12話
「ふぅ…これでとりあえずひと段落ですね」
「うん…、絆創膏ありがとセリーヌさん」
俺はセリーヌさんの鞄から出てきた絆創膏を傷口に貼ってもらい、結局2人で皿を片付けたあと、ゆったりとソファーの上に腰掛けていた。
隣にはセリーヌさんも座っており、変に疲れてしまったのか、俺とセリーヌさんは2人揃ってぐだりと全体重をソファにのせている。
「いえ…、もともと不器用なくせにお皿を洗おうとした私が悪いんです。ごめんなさい」
「い、いや手伝おうとしてくれてたのはわかったしあっ、謝る必要なんか…あぅ…だからその…」
なんて言えばいいかわからないぃ…。とりあえずセリーヌさんは悪くないし手伝おうとしてくれていたんだし、だけどこんなに謝れると…えぇーと…。
コミュ障な俺にこのやりとりはかなり厳しいです…、
「あっ!そういえばさ、セリーヌさんって隣の国のお嬢様なんだよね?兄弟とかい…いるの?」
「え?あぁ…はい。4人姉妹で、下に1人妹がいますよ、4人姉妹末っ子のせいかやけにお姉さんぶろうとする子になってしまいましたけど…」
ヘぇ〜…。セリーヌさん妹いたんだ。ていうか、意外と上手く話題を変えれたっぽい、セリーヌさんがわかってくれたからなのかもだけど。それにしても妹さんかぁ〜。フランみたいな感じかなぁ…。
フランも俺と違ってしっかりしてるし、そんな感じなんだろうな。
「でもお姉さんのようになりたいってだけで、全然それらしいことはできてないんですけどね…」
え、ダメじゃんそれッ!
俺はその場にずっこけると、妹のことを思い出しているのか懐かしそうな顔をしているセリーヌさんの顔を見つめた。
どこか遠くを見ているようなその顔からして、長い間会っていないのかもしれない。
俺だったらそんなの無理だな…。フランが居なくなるとまあ、何もできなくなるけど、それ以上に絶対孤独死する。コミュ障だけど独りなのは嫌なんだよね…。
「エリナと別れてからもう1週間ですか…」
思ったより短いですな。
俺は声に出しそうになったのを心の中にぐっと押し込めると、さらにそれを飲み込むためにテーブルの上にあった麦茶をぐいと飲み干した。
そして、その場からゆっくり立ち上がり、ぐっと背伸びをする。
「じゃあ、俺もそろそろ出ようかな」
「どこか行かれるのですか?」
「うーん、とくに決めてはないんだけど、ちょっと街の方に」
俺は飲み干したコップを下げると、そのままリビングの扉を開け、玄関の側まで移動した。
今日はとくに何かすることもないんだけど、結局まだ1人で街で買い物だとかできてないしなぁ。最初のときもセリーヌさん任せで、他もフラン任せだし。
コミュ障を早く卒業するためにもこういう積極的な姿勢が大事だと思うんだよね。
因みに、今フランは今日の晩御飯のために買い出しに、ガレアはセリーヌさんの代わりに食器を洗ったあと家を出て行った。何処に行ったのかはわからないけど、まあガレアだし大丈夫でしょ。
…まあ、というわけで、俺は家から出ると、大草原の真ん中を歩きながら街の人と会った時のシミュレーションを開始した。
事前に練習しておくのも大事なことだしね!
「えーと、そのリンゴを一つください」
…キタコレ。
これができればもう怖いものなしだろっ。俺の時代がくるよこれ!絶対来ちゃうよ!
今のうちにサインとか考えちゃおっかな〜。そのうち人気者になったりして…。いや、冗談だよ!そこまで頭の中お花畑じゃないよ!!…多分。
「とりあえず、リンゴを買えたとして…そのあとどうすればいいんだろ。お礼言えばいいのかな…。リンゴを受け取るわけだし。お釣りもらうときは!?どうすればいいんだろ…」
ダメだ…難易度鬼じゃんこれ。
こうなったらもう戦略的撤退をするしか…、いやでもそれだと全く成長してないことになるし…。
ちょっとまって、もし、リンゴが売ってなくて、それを頼むことになったらどうする?もちろんどこにあるか聞きにいくよね?でもコミュ障な俺が店の人にそれを聞くなんて高度な技できるわけ…。
思ったより難易度がめっちゃ高い…
やっぱり戦略的撤退をとるしかないよね…
いや、仕方ないよ。仕方ない仕方ない、だって俺まだコミュ障だし…。
俺は街へ向かって進んでいた脚を止め、進路方向を自分の家の方へ切り替えるため、その場でキレッキレの回れ右を発動する。
…ここで、一歩踏み出せば俺は迷わず家まで直行するだろう。しかし、家の中には現在セリーヌさんが待ち構えている…
ここで「あれ、早かったですね」だとか言われたら、なんて言い訳すればいいかわからない。
街へ行くのが怖かったからやっぱり帰ってきた?いや、そっ、そんなことないし?コミュ障だから戻ってきた?そっそんなことセリーヌさんに言えるわけないし?
「…よし、じゃあ街行くか」
俺はもう一度回れ右をすると、今度こそ街へ向かって歩いて行った。
とりあえず今日の目標はあれだ、リンゴを1人で買う。
この1人でってところが重要だ。誰か…例えばフランとかに手伝ってもらうとそこで今回のミッションが台無しになってしまうしね。
今まで生きてきた14年間の中で一番厳しい任務となるだろう…。だがしかし、俺は絶対にこの壁を越えなければならない!コミュ障卒業という夢を叶える為の第一歩として!絶対に!
俺は街の入り口で一度脚を止めると、深く深呼吸をし、落ち着いたところで初めの一歩を踏み出した。
「で、街に入って気づいたことがあるんだけど…リンゴ売ってるところってどこだろ」
入った瞬間に第一の試練が待っていたなんて…これは、近くの人にどこにあるか尋ねないといけないってことだよね?
無理無理無理無理…。そんな高度なことコミュニケーションマスターじゃないと不可能だよ!コミュ障マスターの俺には到底できないよ!できっこないって!
俺は街の端、入り口から入ったすぐのところでアタフタしていると、近くで買い物をしているフランの姿が目に入った。
隣ではなぜかガレアが荷物持ちをさせられていて、両手に大量の荷物がぶら下がっている。
…ガレアも家からいなくなってたとは思ったけど、フランに連れて行かれてたんだ…。
それにしても、いいタイミング…。俺もあの2人に合流してしまえば…、いやダメダメ!知り合いに頼ってしまってはここに来た意味がなくなってしまうっ!!
でも、リンゴ売ってる場所なんて俺にはわからないしなぁ…
「とりあえず、近くを歩いて自分で探すしかないよね…」
俺は1人そう頷くと、フランとガレアにバレないように、他人のふりをしながらその場から立ち去った。
そして、現在俺ザックは、とりあえずどこに行けばいいかわからないので街と城の間にある噴水の端に腰掛けていた。
ここまで歩いてくるまでにも一応周りを見渡して探してたんだけど、防具やら剣やら、後は家具だとか食べ物に関する店が全然なかったんだよね。
もしかして街の位置によって売ってる物も違うのかな…、そうだとしたら普通に歩いてるだけじゃなかなか目当ての店には辿り着けないんじゃ…。
どこかに街の案内図みたいなのないのかな…、ここ噴水広場だし、そういうのありそうだけど。
俺は近くにないかなと思い、ふと顔を上げた。すると、今にも俺をとっ捕まえようとしている1人の女の子と目があう…。女の子と言っても俺より歳上かな…。茶髪のショートカットのその女の子はキラキラと目を輝かせながらいまだに俺を見つめていた。
「君迷子?大丈夫っ!お姉ちゃんがついてるよっ!」
その女の子はそう言うと俺の手を引き、何故か自信満々の表情でどんどん先へ突き進んでいった。いや、自信満々というか凄く満足そうなスマイルというか…。
これってもしかして…誘拐?
俺はこのときリンゴを買いに街まで来たということをさっぱり忘れてしまった。
「あ、お姉ちゃんのことはお姉ちゃんってよんでいいからねっ!」
「へっ?ふぇ、えぇ!?」
どっ、どういうことですか〜!?
ストックがきれたので次から1週間に一回更新になります




