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アオハル of the Dead End! ~平凡女子高生、顔面チートで頭赤ちゃんな超雑男子とラブコメ(ほぼコメ)する~  作者: 節トキ
LESSON 19 理想のキスを考えよう!

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19-3 おじいとおばあがどうやって幸せを掴んだか、気になって昼も眠れない


「わー、思ったより人がいるねー」

「いるな」



 陸上競技場に到着すると、私達はトラックを大きく囲む芝生スタンドをうろうろしながら目当ての人物を探した。


 もう練習は始まってるようだけど、ここからじゃ遠すぎてどれが誰だかわからない。



「私、ちょっと行って聞いてみるわ。差し入れも渡したいし」



 目視で探すのは難しいと判断したようで、城咲さんはトラックの方へと駆けて行った。


 関係者っぽい人に声かけているのを見て、私はちょっと安心した。城咲さんのことだから、猪突猛進からの強行突破するんじゃないかと不安だったけど、八重樫くんに迷惑をかけないようにちゃんと気遣ってくれてるみたいだ。


 とはいえ、差し入れがお重にみっしり詰めたメロリーカイトってのはどうなの? 想像するだけで口の中の水分全部持ってかれるわ。



「那由多、腹減った」

「私もだよ……取り敢えずここで食べよっか」



 有瀬くんと並んでベンチに腰掛けると、コンビニで買ってきた食材をそれぞれ手に取った。私はサンドイッチ、有瀬くんは菓子パンだ。


 空気は冷たいけれど、いいお天気だ。冬の晴天って、清々しくて気持ちいいよねー。



「あ、八重樫だ」

「え、どれどれ?」

「あれ」



 有瀬くんの長い指が、トラックを指し示す。んん? ちっともわかんないよ……?



「白のジャージの奴」


「ああ、あれかー。有瀬くん、視力良いんだね。私も悪い方じゃないけど全然わかんなかったよ。今だって教えてもらったのに、服の色しかわかんないや」


「留佳は多分視力10.0とかあるんじゃないかな?」


「まじか、アフリカでも余裕で狩りで食ってけるじゃん……って久月くん、いつの間に」


「わたしもいるよー」



 ベンチの隣に立つ久月くんの陰から、茉絢も顔を出す。揃ってジャージ姿だ。

 なるほど、今日も二人でこれからトレーニングなのね。



「僕も差し入れ持ってきたんだ。明日香ちゃんのことだから、どうせ固形栄養補助食品くらいしか持ってきてないだろうと思ってさ」



 スポドリが詰められたビニール袋を掲げて、久月くんが笑う。さすが幼馴染、よくわかっていらっしゃる。



「僕らはもうお昼食べてきたから、先に行ってるね。那由多ちゃん達も食べ終わったら来なよ。周りに声かけとくからさ」


「んじゃナユ、後でね。久月くん、半分持つよ。良い筋トレになりそうだし」



 茉絢が久月くんに小さな手を差し出す。すると久月くんは、可愛い顔をわざとらしく驚きの形に変えた。



「わあ、珍しくやる気見せたね。トレーニングの時はウンチウンコ叫ぶばっかりでクソザコ全開なのに。やっぱり友達の前では、いいカッコしたいのかな? 茉絢ちゃんにもプライドってものがあるんだねえ」


「あ? 何だてめえ、ケンカ売ってんのか? 最安値で買い叩いてやっから、かかってこいよ。オラ寄越しな、全部わたしが一人で運んでやんよ。ウンチはすっこんでろ」



 あっさり煽られた茉絢は久月くんの手から引ったくるようにしてビニール袋を取り、さくさく歩いて行ってしまった。

 久月くんがこちらを振り向いてウィンクする。そしてそのまま、茉絢の後を追っていった。


 久月くん、すごいな。あの取り扱い難度バリ高の茉絢をすっかり操縦しちゃってるよ。

 あの二人、意外とお似合いかも……なんて思ってしまった。



「ねえ、有瀬くん。無駄だと思いつつ一応の一応で聞くだけ聞いてみるけど、久月くんの好みのタイプって知ってる?」


「知らない」



 だよねー……と項垂れかかったら、肩に重みが乗った。



「残り食っといて……寝る」



 見ると、有瀬くんがぐったりこちらに体をもたれかけている。


 え? ええ? えええええ!?



「いや待って、寝るって何!? ちょ……寝る前には歯磨きしなきゃでしょ!? 虫歯になったらお菓子食べられなくなるよ!?」


「虫歯は……おじいさんとおばあさんと、いつまでも仲良く、幸せに暮らしましたとさ……めでたしめでたし……」


「何言ってんの!? バカなの!? ちっともめでたくないよ! 虫歯と末永く暮らすおじいとおばあの身にもなれよ! 何食っても激痛だろうが! 幸せ要素どこにあるんだよ!?」



 結末に不服を申立てても、有瀬くんはそれきり何も言わなくなった。そして、死んだマグロのように動かなくなった。


 ちょっとーー! 本当に寝ちゃったんだけど!?

 こいつ、寝たら冗談抜きで何しても何されても起きないんだよ!? 雷が落ちても爆撃食らっても世界が滅びても多分起きないよ!?


 待ってよ、どうするのよ、これーーーー!?


 心の中で叫ぶも、皆去ってしまった後だ。

 仕方なく私はメソメソ泣きながら有瀬くんの手から一口だけ残った菓子パンの袋を抜き取り、ビニールの口を縛ってコンビニ袋に戻した。

 食っとけと言われたものの、後から寝ぼけてただけだ返せって文句垂れられたら困るもん。


 一応気を遣って最小限の動きに留めたつもりだったけれど、やっぱり私の肩では力を失った有瀬くんの大きな身を支えるには無理があったようだ。中三の時に買ってもらったダークネイビーのスクールコートを滑り落ちて、有瀬くんの頭は私の腿に見事に着地した。


 思わず息を飲んだ。

 こ、これは俗に言う、膝枕というやつなのでは……?


 ふ、不本意ながら、膝枕を初めて体験してしまった……!

 何より、あのマグロの中身――有瀬くんの寝顔を、初めて拝んでしまった……!


 長い睫毛を閉じたせいで、鋭く弧を描く目のラインがよりクリアになる。

 鼻根から鼻尖へと一切の妥協を許さないというように直線に通った鼻梁も、神に計算し尽くして配置し、神がそれこそ死ぬほど考えて設計したんじゃないかと思うほど理想的なサイズと厚みを持つ唇も、シミどころかヒゲ跡すら見当たらない滑らかな肌も、何もかもが美しい。美しすぎて作り物めいて見えるほどだ。

 まさか本当に人形と化したんじゃないかと軽く心配になって、そっと手を当ててみたけれど、形良い鼻翼と薄く開きかけた唇から呼吸が感じられてほっとした。


 うーん、それにしても羨まけしからん美肌だ。

 真央さんも顔面の怖さはさて置きヒゲが生えないタイプみたいだったし、志貴さんも私より控えめなおっぱいサイズはさておき肌が綺麗だったし、遺伝なのかもしれない。

 しかし美肌以上に、この造形美の凄まじさよ……このまま美術館に飾っといてもいいんじゃない? お金出しても鑑賞したいって人、たくさんいると思う。

 タイトルを付けるとしたら、やっぱりスリーピングビューティーだよね!


 でも……童話のスリーピングビューティーは嫌いだ。目覚めのキスが、私の理想とするものとは違うから。


 どれだけ勇敢だろうと、どれだけ深く自分のことを想ってくれていようと、見知らぬ人に何の了承もなく、勝手にキスされるなんて私はイヤだ。



「有瀬くんだって、イヤだよね……」



 そっと身を寄せて耳元で囁いてみても、死マグロと化した有瀬くんは微動だにしなかった。


 この姫は、誰にキスされたって起きないんだろうな。しないけど。してみたいって気持ちは正直、なくはなかったけど。

 今なら誰にも見られず、本人にも気付かれずキスできるんじゃないかって、悪い考えが浮かんで流されそうになったけれど。



「この寝顔配信なら、寝てお菓子を食べて稼げる仕事になったかもしれないのにね。何でマグロなんだよ……」



 独り言で悪い考えを振り切って、スリーピングビューティーの美しい寝顔から目を逸らし、私は綺麗に澄んだ空を仰いだ。


 代わりに両足にかかる重みと温もりだけ、ありがたく享受することにした。


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