14-3 超絶イケメンに好き放題できる地獄、開幕!
九月も中盤を過ぎると、そろそろテストの範囲も見えてくる。
となると、私のようなバカの民は授業と並行して試験勉強を開始しなくてはならない。これには四苦八苦した。
だって、夏休み期間は実質まるまる一月勉強してないも同然だったもん。
課題は一応の一応やるにはやったけど、数学なんてほぼ有瀬くんの丸写ししただけだったし……おかげで頭の中から勉強の概念そのものが抜け落ちちゃって、授業も何が何だか状態だ。そんなん習ったっけ? って毎回首傾げてるよ。
はぁ……これ復習もやんなきゃなんない感じじゃない?
理解までの道程が遥か遠くファラウェイだ……あ、英語使えた。うん、私には賢いとこもある。ってくだらないけど、こうして自分を褒めて鼓舞しなきゃやってらんないよ。
でも、こんなおバカな私を助けてくれる人もいた。茉絢と城咲さん、時々有瀬くんだ。
茉絢は放課後、私と梨奈ちゃんに英語を教えてくれた。
そこで意外なことに、梨奈ちゃんにスピーキングの才能があることが発覚したんだよね。舌を巻く発音がすごく上手いんだって。
「うーん、兄貴の影響かなぁ? あたし、お兄ちゃんっ子で、小さい時から兄貴の言葉遣いをよく真似してたんだよね」
梨奈ちゃんの言葉に、茉絢はお兄さんバイリンガルなの!? って盛り上がっていたけど……多分違うと思う。
梨奈ちゃんにお兄さんの真似してもらったけど……『ワレェイテモウタルドゴルァ』って、確かに外国語っぽく聞こえなくもないけど……多分違うと思う。
夜になると、城咲さんと有瀬くんとビデオ通話で数学の勉強会だ。
私がわからない問題を提示すると、有瀬くんがさくさくっと解いて、その答えを城咲さんが丁寧に解説してくれるの。
いや、普通に有瀬くんなしで良かったんだけどね……参加するって言って聞かなかったからね……うん、仲間外れは良くないもんね。
でも有瀬くんだって、参考書の解答ページみたいにただ答えを示してるだけじゃなくて、イコールとイコールの間に何がどうなってるのかわからないって伝えると、過程を詳しく書き記してくれる。城咲さん曰く、効率重視の解き方らしいけど、理解できなくても有瀬くんの頭の中を見てるみたいでちょっと面白かった。
きっと寄り道しないで最短距離で目的地に行くタイプ、ってことなんだろうな。寄り道ってすっごい楽しいのにねー。
有瀬くんとは真逆で、寄り道ばかりで目的地を見失いがちな私だけど、皆のおかげで授業についていけるレベルには回復した。
高校生になって二回目の中間テストも、前回の期末よりマシだった気がするよ!
ありがとう、茉絢! ありがとう、城咲さん、時々有瀬くん!
辛く苦しいテスト期間が終わった翌日。これから答案返却ラッシュが始まるけれど、過ぎたことは仕方ない。
とにかくやっと憂いなく晴れやかな気分で学校に行ける、と意気揚々と玄関を出たところで、それは起こった。
「あ……え?」
「誕生日おめでとう、那由多。サプライズプレゼントだ」
「お誕生日おめでとう、柊さん! サプライズプレゼントよ!」
我が家の門の前に、そこだけ別世界みたいな美形二人が揃っている。
アプローチの敷石の上で、私は固まった。
出てきたばっかりだけど家に戻っていいかな? ちょっと気持ちを整理したい。
蹌踉めきかけながらも背を向けて逃げ帰ろうとしたところで、肩をがっしりと掴まれた。
恐る恐る振り向くと、至近距離で城咲さんの美しい笑顔が迎え撃つ。
「ほら、ちゃんと受け取って。世界にたった一つ、柊さんだけの特別なプレゼントなんだから。これ以上素晴らしいものはないわよ?」
既に半泣きになりながら、私は城咲さんに引っ立てられ――十日前に切り替わった冬服の首元から、ネクタイどころかブレザーまで隠れるほどゴージャスなリボンを結んだプレゼント仕様の有瀬くんに改めて引き合わされた。
どうしよう、早くも嫌な予感しかしない。
だけど、超いらねぇ〜……なんてとても言えた空気じゃない。
ろくでもないことだとわかってるから、わざわざ聞きたくない……でも聞かなきゃ、この不穏すぎる状況から抜け出せない。
「あ、有瀬くんも城咲さんも、お祝いしてくれてありがとう。すごく嬉しいよ! えっと、今日は早起きできたんだね? すごいじゃーん。電車混んでなかった? ちょうど通勤通学ラッシュの時間だよねー。二人の最寄り駅って、あのでかいターミナル駅じゃん? あの辺、栄えてるから乗り込むだけで大変そう。いやもうほんと、そんな大変な思いしてまで来てくれて本当にありがとうねー!」
無理矢理笑顏を作り、私はまずは二人にお礼を言うと、そこからベラベラ喋り倒した。
んああ……ダメだぁぁ、聞き出す勇気が出ない!
どうかこのまま、誕生日にわざわざ家まで迎えに来てくれたことがプレゼント♡ってことにしてくれ……頼む!
「今日一日、俺を好きにしていい」
「す!?」
が、前振り一切なしで、爆弾発言が投下された。
衝撃で尻もちをつきかかったけれど、城咲さんに支えられて持ち直す。
な、何を、どうしていい、だって?
「今日一日だけは、留佳はあなたのものよ。何をしてもいいわ。そう、何をしてもいいの、わかる?」
立ち竦む私の耳元を、艶めいた囁きがしっとりと撫でる。
「な、何をしてもって……」
「いいのよ、柊さん……アンなことやヤンなことも、今日だけは許されるの。今日だけナニをしてもいい……どう? 最高のプレゼントでしょう……?」
いや待って!
この人、何でこんなやたらセクシーボイスで囁いてくるの!?
アンとかヤンとかナニとか、全部あんたの願望でしょうが!
「アンなこともヤンなことも受けて立つぞ、何でも来い」
有瀬くんが、ぐっと腕を突き出して力こぶを作ってみせる。
おいコラ、貴様の方は意味わかってないだろ!?
アンもヤンも何も、精神はまだ汚れを知らないオギャアンな赤子でしょ!? 何も理解できてないまま、こんな身を売るに等しい企画に乗るなんて、バカなのアホなの雑なの!? もっと自分を大事にしなさいよ!
「柊さん……まずは留佳に、何をしてほしい……?」
城咲さんがエロボで耳をくすぐりながら、ぐっと私の肩を押す。
「アンか? ヤンか? 両方でもいいぞ?」
有瀬くんが次元突破ウルトラハイパーレジェンド級の美貌を寄せてくる。
前後から攻め立てられ、私の目からついに涙が溢れた。
何なの、これ……こんなにお祝いしてくれてありがたいはずなのに、どうしてこんなに夢であってくれって思ってしまうの……。
泣きながらやっとのことで絞り出した最初の願いは『腕を組まずに登校したい』だった。二人は私が嬉し泣きしてると思ったようで、道中、ずっとサプライズ大成功! って喜んでた。
確かにそれも半分あるんだけどさ! 嬉しくないわけじゃないんだけどさ!




