11-5 蟻の死骸、三千円の飴を賜る
「那由多ちゃんはゲーセン来たら何やるの?」
ゲーム機の奏でる騒音の中、久月くんが笑顔で尋ねる。
「プリ撮る一択だよ。ゲームする目的で来たことなんてほぼないかな」
「プリン取るゲームなんてあるのか?」
有瀬くんが盛大な勘違いを口にする。
「プリだよ。プリクラ。私でも美少女にしてくれる魔法みたいな撮影機があんの」
「俺のオススメは『フランブラン』だなー。程よい盛れ感でリアルで美形っぽく見えるし、スマホで画像ダウンロードできるし。『あたキュン』はシャッターのタイミングが微妙だし、『美肌レボ』はエフェがイマイチだし、『メリメロ』はスタンプの種類が少ねぇんだよ」
八重樫くんがプリ機の並ぶ一角を指差して、丁寧に説明する。
いやいや、八重樫くん、何でそんなに詳しいのよ……? 女子力高すぎん……?
まず最初は、私と八重樫くんの希望でプリを撮ることになった。
聞いた話によると、八重樫くんは陸上部の皆と一緒にプリで記念撮影をよくするんだって。
有瀬くんはわかるけど、久月くんもプリ初体験っていうのは意外だった。
「柊、あんまり補正強くすんなよ。久月の目が顔から飛び出る」
「何!? そんな怖い機能あんの!? やめてよ、僕そういうのまじで無理だから!」
「那由多は大丈夫か? 目、落ちないように手で押さえとくか?」
「補正効果最強にしたって余裕で収まるよ……余計なお世話だよ……」
何か腹立ったから、補正最大にしてやったわ。
音声案内に従ってポーズを取る時に邪魔だとかぶつかったとかで喚いたり、落書きブースでどのスタンプを押すかで大揉めしたり、紆余曲折を経て完成したプリは、それはそれは素晴らしい出来だった。
「あっははははは! 誰これ!? 何これ!? 私以外、全員人外じゃん!」
「うわ、怖ぁ……皆で撮影したはずなのに、知ってる顔が一つもないとか、ただの怪奇現象だよ……僕、二度とプリなんて撮らない」
「だから補正強くすんなっつったのにー。あ、でもこの一枚なら俺、有瀬に勝ってんじゃね? どっちも人外だけど、俺の方が人に近い」
三人三様の反応で騒いでいたら、黙って配布されたプリを眺めていた有瀬くんが口を開いた。
「もう一回撮ろう。今度は補正? とかいうのナシで」
私達は揃って、ぽかんとした。
「撮るのはいいけど、そんなのスマホで撮影するのと変わらなくない?」
「じゃあスマホでもいい。撮ろう」
んん〜? 写れば何でもいいってこと?
有瀬くん、写真に興味なかったよね?
久月くん家でアルバム見てた時も退屈そうにしてたのに、急にどうした?
まぁ有瀬くんにとっても高校生初の夏休みなんだから、多少浮かれる気持ちもわからなくはないけど。
首をひねっていると、久月くんにポンポン肩を叩かれた。
「いいじゃない、いいじゃない。僕も初記念のプリがホラー体験で終わるなんてイヤだし、補正なしで撮ろうよ」
笑顔で諭され、私は渋々頷いた。
あなた達は補正なしでもいいだろうけど、この中で最も映えない顔グランプリ受賞の私にとってはただの公開処刑じゃない……金払って処刑されろとか、皆してドSなの……?
撮影二回目の補正なしバージョンのプリは、公開処刑を超えて虐殺現場のような大惨事だった。
こうして見ると、私、ほんっとーに地味顔だなぁ。
隣に並ぶ比較対象があまりにもレベル高すぎて、存在感がなくなるどころか強い哀れみを誘われて、逆に目を引く悲しいモノに成り果ててるよ。咲き誇るお花の下でひっそり息絶えてるアリの死骸みたい……。
だけど有瀬くんと久月くんは満足したようで、八重樫くんからスマホに全プリの画像を送ってもらっていた。
私も一応もらっといたよ。
つらい時にこれ見たら、悩みなんてちっぽけなもんさ、どう足掻いたって無理なものは無理なのさって潔く諦めて開き直れそうだからね……。
それからはUFOキャッチャーで久月くんが難なく大きなテディベアをゲットしたり、有瀬くんと八重樫くんがアーケードレースゲームで対決したり、音ゲーで私が意外な才能を発揮したりと、実に楽しい時間を過ごした。
「有瀬ー、柊ー、そろそろ飯食いに行かね?」
八重樫くんの言葉で、私は有瀬くんの肩を揺すった。
「ほらー、有瀬くん。もうやめなよ、ご飯行くよー?」
「イヤだ、これ取るまで行かない」
しかし有瀬くんは首を横に振って譲らない。
「もー……真央さんからもらったお金尽きちゃうよ? パフェいらないの?」
「パフェはいる。でもこれも取る」
わあ、なんてワガママなクソガキなんでしょう。
城咲さんをぶん殴った時も徹底的に謝ろうとしなかったって聞いたし、子どもの頃からこんな頑固だったのかなぁ……っていうか今も子ども、というか赤子なんだっけ。
「あ……落ちた?」
疑問形で言ってから、有瀬くんは景品取出口に手を入れた。戻した手の指には、キャンディが摘まれている。
苦節すること三千円……やっとたった一つのキャンディを取ることに成功しましたよー!!
「やったじゃん、有瀬くん! ついに取れたよ!」
「うん。はい」
ぺしぺし肩を叩いていた私の右手を掴むと、有瀬くんは掌にキャンディを乗せた。
「那由多にやる」
「え? いやでもあんなに苦労して取ったのに」
「うん。これは那由多のだ」
有瀬くんの手で包み込むようにしてキャンディを握らされると、声が出なくなった。
えっと、つまり、プレゼント……ってことよね?
「あ、ありがとう。また飾っとくね」
「腐る前に食えよ」
えぇ……三千円のキャンディなんて気安く食べられませんって。
キャンディって腐るんだっけ? 賞味期限はあるよね? などと明後日なことを思いながら、私は素直に頷いた。
どうでもいいことを考えでもしないと、自分に都合のいいように勘繰りそうで……それが何だか嫌だった。




