11-2 アホでチョロくて変態の三重苦
「ってーなぁ。何も顔面にバッグ投げ付けるこたぁねーだろーがよー」
「ご、ごめんって……咄嗟に他の方法が思い付かなくて。ここは奢りますんで、どうかご勘弁を」
皆と解散してから、私と八重樫くんは二人で近くのファミレスにやってきた。
聞けば制服姿なのは今日補習だったからだそうで、終わった後に皆で遊びに来てたんだって。
そういえば万果高校はこの近くにあるんだっけ。
ちなみに久月くんはとても賢いので補習を受ける必要などなく、のんびり休暇を満喫してるらしいですよ。ですよねー、でしょうねー。
「何で友達に有瀬のこと、秘密にしてんの? 中身は置いといて面だけは良いんだから、自慢できんじゃん」
ハンバーグセットを食べながら、八重樫くんが尋ねてきた。まだあちこちが痛むみたいで、咀嚼しながら時折顔をしかめる。
八重樫くんって、今の高校でも女子とはあんまり話さないんだって。
なのに私とは親しげにしてるもんだから、バンコーの友人達に私が彼の彼女なんじゃないかって勘違いされそうになったんだよね。
そしたら焦った八重樫くんが『こいつは俺の彼女じゃねぇ、友達の恋人だ』って言おうとして、途中で察した私が『友達の』の辺りで思わずバッグぶち当てて黙らせちゃったんだよね。
しかもよりにもよって、今日のバッグには友達から返却されたり借りたりした雑誌やら書籍やらがパンパンに入ってて、ほぼ鈍器だったというね……いやもう、本当に申し訳ない。
「うん、まあ……いろいろあるじゃん、ね? 言うのは今ではないかなーとか、ね? 女子的乙女心的に、ね?」
濁しすぎて何が何だかな私の言い訳に、八重樫くんの視線が険しくなる。
そうだった、この人、アホのくせに鋭いんだった。
やばい……これ、問い詰められる感じじゃない!?
「んー……まぁ、わからなくもないかな。あんなんと付き合ってたら嫉妬とかすごそうだし、友達っつっても不安になるとこあるよな。俺の配慮不足だったわ。悪かったな、柊。だから奢らなくていいぞ」
セーーーーフ!
嘘ついてないからセーフ!
八重樫くんが勝手に推測しただけだからセーフ!
あとめちゃいい奴だ、この人!!
「ねー、八重樫くんは城咲さんのどんなとこが好きなの?」
お詫び代わりに恋愛相談に乗ってあげようと、私は八重樫くんに問いかけた。
すると八重樫くん、ドリンクバーのメロンソーダをごばっと噴いたじゃないの!
「うわ、きったな! 何してんのよ、もー!」
私は慌ててあちこちに飛び散った緑の液体をナプキンで拭いた。
やれやれ、こっちにまで飛んでこなくて良かったよ、不幸中の幸いだ。八重樫くんのシャツは不幸中の不幸になってるけど。
「お、お前がおかしなこと言うからだろ! おおおお俺は別に、しししし城咲のことなんて? な、ななな何とも思ってねぇしっ!?」
八重樫くんが真っ赤になって否定する。私はただ、唖然とした。
ウソでしょ……この人、今の今までバレてないと思ってたの?
出会って五秒で余裕で確信したほど、バレバレの行動しておいて!?
「じゃあ、城咲さんのことは好きではない、と」
冷え切った目で言うと、八重樫くんはわたわたと両手と頭を激しく振った。
「そ、そういうわけじゃねーよ!? 好きか嫌いかっつったら、好き……な方かなって感じで!? どちらかといえば」
「好き、なんだよね?」
きつく念を押すように聞く。
八重樫くんは口をパカパカさせていたけれど、真っ赤になった顔を隠すようにして俯き、
「…………はい、城咲のことが好きです……」
蚊の鳴くような声で、やっと肯定してくれた。
八重樫くんも八重樫くんで、かなり面倒臭いタイプらしい。
緑に染まったシャツを脱いでスポーツバッグに押し込み、タンクトップ一枚になって新たに持ってきたメロンソーダを前に、八重樫くんは私の質問に答えてくれた。
「ど、どこが好き、と言われてもな……城咲って、どこもかしこもいいじゃん? 素敵じゃん? 惚れる要素しかないじゃん? 好きしかないじゃん?」
何言ってんだ、こいつ。
「じゃあ、最初にキュンってきたところを聞こうか」
あまりにも要領を得ないので、私はふにゃふにゃになってる八重樫くんに冷たく告げた。取調べする刑事の気分だ。
「は、初キュンか……もちろん、有瀬に靴舐めさせようとした件でドロップキックを食らった時だな」
「え、八重樫くん、ドMなの? 城咲さんのキックで目覚めた的な? アホでチョロくてド変態とか、三重苦すぎない?」
「ち、違ぇよ! いや、アホだしチョロいし、変態っ気もあるから違わないか……? いやいや、やっぱり違う!」
「ごめん……もう何も言わないから続きをお願い。いたたまれなくなってきた」
「何でお前が泣きそうになってんだよ!? 泣きたいのは俺の方よ!?」
一旦カットを入れてもう一度仕切り直し、改めて八重樫くんに詳しく伺ってみた。
「城咲って、すんげー美人じゃん? なのにあの時は、鬼みたいな形相で俺に襲いかかってきたんだよな。冗談抜きで、チビりそうなくらい怖かったわ。でもさ、俺、恐怖以上に感動したんだよ。大切なものを守るために、無我夢中で綺麗さとかそんなんかなぐり捨てて向かってくる、城咲の根性に。そういうことができる奴って、なかなかいないじゃん?」
八重樫くんが照れ臭そうに頭をかく。
ふわっと、私の胸にあたたかな感覚が広がった。ああ……何だろう、これ。心地良いようなくすぐったいような、もどかしいのに嫌じゃない不思議な気持ち。
八重樫くんは、城咲さんの外見に惹かれたわけじゃない。ちゃんと内面を見て、好きになったんだ。
そうとわかって、何だか顔も心も綻んでしまう。
そっか、嬉しいんだ、私。城咲さんのこと、大好きな同志に出会えて。
「私も最初は何この美人って顔面の強さにビビったけど、中身はさらに強烈だったよね」
「わかるわかるぅー。あの顔であのアクの強さは反則だよなー」
「クセ強美人で、ツンデレ属性とか無敵すぎよね? デレられた時の破壊力、まじでやばいもん。あんなん余裕で惚れる」
「いーなー、柊は。俺、まだデレられたことないもん……自分ばっかズルいんだーズルいんだー」
「八重樫くんもデレられてるよ? エーセンから八重樫くんって呼ぶようになってたじゃん」
「えっ、ウソ? やだー、全然気付いてなかった! もぉー早く教えてよー! これからしばらく会いたくても会えないんだからぁー」
それからは、城咲さんの好きなとこ言い合いっこみたいになった。
ていうか、カラオケでやった本物の女子会より女子会っぽい気がするのは何故なんだろう……?
「そうだ、俺も聞いとこ。柊は有瀬のどこが好きなの? 知りたい知りたい。教えて教えてぇー?」
不意に、八重樫くんが思い出したように聞いてきた。
くっ、無駄に高い女子力発揮してくるなっての。あーもう、アホのくせに痛いとこ突いてくるなぁ。
「お、お菓子を、上手に食べるところ、かな……」
仕方なく、私は真央さん達に苦し紛れに吐いた言葉を再び口にした。
途端に、八重樫くんが無表情になる。
あー、この人も無になるパターンかー……と思ったら、八重樫くんの顔にほわぁっと笑みが広がった。
「えー? じゃあ俺ら、仲間なんじゃーん? 好きなものに対する姿勢に惚れたってことだろー? だよなだよな、好きなものに一生懸命なとこ見ると、こっちも好きになっちゃうよな!」
ほっと私は吐息をついた。
ありがとう、八重樫くん。どこまでもアホでチョロくて。どうかずっとそのままでいてね……?




