15-3 少女漫画家・五十嵐ネミ登場!
「ご、ごめんね、柊さん。ワタシ浮かれちゃって……ああもう、痙攣まで起こしちゃって恥ずかしい」
「いいよいいよ。それよりお腹大丈夫? 腹筋攣る人なんて初めて見たから、うまく対処できなかったよ」
「慣れてるから平気。柊さんこそ、眼球大丈夫? 涙で押し流されそうになってたけど、何か補強とか要る?」
「私も慣れてるよ。眼球強いから、一気に五リットルくらい泣いても落ちないと思う」
私達は再びソファーに並んで座って、お互いの心配をし合った。
峯岸さん、落ち着いて本当に良かった……白目剥いて倒れてもお腹ビクビクしてたから、何か飛び出してくるんじゃないかと思って超怖かったし。
「えーと、何から話そうかな。んー、じゃあまずワタシのことから。峯岸五十鈴、十六歳。高校は億正学園、一年生。あ、今日学校サボったわけじゃないよ。オクガクは私服通学なの。中学は更科中学、梨奈っちと有瀬くんとは同級生だよ」
私も自己紹介すべきかと思ったけれど、峯岸さんはそれを制して続きを話した。
「有瀬くんを観察するライングループを作ったのは、ワタシ。でもワタシも皆も、変なことするつもりはなかったの。城咲さんの監視の目がほんとヤバくてね……城咲さんのことも、もちろん知ってるよね?」
「うん、友達だからね。毎日一緒にランチしてるし、ラインでよく少女漫画の話もするよ。旅行したらお土産もくれるし、誕プレ……はいろいろとアレだったけど城咲さんなりに奮発してくれたし、すごく仲良く」
「え!? アレと友達なの!? やべぇな、柊さん! てか城咲さん、少女漫画なんて読むの!? ホラーにしか興味なかったのに!?」
峯岸さんの驚きの声と表情に、私は額を押さえた。
梨奈ちゃんも同じ反応してたなぁ。おいおい、サラチューの女子、どんな目に遭わされたんだよ……。
あまり詳しく聞きたくなかったので受け流すことにして、私は続きをお願いした。
「神がかり的なとんでもねぇ美形の到来に入学式から皆浮き立ってたんだけどさ、話しかけるのは無理として、見るだけでも見たいのに城咲さんはそれも許さなかったんだよね。で、ワタシが皆を代表してライングループ作ったの。ほら、ワタシこんな存在感薄い顔してるじゃん? おかげで警戒されにくかったみたいで、割としっかり有瀬くんを観察できたんだよね」
そう、そこなんだよね!
「どうして有瀬くんを観察するのよ? イケメンを眺めたいって気持ちはわかる。変なことするつもりはないって言ってたけど、あの有瀬くんにだってプライバシーってものが少なからずちょっとくらいはあるんだよ。本人は意識してなさそうだけど、多分あるの、多分。しかも中学にいる時だけならまだしも、今も追っかけてるんでしょ? そんなのストーカーと変わらないじゃん。可哀想だからやめてあげてよ」
これぞ契機とばかりに、私は言わなくてはならないことを伝えた。
峯岸さんの目が泳ぐ。やましいことしてるって自覚してる証だ。
「ええとね……あのね、実はワタシ……漫画家、やってるんだよね……」
「…………は?」
が、彼女の口から出たカミングアウトの言葉は意外すぎて、しかも話の筋から吹っ飛びすぎてた。おかげで一瞬、何の話をしてたのかわからなくなった。
「あ、あの、五十嵐ネミって知らないかな? ワタシのペンネーム、なんだけど……」
「い、五十嵐ネミって……まさか『恋生き』の!?」
峯岸さんが顔を赤くして頷く。
ウソやん……こ、この人が『恋は短し、生きよ乙女』の作者?
私と同じJKなのに……いや、連載開始時は中学三年だったからJCだったってことよね? そりゃ共感しまくるわ、だって同年の子が描いてたんだもん!
信じられない……あの『恋生き』の作者様が今ここに御座しますなんて! お会いできる日が来るなんて!
「五十嵐先生! デビュー作の『みらくるピース!』から応援してました! 最近ちょっと忙しくて『恋生き』は最新話まで追えてないけど、連載時から応援してます! サインください!」
うってかわって平身低頭する私に、五十嵐先生……峯岸さんは苦笑いした。
「サインなら百枚でも千枚でも書くから、ワタシの弁明聞いてもらっていい? 後でどれだけ怒ってくれても構わないからさ」
「はいっ、それはもちろん!」
元気良く返事し、私は話を聞く姿勢に戻った。
そうだよ、たとえ五十嵐先生だってストーカー行為は許さないんだから。
罰として、『恋生き』の理仁の生イラスト百枚描いてもらっちゃうんだから!
ルーム料金も含め、今日は自分が呼び付けたんだから奢りだと峯岸さんが言ってくれたので、クリームソーダとポテトをオーダーさせてもらった。
二つのクリームソーダと大盛りのポテトが届いたところで、峯岸さんは話し始めた。




