19-1 エーセン完全抹殺計画(未成立)
「ええっ、茉絢、ジム通ってんの!? いつの間に!?」
「フフフ、久月くんに紹介してもらってね。クリパまでに絞らないと、安心してケーキ食べられないじゃん」
学校が半日で終わるようになったので、今日は久々に女子会をしよう! と意気込み、ついでに冬休み用の課題も持ち込み、電車に乗ってターミナル駅そばのカラオケにやってきた。
私のバイト先が近いっていうのもあるんだけど、やっぱこの辺はルーム料金が安いからね。
フリータイムで入室してから歌いもせず、それぞれに好き勝手過ごしていたんだけど……ランチに選んだフードメニューが茉絢らしくないなと思って突っ込んだら、まさかの答えが返ってきたんだよね。
久月くんのアドバイスを受けて、たんぱく質中心の食事を心がけてるんだって。この後もジムで合流して、トレーニングしてもらうんだそうな。
「久月くんって、まさかあの久月くん!? どうして茉絢が久月くんと知り合いなのよ!?」
感想文用の本を放り投げて、梨奈ちゃんも食って掛かる。あー、そういや言ってなかったなー。
「有瀬くんの幼馴染だっていって、紹介してもらったの。たまに集まって遊ぶよ。今度のクリパも久月くん主催だし」
「ズルーい! あたしも久月くんとお近付きになりたーい! あの可愛い顔を、至近距離で眺め倒したーい! あたしもクリパ連れてって連れてって連れてって!」
掴み掛かってきた梨奈ちゃんにがくがく揺らされながら、私は苦笑いした。
あの子、顔は可愛いけど、中身は相当黒いよ? ケーキの件で文句言ったら『勉強料としては安いもんでしょ』って軽く突っ撥ねられたし。
おかげで有瀬くんには迂闊なこと言っちゃいけないと学んだけどさ……ちっとも安くないよ、超高かったよ。懐が寂しくなるどころかデカい風穴が空いたよ。
「城咲さんと八重樫くんも来るよ」
ごねる梨奈ちゃんに、茉絢がさくっと告げる。
「あ、じゃあいいです。城咲だけでもメンドイのにエーセンまで加わるとか、ウザすぎる」
あっさり返した手のひらで、梨奈ちゃんはさっと本を拾った。
八重樫くん、サラチューの子にほんとひどい扱い受けてたんだなぁ。引くほどアホなのは擁護しようもないけど、全女子にこんな態度取られてたら、そりゃ集団女子恐怖症にもなるわね。
「城咲さんとエーセンっていえば、あの二人、最近仲良いの? 一緒にいるとこよく見かけるって、いろんな友達から聞くんだけど」
タブレットから視線を上げて、峯岸さんが尋ねる。
本日の女子会には、彼女も参戦しているのだ。イマドキJKに囲まれて原稿すると捗るんだって。
初めて紹介した時は、茉絢も五体投地して感激してたけど、今じゃすっかり慣れてお友達の一人になってる。
少女漫画を一切読まないっていう梨奈ちゃんに至っては、五十嵐ネミという名前すら知らなかった。なのでこれまでと全く同じように、中学の同級生として変わりなく接してる。
好きな少年漫画家さんのサインがほしい! って多少は駄々こねたけどね。
「あー……うん。何か利害が一致した、というか、ね?」
「チャレンジというか、未知を学ぶ取り組み的な……ね?」
私と茉絢は顔を見合わせ、揃って婉曲表現で誤魔化した。
八重樫くんはともかく、城咲さんに関してはあまり人に知られたくないんじゃないか……と思ったので。
「城咲とエーセン……理解不能な組み合わせね。エーセン、何やらかしたのか知らないけど、いよいよ城咲に抹殺されるんじゃない? 完全犯罪の機会を窺ってるんでしょ、きっと」
梨奈ちゃんが不穏なことを言うと、峯岸さんもだよねーとあっさり答えてタブレットに再び向き合い始めた。
いやいや、城咲さんのサラチューでの評価もどうなってんの。
八重樫くんの命については、一応の一応、当面は大丈夫だと思いますよ……。
「ねえ、茉絢が行ってるジムってもしかして」
「うん、久月くんが通ってたとこだよ」
チーズドリアを口に運びながら問うと、蒸し鶏のサラダを丁寧に噛んで飲み込んだ茉絢がさらっと頷く。
やっぱりあそこかー……あの地獄の地かー……。
「そうだ、ナユ。バイト前に一緒に寄ってかない? ここからならあのジムも近いじゃん。市井さんって人、ナユに会いたがってたし。聞いたところによると、夏に神だか魔王だかいう人に特別にトレーニング受けてたんだって? もー、一人でこっそりダイエットするとかズルいよー。そういう時はわたしも誘ってよねー? あ、よかったら一緒に通って、久月くんにトレーニングしてもらおうよ!」
茉絢が笑顔でお誘いしてくる。
やだ、あの人まだ覚えてたの? もういい加減忘れてほしいよ。あんなとこ二度と行かないってば!
「ごめんね……私は遠慮しておくよ……言わなかったのは、あんなげに恐ろしき地獄に茉絢を道連れにするわけにはいかなかったからだよ……うぅっ」
「ナユ、何で泣いてんの? そんなキツかったの?」
「うん……思い出し泣きでミイラになれそうなほどキツかったよ。おまけにちっとも痩せなかったし……」
「うわ、最悪じゃん。でも久月くんの話じゃ、ナユすごかったんだって? ナユには才能がある、自分なんかより全然強いって、全力で讃えてたよ」
「そんな才能いらないよ……強さより可愛さがほしいよ……久月くんと交換してほしいよ……」
涙で塩気が増したドリアを噛み締め、私は本音を吐き出した。
「久月くん、ほんと可愛い顔してるもんねー。あれは反則だわ」
茉絢も溜息をつく。
「茉絢、この機会に久月くんと仲良くなって、彼女の座を狙おうなんて考えるんじゃないでしょうね? 有瀬くんほどじゃないにしても、久月くんもファンクラブあるくらい人気だったんだからね! 久月くんと茉絢がくっついたら、今度こそあたしの心の砦がなくなっちゃう! 久月くんまで取らないでよ!?」
梨奈ちゃんが、ワガママにも程がある懇願を口にする。すると茉絢は眼鏡のガラス越しに、冷え冷えとした視線を突き刺した。
「は? あるわけないよ。だって久月くん、ナユより弱いんでしょ? 何でそんな弱っちい人と付き合わなきゃなんないの。何の罰ゲームよ? 負けてもないのに罰ゲームなんかしたくないわ」
はぁぁ……と私は肩から息をついた。
久月くんが私より弱いわけないでしょーに。弱っちいどころか、強者の部類だよ? トレーニング受けてるなら、あの筋肉バッキバキのヤバかりしボディを見てると思うんだけどな?
「ナユより強いってのが、わたしの最低限の恋人の条件。ついでに、イケボで罵り上手だと尚良し!」
「私より強いって、いくら何でも最低限すぎん……? そんな奴、どこにでもいるでしょ……」
「そう? クリアできる人、意外といないよ?」
呆れて脱力する私に、茉絢がきょとん顔で言う。
この子もこの子でなかなかズレてるんだよね。茉絢の求めてる強さが眼球のことなら、確かに私以上の人はなかなかいないかもなぁ……。




