5-3 仲良しシグナルトリオは足並みが揃わない
「にしても、これすっごいねぇ。有瀬くん、アイドルか神みたいな扱いじゃん。わたしにとっては、非情なる悪魔だけどね……」
フッと暗い笑みを浮かべる茉絢を見て、私は苦笑いした。
あの後、一気に三キロ増えて慌ててダイエット再開したんだってさ。
イケボの甘言に乗せられたせいだと怒ってたけど、この件に関しては有瀬くんは間違いなく無実だよ……ダイエットやめろなんて一言も言ってないもん。
「こんなの気にしなくていいよ、ナユ。ファンの交流の場だと思って、そっとしといてあげよ。もしものことがあってもわたしとリナリナがついてるし、城咲さんだってナユのこと支えてくれてるでしょ? あの人が味方なら大丈夫だよ」
「ま、茉絢、あの狂気の女神のこと知ってるの? 接点なんてなかったわよね?」
恐る恐る尋ねたのは梨奈ちゃんだ。
狂気の女神って……まぁ否定できないんだけどさ。
「あ、言ってなかった? 同じ図書委員なの。綺麗すぎて近付くのも畏れ多いから遠目で見てるだけだったんだけど、昨日の書庫整理で一緒になった時に向こうから話しかけてくれて」
城咲さんは茉絢が一組だと知って、私のことをあれこれ聞いてきたという。
「最初は怪しい勧誘かな? って警戒したんだけど、幼馴染の有瀬くんとナユの相性占いのためにいろいろ知りたかったんだって。せっかくだし、オススメの占い師さんを紹介してあげたよ。そこからさらに盛り上がって、好きな少女漫画の話もしたんだー。城咲さんが『恋は短し生きよ乙女』にハマってるって聞いて、ちょうど持ってた最新話掲載してる雑誌貸してあげちゃった。ずっともだもだしてた二人のキスシーンが拝めるもんね!」
城咲さんがやたらキスをオススメしてきた原因は、お前やったんかい。
「他にどんなお話読んでるか聞いてみたら、ナユが持ってるやつばっかりだったよ。アニメも映画も、ナユの趣味とダダ被りだったからきっと好みが合うんだねー」
でしょうね。全部私が貸したんだから。
好み云々関係なく、そりゃダダ被りになるでしょーよ。
「ナユ達の仲をサポートするには何をしたらいいのかって、悩み相談もされたよ。幼馴染思いなんだねぇ。だったら有瀬くんにも少女漫画を読ませてみたら? って僭越ながら助言させていただいたよ。ほら、男子って乙女心に疎いとこあるじゃない? あーこんな時キュンとするんだー、こういうシチュがいいんだーって、少女漫画から学ぶことも多いんじゃないかなと思って」
有瀬くんに限っては疎いどころのレベルじゃないんだよ。きっと本のページを開くのも面倒臭がって読まないよ。読んでもお菓子が出てきたシーンしか覚えてないよ。何ならお菓子しか覚えてないよ。
「あんなに一生懸命になって、ナユと悪魔……じゃなくて有瀬くんを応援してくれてるんだもん。城咲さんの存在も心強いよね!」
さらっと悪魔って呼んだね。
心強いも何も、アクとクセが強いだけだよ、あの人は。ゲームでよくある、敵として戦ってる時はクソ強だけど味方になったら途端にポンコツってキャラだよ。
ねえ茉絢、今こそ私の心を読んで! 私の心の叫びをスルーしないで!
「…………あの女を、あまり信用しない方がいいわよ」
これまで黙って茉絢の話を聞いていた梨奈ちゃんが、ひどく冷ややかな声で言葉を吐いた。
「幼馴染思いが聞いて呆れるわ。城咲はね、ずっと有瀬くんのことが好きなのよ。なのに那由多を応援してるなんて、きっと裏が」
「だよねだよね!? やっぱそうだよね!?」
みなまで聞くより早く、私は梨奈ちゃんの方に身を乗り出した。
「城咲さん、有瀬くんのこと大好きだよね!? すっごくわかりやすくアピってるよね!? なのに有瀬くんは城咲さんの好き好きアピに触れもしないの。そんな二人に挟まれてたら、私が勝手に勘違いしてるだけなんじゃないかって自信なくなってきてさ。でも今、梨奈ちゃんが断言してくれたおかげで安心したよ。はぁ、良かったぁ……私、やっぱり間違ってなかったんだ。恋愛経験がなさすぎて、感覚がおかしかったわけじゃなかったんだね。ほんとホッとしたぁ。ありがとう、梨奈ちゃん!」
梨奈ちゃんの手を握り、私は笑顔でお礼を告げた。しばらく続いていたモヤモヤが一気に晴れて、気分爽快スッキリだ。
「那由多……あんた、城咲さんの気持ちに気付いてたの……? あたしはてっきり気付いてないものだとばかり……」
「うひゃー、三角関係ってやつ? うわうわ、まさか親友がそんな面白いことになるとは! アオハルトライアングルじゃーん!」
が、スッキリした私とは違って、梨奈ちゃんはみるみる青ざめ、茉絢は興奮して顔を赤らめてる。
イエベの私も加わったら、信号機みたいだなぁ。
「嘘でしょ……信じられない! 知ってて城咲さんと三人で一緒にいたの? あの有瀬留佳クレイジーの城咲さんを前にして、平気な顔で仲を見せつけてたっていうの!? こいつ、やべー奴じゃん! 涙腺激弱なおバカちゃんだと思ってたら、あの超絶やべー城咲さんの上を行ってたとは! 天然物の鬼畜サイコだったよ!」
青信号の梨奈ちゃんの顔色がどんどん悪くなってく。
待って待って、青を通り越して白くなってきてるよ。
んもー、信号機じゃなくなっちゃうじゃん。
「じゃあ城咲さんがわたしにいろいろ聞いてきたのは、恋敵の情報収集だったんだ……まじか、今後の活躍次第ではわたしもキャストの一人としてクレジット付いちゃうんじゃない? おっしゃー、滾ってきた滾ってきた! よーし、味のあるサブキャラ目指して頑張ろっふぉーう!」
赤信号の茉絢は、ますます赤々と燃えていく。
赤は止まれなのに、これじゃゴーゴー感フルスロットルだよ。
んもーんもー、二人共、信号機の自覚なさすぎるよ!
「梨奈ちゃんも茉絢も落ち着こうよ。そうだ、間を取って、茉絢に天然鬼畜サイコのクレジット付けよ? ね?」
注意を促す黄色信号らしく、私は二人の間に移動して二人を宥め、二人の意見を取り入れた案をすすめてみた。
「ひいい、ごめんなさいごめんなさい! もう有瀬くんの真似っこゴハンなんてやりません! だからいつか、恋人の座を奪うことだけは許してください! ついでに彼をこっそり撮影する許可もください!」
「ねえねえ、『この泥棒猫!』とか『醜いメスブタめ!』とか『エブリディエブリバディ開脚可の股割れアバズレ女が!』とか言われるの? いーなー、わたしもリアルで聞きたい。あっ、でもナユのそばにいたらその内聞けるよね? これからもトイレ一緒しよ、約束ね!」
なのに梨奈ちゃんも茉絢も、私の話なんか全然聞いてくれなかった。二人揃って自分の世界に突っ走っちゃって、現実に引き戻すのにすごく苦労したよ。仲良しシグナルも台無しだ。
現世に帰還した梨奈ちゃんに一応聞いてみたところ、城咲さんは例の怪し気なグループラインのことを知らないんだって。知ってたら、とっくの昔にメンバー全員闇に葬られてるってさ。
そもそもあのグループができた発端は、城咲さんの厳しい監視を逃れて有瀬くんを愛でるためだったらしいから。
梨奈ちゃんも、このグループラインの存在は城咲さんに隠しておきたいみたい。頼むから言わないでくれ、やり残したことがたくさんある、死にたくない、後百年は生きたいって土下座する勢いでお願いされたよ。
一年以上トークには参加してないそうだけど、彼女もまだメンバーの一覧に表示されてるもんね。
梨奈ちゃんは『このグループメンバーが良からぬことをしようとしたら自分が全力で止める』って約束してくれたし、私も友達の命をこれから百年は守らなくちゃ。




