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アオハル of the Dead End! ~平凡女子高生、顔面チートで頭赤ちゃんな超雑男子とラブコメ(ほぼコメ)する~  作者: 節トキ
LESSON 9 勉強会をしよう!

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9-1 親友はきっと深夜の通販番組の常連客


「ねぇ、あなた、一組の(ひいらぎ)さんでしょ?」



 休憩時間、トイレに入ったところで見知らぬ女子二人組に声をかけられた。



「そうだけど、何かな?」



 またか……と思いながらも仕方なく用を尋ねると、ロングヘアの子が首を傾げるようにして薄笑いを浮かべた。



「五組の有瀬(ありせ)くんと付き合ってるって聞いたけど、本当なの?」


「付き合ってるというか、付き合いはあるかな。一応恋人だよ」


「ふーん……何で?」



 私の全体像を把握しようとせんばかりにじろじろ見ていたショートヘアの方が、ぶっきらぼうに問う。



「何でって、変なこと聞くね。有瀬くんが恋人になろう的なことを言ったから、恋人になったってだけだよ」



 実際には有無を言わさず恋人にされたんだけど、若干まろやかにして伝えた。

 事実は変えてないから嘘じゃない。嘘じゃないから大丈夫。



「そうじゃなくてさぁ、何であんたみたいなのを有瀬くんが恋人にしようとしたの? もしかして弱みでも握ってるとか?」



 なるほど、弱みときたか。弱みといったら、アレしかないな。



「握ってはないけど、見せられたって感じかな。見たくて見たわけじゃないよ。勝手に暴露してきたんだよ。あ、でもあれは恋人になった後だった。ごめん、弱みは関係ないっぽい」



 そう、私だって有瀬くんが閻魔さんにあんなにビビり散らしてるなんて、知るつもりもなかったし知りたくもなかった。おかげで私まで変な影響受ける羽目になったんだもん。


 城咲(しろさき)さんによると、志貴(しき)さんがまだ幼い有瀬くんに閻魔様のお話を情感たっぷりに語って聞かせたせいらしいじゃない。ご丁寧にも、拷問グロホラー映画を観せながらだったというから、そりゃトラウマにもなるよね。



「謝るくらいなら、さっさと有瀬くんと別れてほしいな。自分だってわかってんでしょ、不釣り合いだって」


「でも、あちこちから別れるなって釘刺されてるし」


「じゃあウチらがその釘抜いて、代わりに別れろって釘刺し直してあげるよ。ねえ、わかるっしょ? 有瀬くんのそばにいられたら目障りなんだよ、ブスの分際で」


「は? お互い様でしょ。そっちだって大した顔してないじゃない」



 これは私が言ったんじゃない。ずっと黙って後ろにいた梨奈(りな)ちゃんだ。



「あんた、何? しゃしゃってくんなよ。こっちはこのブスとお話してんの」



 ショートヘアの子が進み出て梨奈ちゃんを睨む。

 うわ、こっわぁ……教育と称して校舎裏に後輩を呼び出していびる、昭和の体育会系女子のリーダーみたいだ。



「お話にならないからしゃしゃってんのよ、ブス。顔もイマイチなら頭もイマイチなの? ブス。顔も頭も、性格までイマイチじゃ、そりゃ有瀬くんに相手にされないわよね、オールブス」



 しかし梨奈ちゃん、強い。

 さすが、あの城咲さんの監視の隙を狙って有瀬くんに告っただけあるよね!



「何なの、あんた。ブスブス抜かしといて、あんただってイマイチ顔じゃないの。あんたのブス顔なんかいちいち見せなくていいから、引っ込んでなさいよ」



 叩きのめされたショートヘアの子を気遣ってか、ロングヘアの子が援護射撃に入る。


 うーん、いい線いってんだけど、まだ決定力に欠けるかな? 今のところ、梨奈ちゃんが優勢か。



「へえ、あんただって、と言うからには、そっちは自分もイマイチ顔だって自覚あるのね。あたしにもあんたのブス顔、いちいち見せなくていいわよ。あんたのお言葉、そっくりそのままお返ししてあげるわ、ブス」


「はぁ…………十点!」



 ロングヘアの子が言葉に詰まったところで、梨奈ちゃんの後ろから茉絢(まあや)が溜息混じりに採点結果を告げた。



「ちょっと、あんた何……」


「あんた達、わかってない! 罵倒が何たるかを全然わかってないよ!」



 そう叫んで、茉絢は絡んできた二人と私との間にずかずか割り込んだ。



「さっきから聞いてりゃブスブスブスブス、ブスの一辺倒! 面白みもなければ、心動かす要素もない! 大体ね、ブスという単語のみで相手を傷付けられるのは、城咲さんクラスの超絶美少女か、顔立ちの基盤すらないのっぺらぼうくらいでしょ! 同レベル帯では『お前もじゃん』ってなって冷めるだけだって、どうしてわかんないかなあ!?」



 茉絢の剣幕に、ショートヘアの子もロングヘアの子も気圧されて後退った。



「確かに顔面の批判は、個人にダメージを与えられるかもしれないよ? でもだから何? ナユが『ブスって言われたーうわーん』って泣いて凹んだところで、あんた達の望みが叶う? だったらいくらでも言えば? ブスでもウンチでもウンコでもウンチでも、せっかくなら早口記録に挑戦して舌噛み千切るほど言いまくればいいよ!」



 相手が押し黙ったのをいいことに、茉絢はどんどんヒートアップしていく。



「あんた達はまず、目的意識がしっかりしていない! あんた達は何がしたかったの? ナユと有瀬くんを別れさせたかったんでしょーが! ナユにブスって言えば、二人を別れさせられる? んな簡単に事が運ぶんなら、ブスって言葉でどこでもNTR成功しまくってるわ! ブス言い合い戦争でとっくに世界滅びとるわ!!」


「あの……私達、そろそろ」


「うるさいっ! 逃げるなっ! 己の浅はかさから目を逸らすな! 向き合え!」



 二人は逃げ出そうとしたようだったけど、茉絢に一喝されて直立不動となった。


 すごいなぁ、茉絢。あんなにちっちゃいのに、とても越えていける気がしないよ。これも闘気ってやつのせいかな?



「あんた達は語彙力が貧困なのはもちろん、何よりも思考が浅くて思慮が足りなすぎるの。だから、目的達成への道筋がブレるんだよ。言葉で相手を蹴落としたいなら、もっといろいろ研究して勉強すべきなの。どう言えば効果的か、どう罵れば自分に有利になるか、しっかりと熟考して口撃を磨く必要があるの。わかる?」



 二人は真剣な表情でこくこく頷いた。早くも茉絢のペースに引き込まれていたらしい。



「ウチらには何が足りなかったのかな?」

「どうしたら、上手く口撃できるようになるの?」



 引き込まれたどころじゃない。ついには茉絢に相談までし始めたよ。


 そんな二人の様子を見て、茉絢はふぅと一つ息をつくと、気の毒そうに眉を下げた。



「口撃の研究や勉強はとても大変なの。参考書があるわけじゃないから、実地で経験を積み重ねていくしかない。何度も失敗して打ち拉がれて、また立ち上がって挑んで夢破れて……その繰り返しよ。並大抵の努力と根性で身に付くものじゃない」


「そ、そんなぁ……」



 二人が泣きそうに顔を歪めて茉絢に縋る。二人をヨシヨシと宥めてから、茉絢は眼鏡をクイッと押し上げ、ニヤリと笑ってみせた。



「そんな迷える仔羊なあなた達に朗報だよっ! 今ならとても良い教材があるの!」



 そこで彼女が内ポケットから取り出したるは、一枚のゲームソフト。



「じゃじゃーん! 今わたしがイチオシの乙女ゲーム『ブレイン・ザ・ネオロマンチック』ですっ!」



 突然降って湧いた乙女ゲーに、二人は唖然とした。

 わかるわかる、そんな反応になりますよねー。



「よくある乙女ゲーだと侮ってると、痛い目見るよ? このゲームはね、他の作品とは違って攻略対象となるヒーローはただ一人。代わりに、悪役令嬢がたくさん登場するの。どいつもこいつも、頭も舌も回る切れ者曲者強者揃いよ。そいつらを全員回避しなくては、ヒーローとは結ばれない……そんな異色の乙女ゲーなのよ!」



 私の隣では、梨奈ちゃんがうんうんと頷いていた。


 へえ、梨奈ちゃんもプレイ済なんだ。ビジュしか見てないけど、確かにヒーローはオンリーワンだけあってカッコ良かったなぁ。



「あんた達が学ぶべきは、この悪役令嬢達よ。彼女達は驚くほど素早く頭を回転させ、恐怖すら覚えるほど口撃技に長けている。どう攻めれば状況を変えられるか、どう働きかければ相手を落とし自分を上げられるか、要所要所で的確に突いてくるの。まさにあんた達が求めるものを全て持った師が、この中に詰まっているというわけ!」



 茉絢のプレゼンに、二人はすっかり翻弄されていた。



「ハードは? ステイプレーションしか持ってないんだけど……」


「家にあるのはシュワッチのみだわ……」


「安心して! どちらのハードからも発売されているわ!」


「でもぉ……お高いんでしょう?」


「やっぱりぃ……気になるのは、お値段、ですよねぇ?」



 おいおい……あの二人、通販番組のエキストラみたいになってない? なってるよね?



「通常版は8580円、特装版は12880円……まぁ、学生には厳しい価格だよね」



 茉絢の言葉に、二人はずどーんと項垂れた。

 いやほんと、通販番組のエキストラそのものじゃん。



「で、す、がぁ……?」



 ここで茉絢は、声音を変えて煽りの姿勢に入る。たちまち二人は顔を上げた。



「今なら何と……何と何と、廉価版が発売されておりますっ! 廉価版なら3980円! 大っ変お得ですよっ!」


「やっすーーい!!」

「すぐ買うーー!!」



 歓喜してスマホで通販サイトを開く二人の合間から、茉絢が悪い笑みを浮かべているのが見えた。


 やれやれ、本日も布教活動大成功で何よりだ。


 それよりもうおトイレ行っていいかな? そろそろ限界だよ……。


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