9-5 探偵の推理が終わってる
食後の片付けが終わると、ついに勉強会が開始した。
茉絢は城咲さんに苦手な理数科目を教わり、八重樫くんは久月くんに早くもシバき倒されて半泣き状態となっている。
バンコーは課題が多いと聞いていたけど、本当に多い。ウチの高校の倍はある。学校側は生徒達を休ませる気が一切ないらしい。
私は有瀬くんと一緒に、現国の課題から手を付けることにした……んだけど。
「この作品を通して作者の言いたいことは何だって問題、よくあるよな」
「あるあるだね」
「俺は作者じゃないからわからない」
「そうだね、本当のところはわかんないよね」
「つまり、答えは作者にしかわからないはずだ」
「こういうのは作者じゃなくて、問題を作った人が求めてそうなこと書いとけばいいんだよ」
「俺は問題を作った人でもないからわからない。さて、どうする?」
「それはそうなんだけどさぁ……私は自分ならこうかなって予想して書いてるよ。推理的な感じで」
「なるほど、推理か。探偵みたいに?」
「そ、探偵みたいに。探偵は忙しいの、さっさと推理して次の事件に挑まなきゃ。有瀬くんもこっちの問題ばっか見てないで、自分の方をとっとと進めたら? 夏休みはぼけっとしてても終わるけど、課題はやんなきゃ終わんないよ?」
こんな調子で、ちっとも捗らない。
ていうかさぁ、私の進み具合が気になるのはわかるとしても、しょっちゅう覗き込んでくるの、どうにかなんない? 隣からぐいぐい体を寄せてくるから、左半身がほぼ密着状態になるんですが。
冷房が効いてるとはいえ、ちょっと控えてほしい……トイレ借りてる間に一応汗拭きシートと制汗スプレーとドラシャンでケアしといたけど、ものすごく汗かいた後なんだもん。おどろおどろしい異臭を放ってないかって、実は気が気じゃないんだよ。
ほわっとした温もりと共に、慣れない香りが嗅覚を刺激するのも落ち着かない理由の一つだ。久月くんが有瀬くんにあげたボディーシートの香りだろう。
雑の名に恥じず、しっかり雑にガシガシわしわし拭いてたよなぁ。久月くんと一緒になって八重樫くんまで巻き込んで、服の中に手を突っ込み合って拭き合いっこしてたなぁ。仲良く戯れる男子達、体は大きくなっても心はチビッコのまんまって感じで、微笑ましかったなぁ。
でもあの微笑まシートのせいで、いつものシトラス系とは違う匂いがして、変な感じにそわそわするんだよなぁ。
やっと有瀬くんが自分の問題集に集中し始めたようなので、チラッと様子を窺ってみる。
ひゃー、横顔もやっぱり綺麗。輪郭を描くラインが完成されすぎてる。
うわうわ、見たことないほど真剣な表情してる……いやでもこれ、ヤバくない? 人を寄せ付けない冷ややかさと惹き付ける色っぽさの共演で、平衡感覚失いそう。彼の隣の席になった子って、授業の度に毎回こんな顔見てるの? 目が回って授業どころじゃなくない?
この魔性は危険だわ……これまでも知らず識らずの内に、他人の人生を狂わせてきたに違いない。ここまできたら、もはや美形じゃなくて異形だよね。
「那由多にもらったヒントで俺も解いてみた。この答えならどうだ?」
魔性の異形、有瀬くんに促されて、仕方なく今度は私が身を寄せた。もちろん、こちらはちゃんと距離を保って、だ。
「うーん……『お菓子が食べたいから早く物語を書き終わりたい』ってのは有瀬くん個人の感想だよね? 推理になってないからナシだと思う」
「そうか、推理は難しいな。探偵になるのはやめる」
「うん、やめた方がいいよ……」
なるつもりやったんかい、というツッコミは入れないでおいであげた。
現国が一段落すると、次は逆に私から有瀬くんにお願いして数学を教わることにした。
いやもうね、何かすごかった。
この人、本当はアホなんじゃないか、成績がやたら良いのは毎回ヤマが当たってたというだけなんじゃないか、勘がいいだけのアホというのが真の正体なんじゃないかって疑ってたけど、ちっともアホじゃなかったわ。むしろ城咲さんが仰ってた通り、天才も天才、大天才様だったわ。
現国ではあんなにグダグダしてたのに、有瀬くんは数学になると別人みたいにすらすら解いていった。あっという間に問題集一冊片付けちゃって、開いた口が塞がらなかったよ。
しかし、肝心の教え方については、
「問題見たら答えがわかるだろ? それを書けばいいだけだ」
とまあ、天才ならではといった非常に大雑把な指南をいただきました。
うん、教わるのは潔く諦めて、丸写しさせてもらうことにしたよ! 課題が終われば無問題!
明日から待ちに待った夏休み。
梨奈ちゃんは海の家のバイトで日に日に日焼けして、早くも夏を大満喫してる様子だ。毎日ナンパされてウザーいとか言ってたけど、私にはちょっと嬉しそうに見えたよ。
これはマウントってやつなの? それともモテない私の僻み? ナンパなんてされたことないし、周りからそんな話を聞いたこともないし、都市伝説みたいなもんだと思ってたし。
茉絢もナンパなんてされたことない……よね? 類友だと信じてるからね!?
城咲さんは頭が良い上に教えるのも上手らしく、茉絢はすっかり数学が得意に……とまではいかなくても、苦手意識は多少克服できたみたい。
久月くんは可愛い顔してスパルタ式で、八重樫くんは解答を間違える度に腹筋腕立て伏せ百回ずつという罰を課せられていた。
私と有瀬くんは手を組み、お互いの苦手科目を相手に片付けてもらってそれぞれ丸写しにする効率的かつ生産性のないやり方で課題をやっつけた。
といったわけで勉強会自体は昨日で終了――したんだけれど、最後にお疲れ会をやろうということになって、私達六人は終業式の後、久月邸に集合した。




