2-3 イケメンの正体見たり雑野郎
というわけで――城咲さんの提案に従って、恋人的に腕を組むことになった、のだが。
「あだだだだ! 有瀬くん、腕、腕振り回すのやめて! お願いだからマグロは反対側の手に持ち替えて! べしべし当たるの、地味に痛いの! おまけに肩取れる外れる持ってかれる!」
「あ、あっちにたくさん草が生えてるな。拾って腹の足しにしよう。チョコバー少し食ったくらいじゃ全然足りねぇ」
「ぎぃやぁぁあ! 急に引っ張んないで! ぐあっ、ワキ、ワキに衝撃ががが! ワキは、ワキだけはもっと優しく扱って! ワキには毛細血管がいっぱい詰まってんのよ!」
「それ、ネタであって医学的な事実とは異なるらしいわ。だから大丈夫よ、多分恐らくきっと」
号泣哀願する私など放置して有瀬くんは突っ走るし、城咲さんはフォローになってないフォローの言葉しかかけてくれない。
外見の破滅的なまでの美しさのせいで、毎回うっかり忘れかけてしまうけれど――この人達、とんでもなく変なんだった!
まず城咲さん。
入学式で新入生代表スピーチをしたっていうから、外見のみならず成績も飛び抜けて優秀な才女なのは間違いないんだろう。
だから油断してた。いろいろと言動行動は行き過ぎているけど、実は密かに恋してるっぽいし、美人でもやっぱり自分達と同じ、乙女心に揺れるJKなんじゃーんって勝手に親近感を抱いてた。
しかしまさかのまさか、よもやのよもや、恋人同士の腕の組み方も知らないくらい恋愛偏差値が低かったとは……!
普通は恋人同士的な感じで腕を組むっていったら、女子が男子の腕に自分の手を絡めるもんだよね? 恋愛ドラマとか少女漫画とかでもよく見るし、リアルでもやってる人多いよね? 彼氏いない歴イコール年齢の私だって、やったことはなくても知ってはいる。
なのにどうして!
頭脳明晰乙女なはずの城咲さんが!
こんなことも知らないの!?
城咲さんって、映像や書籍なんかでラブストーリーに触れたことすらないのかな!? 恋する乙女なら、いやそうじゃなくても普通に持ってて当然の知識でしょ!
そんな城咲さんが『何となく言葉として知ってるだけ、多分こんな感じだろう』といった認識レベルの行為を、私達は無理矢理実践させられた。その結果がこの惨状だ。
城咲さんのレクチャーで、有瀬くんが私の腕を挟み込むみたいにして引っ掴んだところからおかしいとは思ってたんだ。そこでちゃんと間違いを訂正しとけば良かった。イケメンとの接触に浮かれて、あわあわはわわして何も言えなくなったあの時の自分にビンタしてやりたい! でもやっぱりビンタは痛いしきっと泣いちゃうし私が可哀想だから、デコピンに変更だ!
何なの、この苦行。身長差があるせいで、腕が常に引き上げられて痛苦し辛い。
なのに有瀬くん、私の腕を絡め取ってることも忘れて、こっちの関節の可動域を無視して自由気ままに動き回るんだよ……もう脇から肩から心まで早くも瀕死だよ!
有瀬くんが道端にしゃがみ込んで雑草を吟味し始めたおかげで、私はやっと苦痛の連続攻撃から解放された。
束の間の休息タイムの、何とありがたいことか。
「し、城咲さん……今度、私の持ってる恋愛ドラマと恋愛漫画と恋愛小説、貸すね……いろいろと参考になると思うよ……」
出っ放しの涙を拭く気力も湧かず、息も絶え絶えに城咲さんに告げると。
「えっ……い、いいの? あの、ありがとう……柊さん」
私からの申し出が意外だったみたいで、城咲さんはふっくらとすっきりの絶妙バランスが織り成す美麗な頬をほんのり赤らめてお礼を言ってくれた。
ああっ、もう! こうして見てるだけなら、即百合落ちしてもおかしくないくらい可愛いのになあ!
そして、そんな魅惑の乙女すぎる城咲さんそっちのけで、もしゃもしゃ雑草を食ってる有瀬くん。
雑草を口にしててもイケメンってどういうことなの……そろそろこの顔の良さが怖いを通り越して、腹立たしくなってきたわ。
「有瀬くん、食べられる草がわかるんだねー。すごいねー。いよっ、今をときめく草マイスター!」
おざなりに褒めながら腕を抜こうとしたけど、全力で踏ん張ってもビクともしない。
このやろ、どんだけバカ力なの。城咲さんと戦う間柄なだけあるわ。本当に鬼間ね!
「は? わかるも何もない、口に入れたら何でも食べられるだろ。柊那由多はそんなことも知らないのか? もしかしてアホなのか?」
有瀬くんがこちらを向いて冷ややかに言う。気怠げにひそめられた目には、ひっそりと哀れみが宿っていた。
食べられる草を選別してたんじゃないんだ……。口に入るものなら何でも食べるんだ……。歯が砕けるほど固い岩石とか、一口で死んじゃう毒キノコとか、物理的にも内臓的にも危ないものがあるってことも知らないんだ……。
どうしよう、こんな適当極まりない思考回路の人に、アホだと憐れまれた……。深く傷付いた……今私、軽く絶望感に見舞われてる……。
頭が真っ白になっていた私だったが、有瀬くんが立ち上がったせいで絶望に浸ることすらままならなくなった。
「いだだだ! だーかーらー! 少しは私の肩とワキを労ってよぉぉぉ!」
「留佳、歯磨きセットならちゃんと持ってきてるから後でちゃんと歯磨きしなさいよ」
「うん、虫歯は怖いからな。お菓子が食べられなくなる」
「城咲さん、歯間ブラシ、歯間ブラシはある!? 有瀬くんの歯の隙間から雑草がコンニチハしてたら、地獄絵図になるよぉぉぉ! イケメン殺草地獄だよぉぉぉいだでだだ! だから肩ぁぁぁワキぃぃぃ! 振り回すなマグロをぉぉぉ!」
――囚われた宇宙人状態の腕組みで、こんな会話になってない会話を繰り広げて、どこが恋人同士に見えるというのか。皆に見せつけられる気が全くしない。
けれども城咲さんがこうしろと言ったんだから、仕方ない。諦めて苦行に殉じるしか、私には選択肢がなかった。
しかしこの阿鼻叫喚の登校を経て、一つ、わかったことがある。
城咲さんは変だ。これは間違いない。彼女は頭が良いのにその頭脳の使い途が暴走してる、とてつもなく変な人だ。
でも、有瀬くんはというと――変ではあるけれど、城咲さんとはちょっと違う。
彼は、この上なく雑なのだ。名前を覚えさせるところから、何となくそうじゃないかと思っていた。たまたま近くにいただけの私を恋人にしたり、人ん家の敷地内で平気で爆睡したり、血糖値カチ無視でチョコバーを貪り食ったり、口に入るものは何でも食べられると思っていたり――このように雑すぎるがゆえに、変に見えるだけなのだ。
これがわかったからといって、対応策が浮かぶわけじゃない。けれど、何かの役に立つはず……だと思いたい。




