5-4 お喋り赤ちゃん「ハラヘッター、ウンチデター」
それにしても――やっぱり城咲さんは、有瀬くんのことが好きなんだよね? 梨奈ちゃんもそう言ってたし、間違いない……よね?
だったらどうして、城咲さんは私を有瀬くんの恋人として認めたんだろう?
言い出しっぺの有瀬くんがなかったことにする気満々だったんだから、止めずにほっとけば良かったのに。
もしかして、梨奈ちゃんと私の二人勘違い、だったりするのかなぁ?
んもー、せっかくスッキリしたのにまた振り出しに戻っちゃったよ。
よし、こうなったら直接本人に確認してみよう!
勉強とおんなじで、考えたってわからない問題は手っ取り早く解答を見るのが一番だよね!
「ねえ、城咲さん」
「なあに、柊さん」
「おい那由多、お菓子持ってるんだろ? ジャンプしてみろジャンプ」
「城咲さんって、有瀬くんのこと好きなの?」
「ええ、もちろん。好き好き大好きよ」
「明日香、お前もお菓子持ってるよな? ネタは割れてんだ、全部出せ」
「その好きって友情的なライクじゃなくて、ラブの方?」
「ラブもラブラブ、ウルトラスーパーデラックスビッグラブに決まってるじゃない」
「お菓子の家ってどこにあるんだ? お前ら知ってるか?」
「さあ? ヘンデルとグレーテルに聞いてみたらいいんじゃない?」
「パンくずを落として目印にしていたはずだから、それを追えば行けるんじゃないかしら?」
「そうなのか。じゃあ帰りにパンくず探してみる」
はぁぁ、これでやっとスッキリした。
ジャンプしたせいでボサった髪をささっと手で直し、私は爽快になった胸を撫で下ろして卵焼きを飲み込んだ。
城咲さんも、バッグとポケットから取り出したお菓子以外の品をてきぱき片手でしまいながら固形栄養補助食品を齧る。
有瀬くんは自前ランチ――今日はのり塩ポテチライス、ブルーベリーソースがけだった――も私達からかき集めたお菓子も食べ尽くし、ベンチで横になってゴロゴロしてる。イケメンはだらしない姿もイケメンなので、そんなに苛つかない。
パパと恒河も家のソファーで同じようなカッコしてる時あるけど、こっちも座りたいのに座れなくて邪魔すぎてイラッとするから、ついつい踵落とし食らわせちゃうんだよね。ママなんて股間を狙って踵ぶち込んでるよ。
毎回悶絶させられてるのに、二人共懲りないんだから、ほんとやんなっちゃうわ。
決意した日が金曜だったせいで休日明けの今日、ようやく私は城咲さんから答えを得ることができた。
おかげで今度こそスッキリ爽快、心のお便秘解消だよ。
このストレス時代、乙女は心のお通じにこそ気を付けなきゃ……って、そうだ。他にも城咲さんに聞きたいことがあったんだった。
「だったら城咲さん、どうして私を有瀬くんの恋人認定したの? 今からでも遅くないよ、恋人交代しよう。有瀬くんだって、気心の知れた城咲さんの方が安心できると思うの。代わりにサポートは私がするよ。恋愛漫画も小説もたくさん読んでるし、ドラマも映画もいろいろ観てるから知識だけはあるし!」
「は? イヤよ」
てっきり喜んで受けてくれると思っていたのに、まさかの即答拒否……ですと!?
「え、でも」
「柊さんは赤子が言葉を話せるとしたら、何を喋ると思う?」
私の言葉を遮り、城咲さんが静かに問う。
「えっと、ハラヘッターとかウンチデターとか?」
「じゃあそんな赤子に愛を告白したら、どう答えるかしら?」
城咲さんは続けて問いかけ、寝転がるのにも飽きて、お菓子の包み紙でお家を組み立てている有瀬くんを手で指し示した。
「……ハラヘッターとかウンチデターとかしか言わない、よね」
「そうね。お互いに言葉を話せても、伝わらないでしょうね。赤子は恋という概念を持ち合わせていないのだもの」
つまり、城咲さんにとって有瀬くんは話せる赤子も同然で――いくら言葉を尽くして気持ちを伝えたところで、理解してもらえることは不可能な相手、というわけね。的確すぎてぐうの音も出やしないわ。
赤ちゃんに恋するってつらい……!
城咲さん、きっとずっとそんなつらい恋をしてるんだ……どれだけ苦しかったんだろう……ダメ、想像しただけで私の涙腺ならぬ涙栓が緩んじゃう……!
「そ、こ、で、よ!」
城咲さんはキラーンという効果音が聞こえるくらい目を輝かせ、うる目になってた私の肩を掴んだ。
「恋の概念がない赤子相手に、不毛なアプローチを続けていても仕方ないじゃない? だったら赤子を幼児に、幼児を大人の男に育てればいいのよ!」
「アッハイ……ソッスネ……」
勢いに気圧されるがまま、相槌を打つ以外に何ができようか。
「勘違いしないでね。これは自力で考えた案だから、あなたのおかげでも何でもないわよ? とはいえ考えたまでは良かったんだけど、方法が全く思い付かなかったのよね。ところが困り果てていたところに、柊さんという良いスケープゴート……じゃなくて、スーパーメシアが現れたというわけ! これを使わない手はないじゃない?」
この人、今、思いっ切りスケープゴートって言ったよね?
「まさか留佳が恋人という単語を知っているとは思わなくて驚いたけど、来世も処刑確定女による執拗な攻撃の盾にするためとはいえ、その辺にいた真っ赤な他人の柊さんを恋人に仕立てたことは大きな一歩よ。おかげで、あまりにも微々たる変化で気付きにくかったというだけで、留佳もちゃんと成長してたんだってわかったわ。でも彼の成長を待つだけなんて嫌、このままじゃ私の気持ちを受け取ってもらうのは来来来世まで持ち越しになりそうだもの。現世で私と留佳が結ばれるためには、彼の成長を促進する必要があるのよ」
有瀬くん、恋人って単語を知らなそうとまで思われてたんだ……わからなくもないどころか、わかりみが深いほどによくわかるけど。銘菓の白い恋人くらいしか知らなそうだけど。
それよりも梨奈ちゃーん、来世も処刑確定だってよー。私も茉絢も手助けするから、何とかして逃げ切ってねー。
後のことなんて気にしなくていいから、とにかく生き延びることだけを考えてー。
「その促進剤の一つとして柊さん、あなたの助力が不可欠なのよ!」




