13-1 嫌いなものもガムシロかければ好物になる理論
お盆が過ぎると、長い夏休みにも終わりが見えてきた。
思えば、いろんなことがあった。新しい友人達と知り合えた。新しいことも学んだ。
勉強も遊びもお出かけも、中学生の時と大差ないことしかしていないはずなのに、全然違って、キラキラして感じたなぁ。高校生ってほんとすごい。
だがしかし、振り返りに入るにはまだ早い。
私には、己に宿る二つの恐怖を克服するという使命が残されているのよ!
一つでも厄介なのに、実はもう一つ抱えていたなんて……自分のことは自分が一番わからないって本当だよね。
とはいえ、どちらも既に解決策はある。
本当にありがとう! 潤奈さん!!
参考にはならなかったけど、出会いから結ばれるまでの感動秘話をありがとう! 濱家さん、聖良ちゃん、ミッチー!!
裏の一面知っちゃって申し訳ないけどご協力ありがとう、ハヤトにリツにトシヤ!!
一つは、簡単に事を進めることができた。
『オムライスのグリーンピースが許せない』
「ふむふむ、他には?」
『シュウマイのグリーンピースは許せる』
「ほうほう、それでそれで?」
『お菓子のグリーンピースは良いと思う。でも台湾のは辛すぎてお腹壊した』
「へー、台湾にそんなお菓子あるんだ。有瀬くん、辛いのは苦手なの?」
『苦手というか体が嫌がる。カレーも甘口が心地良い。那由多は?』
「私はピリ辛程度ならいけるよ。カレーは中辛までかなー。あ、そだ、甘党なら卵焼きも甘いの派?」
『父が作るのは甘くない。それしか知らないから、甘いのは食べたことねぇな。甘い卵焼きなんてあんのか』
「そうなんだ、実はあるんだよ。ウチのは甘いの。今度作って持ってくからさ、ちょっと食べてみてよ。そんで比べてから、改めて好み教えて」
『いつ持ってくるんだ? すぐにでも食ってみたい』
「新学期始まったらね。言っとくけど料理の腕には期待しないでよ? 真央さんに比べたら、私なんかレジェント・オブ・ゴミだから。うわやば、もうこんな時間じゃん。また真央さんにカチコミ食らう前に切るね。おやすみ、有瀬くん」
『うん、おやすみ、那由多』
電話を切ると私はすぐにノーパソを開き、情報整理アプリを立ち上げた。そして、本日得た情報を、走り書きしたメモを参考に入力していく。スマホにも同じアプリが入れて共有しているから、同期すれば完了だ。
怖さをなくすためには、相手のことをもっと知ればいい――潤奈さんに教わった方法を実践すべく、私は有瀬くんと毎晩電話で情報交換している。
最初はラインのトークで始めたんだけど、質問をいちいち入力するのがどんどん面倒臭くなっちゃって。電話の方が早いと思って有瀬くんに聞いてみたら、二つ返事でオッケーしてくれたんだよね。それから寝る前の一時間ほど、ここ数日は欠かさず通話している。
おかげで効率的に情報が集められて、とても捗ってるよ!
初日は盛り上がってあれこれ聞いてたら時間忘れちゃって、真央さんが飛び入り参加してきたんだよなぁ……あの怒鳴り声、思い出すだけで鼓膜が震えるわ。
有瀬家は遅くても0時には消灯なんて知らなかったんだから、あんなに怒ることないじゃない。あの人なら、電話からでも耳に闘気流し込んで人を倒せそうだよね。
ピーマンが嫌い、ナスはもっと嫌い、ハンバーグは肉肉しいよりふわふわしてる方が好み、シチューはビーフよりホワイト、ライスとパンは甲乙付けがたい、肉と魚も然り、飲み物はリンゴジュースが好きだけど透明のじゃなくて濁ってる方がいい、紅茶は特にレモン派でもなく何でも良くて、コーヒーの方が好み……って、今のとこ食べ物ばっかだな。そろそろ別のことも聞こう。
それにしても、と、私はまとめた情報を眺めて溜息をついた。
お菓子が好きってことくらいしか知らなかったし、空腹になったら草でも石でも何でも口にする有瀬くんにも一応は好みってもんがあるんだね。いやはや、ちゃんと嫌いなものまであるとは。それでも目の前にあれば、やだなーと思いつつも残さず食べるらしいけど。
きっと、真央さんの躾のおかげなんだろう。
こんなので本当に怖くなくなるのかなぁって、不安はあった。でも潤奈さんが教えてくれた通り、この方法は確かに効果がありそうだと思い始めている。
好きなものが被るとわかってくれるかーとちょっと嬉しくなるし、嫌いなものが被ればわかるわかると賛同する。逆だとわかってない奴だなーって思うけど、理由を聞いて自分にとっての好きなもの嫌いなものと置き換えてみれば納得がいく。
そう、この共感して理解し合うっていうのが大事なんだよ、きっと!
理解を深め合えば、相手を怖がらせることはしなくなる。事前に察知して、これはやっちゃいけないなと思い留まれる。
あの人が大丈夫だったんだから自分も大丈夫だなんて、思い上がることだってなくなる。
少しずつ理解が深まってきたおかげか、電話で話す有瀬くんには少しも怖いなんて感覚を抱かなかった。
向こうも同じ……だといいな。毎晩質問電話に付き合ってくれるんだから、大丈夫……と信じたい。怖くて拒否できなくて、嫌だけど我慢してるだけ……とは思いたくない。
それに、電話するといいこともあるんだよね。あのイケボを耳元で聞ける! イケボ独占生配信、最高の贅沢だよ!
さあ、有瀬くんデータもまとめたし、今夜もイケボのおやすみの声を耳奥でリピート再生しながら寝るとするか。
明日はいよいよもう一つの恐怖を克服するために、動き出さなきゃならないんだから。




