8-3 可愛い系VS綺麗系、勝者アホ
「お、俺の話はもういいだろ? 城咲も、俺のことを思い出してくれたみたいだし」
八重樫くんの声に、思わずハンカチで押さえていた顔を上げた。
すると八重樫くん、照れ笑いを浮かべながら城咲さんチラ見を早くも再開している。
立ち直り、はっや!
永久戦犯扱いでも覚えててもらえて嬉しいとか、いくらなんでもポジティブすぎん? ここまでくるともはやサイコだわ。
「僕は幼稚園からの腐れ縁ってだけだから、八重樫みたいな面白エピソードは全く一つもないよ。それより、そちらのお二人を紹介してもらっていい?」
久月くんの言葉で、地獄の黒歴史記憶沼に沈んでいた私と茉絢は我に返り、慌てて現実に浮上した。
「柊那由多です。城咲さんと有瀬くんとは同じ高校の同級生です」
私は私らしく、平凡極まりない挨拶をして頭を下げた。
「わたしは吉良茉絢です。ナユの友達で同じクラスです。城咲さんとは同じ図書委員で、有瀬くんとは彼の恋人のナユ繋がりで知り合いました」
「恋………何? 何が何の何だって?」
茉絢の自己紹介に、久月くんが固まった笑顔で問い返す。
「あれ、知らなかったんですか? 有瀬くんとナユ、恋人同士なんですよ」
「ああ、伝え忘れてたわ。紅くん、ガラケーだからラインできないんだもの。でも何度か電話したのよ? なのに全然出てくれなかったんだから、仕方ないわよね」
茉絢に続き、城咲さんが久月くんに告げる。すると彼の顔から笑みが消えた。
「何回か非通知でかかってきた怪しい電話は明日香ちゃんだったのかよ! 何回も言ってるけど、ちゃんと通知設定しなよね!」
可愛い顔立ちしてても怒るとなかなかの迫力だ。
「うるさいわね! 設定の仕方がわからないのよ! そっちこそ変な拘りでガラケーなんか使ってないで、さっさとスマホに変えなさいよ! スマホにしたらやり方教えてよ!」
が、城咲さんも負けじと目を釣り上げて応戦する。
可愛い系VS綺麗系、どっちも強い!
「余計なお世話だよ! ガラケーの良さがわからないなら、口出ししないでほしいな! 大体スマホなんか持ってなくたって設定くらいわかるよ! ほら、スマホ出して! 今すぐ教えるから!」
「あっ、じゃあ俺の連絡先もついでに登録……」
「するわけないでしょう! エーセンはすっ込んでて! あんたに番号を教えるのは、この携帯解約する一秒前よ!」
「えっ、あだ名で呼んでくれるのか? そ、そっか、解約一秒前になったら教えてくれるんだぁ……ま、待ってるからな、城咲」
しかし、飛び入り参加した八重樫くんが一番強かった。
永久戦犯、略してエーセン呼ばわりされても、二度と繋がらない番号しか教えないと宣告されても、どこまでも前向きに捉えてるんだもん。この人の辞書には、めげるって言葉がないんだろうな……ある意味羨ましいよ。
大見得を切った久月くんだったけれど、不慣れなスマホに悪戦苦闘して、結局は茉絢に助けを求めて、城咲さんを中心に三人でスマホの設定をすることになったみたい。
「なあ、有瀬……その子、柊とかいったっけ? 本当に恋人なのか?」
城咲さんに『個人情報を盗みそうだからこっち見るな』とシッシッを食らった八重樫くんが、改めて有瀬くんに問い質す。
「うん。那由多は俺と恋人同士だ。両方の親にも紹介し合ってる」
うーん……有瀬くん家はともかく、ウチは紹介したと言えるのかなぁ?
パパもママも、マグロ姿しか知らないんだよ? というかあれ以来一度もその話には触れてこないから、冗談だったと受け流してなかったことにしてると思うな?
「ご、ご両親公認の仲……!? てことは、あの有瀬先生にも認められたのか!?」
「あ、そういや真央さん、家庭科の先生なんだっけ。八重樫くんも知ってるってことは、サラチューで教えてたの?」
反対隣から聞くと、有瀬くんと八重樫くんは同時に頷いた。
わあ、タイミングピッタリ。さすともだー。
「親子で教師と生徒って気まずくない? それもよりにもよって、あんな凶悪な人相したパパとか……考えてみたら、よく中学教諭として採用されたよね。履歴書の写真と面接はにこやか仮面でも付けてやり過ごしたのかな? だけど学校でもあの地獄の獄卒みたいなオーラをムンムンに放ってたんでしょ? もしかして、生徒達の精神力を強靭に鍛えるために敢えて選ばれたとか? 真央さんに慣れられたら、大抵のことじゃビビらなくなりそうだし」
「お、おま……何てことを……こ、殺されるぞ……」
八重樫くんが蒼白な顔でカタカタ歯を鳴らしながら言う。
私だって、本人の前じゃ恐ろしすぎて言わないし言えないよ。いないから言ってるんだよ。いないとこで吐き出しとかないと、恐怖ストレスが溜まりに溜まってそれこそ本人の前でやらかしかねないじゃん。
これぞ那由多流、王ロバ式恐怖発散法だよ。
「大丈夫だ、那由多は殺されない。父は那由多を気に入ってるからな。毎日那由多のためにお弁当作ってたし、気合入れて弁当箱まで買いに行ってた」
「え、あのクソファンシーな鬼可愛いお弁当箱、真央さんセレクトだったの? どんな顔してレジに持ってったんだろ……見てみたかったなー。今度お手紙で聞いてみよ」
「わかった! よくわかったから有瀬先生の話はやめよう、な!? 俺、先生に目ぇ付けられてて、常に睨まれてたんだよ……超怖かったんだよぅ……」
八重樫くんは涙目で訴えてたけど……多分違うんじゃないかな。真央さんのことだから、息子のお友達がどんな子か気になって、ついつい視線で追っちゃってただけなんじゃないかな、多分の多分。
「とにかく、この子は正真正銘お前の恋人なんだってことは理解した」
「八重樫にしては理解が早いな。褒美にこの皿でパンケーキの残り香を味わう権利をやる」
「うっせ、んなもんいらねーわ。それより柊」
有瀬くんを挟んで、八重樫くんは初めて私の名前を呼んだ。
「有瀬と絶対別れんなよ? いつまでも仲良くしろよ? 永遠に結ばれててくれよ?」
「え、ええと、善処します……」
真っ直ぐにこちらを見る彼の目に耐え切れず、私は愛想笑いで誤魔化した。
八重樫くんが私と有瀬くんの仲を応援してくれるのは、城咲さんのことが好きだから。そして彼はきっと、城咲さんがずっと有瀬くん一筋だと知っている。
でも私と有瀬くんの恋人関係は、城咲さんの想いを成就させるための手段の一つでしかなくて。
チクリと胸が軋む。ああ、またこの痛みだ。これも度重なる罪悪感のせいか。
八重樫くんまで騙すみたいになったんだもん……嘘じゃなくて盛ってるだけだって、どこまで言い訳できるだろう? そろそろ死後の舌の保持は諦めた方がいいかも。




