12-1 女子、女友達に彼氏の情報を赤裸々に明かしすぎ問題
盛大なやらかしをしてしまったと猛省したけれど、その日の夜にラインで有瀬くんから静止画みたいに微動だにしないハシビロコウの動画がモリモリ送られてきたので、あっちは全く気にしてないらしいとわかり、ほっとした。
まぁ有瀬くんだもんね。
てか何だよ、この動画。オヤスミ前の睡眠導入にオススメってこと? 確かに観てたら即寝落ちて、気持ちよく眠れたけど。
翌日になって落ち着いてみると、有瀬くんの諸々の行動が雑超えて荒っぽくなっちゃったのは、彼も驚いたからなのでは? と思い当たった。
きっとビックリしたせいで、力の加減ができなくなってたんだろう。つまり、お互いに想定外の行動を取ったから、揃ってビックリドッキリした、それだけの話だ。私もビックリドッキリの余韻で、三駅も乗り過ごしたしね。
久月くんから頬チュー返されたら、って想像してみたけど、同じように三駅乗り過ごすんじゃないかなぁ。
八重樫くんだったらそもそもこっちから頬チューなんかしないし、向こうからされたら衝動的にグーパン入れそうだわ。訂正、入れる、確実に。
そもそも、私が調子こいて気安く接しすぎたのが悪い。
久月くんがせっかく注意喚起してくれたのに、危うく死ぬとこだったよね。有瀬くんの中での私が、私にとっての八重樫くんポジでなくて本当に助かった。グーパン食らって内臓飛び出て、リアルで対面した心臓にバーカバーカって罵られてたかもしれない。
有瀬くんが素直に頬チューを受け入れるのは城咲さんだけ、あれは城咲さんだから許される行為なのだと、しっかりと学び心得ました。以後、気を付けます!
夏休みも中盤戦に突入。しかしのんびり休んでいる暇はない。
私にはやらねばならないことがあるのだ!
「あー、そうなの? うーん、ちょっとこっちの条件とは合わないかなぁ。ごめんね、せっかく探してくれたのに」
『いいけどさー、条件高すぎんのが問題なんだよ。ウチらの同学年じゃなかなかいないでしょ、そんな背ぇ高い人。いたとしても付き合ってる奴ってなったら、ますます厳しいじゃん』
「高すぎるかぁ……厳しいかぁ……だよねぇ……あー、身長が邪魔するとは盲点だったなぁ」
『そだ、先輩はどうよ? バレー部ん時の』
「その手があったか。当たってみる。ありがと、ユキチ!」
同級生との電話を切り、私は早速まだ残っていた部のライングループから送信してみた。
が、全滅だった。
後輩にも声をかけてみたものの、中学生にはさらに敷居が高いようで、かすりもしなかった。
おかげで親しくしていた後輩の一人に彼氏ができたことが判明したけど、練習も一生懸命な子だったから恋も一生懸命だったんだろうな……と感極まって嬉しさにむせ泣きしただけで、成果は得られなかった。
中学グループにあらかた連絡を終えると、私は小学校の同級生にも当たった。しかしこちらも結果は芳しくなかった。
あーあ、有瀬くんの身長があと十センチ低ければ、相談相手は十人以上いたのになぁ。
久月くんに大見得を切っちゃったこと、今は後悔してるよ……ここまで難航するとは。
現在、私は身長181センチ以上、体重75キロ以上の男子と付き合ってる子を必死に探している。
SNSで募るのもいいかなと思ったけど、見知らぬ相手が本音で話してくれるとは限らないので断念した。適当なこと吹き込まれて私が無残に死んだら、久月くんの心に傷を残しかねないもん。
今のところ、条件に見合う人物は三人。
一応、真打ちとして一人だけ頼りになりそうな人がいるけど、それは後で取っておくとして、まずはこの三人に相談しようとコンタクトを取ってみた。
「ウェーイ、ミッチー! こないだぶりー!」
「おまたー! あらあら、那由多ちゃんったら、少し見ない間に大きくなったわねぇ」
「やなこと言うなー、しばくぞ、このやろ。腹肉頬肉その他、広範囲の領域で贅なる肉どもがすくすく育つテロ被害起こして困ってるっていうのに」
「だったら、んなもん食って待ってんじゃないよ。とっととテロ対策に乗り出せっての。少しは痩せる努力せーや。意識変えーや」
ミッチーは私の目の前に置かれたシフォンケーキを指差し、呆れたように溜息をついた。
最寄り駅の中にあるカフェにて待ち合わせしたのは、幸せ真っ只中のミッチーだ。
彼女が最後の三人目となる。
「んで、急にどうしたの? 相談したいことがあるって」
アイスラテのストローを噛みながら、ミッチーが尋ねる。
こうして改めて見ると、やっぱり綺麗になったと思う。
シンプルに一つ結びにしてた髪はふんわり巻いて下ろして、メイクもさりげなくトレンドを取り入れてる。服だって可愛くなった。
中学を卒業してたった五ヶ月、されど五ヶ月……女の子って本当に変わるんだね。
でもこの短期間で一気に垢抜けたのは、環境以上に恋のせいだよね。恋って、本当に魔法みたいだね!
「うぅ……も、もう一回教えてくれるかな。ミッチーの彼氏のスペック」
「な、何で泣くの? もしかして結構深刻な悩み? ええと、身長が188センチ体重82キロ、バスケ部だよ。体脂肪率は10パーセントくらいだって。はい、これ写真」
ミッチーは夏らしいカゴバッグからスマホを取り出すと、彼氏とツーショの写真を見せてくれた。
短髪の凛々しい顔立ちをした男子は、身長が私より少しだけ高いミッチーと並んでても大きい。
これなら見事に条件に当てはまってるよ!
さっと涙を指で払い除け、私はミッチーに向き直った。
「でかした、ミッチー。イカす彼氏捕まえたな。馴れ初めから現状に至るまで、詳しく聞き倒すから覚悟しておくように。でも、その前に聞きたい」
ぐっと顔を寄せると、ミッチーもラテを退かして前のめりになってくれた。真剣に聞いてくれようとしている証拠だ。
「この彼氏、すごく大きいよね? だったら力も強いよね?」
「うん。高いところに置かれてた資料ぎっちりの箱をさっと取ってくれたところに、キュンとしたのが始まりだったから」
ミッチーの頬がチークを突き抜けて赤く染まる。が、恋メイクでさらに綺麗になってる友人に見惚れてる場合じゃない。
私は真っ直ぐにミッチーを見つめて、本題に入った。
「だったらこの彼に、殺されそうになった時の対処法、ちゃんと考えてる?」
「……那由多、意味がわからない」
「じゃあ、わかりやすく言うね。言い換えると、彼氏が殺意の波動に目覚めた場合の適切な処置方法について知りたい」
「那由多、那由多。全然言い換えられてない。やっぱり意味がわからない」
んもー、どうしてわかってくれないかなぁ?
「だって彼氏、こんなに大きいんだよ? もし暴れたらどうすんの。ミッチー一人じゃ手に負えないじゃない」
懸命に説明する私の額を押して、ミッチーは溜息を吐いた。
「子どもじゃあるまいし、いきなり暴れたりしないっつーの。何の心配してんの、あんたは」
ダメだ、ミッチーも先に相談した二人と同じ反応だ。
ああ、うまく伝えられないのがもどかしい!
「じゃあ、もしも、もしもだよ? 二人っきりの時に、彼氏が幼児返りして暴れたらどうする? 幼児だから、加減も制御もできないの。そんな彼氏をどうやって止める?」
仮定で想像してもらえばわかりやすいかと思い、聞いてみたのだけれど。
「大丈夫、トシヤはどんなことがあっても私を傷付けたりしない。世界で一番大切だって言ってくれたもん。たとえ幼児返りしたって暴れたって、私がぎゅって抱き締めたらすぐに止まってくれるよ」
嬉しそうにはにかみながら微笑むミッチーを見て、私はがっくり肩を落とした。
この恋愛脳め! その油断が命を奪うのよ! この世には愛してるから殴るっていうヤベー奴だっているんだよ!?
彼氏がヤンデレ化してDV被害者になっても知らないからね!
結局ミッチーから引き出せたのは、トシヤがいかに可愛いかというこの先も役立ちそうにない情報だけだった。
すごいな、トシヤ。
あんな彫り深いワイルドな顔して、『トッチ、ミッチュだいちゅき♡ぎゅってして♡』とか言っちゃうんだ。もしもの話じゃなくて、リアルでしっかり幼児返りしてんじゃん。
ミッチー達が両片想いのもだもだを経て結ばれるところまでは、涙涙で脳内の二人の姿まで見えなくなるほど泣いたのに、ミッチュとトッチのノロケ話になると何でこんなに冷めるんだろうね?
シンデレラとか眠り姫とか白雪姫とかの物語が幸せに暮らしましたとさ、で終わるのは、ノロケ話を聞かせたって、ねぇ? っていう製作者側からの配慮なのかも。
幼児返りしてるトシヤも心配だけど、いきなり『愛してる』って告ってきたハヤトも、今思い返すと不安だな。早くも好きの最大表現『愛してる』を使っちゃって、これからもっと好きになったらどうするの?
表現力の幅を死ぬ気で広げて、『愛してる』以上の言葉を編み出すしかないよ?
あーでも、リツは聞いた瞬間ないわーってなったなぁ。『たとえ世界が涙の海の底に沈んでも、俺だけはそばにいて君の涙を拭い続けるよ』って有名な乙女ゲーのヒーローの台詞じゃん。ちょっとでも変えてくれれば良かったのに、丸パクリは良くない。
でも告られた本人は幸せそうだったから、余計なことは言わないでおいたよ……。
三人に話を聞いて、得られたのはトシヤとハヤトとリツの個人的すぎる個人情報のみだった。
できれば知りたくなかったなぁ……たまたま遭遇することがあったら、どんな顔したらいいのよ。
絶対心の中で『幼児返りのトッチだ』『愛してるのハヤトじゃん』『丸パク野郎のリツかー』って思っちゃうじゃない。彼女達にあることあること暴露された彼氏達が可哀想で泣いちゃうかも……なるべく早く忘れよう。そうしよう。




