23話
ガレアと2人で川まで遠足に行った俺は、その日は帰った途端に眠ってしまっていたらしい。
俺が目を覚ますと、そこは俺の部屋で、自分が寝転がっているのは慣れしたんだマイベッドだった。
「なんか…色々考えるようなこと多すぎて疲れてたのかな…」
一応自分のことは解決したんだろうけど、身体の疲れはあまりとれてなかったらしい。
そう考えると、ガレアと一緒にいた時も少し疲れてたような気がする。
俺は欠伸と一緒に出てきた涙を擦ってふき取ると、ゆっくりとベッドから足を下ろした。
俺は昨日、ガレアと昔の思い出話をしてたんだっけ。それで、ガレアの辛い過去も聞いて…。
「それで、ガレアはフランのことを大事にしろって俺に言ってきたんだっけ」
俺はガレアから受け取った言葉を思い出し、それに答えるかのようにうん、と首を頷かせた。
今までフランのこと全くわかってやれてなかったけど…、今はもう違うしね。フランのことは何があっても守るよ。
俺は胸の前で手を握りしめ、ぎゅっと拳をつくると、心の中でそう誓った。周りの人と上手く話すこともままならない俺だけど、頼りない俺だけど。これだけは守る。絶対に守るよ。
俺はそう誓い終えると、ふぅ…と肩の力をぬき、少しその場でしんとした時間を過ごした。
窓が少し空いていたため、乾いた風が部屋の中に入ってき、それが俺の銀色の髪を撫でるように通って行く。
この風だけが、この部屋の時間を進めているように感じた。それくらい、俺の部屋は静かだった。この静けさだと、今さっき自分が思ったことが余計に恥ずかしく感じてくる。うん、誰にも聞こえてないはずだからそれはよかったけど…それでも恥ずかしい。
そう思った瞬間、顔が赤くなっていく感覚が自分でもわかった。
そうして俺が赤面していると、さっきまで静かだった時間は、急に下の階から聞こえてくる音によってあっという間にかき消される。
こんなに勢いよく階段を上がってくる人物はおそらく俺の家の中では1人しかいないだろう。
ガレアも朝は外で特訓してるか料理をつくってるかで忙しいし、そう考えるとやっぱり1人しかいない。
俺は、その人物だと確信すると、次に来るだろう攻撃に備えて防御の姿勢をとった。
すると、俺の思っていた通り、ドアが勢いよく開きその人物が中に走りこんでくる。
「朝だよザッくん!!」
そう言ってドタドタと駆け寄ってきたエレナはすぐさま俺に向かって飛びついてきた。
セレーヌさんに聞いたんだけど、エレナは小さくて可愛いものに目がないらしい。それと、弟か妹ができるのが夢だったんだとか。
俺は確かにエレナより歳下だけど、別に可愛くもないし小さくもないよっ!!
だが、いくら俺が反抗しても、一度エレナの中で決まったことは俺では変えれないのだった。
「くる、苦しぅ…」
俺は、締め付けられる首元をバンバンと両手で叩くと、エレナに命の危機を必死に伝えた。このままじゃいつか…いや今にも窒息死で死んでしまいそうだ。だがエレナは現在抱きつくことに夢中なようで、なかなか我に返ってくれない。
「朝から大変だね。お兄ちゃんも」
開きっぱなしのドアからそう呟いたフランは、そのままなにも見なかったことにしたのか、すぐに立ち去っていった。
俺の状況を見て、下手したら自分も対象にされると感じたのだろう。確かにフランは俺より小さいし可愛い、俺から標的に変わることも十分にありえる。
だ、だから変わってくれないかなぁ…俺、死んじゃう…。
え?妹を守るだって?それとこれとは別だよ別。
って、そんなこと考えてる間にも意識が…。
「はっ、近くで私の妹センサーが反応しているっ!!」
俺の意識があと少しで途絶える…そう思った瞬間、エレナはフランの存在に気づいたのか俺から勢いよく離れた。
もう朝から頭の中ぐるぐるだよ…。
俺はふとそう思うと、もう一度ベッドの上に仰向けに倒れたのだった。
「っふぇ、わわっ!?しっかりしてザッくん!!ザッくんー!!」
「いや、その…し、死んでないから…。だ、大丈夫…」
頭を強く揺すられ、俺の意識は強制的に元の世界へと戻される。戻されたのはいいけど頭がくらくらする。なんだか頭の上でお星様が回ってるみたい…。
「聞かれなくてもお姉ちゃんは大丈夫だよっ!」
「い、いや違くて…」
誰もエレナに大丈夫?だとか聞いてないよ。俺は自分が大丈夫ってことを伝えたかっただけだから。このままエレナのずっといたら大丈夫じゃなくなるかもだけど。
俺は「はぁ…」とため息を吐くと、ドアの近くに飾ってある鏡の方へ目線を向けた。エレナが壁になって少し自分が見にくい。
まあ寝癖がついてるのはいつものことだし見ても見なくてもどっちでもいいんだけどね。
「フランも下に行ったし、俺もそろそろ下に行かないと…あっ、え、エレナも」
そのまま立ち去ろうとする俺をむすーっと睨んでくるエレナをみて、俺は慌ててそう付け足した。
今のは完全に独り言だった…。口に出してるのも気付かなかったなんて、相当重症だよ…。
「お姉ちゃんっ…だよ!」
エレナはむすっとした表情のまま俺にそう返すと、怒った様子のまま下の階へ降りていく俺の後をついてきた。
今のはあくまで独り言で…エレナのこと忘れてたわけじゃないんだけどなぁ。あともうさすがにエレナのことをお姉ちゃんって呼んだりなんかしないよ。
「おう、ザックじゃねーか。今日は遅かったな」
一階につくと、そこには朝食を終えたセリーヌさんとガレアが暇そうに2人並んで椅子に腰掛けていた。
フランはというと、俺たちのことなんか関係なしに1人ご飯を食べ進んでいる。
セリーヌさんとガレアが並んで、そこに俺たちもいると考えると、何となく家族に見えなくもない気がする。もっともガレアとセリーヌさんが夫婦なんてありえないし、考えたくもないけど。
と、俺は周りを見渡して、全員が今この部屋に集まっているということに気づいた。多分、エレナが来て以来、初めてみんなが集まったと思う。
出かけたり眠ってたりとみんなが揃う機会ってなかなかなかったし…、これは何かみんなでわいわいするチャンスなのではないか…。
俺はそう思いながら口に咥えたパンを飲み込むと、自分の中で勝手に納得する。
「でも、みんなでできるのって何かあったかな…」
コミュ障な俺にみんなでするものを考えることほど難しいことはない。俺は悩み悩んだ結果、最終的にフランを頼るという手段に行き着いたのだった。




