11-6 破壊神、降臨の後、謝罪
「あ、やっと来た。お菓子のクレーンやってたんだってね。成果はどうだった?」
八重樫くんと出入口で待機していた久月くんが、でっかいテディベアを筆頭に、ペンギンやらウサギやらのぬいぐるみを抱えた状態で笑いかける。
いつの間にか増えてるし! もしや八重樫くんが袋に入れて持ってるフィギュアも取ったの? ゲーセン泣かせな子だなぁ。
「三千円のキャンディもらった。いいでしょー?」
冗談っぽく言って、私は二人に掌のキャンディを見せ付けた。
「まじで!? キャンディ一つ取るのに三千円溶かしたのか!? うっは、有瀬やべぇな! 不器用すぎんだろ!」
八重樫くんがゲラゲラ笑いながら、有瀬くんの肩を乱暴に組む。
「うるせぇな。ムキになった、引くに引けなくなった、反省はしてる。でも後悔はしていない」
「いや後悔もしろよ! 三千円だぜ、三千円。だったら三千円で何か買った方がよっぽど良かったじゃねーか」
「あ、そうか……その発想はなかった」
目から鱗とばかりに、有瀬くんはぽんと手を打った。
いやいや、気付くどころか発想すらしてなかったの? 金銭感覚も雑なんだね……。
「……那由多ちゃん、そのキャンディ」
「ん? ほしいの? でもあげないよ。有瀬くんの唯一の戦利品だから。なんたって三千円のお宝だよ? またケース買って飾るんだー」
久月くんに答えてから、私は体温で溶けないようにキャンディをバッグの奥底にしまい込んだ。
「うん、そっか…………大事にしてね」
久月くんは諦めたらしく、ふっと柔らかく微笑んで言った。
ふわー、今の表情、可愛いという言葉を超える可愛さだった! ほわほわのぬいぐるみ達に包まれてるから、より美少女感が増してる! 己が女子であることを恥じたくなったわ……。
ところが! 久月くんはやっぱり美少女なんかじゃなかった。
ゲーセンを出ようとしたところで、八重樫くんがパンチングマシンを見付けて、最後に皆で対決しようって話になったんだけど。
「ウソやん……300ってナニ? イノシシも倒せるやん……」
久月くんの叩き出したスコアに、八重樫くんが震え声で漏らす。
ビビり散らす私と八重樫を見て、久月くんはにこっと可愛らしさ満点越えの笑みで応えた。
信じられない……あんな可愛い顔して、一撃で歴代スコア塗り替えちゃったよ!
格闘技経験者だってこともかなりの猛者だってことも聞いてはいたけど、ここまで強いとは想像してなかった!
「とにかくこれで俺らは勝確だな! 久月、でかした!」
ハイタッチする二人から、私はそっと隣の有瀬くんを見上げた。
久月くんに持っててって押し付けられたぬいぐるみ達の中で、相変わらず雅にぼけーっとした顔をしてるけど、大丈夫なのかなぁ?
対決するなら罰ゲームは必須だ、という八重樫くんのわけのわからない理論で、私達はペアに分かれて総合点を競うことになった。
そこで八重樫くんは久月くんと、私は有瀬くんと組んだんだけど……もう最初から結果は決まってたようなもんよね。私は一応か弱い女子だから頑張っても70止まりだったし、いくらなんでも有瀬くんにハンデが大きすぎるよ。
「有瀬くん、軍資金まだ残ってる? 負けたら夕飯奢らなきゃなんないってことは、ちゃんと覚えてるよね? 私、今日はカラオケとファミレスで使い込んじゃったから、手持ちも電子もあんまりないんだよ。貸せるほど残金なかったら、今すぐ現金下ろしてくるけど」
「うん、多分大丈夫だと思う」
有瀬くんの言葉で、私はほっとした。
いくら持ってるかはわからないけど、四人分の夕食を支払うくらいはまだ残ってるみたいだ。
うぅ……ごめんね、有瀬くん。足手まといになっちゃって。後で必ず返すから……迷惑料として有瀬くんの分も私が払うから……。
「ラストは有瀬だな! 果たして俺の170を超えられるかな?」
「留佳、頑張れ! 恋人同士助け合って苦難を乗り越えるとこ、僕らに見せてよ!」
有瀬くんは久月くんにぬいぐるみを返して、こくんと一つ頷いた。
すると久月くんが何かを察したように、さっと顔色を変える。
「えっ、留佳……? いや、冗談だって……やめなって、ねえ!」
追い縋って制止の声をかける久月くんを無視して、有瀬くんはさっさとグローブを着けると、何の予備動作もなくマシンに拳を打ち込んだ。
後ろから見守っていた私には、何が何やらわからなかった。ただ鈍い音と鋭い音が重なって、耳を刺しただけだ。計測結果を表示するデジタル画面が真っ黒になっている。
ま、まさか……。
慌てて駆け寄ってみると、そのまさかだった。パンチを受けるパッド部分がへし折れて、マシンの隣に転がっていた。
ええ……えええええ!?
「壊れた。どうしよう?」
困ったように流麗な眉をひそめて、有瀬くんが私を振り向く。
どうしようってこっち見られても……私にどうしろと!?
「バカッ! どうしよう、じゃないよ! ここまで大破したら、どうもこうもできないでしょ! ほらっ、ぼさっと突っ立ってないで行くよ! スタッフさんに謝るの!」
私は有瀬くんの腕を引っ掴んで、とにかくカウンターに事態を報告するために有瀬くんを連行しようとした。
「弁償になるのか、これ。また父に怒られる……母にも、お菓子禁止されるかも……」
しかし有瀬くんはグズグズ言って動こうとしない。
ああもう、これじゃ本当にクソガキじゃん!
無駄に腕力あるクソガキなんて、たちが悪い以外の何物でもないよ!
「うるさいっ! いいから早く来る! 真央さんには連帯責任で一緒に怒られてあげるよ! お菓子禁止になったら私が学校でこっそり食べさせれば問題ないでしょ! 弁償になったとしても、四人で折半すれば何とか支払える金額になるよ! 有瀬くんはありがとうは言えるのに、ごめんなさいは言えないの!? ごめんなさいができない子は嫌いだよ!」
幼い子に言い聞かせるようなわかりやすい説得の甲斐あってか、有瀬くんはやっと動いてくれた。
カウンターで全員で頭を下げて一先ず謝罪すると、スタッフさんはすぐさま監視カメラをチェックした。
その結果、有瀬くんは何もおかしな行動は取っておらず、故意に壊したわけではないと理解してもらえた。
あのマシンはなかなかに利用客が多いそうで、酷使されていた上に直前に高スコアを叩き出した久月くんと二人でトドメを刺す形になったのだろう、とのことで、弁償も要求されなかった。
「本当にごめんなさい」
何も悪いことはしていないと判明したものの、最後に有瀬くんは改めて頭を下げた。
これも好印象だったようで、スタッフさんはまた遊びに来てくださいね、と笑顔で見送ってくれた。




