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第十話~戦闘~

お久しぶりです~。アクアちゃん愛が爆発しそうでヤバいです。

 うーむ、成る程……。


 ゴリゴリナイフ男を投げ飛ばした時の感覚で、何となく合点がいった。どうやら俺の体全体、左腕程ではないにしろ結構洒落にならない身体スペックを獲得していたようである。何かノリで投げ飛ばしちゃったけど、まさかうまくいくとは思わなかったぜ……。


 土煙を上げて地面に激突したゴリナイフ男を見つつ、そんな事を考える。包帯で包まれた左腕はともかく、持ち上げたりブン投げたりする以上重要になるのは体の重心と頑強さ。そして今の俺は、驚いた事に大した構えもなしに微妙な体重移動程度で対応できてしまったのだから、その異常性が伺えるというものだ。


「こんの……クソガキガァァァァァ!!!」


 お、起きあがってきた。割と頑丈だな、あの筋肉は伊達じゃないか。


「あ、間宮さんちょっと待っててください。すぐ済みますんで」


 左腕を除けば、俺の筋力は多分あの魔改造されました感満載男を若干下回るくらいだろう。カマセ臭がプンプンするこの男だが、普通から見れば十分に驚異となりうる身体能力を有した化け物なのには違いないのだから油断はできない。だがまぁ、怒り狂ったアイツの攻撃は単調になるだろうし、受け流す事は多分容易だ。一番厄介なナイフは、元より切られる心配の無い左腕を使って対処してしまえばどうとでもなる。折角なのだし、彼にはこのハイスペックな体を制御するための練習台になってもらうとしようじゃないか、うんうん。


 男はグッと屈みこみ、全身をバネにして前へ飛び出すようにして俺へ向け突進してきた。それなりに経験は積んでいるらしく、なかなか洗練された動き。突然ドラゴンになったなんちゃってヒーローの俺とは大違いだが、反射神経等も肉体同様強化されているので対応できてしまうのは妙な気分だ。


 まず迫るのは、突進の勢いをそのままに利用したストレートパンチ。多分威力はかなり強いんだろうけど、シンプルな攻撃の分見切りやすい。適当に受け流して……。


 バシッ。


 あら、案外簡単に受け止められた。かと思えば、今度はナイフを持った手を後ろからブン回すように振ってくる。成る程、こっちが本命だからさっきの攻撃にはあまり力が入っていなかったのか。一瞬で理解し、コイツがただ怒りに任せて闇雲に向かってきている訳ではないらしい事に若干驚く。人は見た目によらぬものとはまさにこの事。


 だがしかし、左側からのナイフ攻撃はこの腕の前には通用しないのだ! 包帯に包まれた左腕の前腕、二本の骨――橈骨に尺骨だったかな? の間をナイフが通るように受け止める。ザクリと刺さる音と衝撃の後に男の顔がいやらしく笑うが、残念! 俺には効かな……って、ん? あれ、おかしいな。何かちょっと痛いぞ? それに、肘に向かって何か生温かいモノが流れて……。


 あれ? アレ? ARE? ちょい待ち、さっき俺がストレートパンチ受け止めた腕、何か包帯巻いてない? 両腕巻いた記憶なんて無いんですが。


「うらぁ!」


 ズシュッという生々しい音と共に、切り裂くように引き抜かれるナイフ。すると、見えるはずのない血飛沫が飛んだ。ナイフも血に濡れている。そして想定外の事態に混乱した俺の脳は、男がナイフを持つ手を見て一瞬で何が起こったかを理解した。


 コイツいつの間にナイフ持ち変えやがったぁぁぁ!?


 さっき間宮さんを刺そうとした時、確かにコイツは右手でナイフを持っていた。その後も、ナイフを持ち変えたようなそぶりは見られなかったように思う。とすると……あの舞い上がった土煙の中で、か?


 成る程と理解するのと同時に、背中を変な汗が流れ始める。身体強化を施されているらしいとはいえ、俺の左腕以外の体には血が通い、普通の人間と同じ原理で動いているはずである。しかも完全に誤解していた俺は、よりにもよって一番ナイフの通りやすい所へ誘導して刺させてしまったのだ。おかげで貫通してしまったらしく、腕の裏表両側から大量の血液が流れ出し、早くも足下に血だまりを作りつつあった。


 自分を一発ブン殴ってやりたい気持ちに駆られるが、ひとまずジャンプで間宮さんの側まで後退する。


「こ、神山くん……!」


 焦りと驚きと心配のこもった間宮さんの声が聞こえるが、正直今は返事をしている余裕はない。いや本当、ちょっとこれは想定外だ……。アドレナリンのおかげかまだそんなに強く痛むわけではないけれど、恐らく筋肉へも結構なダメージが入っただろうから腕が使いモノにならなくなってしまったかもしれない。出血多量でオダブツなんてのもゴメンだ。あぁ、やっぱり俺はドジだ……調子に乗るとすぐに何かしらミスをする。せめて人前でくらいはカッコつけさせてほしかったです。


 ……よし、もう気は抜かない。全力でやらせてもらうとしよう。とはいっても、こんな狭い場所では竜化する事はできないからなぁ……。大体、ここには間宮さんもいるし。竜形態を見られる分にはいいが、俺という普通の高校生が竜に変身する所は今後の生活を考えてもあまり人に見られたくはない。まぁ、これで危機に陥るような事があったらそうは言ってられないかもしれないが。


「ヒヒヒッ、ざまぁねぇな、このクソガ……あ?」


 ゴリナイフ男が何か言おうとしたようだったが、突然その目が丸く見開かれる。その視線は、先程ナイフに見事貫かれた右腕に注がれていた。


 突如固まった男に釣られ、俺も目を右腕の前腕へと向ける。するとそこには……何か凄い光景が広がっていた。


 パックリと開いた傷口から、血液と共に黒い霧のような物が溢れだしているのだ。お察しの通り、恐らくこれは竜化する時なんかに出るあの霧。そしてその黒霧は傷口をうっすらと覆うと、ジンジンとしていた痛みが嘘のように引いていった。同時に、血も一瞬にして止まってしまう。


「お、おい……何だよ、何なんだよそれぁ!?」


 いや、何だよと聞かれましても……。


 二人して訳が分からず動けずにいる間に、黒い霧によってどんどんと修復されていく俺の腕。そしてものの十秒程で、俺の傷口は完全に塞がって無くなってしまった。


「……えっと」


「ひっ、ひいぃ!?」


 何だかこちらから何かしないと動かなそうだったので声をかけてみると、まるで化け物でも見るかのような怯え方をしてきた。……まぁ、実質化け物な訳だけれども。イエーイ、怪物さんこと、ホネホネドラゴンですよー。


「うわぁぁぁ!」


 何だかリアクションが面白かったのでニッコリ笑って近づいてみたら、悲鳴を上げて全力疾走で逃げていった。あのゴリゴリの筋肉野郎が必死に逃げてる光景、非常にシュールである。


「神山くん……?」


 間宮さんが背後から声をかけてくる。声色からは特段怯えるような様子は伺えないし、どうやら背後にいた彼女にはあの俺の再生シーンは見られなかったようだ。


「逃げちゃいましたね。何だったんでしょう?」


 ふりかえり、いつも通りの笑顔で話しかける。刺された所は見られていたのでその点は驚いたようだが、元気そうな俺の顔を見て少し安心したようだった。


「神山くん、腕は……?」


「え、腕? 何の事ですか?」


 これに関しては誤魔化しようがないので、気のせいという事で強引に理解してもらう事にした。足下にガッツリ血だまり残ってるけど、そこは気にしたら負けなのだ。



「成る程……。何か、色々大変だったんですね」


「うん。神山くんには二度も助けてもらっちゃったし、話さないとって思って」


 おおう……。精神的に大分消耗していたようなので相談に乗ってあげたら、なかなかに重い話をされてしまった。竜神教に、新宗派、か。竜神教なら前にテレビで密着してたのをちょっと見た事があるから存在くらいは知ってるな、話聞くまですっかり忘れていたけど。成る程なぁ、あの時の発言の真意が解けたよ。どうやら、俺の竜形態を見られての発言じゃじゃなかったみたいだ。


 うーむ、それにしても宗教、しかもよりにもよってドラゴンを崇拝している宗教が絡んでいるとは……。基本的にあまり自分の存在を隠すつもりのない俺からすると、今後とも色々関わる事になりそうである。大体、折角俺が活動頑張っても、その新宗派の連中が好き勝手暴れたらドラゴンのイメージダウンでしょうて。これは結構早急に対応するべきかもしれないな。


「ありがとう、聞いてくれて。何かすっきりした」


「いえいえ、これくらいならばいつでも。……でも、どうして俺に話してくれたんです? 俺は普通の中学生ですよ?」


「普通の中学生があんな男を放り投げられる訳ないでしょ……」


 あ、それもそうか。何かを諦めるようなため息をつく間宮さんを見て、妙に納得する。


「それにね……。前に会った時から、神山くんには何かがあるって感じ取ってたのよ。それが何かは分からないけど」


 おうっふ、鋭すぎます間宮サン。これが噂に聞く女の第六感というヤツなんだろうか? いやはや、女性というのは恐ろしいものですな……。まぁ、隠すにはあまりにもデカすぎる秘密ではあるけれども。


「私、神山くんの言葉で気づいたんだ。望んで祈っているだけじゃ、変えたいものも変えられないって。私自身が頑張らなくちゃダメだって」


 そう、問題はコレである。間に合わせのために適当に言った、中身もないあの言葉。間宮さんから言われるまで言った事もすっかり忘れていたあの言葉を、間宮さんは自己解釈して昇華させてしまっていたようなのだ。


 全く、結果的に彼女が前向きになってくれたから良いものの、これはなかなか考えさせられるものがある。死の臭いをかぎ分ける能力で人を助け、この間宮さんも含め幾多の人生を変えてきた俺だが、それは竜の力があってこそ。だが、こんな何の労力も使わずに誰でも言えるような言葉で、しかも本人が特に意識もせずに言った言葉でこうも大きく人の人生は変わってしまうのかと思うと、一体俺の人助けというのはそれと比べればどの程度の力を持っているのだろうかと考えてしまう。


「まぁ、あれが役に立ったのならうれしいです」


「うん、ありがとう」


 さて、まだ本調子に戻らない間宮さんが少し心配だが、そろそろ戻るとしよう。どうやらもう死の臭いはしてこないし、また彼女が襲われる事は無さそうだ。それに、これ以上アクアを待たせるのは可哀想だし。


「もう大丈夫ですね。それじゃあ、俺はこれで」


「え、あ、うん。本当にありがとうね。今度、竜神教にも遊びに来て。みんなで歓迎するよ」


「はい、是非」


 竜神教はそれなりに有名らしいし、ネットで調べれば本拠地の場所くらいすぐに見つかるだろう。様子見のためにも、今度お邪魔させてもらうとしよう。



「あらジョーくん、随分遅かったわね。大丈夫?」


「ただいまですおばさん。水喜いますか?」


 店へ戻ると、いつも通りに商品の整理をするおばさんの姿があった。が、アクアの姿が見えない。着替えているのか? ……と思った矢先。


「あっ、リー……じゃなくてジョーくん!」


 相変わらず俺のあだ名呼びに慣れない様子のアクアの声が、店の奥から結構な速度で近づいてきた。そしてそちらへと視線を向けると……。



「にゃはーっ!」


「のおぉぉ!?」


 やはりというか、また飛びつかれてしまった。


「青春ねぇ……」


「全くだな」


 店の奥から店長まで出てきてしみじみとしたコメントを述べるが、もはやこの誤解に関しては撤回の余地がないと諦めている。うん、そういう事でいいっすよ、もう……。


「はぁ……って、あれ? 水喜その服……」


「うん、選んでもらったんだ! どう、似合う?」


 一度俺から離れると、可愛らしくくるりと一回転してみせるアクア。いつも着ているセーラー服ではなく純白のワンピースに身を包んだ彼女は、そのまばゆい笑顔と相まっていつにも増して輝いて見えた。


「みんな似合っちゃうから色々悩んだんだけど、水喜ちゃん元々可愛いから下手にいじらない方が良いと思ったのよ。正解だったわねー」


 ホクホクの満足顔でニッコリ笑うおばさん。流石というか、長年この仕事をしているだけの事はある。初めて会ったアクアに、まさにピッタリの服を選んでくれたのだ。


「うん、凄く似合ってるよ」


「ホント!? やったぁー!」


 改めて飛びつくアクア。そして運の悪い事に……いつも着ている服より布が薄いが故に、胸の温もりと柔らかさがいつも以上に感じられる事に気がついてしまった俺であった。


「おばさん、店長さん、本当にありがとうございました。ええっと、これはおいくら……」


 気を逸らすようにこちらを見てニヤニヤしているおばさんへ値段を伺うと、手を左右に振って“いらない”のジェスチャーをしてきた。


「いいのよいいのよ。ねぇ店長?」


「おう。ま、祝いって事で一つな」


 ……みなまで聞くまい。二人の暖かい視線を受けて、アクアと生活する上では今後とも必ずっと付きまとってくる事になるであろうこの勘違いに、もはや何度目とも分からないため息をついたのだった。

神山くん、戦闘とも言えない初戦闘を終えました。そこいらのアンデッドとは違うのですよ、最高位不死竜様は。


裏で着実に何かが動いてる気配。やっぱり間宮さんには何かご縁があるようです。

※間宮さんはヒロイン候補ではありません。←コレ大事

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