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アオハル of the Dead End! ~平凡女子高生、顔面チートで頭赤ちゃんな超雑男子とラブコメ(ほぼコメ)する~  作者: 節トキ
LESSON 7 相合傘をしよう!

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7-4 那由多はうすしお味


「具体的な職種は決まってない、ってことかな……」


「うん。探してるけど見付からない。那由多もどこかに落ちてるのを見かけたら教えてほしい」


「わかった……見かけたら拾って保管しとくね……」



 力なく答えて、私は項垂れた。


 そんな条件の職なんて、暇を持て余した金持ちのヒモくらいしかないでしょうに。有瀬くんくらい顔が良ければ、引く手あまただろうけどさ。金持ちでなくても養いたいって人も、大勢いるだろうけどさ。

 でもそれと引き換えに、私達がまだ読んじゃいけない薄い本みたいなことを要求されるんだよ? そんな道に進むなんて、どう考えても良くないよ?


 若く美しく純粋な青年が、有閑マダムや資産家パパにあんなことやこんなことをされて汚されるなんて……!



「那由多は」



 危なげな想像に走りかかったところで、有瀬くんの声に規制された。



「何でもできそうだし、何にでもなれそうだな」


「へ? 私が?」



 ぽかんとして問い返すと、有瀬くんは私から視線を逸らして俯いた。



「誰とでも仲良くなれるし、どこで何してても楽しそうだ。俺とは全然違う」



 雨音に消えそうなほど小さな彼の呟きを、私は呆然と聞いていた。


 いやいやいや……私は普通よ?

 比べる対象が有瀬くんと城咲さんだというなら、高嶺の花すぎて皆近寄りがたいってだけだよ?

 私は単に、どこにでもいそうな顔してるから、警戒も敬遠もされないというだけで……と考えて、気付いた。


 ああ、そうか。有瀬くんも城咲さんも、私にとっての普通が普通じゃなかったんだ。


 皆と気軽に仲良くしたくても、遠巻きにされるだけで話しかけてももらえなくて。友達がほしくても、作る段階にすら進めなくて――。


 ぼわー! と雨を凌ぐ勢いで涙が噴きこぼれた。切ない、切なすぎる……!


 高嶺の花は孤独って聞いたことあるけれど、何て切ないの……! 凛と咲く一輪の美しいお花の中には、流したくても流せなかった涙が満ち満ちているんだね……! だからこそ、花はこんなにも美しく映るのね……!



「那由多、泣いてるよな? これはさすがに雨じゃないよな?」


「違うよ、雨だよ! 私が雨といったら雨なんだよ!」



 有瀬くんの戸惑った声に、私はブンブンと水を弾き飛ばす勢いで首を横に振って否定した。


 すると顎に、長い指がかかる。

 そのまま上向かされ、有瀬くんの水も滴る超イケメンな顔が近付いてきて――ぼんやりしている間に、左の下瞼に柔らかくてあたたかな湿り気が走った。



「しょっぱい。涙だ。嘘ついたのか、那由多」



 有瀬くんが無表情に宣告する。


 ぺろりと見せた舌で、今、私の目の下を舐めたんだ……と察するや、顔面全域にボン! と熱の大爆発が起こった。



「ち、違うよ! 嘘じゃない! 盛っただけで嘘じゃない!」



 何をされたか理解しても、何を言えばいいのかわからず、私は何故か必死になって嘘についての弁明をした。



「今キスした!? したよね!? ナユと悪魔、キスしたよね!?」



 駆け寄ってきた茉絢が、ニヤニヤ笑顔で私の顔を覗き込む。


 ちくしょー、見られてた!

 そりゃ見えるよね! 隠すもん何もないもんね! 傘じゃなくて骨組みの成れの果てだもんね!



「留佳、キスしたの!? 本当に!? 吉良さんオススメのゲームの検索に夢中で見てなかったわ! お願い、もう一回やってみせて!」



 城咲さんも、濡れるのも構わずに有瀬くんに掴み掛かる。



「キスしてない」

「そうだよ、してないよ!」



 二人で否定するも、茉絢も城咲さんも全然聞き入れてくれない。



「ナユ、顔めっちゃ赤いよ? ヒューヒュー、一足お先に唇バージン卒業だね。ねえ、やっぱレモン味だった? それとも相手が悪魔だけに、天かす青のり麺つゆミックスな悪魔飯風味?」



 と、茉絢が眼鏡の奥の瞳を期待に輝かせて尋ねれば。



「俺の名前は悪魔じゃない。有瀬だ。うすしお味だった」



 と、有瀬くんが例のぼんやり無表情で、さらに誤解を招くようなことを抜かし。



「うすしお味!? ゴボウつぶあんココアスティックパイ味じゃないの!? おかしいわ、留佳! やり直して再度確認すべきよ! はい、3、2、1、チュウッ!」



 と、城咲さんは先々月号の『恋生き』のキスシーンを何故か現実と混同して、執拗にリプレイを要求するし。



「だからキスなんてしてないの! 泣いてもないの! 嘘ついてない、盛っただけなの! お願い、閻魔さん、信じてぇぇぇーー!」



 と、私は茉絢に指摘されるまでもなく、自分でもわかるほど真っ赤になった顔で泣き喚きながら閻魔さんに哀願するし…………初の相合傘は、もういろいろとめちゃくちゃだった。



 でも――有瀬くんが濡れた前髪を無造作に後ろにかき上げる仕草はただでさえ次元超えてるイケメン度がさらに限界突破するほどカッコ良かったし、濡れたシャツからチラチラ透ける肌は見ちゃいけないものを見ちゃったような背徳感に満ちた色気があったし、こめかみから顎先を伝って喉仏と首筋を雨水が流れ落ちる様はフェロモン大噴出でド直球のドエロさだったし、まぁいいものはたくさん見られたかな。


 サンキュー、相合傘! サンキュー、どしゃ降り!


 でも有瀬くんの傘、お前だけは許さない。

 たとえ数々の眼福がお前のおかげであっても、許さないったら許さない。


 お前が傘としての本来の目的を果たさなかったせいで、私の制服のシャツも濡れて透けて、下着丸見えになってたんだからね!

 よりにもよって『胸毛炸裂!』って前後にデカデカと書いてあるアホなスポブラだったんだからね!


 別れ際に茉絢が申し訳無さそうに教えてくれたよ……。可愛いの選んであげるから、今度一緒に下着を買いに行こうって憐れむような目で言われたよ……。


 有瀬くんは、ちっとも気付いてなかったみたいだからいいけどね……。気付いててもスルーだろうけどね……。私の悲しい下着事情になんか、誰も興味ないだろうけどね……。


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