11-8 自称体重は48kg
「何だ、那由多。また泣いてるのか? アップルパイの包み紙やろうか? いい匂いするぞ」
アップルパイを食べながら戻ってきた有瀬くんが、またもやゴミを差し出す。
お行儀悪いなー、席まで徒歩一分もかからないんだから座ってから食べたらいいのに。あとゴミはゴミ箱ね! 私の部屋にまたゴミのオブジェ増やす気か!
「……いらない」
小さく答えて、私は血の気が引いた顔を隠すようにそっぽを向いた。
いつか自分を殺しかねないという有瀬くん。
だけど、いつもと変わらず自分をゴミ箱扱いする有瀬くん。
頭の中の有瀬くんと現実の有瀬くんの落差が激しくて、どう接していいかわからなくて、こんな態度しか取れなくて。
「じゃあポテト食うか? 揚げたてらしいぞ。たくさんあるから好きなだけ食っていい」
「揚げたて!? やったー、食べる食べる! くださいください!」
でも、すぐに普段通りに戻った。ついでに血の気も戻った。涙も止まった。
女の子らしくセット一つで我慢してたけど、全然足りなかったんだよね。どれだけ恐怖しようと、泣こうがチビろうが、食欲には敵わないものなのよ!
「有瀬はいいよなー、いつでもどこでもサービスしてもらえて。信じられるか? これ、ポテトSなんだぜ?」
新たにハンバーガーを三つ買ってきた八重樫くんが呆れたように言う。
「え、ほんとに? Lより多くない? そういやファミレスでもパンケーキのクリーム、いつもよりやたら多かったなぁ。これから何か食べに行く時は有瀬くん連れてこ」
「うん、連れてこう」
有瀬くんがポテトをつまみながら隣から相槌を打つ。
あんたの話をしてるんだよ。相槌もほんと雑だなー、聞いちゃいないの丸わかりじゃない。久月くんは雑とかの問題じゃない的なこと言ってたけど、やっぱりこの人は雑だよ。幼馴染の意見だろうと、この点だけはどうしたって譲れない。
久月くんもポテトをつまみ始めるとさっきまでの悲壮感漂う深刻な表情はどこへやら、くすくす可愛く楽しそうに笑ってた。
うん、シェアポテトには人を癒やす力があるよね!
しかし……久月くんのお願いを聞いて有瀬くんの盾になるとしても、殺されたくはないなぁ。こんな美味しいポテトが食べられなくなるもん。
私はそっと、隣の有瀬くんを横目で見た。
アップルパイと一緒に買ってきたらしい期間限定のパインマンゴーパイを、無心に齧っている。
中身は子どもを通り越して赤ちゃん、なんだよね。本物の赤ちゃんなら泣き喚いて暴れても小さいからあやせるけど、ここまででかい赤ちゃんが同じことやったら私なんかじゃ手に負えないよなぁ。
でかい……ん?
でかいことはでかいけど……待って、いいこと思いついたかも!
「ねえ有瀬くん、身長何センチ? 体重は?」
まずは正確なサイズを把握しようと、私は有瀬くんに聞いてみた。
「知らない」
「中三の身体検査では181センチ、体重は75キロちょいくらいだったな。チッ、俺より3センチ高いだけで調子乗りやがって」
本人に代わり、八重樫くんが忌々しげに言う。つまり八重樫くんは、178センチ、と。
ちょっと意外、もっと小さいと思ってた。闘気が磨かれてないからかな?
「八重樫くんの体重は? 久月くんのサイズも教えて」
「んー、確か入学した時の計測じゃ73キロだったかな」
「えぇ……僕のも聞くの? 173センチ65キロ……格闘技辞めたら体重落ちちゃって焦ってるんだよ。クソッ、もっと食べなきゃ!」
久月くんはそう言ってポテトを掻き込み出した。増えちゃって焦ってる私と足して割ろうや……。
「那由多は?」
ここで残酷な質問が投げられた。雑キング、有瀬留佳改め有瀬雑だ。
自分では答えてないくせに聞くんじゃないよ。でも皆に教えてもらった手前、ヒ・ミ・ツ♡ は通用しないか。
「身長は162センチ。体重は……聞いてくれるな」
ポテトに伸ばしかけた手をすっと引っ込め、私は項垂れた。ダイエット中だったってこと、今になって思い出させないでくださいよ……。
「持ち上げた時の感じだと、多分50……」
「黙れよ!? それ以上言うなよ!? 許さんぞ!?」
私は高速でポテトを鷲掴みにして、有瀬くんの口に押し込んだ。
あの涙と地獄が渦巻く懸垂マシンの時に抱えられたから、薄々はバレてると思ってたけど、わざわざ公開されたくない! 狂気のイカレパンツ披露実演会にまで話が及んだら、二度とチーム久月の会合に顔を出せなくなる!
「柊ぃぃぃ、何やってんだよ。ポテトなくなっちまったじゃん」
八重樫くんが呑気に残ったカリカリ部分を摘んで不平を垂れる。
「うるさいな! また買いに行けばいいでしょ、有瀬くん連れて! 今ならポテトが大好きな人って感じになってるから、さらにサービスしてもらえるんじゃない!?」
「なるほど、いい案だな! ほら、食い切る前にとっとと行くぞ、有瀬!」
「んも」
再び、八重樫くんと有瀬くんは列に並びに行った。
「いや……那由多ちゃん、本当に強いね。あんなに泣いてたのに……ビビって引いてるかと思ったら」
「その件はさておき、とにかく体重の話を忘れて。いいね?」
久月くんが頷くのを確認して、私はそっと身を乗り出し、さておいた件に話を戻した。
「久月くんが有瀬くんのことを心配してるのは、よくわかったよ。それについての解決策が、思い当たらなくもない。こう見えて交友関係はそこそこあるの。各所に当たってみる。まぁ悪いようにはしないよ、久月くんを安心させてあげるから」
久月くんはぽかんとしてから、噴き出した。
「ほんとにぃ? 頼りにしていいのかなぁ? でも……何だろ。那由多ちゃんなら、本当に何とかしてくれる気がする」
「私だってやる時はやるよ。ちょっと涙腺が緩いだけの普通女子だと侮らないでよね。私の平凡さだって、時には武器になるってことを教えてあげるよ」
久月くんは不思議そうに首を傾げた。
フフン、久月くんみたいな美形達にはわからない世界だろう。
どこにでもいそうな顔してると、警戒心やら敵対心やらを抱かれにくいって利点があるのよ! 不快感を抱かれるより先に優越感を与えられるから誰とでも打ち解けやすいし、相手からすんなり情報を引き出したりもできるんだからね!
「……僕は、那由多ちゃんは平凡じゃないと思うけどね」
「そりゃあね。久月くんは毎日自分の顔見てるんだし、おまけに有瀬くんと城咲さんみたいに、綺麗なのに変な人達に囲まれて育ったんだもん。逆に私みたいなのと接し慣れてないから、異様に映るんだよ」
久月くんの溜息混じりの言葉に、私も溜息で返した。
「そうじゃなくて」
「ポテト買ってきた。またできたてだった。運がいいな」
久月くんが何か言いかけたところで、有瀬くん達が戻ってきた。




