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第九話~運命~

お久しぶりです! 定期テストって怖い←

《我が主よ、我の仲間は気に入って頂けたか?》


「うん、可愛いし、良い子だし。これから色々と大変だとは思うけど、仲良くやっていけそうだよ」


 そうか、と赤い眼光を笑うように歪めるスカル。普段から抑揚のない話し方をするスカルがこういった感情を見せるのは珍しい事だ。彼の、仲間であるアクアを心から思いやる気持ちがひしひしと伝わってくる。


《我が主よ。アクアは優しい子だ。どうか……宜しく頼む》


 古くさいながらも普段から丁寧口調なスカルが改まって言うその言葉に、俺の気持ちも引き締まる。彼女も竜でありとても強いが、純粋で天然なその心はそこまで強靱ではないだろう。彼女の心が傷つく事のないように、俺は彼女を守っていかねばならないのだ。


「オーケー、任せとけ。ちゃんと守るよ」


 スカルの意志に応えるため、俺は力強く頷いたのだった。


《あぁそうだ、彼女の日本名だが、水喜ミズキという事で頼む》


「お、おう。いいけど、いきなりどうした?」


《いや、彼女を召喚した時から考えておいたのだ。可愛いし、明るい雰囲気がピッタリであろう?》


 うん、スカルって割と面白い奴だよね。



「ん……」


 目を覚まし、布団から体を起こす。アクアは……もう起きてるか。


 昨晩、俺と添い寝をしようとするアクアを全力で阻止しようと奮闘したのだが、半ば強引にベッドへ引きずり込まれ結局一緒に寝る羽目になってしまったのだ。まぁ、当然そんな心臓バクバクの状況下で眠ろうと思える訳もなく。アクアが寝た所を見計らってベッドを抜け出そうとしてみたのだが、抱き枕の如くガッチリホールドされていて脱出不可能、結局断念したのだった。何だかんだで疲れていたのか、はたまたスカルのエネルギー回復専念のためか、割と早い段階で寝る事ができたのは幸いだったよ……。


「リーダー起きたぁー? 今ご飯作ってるから!」


 着替えを済ませてリビングへ行くと、奥の台所にアクアの姿が。いつものセーラー服にエプロンをして、味噌汁の鍋の前に立っていた。


「おはよーリーダー! もうすぐできるからちょっと待ってて!」


 食卓に座り暫く待っていると、質素ながらも実に美味しそうな日本の定番朝食が並べられていった。


「えへへー、日本食の情報も魂に焼き付けてもらったんだ!」


 自慢げに大きい胸を張るアクア。


「お前は奥さんかよ……」


「え?」


「いや、気にしないでくれ……」


 ……ゴホン。いや、あまりに幸せすぎる非日常に思考が停止しかけていた。こんな生活をこれから送っていく事になるのか……早く慣れないと幸せ死にしそうだ。


 スズメのさえずりの聞こえる中、二人でいただきますをする。以前ならばテレビで朝のニュースでも見ている所だが、今は消してある。この朝の清々しい時間をアクアと過ごすのには不必要だと思ったのだ。


「アクア、今日は一緒に買い物に出かけようか」


「えっ、良いの!?」


 キラキラと輝くが如きツヤをもった米を口に入れ、今日の予定を切り出す。……うむ、炊飯器じゃなく、釜を使ってガスで炊いたか。美味しいご飯の何たるかをしっかりわきまえているようで関心だ。


「うん、どうせ今日祝日だから学校無いし、アクアが来たから新しい日用品や服も買いたいしね。問題無い?」


「全っ然大丈夫!」


 すっかりウキウキ気分のようだ。それはそうだろう、アクアの性格でこういった事に興味が無いはずがない。増してや彼女にとっては初めての異世界の商店街なのである。


 実は、性格的に考えて明らかにトラブルメーカー気質なアクアをわざわざ連れていくのには理由がある。勿論服のサイズを見るっていうのもあるけれど、この世界での“社会”に慣れてほしいと考えているのだ。夕べのスカルとの会話で、アクアの事を守ると心に誓った。しかしそれは、単純に彼女を箱入り娘みたいにする事では無く、この世界の社会に耐えられるしっかりした知識を与え、俺無しでもちゃんと自立できるようにする事だと思っている。ま、単純に楽しんでほしいってのもあるんだけどな。


「それじゃ、九時くらいに出発するよ」


「はーい!」


 そう元気に返事をするアクアに微笑んだ後、さっきまで皿に乗っていたはずの朝食達がいつのまにか消えて失せている事に気づき数秒固まったのだった。



「そんじゃ、絶対に俺から離れないように!」


「はーい!」


 俺達は、最寄りの駅から二駅程離れた町――今住んでいる家に引っ越す前に母さんの住んでいた町の商店街へ到着していた。というのも、普通に最寄りの駅で買い物をすると、クラスメイトを初めとした知り合いに会う危険性が高くなるからだ。別に会って悪い訳では無いが、クラスメイトには先日フルボッコされたばかりだし、新たに妙な噂が立つのも面倒だ。それに、こっちの方が店も多くて品揃えが良い。


 スキップでもし始めそうな程にウキウキ気分のアクアの事を気にかけつつ人混みの中を進む。流石は祝日とでも言うべきか、数多くの人がショッピングを楽しみにやって来ていて、ちょっと目を離すとすぐにはぐれてしまいそうなのだ。


「よし、まずは服を……」


「リーダー、これ見て見てー! 凄いよー!」


 早速独断行動を開始していた。


「大丈夫だよぉ、私はリーダーの匂いかぎ分けられるもん」


「犬かよ」


「うぅん、猫型獣竜」


 そんな下手なコントみたいな会話もしつつ、目的の服屋を目指す。昔母さんと一緒に行って、それ以来すっかり行きつけになっている店だ。品揃えは良いし、顔見知りの俺ならいつもまけてくれるから今回みたいに結構買う予定の時には実に助かる。……彼女だ何だといじられるのは目に見えているけどね。まぁ、背に腹は変えられないだろう。


「おやっ、条くんじゃない。久しぶり、元気にしてた?」


「おばさん、ご無沙汰してます」


 目的の店へ着くと、店の外へ出て商品の整理をしていた女性が話しかけてきた。昔からこの店で働いている人で、俺の母さんもずっとお世話になっていた。とても面倒見の良い人で、昔は俺もよく相手をしてもらっていたのを覚えている。


「条くんもえらいよねぇ、ずっと一人で生活してるんでしょう? 何かあったらおばさんに言いなさいよね!」


「はい、ありがとうございます」


 頭を下げる俺にニコッと笑ったおばさんは、さっ、と言いながら手を叩いた。


「服を買いに来たんでしょう? 条くんに合う服なら残してあるから見ていって!」


「あ、お気持ち嬉しいんですけど、今日買いに来たのは俺の服じゃないんですよ」


 え、と首を傾げるおばさんから視線を外し、少し離れた場所で早速服の物色を始めていたアクアを呼び寄せる。


「この子の服をお願いしたいんです」


「えっと、初めまして、アク……じゃなくて水喜です!」


 俺に促されて挨拶をするアクア。挨拶を返した後に俺に向けられたおばさんの目は……明らかにニヤけていた。


「任せなさい! おばさん、これは張り切っちゃうわね!」


 いつも俺の服を選ぶ時とも、増してや普通のお客さんを接待する時とも違う高いテンションで宣言するおばさん。……もう、いいや。うん、アクアが喜んでくれているのなら、俺はどうなっても。


 今後の自分の評価がどのような方向へ進むのか分からず、思わず盛大なため息をつくのと、ある臭いが俺の鼻を掠めたのはほぼ同時だった。そうそれは、竜になってから四度目となる“死の臭い”。よりにもよってこのタイミングか……。


 うーむ……。距離から考えて、この商店街周辺だろう。いよいよ人目のある町中での人命救助か……少しばかり緊張するな。まぁ、人に見られちゃいけないって訳じゃないし、あまり気負わずに行こう。


「おばさん、ちょっと水喜の事よろしくお願いします」


「あら、どうしたの?」


「いえ、ちょっと用事を思い出しまして」


「えー、リーダ……じゃなくてジョーくん行っちゃうのー? 私の服が似合うかどうか見てもらいたかったのに……」


 ヒュー、と店の奥から聞こえてきた店長の冷やかしの声に会釈をしつつ、アクアに手を振って店を離れる。ごめんよ、こればっかりは勘弁してくれ。仕事みたいなモンなんだ。


 俺は、楽しげにショッピングをする人々には似つかわしくない激臭のする方向を強く睨みつけ、気を引き締めて足を踏み出したのだった。



「えぇっと、後は……」


 私、間宮涼子は、近くの商店街へと買い出しへ来ていた。最近は悩み事のせいでろくな食事をとっていなかったので、ここに来るのは久しぶりだ。


“信じる人がいれば、それは必ず存在する”


 あの時神山君の言っていた言葉は、私の考えに大きな変化を与えた。あの発言は、竜神教と同じように唯一神を信仰する他の宗教信者にこれを言ってしまっては怒られても仕方ないようなものかもしれない。唯一無二の存在である神が、人間の考え一つで存在がかわってしまうようなあやふやな物だという事は、一部の人には受け入れ難い事だと思う。


 でも、竜神教はそうではない。この宗教における唯一神“竜神”は、飽くまで人々の心のより所となる媒体としての存在だ。わざわざ竜神が存在する事を無理に押しつけるような事はしないし、信者の中で竜神についての意見等が出た所で罰したりする事は無く、寧ろ良い点は取り入れている。極端に言えば、おとぎ話の主人公という媒体を通して大人達が子供に人道的な振る舞いを教えるようなものだ。


 しかし逆に言えば、それはこの宗教そのものがかなりあやふやな存在という事。あやふやな存在は、その外部のみならず“内部”の物からさえ大きな影響を受ける。金子亮率いる竜神教の“新宗派”の影響は、私たちの信仰する竜神にも確実に現れているだろう。間違った信仰、解釈をされた神は、その姿を間違ったものへと変えてしまう。ある宗教の神が、他宗教から“邪神”と呼ばれてしまう事があるように……。


「だから、私も気持ちを強く持たないと!」


 そう、それなら、私たちが強く意志を持っていればいいんだ。金子達の意志でおかしい方向へ進もうとする竜神教を、私達の意志で押しとどめる。みんなが平等で、行動が制限されていないけれど、他人の事を思いやって行動するこれまでの素晴らしい竜神教を守るんだ。


「……亮」


 改めて、自分が戦おうとしている存在を確かめる。金子亮、私の幼馴染。私をこの竜神教に引き入れてくれた張本人であり、新宗派のリーダー。そして……思い人。


 私が、彼の事をそういう目で見始めたのはいつからだっただろうか。幼馴染として一緒に過ごしているうちに、いつの間にかそれ以上の目で見るようになってしまっていた。その事に後悔はしていないし、今でもこの気持ちは変わらない。できる事なら、彼を説得して戻ってほしいとも思っている。大体、亮は元々こんな事をするような性格では無かったはずだ。一体彼に、何が……。


「むぐっ!?」


 突然、横から手で口を塞がれる。と同時に、力強く腕を引っ張られた。見れば、建物と建物の間――狭い路地裏からその手は伸びている。


 抵抗しようとするも、尋常ではない力でもって一気に路地裏へ引き込まれる。僅かに上げた声も、周りの人混みによって空しくかき消されていった。


 肩が外れてしまうのではないかと思う程の強い力によって路地裏のさらに奥へ引っ張られていった私は、三方を壁で囲まれた場所へと連れてこられ、その奥へ突き飛ばされる。


「いっ……。だ、誰!?」


 上体を起こして、私をここへ連れてきた張本人を見る。そこには、通常ではありえないような量の筋肉を持つ一人の男がいた。


「ヒ、ヒヒヒ。よう、間宮さん、だったか? アンタにゃ、ここで死んでもらうぜ」


 男の顔が醜く笑う。まるで品定めをするようなその目に、全身に鳥肌が立った。


「突然何を言うの!? 私はあなたに会った事なんか……」


「あーもう、うっせぇなぁ」


 返答するのも面倒臭いという様子に返答する男。しかしその目はやはり、殺戮の楽しみにいやらしく歪められていた。


「コイツは金子さんの指示なんだよぉ。大人しく殺されろ」


「え……」


 金、子? 今、この男は金子と言ったの? まさか、そんな! あいつが私を殺すように!? そんな、そんな……嘘……。


 懐から大振りのナイフを取り出した男がにじりよって来る。私は腰が抜けてしまい、更に先ほどの奴の発言でのダメージによる追い打ちで完全に逃げる機会を失ってしまい、為す術が無くなってしまっていた。


「んじゃぁな、あの世で竜神様に宜しく言っといてくれや。ヒヒヒ」


 ナイフが大きく振りかぶられる。混乱の末、とうとう逃げる気力さえ失ってしまった私は、虚ろな目でそれを見ていた。


 折角あの時、竜神様に救ってもらった命。私の思い過ごしかもしれないけど、信じる物は存在するという彼の言葉に基づけばきっと私を助けてくれたのであろう竜神様。その事への私にできる恩返しは、この竜神教を再び正しい道へ導く事だと思っていたのに……。


――ごめんなさい――


 そっと呟き、目をつぶる。そして、ありったけ振りかぶられたナイフが、私へ突き刺され……なかった。


「あ?」


 男の苛立ったような声に、閉じていた目を開ける。驚いた事に、男の腕は横に大きく振りかぶられたまま、後ろから包帯で包まれた別の腕で止められていた。


「やほ、間宮さん。お久しぶりです」


「こ、神山くん!?」


 男の後ろへ立ち、その異常な筋肉を持つ腕を片手でたやすく拘束していたのは、ついこの間会ったちょっと不思議な、私の人生を変えてくれた少年――神山条一郎君だった。


「いやー、こんな所で偶然ですねー。こないだ会ってからそんなに経ってないですけど、お元気でした?」


 この状況がまったく理解できていないかのように気軽に話しかけてくる神山君。しかしその左腕は、しっかりと男の丸太のような剛腕を掴んで放さない。


「おいガキ! どんなトリック使ってやがる、さっさと放しやがれ!」


「おっとこれは失礼しました。今放します……よっと!」


「……!?」


 高山君の左腕が、ナイフを持った男の右腕を持ったまま振り上げられる。すると、筋肉で軽く100キロは超えているであろう男の体がいとも容易く宙に浮き、後方へ放り投げられたのだ。


「う、嘘……」


 土煙を上げ、舗装されていない地面へ勢い良く激突する男。こんなとんでもない事をした張本人である神山君は、にっこりと笑って私の所へやってきた。


「余計なお世話かもしれませんが……まさか、男関係のトラブル?」


「そんな訳ないでしょ!?」


 驚きが一周回って冷静になっているせいか、神山君の的外れな質問に普通に突っ込んでしまう。あちゃ、と言いつつ肩をすくめる神山君の顔は、相変わらず涼しいものだ。


「こんの……クソガキガァァァァァ!!!」


 まるで化け物の咆哮のような声が、彼の後方から木霊する。いつの間に立ち上がったのか、目を血走らせたナイフの男がわなわなと怒りに震えていた。


「あ、間宮さんちょっと待っててください。すぐ済みますんで」


 そう言って後ろを向いた神山君へ向け、男が一気に肉薄する。やはり筋力によって走るスピードも桁違いに底上げされているらしく、その肥大した体に似合わない素早さだった。そしてありったけ後ろへ引き絞られた拳が、走る勢いのままに神山君へ迫る。が、足で踏ん張る姿勢をとった彼の包帯腕によっていとも簡単に受け止められてしまった。しかし、男の攻撃はこれだけではなかった。体の後ろへやっていたもう片方の腕を、間髪入れず横殴りにするように勢い良く回したのだ。


 ザクリ。


 嫌な音と共に、男の顔が再び愉悦に歪む。二撃目の腕に握られていたのは、先ほどのナイフ。それを受けた神山君の“右腕”に、それが深々と突き刺さっていたのだった。


間宮さん、災難ですねぇ。神山君は相変わらず竜神教にご縁があるようです。それが良い縁かどうかは別として。


次回の投稿は……やっぱり不定期ですね、すいません。それでは~。

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