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アオハル of the Dead End! ~平凡女子高生、顔面チートで頭赤ちゃんな超雑男子とラブコメ(ほぼコメ)する~  作者: 節トキ
LESSON 10 夢に挑戦しよう!

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10-4 夜中の午前三時に歯医者に行ったことある子、だーれだ?


「先生に見つからないように、三人でこっそり食べたキャンディの味は格別だったわ……! どんな高級菓子も、あの時のキャンディには及ばない……!」



 城咲さんはトリップしたまま、うっとりと目を閉じた。


 大分浸り切ってるけど、戻ってこられるんだろうか?



「有瀬くん、城咲さんのお話終わったよ。起きて」


「んあ、終わった? 紅、目薬貸して」



 目を開けたまま寝ていた有瀬くんに声をかけると、すぐに覚醒した。


 やけに静かだと思って見たら、瞬き一切してなかったからすぐわかったよ。便利な寝方マスターしてるよなぁ。私も学びたいけど、教え方がどうせアレだろうから教わるのは却下だな。



「明日香ちゃん、もう現実に着陸して支度しな。また離陸しなきゃならないんだから」



 久月くんが城咲さんを揺すり、ドリームトリップから引き戻す。



「もうそんな時間? はぁ……このまま留佳との時間旅行を続けていたかったわ」



 城咲さんは溜息をつき、傍らに置いてあった大きめのショルダーバッグを引き寄せて中身を念入りに確認し始めた。



「もうタクシー呼んどく?」


「お願い。ついでにキャリーも玄関に出しといて」


「城咲さん、どっか行くの?」



 久月くんとのやり取りを聞いた茉絢が不思議そうに尋ねる。



「ええ。柊さんには言ったけれど、長期休暇は海外にいる両親と過ごすの。二時間後の便で発たなきゃならないから、そろそろ行かなくちゃ」


「えっ!? 今日から行くの!? 聞いてないよ!」



 慌てて隣に滑り込んだ私に、城咲さんもまた不思議そうな眼差しを向けた。



「それはそうでしょう。言ってないもの。知られてたら逆に怖いわよ」



 こ、い、つ、ら、はぁぁぁ……!!


 言ってないの城咲さん、聞かれてないの有瀬くん、本当に似た者同士だよね!!



「じゃあ今日おめかししてるのは、ご両親に会うためだったの? これ、バーバリーだよね?」



 茉絢もそそそと寄ってきて、城咲さんが着ているお高そうなシャツワンピを指差す。



「そうよ。パパとママには大人っぽく見せて、早く一人前だと認めてもらいたいの。紅くん家に行くだけなら、寝間着でも気にならないし、留佳相手にオシャレしてみせたところで、すっぴんも寝起き顔も知られてるんだから意味ないでしょ。どうせ察してもくれないわ。だったら他に何の目的があって、わざわざおめかしするっていうのよ?」



 城咲さんが怪訝そうに眉を寄せる。茉絢はこちらを見て、小バカにしたようにへっと笑った。


 アッ、ハイ……その節は多大なる勘違いで脳内暴走し、誠に申し訳ごさいませんでした……心より陳謝いたします……現場からは以上です、スタジオにお返しします……。




 タクシーがやって来たので、城咲さんを見送りに全員で玄関を出る。


 キャリーを引いて歩く城咲さんの後ろを追っていると、どんどん視界が曇ってきて、気付けば涙が頬に奔流を作っていた。



「え、柊さん、どうしてそんなに泣いてるのよ。今生の別れでもあるまいし」


「だ、だって、寂しい……ひと月も行っちゃうなんて聞いてない……その間、会いたくても会えないなんて、寂しすぎるよぉぉぉ! うわぁぁぁん!」



 ドン引きする城咲さんに無理矢理抱き着き、私は大号泣した。


 夏休みに入れば、顔を合わせなくなるのは当たり前のことだ。そんなこと、理解していた。

 だから――こんなに寂しくなるなんて、思ってもなかった。


 私、いつの間にか城咲さんのこと、こんなに大好きになっちゃってたんだ。



「またお土産買ってくるわ。柊さん、前のお土産も大切にしてくれてるみたいだし、ちょっと奮発するわね」



 背中を撫でて宥めてくれる城咲さんから体を離し、私は泣き濡れた顔を向けた。



「お、お土産なんていいから、私にも連絡して。私からもラインするから。有瀬くんばっかじゃなくて、私にも声聞かせて」


「え、ええ……わ、わかった、けど……お土産は買うわよ?」



 私のささやかなお願いを聞いて、城咲さんはぽかんとした表情をしつつも了承してくれた。

 面倒臭い奴と思われてるんだろうなと理解していても、頷いてくれたことが嬉しかった。



「留佳!」



 私との別れを済ませると、城咲さんは有瀬くんに駆け寄った。


 そして、棒立ちになっていた彼をぎゅっと抱き締める。



「真央にいじめられたらすぐに言うのよ。志貴にポーズ研究だとか何だとかで無茶振りされたら、ちゃんと断るのよ。お菓子を食べすぎちゃダメよ。ご飯は残さず食べるのよ。早寝早起きするのよ。ゴロゴロばっかりしてないで、ちゃんと運動するのよ。シャワーだけで済ませないで、しっかり湯船に浸かるのよ。耳の後ろまで洗うのよ。歯磨きは歯周ポケットを意識して念入りにね。そうだわ、歯医者の予約忘れないようにね。八日の午後三時よ。午前じゃないからね」



 さぞや感動の別れになるのであろうと準備をしていた私の涙腺は、スッと冷めた。

 何だこれ、我が子にお留守番させるママやん……。



「……わかった。俺なら大丈夫だ、心配いらない」



 有瀬くんが静かに凪いだ声で答える。それから彼は、城咲さんの頭をそっと撫でて背中をポンポンと叩いた。


 こんな有瀬くん、初めて見た。


 有瀬くん、城咲さんにこんなに優しく接するんだ……私が知らなかっただけで。


 城咲さんは言いたいだけ言ってスッキリしたようで、自分から身を剥がすと、爪先立ちになって有瀬くんの頬にキスをした。

 あまりに自然な動きで、驚く暇もなかった。



「じゃあね、留佳。行ってきます」



 何てことないように、城咲さんが微笑む。



「うん、明日香も気を付けて」



 有瀬くんも同じく、いつも通りの表情で応えた。


 そうして皆に手を振り、城咲さんはタクシーに乗り込んで行ってしまった。


 灼熱の太陽が容赦ない陽射しを突き刺す中、みるみる小さくなっていくタクシーをぼんやり眺める有瀬くんの横顔は――声をかけてはいけないような、声をかけても届かないような、そんな感じがして、離れていく城咲さん以上に遠い距離感を覚えた。


 きっと有瀬くんも寂しいんだろうな。

 そう思うと、じり、と胸の奥が軋んだ。


 私だってこんなに寂しいんだもん、城咲さんと長い時間を過ごした有瀬くんは、もっと寂しいに決まってる。しかも今は同じ屋根の下に一緒に住んでて、家族同然の人だ。


 家族同然……本当にそれだけ?


 もしかしたら。



『自分への恋愛感情が芽生える……というより、知らない間にずっと胸にあったんだと察知してくれることに期待してるんじゃないかな』



 久月くんの言葉が蘇る。


 城咲さんの願いは、もう叶っているのかもしれない。


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