が落ち着くとキサラがそう尋ねて来た。風神の剣の事だろう。

 「できれば自分の物にしたいところだが、やめておくよ」

 「当たり前でしょ。皆で仕留めたんだから、独り占めさせて堪るか」

 「いや、それもあるんだけどさ、この武器、魔力の消費量が高いんだよ。さっきの変態野郎は、きっと課金して特殊なタイプ“勇者”かなんかになっていたのだろうな。だから魔力量も多かったんだ」

 これは魔法使い向きの武器でもない。一緒に戦った連中の中には適合者はいないだろう。サヨなんかそもそも性格上誰も攻撃できないかもしれないし。

 「アイテムやゴールドは皆で分け合うとして、この剣はNPCの魔法剣士を探して取引用に使おう。代わりに貰ったアイテムを皆で分ければ良い」

 それを聞いて彼女は「いいの?」と疑問符の伴った声を上げた。

 「いや、だってどうせ僕らには適合者はいないし」

 「そうじゃないわよ。他のNPCだってアタシらにとって味方とは限らないでしょ。チャンスがあれば襲って来るわよ?」

 僕はそれに「それだよ」と返した。

 「どれよ?」とキサラは不思議そうな顔になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ