5-5 はじめてのおくりもの
「えー自分っすかー。自分、何もできないっすよー」
ビシッと指を差されたけど、差すに留まらずぐりぐり指で頬を刺してきてるけど、城咲さんの熱弁を聞いてるだけでうんざりしてたので、私はおざなりに答えた。
「あなたは留佳と恋人らしいことをするだけでいいの。恋人とは何たるかを経験して学べば、留佳の今はまだ蕾……いいえ、種すら撒かれてない恋の感性に刺激を与えられるかもしれない。『こういうことを明日香としたいな♡』って思うようになって、私への恋心まで芽生えるようになるかもしれない。否、かもしれないじゃない、絶対にそう思わせられるはずよ! そうすれば長年の悲願を達成できる! そして私は留佳と現世で結ばれるのよ!」
種すら撒かれてないんじゃ芽生える恋などないのでは……なんて突っ込む気力も湧かなかった。
だってこの人、このトンデモ攻略法を攻略対象本人の前で語ってるんですよ!?
お菓子の家づくりに夢中で聞いちゃいないし、聞いてたところで意味も理解できなさそうだけど。
何たって赤ちゃんだもんね。
あ、また倒壊した。うんうん、雑だから仕方ないね。頼むからリアル建築士にはなってくれるな。
「わかったわかった、城咲さんの熱い思いはよくわかったよ。また資料として恋愛漫画とか小説とか貸すね。茉絢にお願いして、ゲームのオススメも聞いてみるよ。恋人とは何たるかを、城咲さんこそよく知るべきだと思うからさ。長年っていうのがどのくらいかは知らないけど、悲願達成できるように私も祈ってるよ」
予鈴が鳴ったので急いでお弁当箱を片付けながら、私は慌ただしく告げた。
「ああ、その話がまだだったわね。あれはまだ私が幼稚園児だった頃……」
「えっ!? そんなに遡るの!? 今はいいって、また今度改めて聞くね! 私のクラス、次も移動だから時間がないの!」
遠い目をして過去語りを始めかけた城咲さんを押し留め、立ち上がったところで。
「お菓子の家ができた。那由多にやる。恋人だからな」
ズタボロになった包装紙を握り締めて固めた物体を差し出し、有瀬くんが言う。
こんなの普通にゴミじゃないの! 自分で捨てなさいよ! このクソ忙しい時にいらんことしよって!
「ちょっと、柊さん! 何勝手に留佳からプレゼントなんてもらってるのよ! 留佳の手作りなんて、文化遺産級の作品なのよ!? 後世に伝えねばならない、かけがえのない宝なのよ!? きちんと保存しておける場所はちゃんと用意しているんでしょうね!? そうだわ、いっそ博物館を建設すべきよ!」
とっとと教室に戻ろうとした私を捕まえ、城咲さんが熱く激しく鬱陶しくゴミの所在について喚き出す。
こいつらときたら、本当に本当に……!
「もーーっ、バカバカ、バカッ! いい加減にしろっ、このバカ! こっちもバカ! いいからほらっ、バカやってないでとっとと行くよ! 授業に遅れるでしょーが!」
バカを一つずつくれてやり、私は二人の背中をぐいぐい押した。
城咲さんは私に怒鳴られたことにビックリしたみたいで素直に動いてくれたけれど、しかし有瀬くんの方は体格差もあって、押しても押しても全然進まない。
こいつ、このまま私の力で運んでもらおうと思ってるんじゃないの? うん、思ってるよね。全く足動かしてないもんね!
「有瀬くん、口開けて」
「んあ」
ぱかっと開いた綺麗な歯並びの奥に、私はキャンディを投げ込んだ。
こんなこともあろうかと、ジャンプしても落ちないように密かに内ポケットにしまっておいたのよ。もう何度もジャンプでお菓子横取りされてるからね!
「エネルギー補填してあげたんだから自分で動いてよね! 五組は三階なんだから、私より遠いんだよ! ほらほら急いで急いで!」
「この飴、やっぱり青飴だよな?」
半ば呆然としながら、有瀬くんが呟く。
「へえ、青飴を知ってるんだね。なかなか通だね。お菓子好きなだけあるね。ちゃんと動いたらまたあげるね。だから早く行く! はーやーくー! ハーリーアーップ!」
早口で答えながら、私は懸命に二人を急かせて頑張った……けど、残念ながら遅刻した。
きっと城咲さんと有瀬くんは、もっとダメだったと思う。梨奈ちゃん情報によると、五組の今日の五限は体育らしいから。
あの二人ってば、自分のクラスの時間割も把握してないの? 何で少しも焦らないかなあ?
でも、まあいいか。城咲さんの本音を聞けたし、ゴミの押し付けとはいえ、有瀬くんが初めて自分から恋人らしいことをしてくれたんだもんね。
いや、別に嬉しくはないけどね? こんなの、大事にしようなんて思わないけどね? 城咲さんに後で保管場所とか諸々を聞かれたら困るから、一応は取っておくけどね?
城咲さん、あなたの言う通り、有瀬くんは実はひっそりちゃんと成長してるみたいよ。良かったね。




