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アオハル of the Dead End! ~平凡女子高生、顔面チートで頭赤ちゃんな超雑男子とラブコメ(ほぼコメ)する~  作者: 節トキ
LESSON 12 恋人に関する悩みを相談しよう!

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12-5 君の恐怖に乾涙


「紳一郎くんね、大事な試合を控えてたのに、その時に大きな怪我しちゃって……おまけに傷害罪にまで問われてね、何もかもダメになっちゃったの」



 それでも、紳一郎さんは潤奈さんを責めなかった。


 自分が勝手に助けただけだ、初恋の人が苦しんでいるところを見たくなかったから、と言って。



「…………高校生の時に付き合ってた初めての彼氏っていうのが、紳一郎くんだったのよねぇ」


「ええ!? まじで!? 運命かつディスティニーじゃん!」



 運命がディスティニーすぎる再会に、思わず大きな声を出してしまった……けど、叫びたくもなるよね!?

 地獄の鬱展開の後に、こんなロマンチックなエンディングが待っていたとは!


 しかし、現実はこうして二人は幸せに暮らしましたとさ、とはいかなかったようだ。



「あたし、いろいろと無茶したせいで子どもが産めない体になってたのよねぇ。それもあって、向こうの親御さんには当然大反対されて。もちろんウチの両親にも、将来を潰した相手と一緒になったらいつかお前がつらい思いをする、やめておけって泣きながら説得されたわ。ほんとにね、こんなダメな娘なのにどこまでも心配して……いつまでも心配かけて……本当にダメよねぇ」



 潤奈さんの声が潤みを帯びる。


 私? 潤奈さんの高校時代のヤリ捨て辺りからとっくに怒涛の涙ラッシュだよ!



「でも、それでも、あたしは紳一郎くんと一緒になるって決めたの。つらい思いをしても、いつか彼にお前なんかと結婚するんじゃなかったって詰られても、殴られても、殺されても、捨てられても、少しの間だけでも支えになれたらいいって思ったからさ」



 爆泣きしながら、私はうんうんと頷いた。



「それじゃ遅くなったけど、ゆーちゃんの質問に答えるね。あたしは、紳一郎くんを怖いと思ったことないよ。どんなことがあっても、紳一郎くんを信じてるからね!」


「信じる……」



 信じたら怖くなくなるもの?

 でも、オバケって信じたら怖いじゃん?

 オバケなんかいないって信じたら、怖くなくなるってこと?


 うーん、ちょっとわかんないな。もう少し頭の悪い私にも理解できるヒントがほしい。



「あー……うん、そうだね。潤奈さんと紳一郎さんは、強い信頼関係で結ばれてるからね。じゃあ一つここで、信頼関係なしで考えてみてほしいな」


「えー、ゆーちゃん、有瀬くんと信頼関係結べてないの? 仲良しだって聞いてるけどぉ?」



 潤奈さんがからかうように言う。


 ななななんで有瀬くんのことを相談してるってバレたし!?



「ちょっ、ちが……有瀬くんの話だとは言ってないよ!? そうじゃなくて、信頼関係のない紳一郎さんが突然暴れて襲いかかってきたらどうするかって聞きたいの!」



 すると、潤奈さんはあっけらかんと答えた。



「簡単じゃない。刃物でぶっ刺せばいいのよ」


「え」


「どれだけ強かろうと体格差があろうと、凶器があれば勝てるわよ。正面からなら首か心臓、背中向けてたら滅多刺しにすればいいだけじゃない? 刃物で倒れたところを、鈍器で殴り続けるのも手よね。時間はかかっても、その内に死んでくれるでしょ」



 …………まさかの凶器ときたよ。


 この人、実は結構怖いな。辛酸舐めて修羅場を潜ってきただけあるよね。これからはあんまり逆らわないようにしよ。



「じゃあ……どうしても、殺したくない時はどうする?」



 つきかけた溜息を飲み込み、私は最後の問いを投げかけた。


 潤奈さんはふっと、吐息と共に笑みを漏らした。



「あたしが強ければねぇ……紳一郎くんを守ってあげられるんだけどね。あの時だって、これまでだって、守ってあげられたのにって、すごく悔やんでる。だからね、ゆーちゃん」



 そう言って、潤奈さんは改めて私の方を向いた。



「強くなりなさい。傷付けようとする相手でも守りたいと思うなら。守られるばかりじゃとても苦しいから。守るために、強くなるのよ」


「強く……」



 潤奈さんの厳しい目付きと言葉に、打ち上がる巨大花火みたいな閃きが走った。



「……なーんて、あたしなんかが言えた義理じゃ」

「ありがとう、潤奈さん! おかげで解決の糸口が見えたよ! さすか百戦錬磨の猛者だあ! これで私、地獄に落ちるか浮遊霊になるかの二択から逃れられそうだよ!」



 潤奈さんの言葉を遮って、私は彼女の細い体に抱き着いた。



「ゆーちゃん、あんた、何するつもりだったの……怖いことじゃないよね? 危ないことじゃないよね? ゆーちゃんはいい子だもんね?」


「未遂で済んだことは聞かない聞かない。あー、これでやっと安心したぁ……そうだ、ちょっと待ってて。今すぐ連絡取りたい子がいるの」



 善は急げ!


 心なしか顔色が悪くなった潤奈さんから身を離すと、私は頭の中の閃きが消える前にその人物に急いで連絡した。今日は無理だとしても、明日にはきっと返事が来るだろう。



「ねえ、ゆーちゃん。怖いのは未知だからよ」



 ウキウキと浮き立つ私の耳に、潤奈さんの静かな声が風のように入り込んだ。



「もっと知れば怖くなくなる。だからまずは相手のことを、たくさん知ったらいいんじゃないかな?」


「うーん、知れば知るほど泥沼なんじゃないかなぁ……」



 雑の新記録を次々に塗り替えていく雑の殿堂入り、有瀬留佳(るか)ならぬ有瀬(ざつ)によるこれまでの様々な雑行動を思い出し、私は肩をすくめた。



「そりゃあねぇ、知らない方がいいってこともあるでしょうけど、知らずに怯えたままでいるくらいなら踏み出してみたらいいんじゃない? 知ってみれば、案外こんなもんかって拍子抜けすることもあるもの。大体、ゆーちゃん達は知り合ってまだ日が浅いじゃない。彼が何を考えるかわからなかったり、別人みたく見えたり、そういうのが怖かったんでしょ?」



 心を射抜かれた気がして、呼吸が止まった。


 違う、私が怖かったのは有瀬くんに殺されるかもしれないってことであって。

 確かに何考えてるんだかわからなかったり別人みたいに見えて遠く感じたりはしたけど……それは別に怖いことではなくて。


 でも……ものっすごいビックリしてビビって心臓爆発しそうになって、胸が締め付けられるように痛くなったり、ぞわぞわざわざわしたりもして。


 潤奈さんに指摘されて、初めて気付いた。

 ううん、本当は気付いてて、でも気付きたくなくて、目を逸らしてたんだ。



 私、有瀬くんのこと、怖いと思ってたんだ……。



「そ、そういうの、相手のこと、もっと知ったら、平気になる……? 怖くなくなる……?」



 今になって震えながら、私は潤奈さんに尋ねた。



「もちろんよ! 有瀬くんにいろいろ聞いて、こっちからもいろいろ教えてあげるのよ。向こうだって、ゆーちゃんを怖がってるはずだから」



 笑顔の潤奈さんに頭をナデナデされると、目から鱗の代わりに涙が零れ落ちた。


 そっか……そうだったんだ。


 有瀬くんも、私に頬チューされた時、すっごい怖かったんだ。だから、思わず反撃しちゃったんだ。

 そうだよね、有瀬くんはまだ赤ちゃんなんだもん。大して深くも知らない人にいきなりあんなことされたら、怖いよね。

 私、有瀬くんをあんなにも怖がらせちゃったんだね……。


 だから有瀬くんは約束通り、私の嗜好がわかるって言った少女漫画やら恋愛映画やらを真剣に読んで観てくれてるんだ。

 毎日送られてくる疑問や感想の数々は的外れをブチ越えて意味不明の域に達してるけど、有瀬くんは怖がってるだけじゃなくて、私のことを知って自ら恐怖を克服しようと頑張ってたんだ。


 私、本当に何てことしちゃったんだろう……ごめんね、怖がらせて本当にごめんね、有瀬くん。



 ぽろぽろ溢れた悔恨の涙は、とても苦かった。今ペロリと舐められたら、苦みで有瀬くんすら泣かせてたかもしれない。



「潤奈さん、本当にありがと……私、頑張るね」



 おかげで知らずに巣食っていた、もう一つの怖さとも向き合えた。おまけに解決法まで教えてくれた。


 恩人である潤奈さんに泣き笑いでお礼を言うと、また頭をナデナデしてくれた。



「いいのよぅ、ゆーちゃんのお役に立てたなら何より。こちらこそ、長話にお付き合いしてくれてありがとねぇ。恋愛相談なんて、どれくらいぶりかしら? 女子高生に戻った気分だわー、恋バナって本当に心が若返るわねぇ」



 が、潤奈さんの言葉を聞くや、苦い涙は夏の蒸した夜気にたちまち蒸発した。



「れ、恋愛相談!? 恋バナ!? そんなのしてないよ、誤解だよ!」


「ウッソだぁー。あたしが有瀬くんの名前出しても、ゆーちゃん否定しなかったじゃなーい」


「き、気のせいだよ! 話に集中して気付いてなかっただけだよ! 嘘じゃないよ、盛っただけだよ!」


「さ、お話も一段落したことだし帰ろ! 早く帰って、京香ちゃん達にも話さなくっちゃね!」


「やめてよぅ! やめてよぅ!」



 泣きながら喚く私の手を取って立たせると、潤奈さんはスキップするように軽い足取りで駐車場へと戻った。


 叔母と手を繋ぐのは、数年ぶり。

 久しぶりのその行為は、気心の知れた同級生との帰り道みたいで、何だか楽しかった。


 帰ってからは散々からかわれて、あの恒河に心配されるほど大号泣させられたけれども。


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