11-10 美少女はウンチもしないしパンツも履かない
それから私達はショッピングモールを出て、帰路についた。
いつの間にか時刻は午後八時半を過ぎていた。友人達とのカラオケフリータイムでフルで歌っていたら同じくらいの時間になったと思うけど、疲労度が全然違う。心身共にぐったりだ。
地元組の三人とはここでお別れ……する気でいたのに、大した距離でもないにもかかわらず、皆で駅まで送ってくれることになった。
「た、確かにあんな場所でいきなりキスは……ないよね……っぶふっ」
久月くん、まだ笑ってるよ。一時間ほど笑い転げてたのに、よく腹筋保つよねー。
ふん、そうやっていつまでも人を笑い者にして、一人で勝手に腹筋鍛えてればいいんだ。
「そうだぞ、有瀬。キスは場所もしっかり考えねーと。俺なら夜景の綺麗なスポットとか、夕暮れ時の海岸とか、遊園地の観覧車で天辺に到達した時とか、いつものグループから抜け出して放課後の教室の机の下で、とか……やってみたかったな……もう叶わねーんだな……高校も一緒だと思ってたのに……俺の推薦決まった途端いきなりセンコー受けるとか……聞いてねぇよぉぉぉぉ!! 何でだよぉぉぉ!!」
八重樫くん、最初の方はすごく良かったんだけどな。叶わず散った夢を語られてもね、ってなるよね。まぁ気の毒ではありますけれども。
「なるほど、今回は場所が悪かったってことか。ふーん……机の下ならいつでも実行可能そうだな」
「可能を不可能にしてみせるよ!? 場所だけの問題じゃないからね!?」
呟くように漏れた有瀬くんの言葉に私は即座に突っ込んだ。
この男は本当にやりかねない。いや、間違いなくやる!
「机の下もダメか。じゃあ那由多はどこならいいんだ?」
有瀬くんが真顔で問い質す。
この辺り一番の主要駅となるターミナル駅の周辺は、夜になっても昼と見紛うほど明るく、でも昼とは違った彩度で照らされて、何だか不穏な色を帯びているように映る。
そんな中でこちらを真っ直ぐに見据える有瀬くんの目は、不気味なほど綺麗で怖いくらい澄んで見えて、また別人みたいに感じて、何故か胸がざわりと疼いた。
「……どこ、とかではないかな。まぁうん、有瀬くんはまず勉強した方がいいよ」
信号が気になるフリをして目を逸らすと、私は軽い調子で告げた。
「課題なら終わった」
「そっちの勉強じゃなくて、恋愛の方ね。城咲さんに貸したやつ、有瀬くんも読んでみたら?」
「読んだ」
「一冊だけじゃん。それにあれを貸したのは私じゃなくて、茉絢だよ」
「そうなのか……あれ、エクソシストの所有物だったのか、道理で」
信号が変わる。駅まで交差点はあと一つ。
「城咲さんが帰ってきたら、一緒に読んでみて。漫画と小説の他に、映画とかドラマとかもあるよ。全部私の好みのやつだから、恋人の嗜好を知るにも役立つんじゃないかな?」
冗談ぽく言って再び見上げると、有瀬くんはまだ真顔のままだった。
「今日から読む。明日香の部屋はいつでも出入り自由だ。鍵も持たされてる」
「あ、そうなの……城咲さんの部屋って、有瀬くんには共用スペースみたいなもんなんだね……」
てことは……城咲さんのパンツも見放題なんだ。
城咲さん、どんなパンツ履いてるんだろう?
きっとセンスいいのが揃ってるんだろうな。白レースとか似合いそう、いやいや黒のセクシー路線も捨て難い……などと下世話なことを想像して、私は頭を振った。バカバカ、己の妄想で城咲さんを汚すんじゃない! 城咲さんはパンツなんて履かない!
……って履かないとそれはそれで大問題でしょ!?
ああっ、早くパンツから離れろ、私の頭!
「那由多、どうした? 頭に虫でも湧いたか?」
「えっいや、まあそれに近いかな。煩悩を振り払ってただけだよ!」
ボサボサになった頭をかいて、私は笑って誤魔化した。
「やらしいことでも想像してたんじゃねぇのかぁ? 有瀬になれば、城咲の部屋独り占め状態! パンツだって見放題! とか」
が、八重樫くんの鋭い突っ込みに笑みが凍った。
やめろ、アホのくせに鋭敏な観察眼を発揮するな。隠したい心を息をするように暴くな。
「それは八重樫の願望だろうが。那由多ちゃんはそんな卑猥な妄想しないよ、ね?」
ぽんと八重樫くんの頭を叩き、久月くんがこちらに笑いかける。
大変可愛らしいお顔ではあるけれど……黒さが滲み出てるよね? バレてるんだぞ、って暗に脅しかける時の笑顔だよね、それ!
そうしてまた信号は変わり、ついに駅に到着した。
信号待ちも一人の時はすごく長く感じるのに、皆と一緒に話してるとあっという間に過ぎる。これが相対性理論ってやつなのかなぁ。




