19-10 ★★★ ゴミ集積所まで綺麗なコンビニです!
しかし今知りたいのは、いつ来るかもわからない未来より、現在の城咲さんの行方だ。
今日も八時過ぎに現れた有瀬くんは相変わらず謎のルーティンを繰り返すばかりで、こんなところでおバカなことをしてないで城咲さんを探しに行ってくれとお願いしても、全く聞き入れてくれなかった。
曰く、それは自分の役目じゃない、とのことで。
役目かぁ……。
店内のゴミを集めて裏に置かれたプレハブみたいな大型のダストピットに向かいながら、私は白い溜息を吐いた。
有瀬くんがやたら役目という単語に拘るのは、それでしか自分と相手の立ち位置を確立できないから……なのかもしれない。
家族と友達についてはどうなのか知らないけど、未知だった恋人って関係の対象に対しては『恋人だからこうする』って決めておかないと、何をしたらいいのかわからない……っていうより、何もしたくないんだよね、きっと。
あの雑な性格のままに自由にさせておいたら、恋人って肩書が付いただけの他人にしかならなかったと思うもん。閻魔さんの恐怖がなければ、私の名前を覚えるどころか、存在を認識することすらできなかったんじゃないかなぁ。
有瀬くんにとって役目っていうのは厳格に定められたルールみたいなもので、『○○だからこうする』『○○じゃないなら何もしない』といった具合に境界がくっきりと分かれているんだろう。だとすると、あんなに意固地になるのも無理はない。
あーあ、こんなとこでお菓子食ってないで、役立たずでもいいから探しに行ってほしいよ。城咲さん、まだ見付かってないっていうし、私の方は心配すぎて泣きそうなのずっと我慢してるのに。
バイトの後じゃ、探す時間も限られてるんだよね……一晩中だって探し回りたいのに、制限のある未成年のこの身が憎いったらない。
自分で思う以上に動揺しているみたいで、ダストピットの鍵の開閉にまで手間取ってしまう始末。
それでも何とか鍵を開けて扉を開くと、目の前に広がった暗闇に向けて私は詰まる胸の内を吐き出した。
「城咲さん、ほんとどこ行っちゃったのよ……!」
「ここにいるわよ」
暗闇の中から声が聞こえて、私は驚きのあまりゴミごと引っ繰り返った。
「な!? え!?」
「ごめんなさいね、寒いから、中に入らせてもらったの。可燃ゴミの回収後で良かったわ。清掃業者もちょうど入ったところだったのかしら? 意外と臭いも気にならなかったわよ。ゴミ集積所の管理まで行き届いているなんて、なかなか優秀なコンビニね。とはいえ、夏場はさすがにこうはいかないでしょうね」
ゴミ専用の小屋からのそりと出てきたのは、こんな場所に相応しくなさすぎる超絶美少女、城咲さんだった。
……何言ってんの、この人。のんきにコンビニのゴミ集積所の居心地について語ってる場合!?
「かかか鍵かかかかって」
「こんな単純な鍵、簡単に開けられるわよ」
あ、鍵がもう開いてたから、いつもの方向に回せなくて焦ってやり直しする羽目になったんだ……って、私も鍵について尋ねてる場合じゃなかったわ!
「ウチのコンビニについて、他の人が目を付けないような斬新な視点から評価してくれてありがとうね! それより、こんなところで何してるのよ、城咲さん!? 皆、心配して探し回ってるんだよ!?」
我に返った私は、ゴミを放り込んで城咲さんに詰め寄った。
こんな美少女をゴミに触れた手で汚してはいけないと、掴み掛かるのを思い留まった点は褒めてほしい!
「ごめんなさい。ちょっと一人になりたかったの。それだけだったんだけど、随分迷惑かけちゃったみたいね」
自嘲気味に笑った城咲さんは、何だかこのまま消えてしまいそうなほど儚く見えた。
「と、とにかく、ここじゃ寒いし店に入ろ? 私も皆も迷惑なんて思ってないから、早く連絡して安心させてあげて。あ、有瀬くんも来てるから、無事な姿を」
ぐっと、制服の袖を掴まれた。
目を向けると、城咲さんが無言のまま必死の形相で首を横に振る。その肌は白いを通り越して、青褪めていた。
「わ、わかった。今は有瀬くんに会いたくないってことね? 心配してるかもしれないから伝えとくけど、有瀬くんは今日のこと何も知らないよ。私も茉絢も言ってない。城咲さんが知られたくないなら、八重樫くんと久月くんにも口止めしとく。それでいい?」
こくこくと城咲さんが青い顔で頷く。
「あと十五分ほどで上がるから、ここにいてね。あ、そうだ」
制服のポケットからダストピットの鍵を取り出して、私は城咲さんに渡した。
「これ持ってて。寒いならまた中に入ってていいよ。でも勝手にいなくならないで。鍵を失くした責任を取って、私がクビになってもいいと思うならご自由にどうぞだけどね」
「……鍵を置いて、さっさと立ち去れば大丈夫じゃない?」
「その発想はなかったな!? やっぱ返して! 外から鍵かけて閉じ込めとくことにする!」
鍵を奪おうとした私の手をさっと避けて、城咲さんは唇を上げた。
「大丈夫よ、逃げたりしないわ。柊さんが私のせいでバイトをクビにされたら、友達やめられるかもしれないもの。それより、あの頑固な恋人を説得できるかしらね? 柊さんが恋人より友達を優先できるかどうか、結果をここで楽しみに待っているわ」
くすくす笑いながら、彼女はまたダストピットに入っていった。
取り残された私は、勤務中だということも忘れて頭を抱えて蹲った。
そうだった。とてつもなく面倒な奴がいたんだったよ……!




