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22話


「なあザック、お前なんか顔つき変わったか?」


 それがガレアと顔を合わせていきなり言われた一言だった。

 見た目はそんな変わってないはずなのに、というか全く変わってないはずなのに、ガレアは俺の変化を一瞬で気づいたのであった。

 初めて会ったときからそうだけど、ガレアは意外とそういうとこ鋭い気がする。俺の思い込みかもだけど。


「そ、そそ…そうかな…」


「おいおい動揺しすぎじゃねーか。肩に力入ってんぞー落ち着け落ち着け」


 ガレアにバンバンと背中を叩かれ、反動で上半身が前に倒れる。ただでさえ力が強いんだからもう少し力抜いてほしいよ…。絶対背中に跡ついたよこれ…。

 俺は未だにジンジンと疼く背中に手を回しながらガレアの方をジッと睨みつけた。


 ガレアはそんな俺の様子を見て「わりぃわりぃ」と笑いながら謝ってくる。全く反省していない。

  謝ったって反省してなかったら何の意味もないよっ!

 

「んで、何があったかは知んねーけど、いい顔つきにはなったと思うぜ」


「そ、それ、今まで俺の顔つきがよくなかったみたいじゃ…」


「そういや、ザックの家の女率高くなってないか?お前はちっこいからいいかもしんねーけどよー!俺はちょっと困るぜ…」


 俺はガレアの声に阻まれ口が篭ると、もう一度ガレアをジーッと睨みつけた。

 ガレアは人の話を全く聞かないで1人で話を進めてしまう癖がある。そのおかげでコミュ障な俺でも仲良くなれたわけだけど…、無視されるのはやっぱり傷つくよね。

 それに今ガレア、さらっと俺のことちっこいって言ったし!!


「いっつもだよ。ガレアは俺のことちっこいちっこいって…」


「あー、怒んなって。でも本当のことだろちっこいの」


 ガレアは…ガレアはそんなに俺のこと怒らせたいのかっ…!!

 自分の身長が低いのは俺が1番気にしてることなのに…、ガレアはいいよなぁ身長高くて…少しぐらい俺にも分けてくれてもいいのに。


 俺は口を開けたり閉めたりしながらそんなことを思った。何故開けたり閉めたりしてたのかというと、怒りでどれを先に口に出せばいいかわからなくなったからというのと、ガレアの気分を悪くさせるのが怖かったからである。

 とりあえずちっこいというのは止めてほしいんだけど。

 

「でもまあ、男2人でちょっくら出かけるのも意外と悪くねーもんだな」


 まるで男2人で外に出たことのないような言い草である。まあ俺もガレアと会うまではフランとセリーヌさんしか知らなかったし。同じなんだけど。


 俺はふあぁ…と欠伸をして周りを見渡す。

 今日は「ちょっと付き合え」とガレアに言われてそのまま一緒に出かけてたんだっけ。まあ、いつものように引きずられて拒否権とかなかったんだけどさ。

 辺りには草原と小さな川が流れており、さらには水が空を流れているここにしか流れていない川など、とても神秘的な光景が広がっていた。


 どうせならみんなも連れてこればよかったのに。どうしてガレアは俺だけ連れてきたんだろ…。


「この場所、綺麗だろ?俺の妹が好きだった場所なんだ」


 ガレアは流れる川を眺めながらそうぼそりと呟いた。いつもならいきなり川遊びなんか始めそうなのに、なんだか元気がないように見える。

 男2人だけだからテンション上がらないのだろうか…。でもガレアってそんな奴じゃないはずだし…、1人でもぼっちで暴れてそうな人だし…。


「ザックは、フラっぺのこと大切にしろよ?大切な妹なんだろ?

絶対、俺みたいになっちゃいけねーからな」


「それってどういう…」


「俺の妹は、死んだ。俺のせいでな」


 そう言ったガレアは、「よっこらせ」と声をあげながら地面に座った。

 ガレアの言動に、無意識にベル兄さんの面影が重なる。ガレアの今の表情は、あの時のベル兄さんの表情と全く同じものだった。

 まるで自分を責め続けているような…。


 だが、ここでガレアの表情をパッと変わり、俺の方をニヤついた目つきで見つめてくる。

 

「だから、ザックはフラっぺをちゃんと守ってやれよ?」


「あ、当たり前だよ…」


 俺は、ガレアからの思わぬ発言にどのように接すればいいかわからず、最後の言葉だけ返すように力なく返事をした。

 今思えば、俺はガレアのことも何も知らない気がする。でもまあ、フランのことすら最近の最近までわかっていなかったし、そりゃそうなんだろうけど…。


「どうにも最近フラっぺが俺の妹と重なって見えてきちまってよ…。もう戻ってこないってそんなことわかってんのに…、毎晩夢に出てくんだよ。妹が」


 「もう、諦めかけてたんだけどなぁ…」ガレアはそう言いながら顔を下げ、それを片手で押さえていた。その手には溢れてきた涙が目の前にある川のように、流れていた。


 俺がベル兄さんのことで悩んでた、逃げてたのと同じように、ガレアも抱えているものがあるんだなと、俺はそう思った。フランもそうだった。

 みんな隠しているようだけど、誰もが何かを抱えて生きている。

 みんな、そうなんだ。


 俺は嗚咽を漏らしながらその場から動こうとしないガレアの隣まで移動し、そのまま隣へ座った。

 

「ねえ、ガレア。お、思い出させるようで…悪いんだけどさ、諦めかけてたって…」


「俺は妹の死体は自分の目で見てねーんだよ。魔族に連れて行かれた。もう3年前のことだ」


 それ以来、ガレアは妹を探して旅してたってわけか…。魔族って言ったら非常に残虐な性格で有名だ。特に高位の魔族となると村を破壊するだのそんな話がたまに耳に入ってくる。正直そんな危険な奴らに捕まったところで生きてる保証は非常に少ない。


 でもそれで死んだと断言できるのはなんで何だろ…、3年とは言え、死んだって決めつけるのは…。


「俺は、妹を連れ去った魔族の顔を覚えてる。で、そいつもぶっ殺した。そん時に聞いたんだ。俺の妹はもう生きていない…ってな」


 ガレアの力強く握る拳が震えているのが目に映った。だがすぐその震えていた腕で涙を拭い、ガレアはすっと立ち上がる。

 隣で座っていた俺は立ち上がるガレアを下から見上げた。

 どうやら少し落ち着いたようで、顔から怒りや哀しみの表情は消えている。


「まあ、そんなことで…要するにお前はフラっぺを大切にしろよってことだよ」


 落ち着きを取り戻し、いつもの調子に戻ったガレアは、いつもの適当加減でそう言うとその場から立ち去ろうとする。そしてまだ座っている俺に手招きをした。

 俺は慌てて立ち上がると、急いでガレアの元まで駆けていった。

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