5-2 害虫駆除対象になるのだけは絶許
美人は三日で飽きる――そんな諺がある通り、今では二人の超絶美形を相手にしても怯むことは少なくなった。
扱いが雑になった、ともいう。目には目を、雑には雑を、だよね。
美人は三日で飽きるというより、彼らの場合は性格がそれぞれアレすぎて顔面に気遣う余裕がないというのが正解かな。
とはいえそれでも、顔さえ良ければ全て良し! 変でも雑でもバッチコイオッケー! という考えの人もいるわけで。
「へっ、今日も有瀬くんとランチでしたか。毎日さぞ楽しかろうなぁ、嬉しかろうなぁ、幸せいっぱい胸いっぱい腹いっぱいなのでしょうなぁ。嗚呼、羨ましい恨めしい妬ましい憎らしい……オイコラてめえ那由多、いつか必ず涙の海に沈めてやるからな、覚えとけよ」
そんな考えを持つ一人が、隣の席の梨奈ちゃんである。
ランチの後に教室に戻ったら、いつもこんなふうにウザ絡みしてくるんだよね。般若メデューサ化も見慣れれば、可愛く……はやっぱ見えないな。梅雨になったら湿気で髪が膨張して、メデューサレベルがぐんと上がりそう。
「そんないいものじゃないってば。何度も言ってるけど、有瀬くんってすごい雑なんだよ? お弁当の中身は今日も食材地獄変だったし」
「はいキタ、今日の中身、詳しく」
梨奈ちゃんが専用のメモ帳を取り出して迫る。
私から聞いた有瀬くんのお弁当を、毎回真似して夕飯にしてるんだって。太った、噴き出物出来た、お腹壊してトイレから出られなくなったって翌日には泣き言漏らすのに懲りないの。ほんと物好きだよなぁ。
一日最後の授業が終わって、やっと帰れる……となったところで、梨奈ちゃんは珍しく神妙な顔で告げた。
「……那由多、気を付けてね。あんた、ついに目ぇ付けられたみたいよ」
「目は付いてるよ? え、ちっちゃくて付いてるのもわかんないってこと?」
「違う違う、これよ、これ」
そう言って梨奈ちゃんに差し出されたスマホの画面を見て、私は一応左右に付いてる存在感の薄い目を瞬かせた。
「有瀬留佳様専用情報交換所……ラインのグループ? 何これ? 梨奈ちゃんが作ったの?」
「あたしが情報共有なんて甘っちょろいことするわけないでしょ。ライバルなんかに情報流さず独り占めするわよ」
梨奈ちゃん曰く、このライングループは彼女や有瀬くん達と同じ中学の子達が作ったらしい。
最初は超絶イケメン男子な有瀬くんを見てキャーキャー言い合うだけだったそうで、当時は梨奈ちゃんも招待を受けてメンバーの一人として皆と盛り上がってたんだって。
でも観察日記みたいな感じからどんどんエスカレートしていって、今ではストーカーじみた雰囲気になってるんだとか。
梨奈ちゃんの了承を得て、グループトークを見せてもらったけど、初めの頃はメンバー同士で楽しそうに会話してたのに、最近になると情報内容を記した一文が殺伐と投げ合われているだけって状態だ。
そして最新のトークでは、『交際相手(要確認) 千極高校一年一組 柊那由多』――と私の名前がしっかりと晒されていた。
何これ怖い。個人情報保護法どこいったの。
えぇ……やだなぁ、私、もしかしてこの人達にいじめられちゃうの? 小学校も中学校も平和でのどかなとこだったから、いじめ耐性なんて皆無だよ。
靴に画鋲サプライズとか痛くて泣いちゃうし、トイレ水浴びせトリックとか寒くて泣いちゃうし、お掃除ダメ出しいびりクラッシュとか文句垂れるならお前がやれよって腹立って泣いちゃうし、顔面殺虫スプレー噴射アタックとか虫と勘違いされたことが悔しすぎるわ目にしみるわで泣いちゃうし……ううん、それでも殺虫スプレーだけは許せない。せめて虫除けスプレーにしてくれるまで泣きたくない。
くっ……泣くな泣くな、堪えろ、私!
「ナユ、それ途中からいじめじゃなくなってる。鬼姑の嫁いびりの定番パターンと、こないだテレビでやってた『実録! 私はこうしてストーカーを撃退した!』のエピソードが混じってる」
殺虫スプレーを想定して泣くのを我慢していたら、聞き慣れた声が耳を打った。
「おわ、茉絢!? いつからそこに!?」
梨奈ちゃんが驚いて仰け反る。
「フフフ、ちっちゃいと忍びの技も冴えるのだ」
いつの間にやら私と梨奈ちゃんの間に入り込んでいた茉絢が、眼鏡を指でクイッと上げて言う。
私が気になったのは、どうやって心を読んだのかってことなんだけど。
「ナユとは付き合いが長いからね。それに単純だし、わかりやすいもん」
またしても心を読まれた。ほんと茉絢には敵わないなぁ。




