第十一話~ドライアド~
アクアの白ワンピ衣装はリア友のリクエストです。自分も気に入っていますねー。
それでは今回も、どうぞ!
「よぉーしアクアくん、用意はできたかな?」
「はいっ、準備完了であります隊長!」
フハハハハ、実に愉快愉快。ぶっちゃけこういうノリで話ができる相手って今までジンくらいのもんだったから、アクアというとてもノリのいい仲間が出来たのはとても嬉しい。しかもこんな美少女――おっと、これ以上は危険だ、止めておくとしよう。
アクアの服やら何やらを買いに行った翌日。学校から帰った俺は、前々から決めていた予定を実行すべくアクアと共に外出する事を決めた。昨日に引き続きのアクアとの外出にテンションがダダ上がりしたためにこんなフザケた雰囲気になっているが、予定そのものの内容はいたって真面目なのでそこのところ誤解はしないで頂きたい。
「それじゃ、出発!」
「おー!」
ビシッと二人で敬礼した後、アクアが水のオーラを纏って竜化する。そして俺は、少し緊張しつつそれに跨った。というのも、家のベランダから飛び出すのに俺の巨体はあまりにも目立ちすぎるため、いったんアクアに上空まで連れていってもらってから雲に隠れる等して人に見られないように竜化しようと思ったのだ。竜の姿とはいえ女の子に乗るというのには少なからず抵抗はあったが……。まぁ、本人が喜んでいるようだし良しとしよう。
「では、出発!」
《ラジャ!》
俺のそれっぽいかけ声に精神対話で応呼したアクアは、背についているトビウオの胸ビレのような翼を大きく広げる。折り畳まれていた時にはそんなに大きく感じなかったのだが……。もしかすると、カジキの背ビレみたく収納できるようにでもなっているのかもしれない。
改めて後ろを見て俺を確認したアクアは、魚類特有の華奢な付け根からは考えられないような力でもって翼を振り降ろした。すると、バサリと風が起こって難なく上昇が開始される。
少しの間ホバリングをした後、鷹や鷲のように大きく螺旋を描きながら上昇していく。俺のパワー押しの垂直上昇とは違ったスマートな飛行に、若干の感動を覚えた。
《リーダー、大丈夫?》
「んあ、問題ないよ。ただちょっと、空からの景色に見とれてね」
《? リーダーも飛べるでしょ?》
「竜化している時とじゃ、気分的に大分違うからさ」
やはりというか、竜化している時は何かスイッチみたいなものが入って、普段と感覚が大分変わる気がするのだ。勿論初めて飛行した時の感動も相当の物だったが、人間姿での飛行はまた別物なのである。
ぐるぐる回りながら小さくなってゆく景色を楽しみ、しかし人間形態のむき出し状態で空を飛んでいるという事実に若干の寒気を感じながら、俺達は着実に上昇していった。
《大丈夫、リーダーは不死身だから、ここから落ちても死んだりしないよ!》
む、表情を読まれたか。
「いや、分かってるんだけどさ……」
そりゃアクアさん、俺が生まれつきの不死竜だったならば問題ないんでしょうけど……。生憎俺は元一般ピーポー、しかも竜となったのもついこの間の話だ。そんな俺に、生物が本来持つべき恐怖心を脱ぎ捨てろってのはあまりにも無茶な話だと思うんですが。
さて、サラッとアクアさんがリーダー不死身発言をしてくれたわけだが、これは既に俺も知っている事である。
先日の一件、ナイフで刺されそうになっていた間宮さんを俺が助けた時に、サックリと刺された俺の腕がいとも簡単に再生してしまったのを覚えているだろうか? 俺自身最初は驚いたが、よくよく考えればスカルからそれについての説明を受けていた事を思い出した。何だか細かい理論やら何やらを説明していた気がするが、今この場での説明には大した必要性を感じないのでまぁ良いだろう。
速い話が、俺は絶対に死ぬ事は無いのだという。例えばゾンビ。あいつらってどう考えても生きていられる訳ない姿なのに動いてるけど、あれっていうのは生命力みたいなもの――あんな見た目でも、スケルトンやら何やらを含めアンデッドというのは一応生物らしい――がとんでもなく強いかららしい。で、それの最上位存在である不死竜はまさに生命力の塊みたいなもので、そんな奴が死ぬわけないじゃろ? という話だ。そんな俺なら、例え心臓ブチ抜かれようが頭を吹っ飛ばされようが、火炎放射機で汚物消毒されようが溶鉱炉に飛び込んでサムズアップしようが何の問題もないというチート中のチートなのである。
――ま、それ聞いた所で竜化もせずこっから飛び降りられるわけないんですがね。
そんな回想をしているうちに、あっという間に雲の上へと出てしまった。やはりというか当然というか、ちょっと肌寒い。
「はいアクア、これ持ってて」
「クオッ」
手に持っていた大きめの紙袋をアクアへくわえさせる。その小動物のような仕草にホッコリして英気を養った俺は、覚悟を決めて宙へと飛び出した。
「竜化!」
瞬時に黒霧を展開させた俺の体は、俺の意志を反映してか凄まじい速度で竜化を完了させ、俺も俺で慌ててホバリングを開始した。わたわた手足を動かしてしまったりと色々カッコ悪い変身だったのでせめて咆哮で誤魔化したい所だが、またあの大声量で吼えたらいくら上空とはいえ人に気づかれてしまうだろう。流石に間宮さんの二の舞を踏む俺ではない。
《どうしたの? リーダー》
《えっ!? あ、いや……うん。何でもないっす……》
うぅ、アクアはそういうの気にしない性格だからいいけど、俺のメンタル的には結構なダメージだぜ……。
《……うっし、行くか!》
《うん!》
アクアから改めて紙袋を受け取った俺は、目的地へ向けて飛翔を開始したのだった。……誤魔化している訳ではないよ?
――ちなみに、何気に精神対話ができている事に気がついたのは、これから少し後の事である。
◆
「あぁそれなら、この丘を登った所にあるわよ」
「この丘ですね。ありがとうございます」
東京都のとある場所。都会にしては静かな住宅街で、ここらでは見ない一人の少女が何かを探して歩き回っていた。
「いいのよぉ。……ところであなた、もしかして前にテレビで出てた、えぇっと……竹原舞ちゃんじゃない?」
彼女の名前は竹原舞。普通の都立中学校に通う、いまどきの中学三年生であった。……ある経験をするまでは。
「大変だったわよねぇ。何か不安な事があったら、周りの大人の人に相談しなさい? おばちゃんだってあなたの味方になっちゃうから!」
彼女はある日、誘拐事件の被害者となってしまった。一週間の監禁生活を強いられた上、食事は自ら取らない事を選択。そうして衰弱した所で、警察の捜査に追いつめられた犯人に殺されそうになった所をどうにか生き延びたのだった。
「ご心配、感謝します」
少女は口ではそう言いつつも、頭の中には大人達ではなく、とある一人の――いや、一体の生き物の姿しかなかった。あの時、誘拐犯に殺されそうになった時に助けてくれた、一体の不思議な“怪物”の姿しか……。
改めて礼を述べた少女は、命の恩人、怪物さんへの手がかりを探すために、教えられた通りに丘を登っていく。怪物が恐らくはそう呼ばれているであろう幻獣――竜を信仰する宗教“竜神教”を目指して……。
◆
《うっし、見えてきた。あの山だぞ》
《おぉー、綺麗だね!》
うんうん、確かにあの山は綺麗だ。家の近くのあの山とはまた違った生態系があって、山へは行き慣れている俺でもなかなかに楽しめる。環境汚染だ何だと色々騒がれているが、日本もまだ捨てたもんじゃないと、こういう場所を見ると思えるよね。
《その会う人って、ここにいるの?》
《多分、ね》
もしかすると、人じゃないかも……というか、まず間違いなく人ではないだろう。予想が当たっていれば良いんだが……。
さて、既にお察しの事かと思うが、今回俺が会いに来たのは“聖樹さん”なるお方。そう、俺が竹原さんを助けた時、彼女の俺に対する誤解を解いてくれたらしき人物だ。礼と挨拶のために来たのだが、正直直接会って話せるかどうかも怪しい。何故なら恐らくは、竹原さんの見たであろう美しい女性の姿というのは、彼女の本来の姿ではないのだろうから……。
《……うん、人の気配は無いかな。ほら、あそこの木の隙間に着地するぞ》
《はーい》
この間来た時にも利用した、倒木によって生じた木々の隙間からゆっくりと降下する。そしていざ着地しようと直下の地面を見て……以前来た時からの変化に気がついた。
《日が当たるようになって、種が芽を吹いたのか》
未だ宙に浮く俺の真下にある地面、前回来た時はただのむき出しの腐葉土だった場所から、様々な種類の植物が頭を出していた。きっと、まだここいらにこれほど大きな木々が育っておらず、日の光がたっぷりと地上に降り注いでいた頃に産み落とされた種子達だろう。何十年、下手をすれば百年以上も前に生まれた生命が今になって息吹を返したという光景に、少し感動を覚える。
《綺麗だね、リーダー!》
長い時を経て折角芽吹いた植物達を踏みつぶしてしまっては申し訳ないので、縁の日の当たらない場所へそっと降りると、直後に降りてきたアクアが周囲を走り回った。彼女の小柄な――俺と比べての話だが――体ならば、植物達を傷つけてしまう事はないだろう。
するとアクアは突然、広場の真ん中、倒木の切り株の上にスッと立ったまま動かなくなった。そして、目を閉じて静かに鳴き声を上げる。すると、どこからともなく広場へ向けて雨が振ってきたのである。当然雲は無いので、快晴中の天気雨である。アクアの能力“水操作”によるものであった。
長年待ち望んだ太陽の光を燦々と浴びて歓喜するように青々と背を伸ばす植物達に、その日の光を浴びてキラキラと輝く雨粒。そして、その中央に佇む、一匹の美しい竜。それはまるでここの植物達への祝福のようで、神々しさすら感じるその光景に、竜という生物の神聖さ、そして生命の美しさを感じて暫し見とれていたが、ふと我に返って惜しみながらも声をかけた。
《さっ、挨拶に行くぞ》
《はーい!》
駆け寄ってきたアクアのいつも通りの元気な返事に微笑んだ(つもり)俺は、二人並んでその広場を後にしたのだった。
――しかし俺は、この時気づいていなかった。以前訪れた時点で、倒木は既に相当朽ち、倒れてからそれなりの年月が経っていたという事に。そして、その時点で全く生えていなかった植物が、あまりにも異常と言える程の速度で成長していたという事に――。
◆
《到着ーっと》
到着したのは、上空から見えた御神木の場所。そう、竹原さんがあの犯人に殺されかけて俺が助けた、あの場所である。まだあれから数日しか経っていないのだが、高潮の一件にアクアとの生活となかなか濃密な日々だったため、早くも懐かしく感じる。
《どこにいるの?》
キョロキョロと見回すアクアを横目に見つつ、どうしたものかと考える。目的の存在は一応目の前にいることにはいるんだが、意志疎通の手段は考えてないんだよな……。と、そんな事を考えた矢先。
《おや、また来たのですか? “怪物さん”》
突然、アクアでも、ましてや俺のでもない声が頭に響いてきた。そして俺は、その正体にピンとくる。
《聖樹さん、ですね?》
《あら、私の名前を知ってらっしゃって?》
おぉ、精神対話が通じるのか。どうやら心配は無用だったようである。そう、この人――いや、この目の前に立つ“御神木”こそが、聖樹さんだったのだ。予想的中、見事大正解である。
《凄い……! 凄いよリーダー、こっちの世界にもいるんだね、“植物妖精”!》
“植物妖精”。この世界の伝承やなんかにも残され、度々ファンタジー作品にも登場する、植物に宿る精霊といわれる存在だ。スカル達の世界でもそれなりの上位種族であり、割とレアな存在なんだとか。実は一昨日の夜、精神世界でスカルに相談したところその可能性が高いとの話だった。え、自分で思い至ったんじゃないのかって? 馬鹿言え、いくらスカルの長時間説明を受けたとはいえ、異世界の種族全部網羅するだなんて出来るわけないではないか。こういう時は頼れる参謀、スカル先生に丸投げする方が早いのである。ま、寝てる時しか話せないんだけどね。
《初めまして、聖樹さん。俺はこうや……じゃなくてスカルっていいます。で、こっちが仲間のアクア》
《初めまして!》
アクアがいつもの様子で元気に挨拶をすると、御神木が微笑んでいるような気がした。気分を損ねたりはしていないようで一安心する。
さて、今の俺の自己紹介についてだが。今後ともドラゴンとして活動していくにあたって、活動中に本名を名乗るというのはあまりにも無理があると思うのだ。ドラゴンの存在を隠すつもりはないが、俺という一中学生がその正体だとバレるのは今後の生活に大きく支障が出てしまうのでできれば避けたい。という訳で、アメコミヒーローよろしく仮の名を付ける事にしたのだ。……しかしまぁ、流石に中二病中二病した名前なんか付けたら(羞恥的な意味で)死にそうなので、スカルさんのお名前をそのまんまお借りする事にした、という訳だ。勿論、本人にも許可は取ってあるので問題ない。
《ええっと……あ、そうだ。これ、つまらないものですが……》
話す事はいくらでもあるだろうに何故か話題が途絶えてしまったので、昨日買い物へ行った時に買ってきた物の入った紙袋を掲げる。……考えてみたら、でっかいホネホネドラゴンが小さな紙袋持ってるっていうのもなかなかに奇妙な光景だ。どうやら俺の行動には常にシュールが付きまとうらしい。
《あら、これはご親切にどうも》
物理的な干渉のできない聖樹さんのかわりに、俺がそっと中身を取り出す。俺の三本指の手は大きいが、それなりに繊細な動きが可能なのでこのくらいはお茶の子さいさいだ。
正直、何を買うべきか相当迷った。買う時点では相手が植物妖精かどうかの確証もなかったので、相手が植物という想定を重視するか、それとも人間とかでも問題ないような無難な物にするのか凄く迷ったのだ。しかも植物だと食べ物も食べられないし石鹸も使わないだろうから、無難なものというのも何を選べばいいのか分からない始末。そして結局選んできたのは……。
《あら、可愛い……》
小さな花をいくつも咲かせた、これまた小さな木だった。これならば、植物が嫌いか置くスペースが無い人じゃない限り人が相手でも問題ないだろうし、地面まで直射日光の届きにくいこの森では珍しい花がいれば、植物妖精相手でも喜んでもらえると思ったのである。
実は、この花の選択にも結構迷ったのだ。外来種を持ち込んでしまうとこの森の生態系を壊しかねないので、ちゃんと日本原産のものを。また、あまり日が当たらなくてもちゃんと育つようなもので、かつ何年でも楽しめるよう多年草を選んだ結果、この小さな木を買う事となった。実は結構お高かったのだが、ここで妥協するわけにはいかないだろう。
《ありがとうございます。ここでは花を見る事はあまりありませんので、とても嬉しいです》
声だけでも微笑んでいる事が分かる優しい声だが、この言葉が心からのものなのか、それとも社交辞令なのかは分からない。まぁ、少なくとも嫌がられてはいないようなので上出来だろう。
※聖樹さんはヒロイン候補ではありません。
ですが作者のお気に入りキャラクターではあります。今後ともたまには登場させていきたいですね。




