17-11 ワタシ、アナタ、キライ
というわけで、約束のご褒美の品は合計六個になった……のだけれど。
「キラキラ、この後暇か?」
帰り支度を済ませて昇降口で合流した本日のMVPは、珍しく私と一緒にいた茉絢に声をかけた。
「わたしに何か用でもあるの?」
茉絢も警戒したようで、眼鏡の奥の目を怪訝にひそめる。
「キラキラにも選んでもらいたい。キラキラが選ぶ方がいいと思う」
有瀬くんが淡々と言う。隣にいた城咲さんを見ると、彼女もこくこくと頷いた。
茉絢と私は顔を見合わせ、両手でTの形を作ってタイムを宣言して二人から離れた。
「茉絢、大丈夫? コンビニで多分お菓子を選ぶことになると思うんだけど、ダイエット的に視覚に問題ない?」
「う、うーん……できれば行きたくないけど、白組の勝利に大きく貢献してくれたからね。今日の活躍やばかったし、労いの意味も込めて、選ぶくらいならしてやってもいいかな。なるべく安いの選べば、ナユの負担も減らせるし」
「ありがとー! やさしまーや! かわいまーや! いとしまーや!」
思わず私は茉絢に抱きついた。いつものことなので茉絢もはいはい、と背中を叩いて応じる。
「たとえ悪魔でも、たまには優しくしとかないとね。ナユの恋人なんだし、わたしの態度が悪いからってあんな奴と仲良くするなとか言っていつかキレないとも限らないじゃん」
「は? そんなこと言われたら私がキレてあっち切るよ」
「即答かよ。どんだけわたしのこと好きなんだ、お前は。仕方ないから愛人になってあげよっか? 月十万の契約で」
茉絢が不敵に笑ったところで、有瀬くんの不穏な発言を思い出し、私は慌てて身を離してブンブン首を横に振った。
「ダダダダメだよ、二股は良くないよ、地獄に落ちるし殺されるし死体の山築かれるし、ろくなことないよ。十万じゃ全然割に合わないよ、後悔の公開の開幕だよ!」
「何言ってんの、ナユ? おまけに何で泣いてんの?」
「うぅ……茉絢が死んだら私、生きてけない……」
「何で死ぬことになってんの、わたし? まだ生きてるから安心しとけ。後二百年は死ぬ気ないから」
相談が終わったところで有瀬くんと城咲さんの元に戻り、茉絢は了承の旨を伝えた。
本日は体育祭のため、ジャージでの登下校が許されている。我々は揃って一年ジャージのまま、移動を開始した。
しかし行き先は学校の近所のコンビニではなく、有瀬くん達の家の近くのコンビニだという。そこじゃなきゃダメなんだって。
有瀬くんと城咲さんが私達二人の往復の電車賃を出してくれたけど、そこまでして行く必要ある? 同じコンビニなら、こっちの駅周りにもあるのに。店舗限定のお菓子でも販売してるのかな?
目的地は、ハロウィンに仮装パレードの帰りに寄ったあのコンビニだった。
入口の自動ドアを早足で通り過ぎた有瀬くんが、真っ直ぐにトイレの方へと向かう。
我慢してたのかな? へー、あんなイケメンも出るものは出るんだねぇ……と非常に下世話な感想を抱いていると有瀬くんはトイレに入らず、ATMコーナーの所にあるラックから何やら引っこ抜いてすぐにこちらに戻ってきた。
「え、何それ」
「見ればわかるだろ。クリスマスケーキのパンフだ」
尋ねた私に、有瀬くんは事もなげに言い放った。
パンフ? 何故? あれ……何か嫌な予感してきた。
「明日香とキラキラの分も取ってきた。好きなの選んでいいぞ」
「ま、待って、有瀬くん? これは一体」
「留佳ー、遅くなってごめーん。那由多ちゃん、茉絢ちゃん、お久ー」
「おー有瀬ー、来てやったぞー。し、城咲……こ、こんばんは、ごきげんよう……」
私の声を遮るように、そして嫌な予感を裏付けるように、さらに見知った顔が現れた。久月くんと八重樫くんだ。
ダークグレーの上下と赤いタイというバンコーの冬服に身を包んだ二人は、夏服に比べて大人っぽく見えた……けどそんなことに感心してる余裕なんかない!
「紅も八重樫も来たか。はい、パンフ」
「あああの、有瀬くん!? ちょっと!?」
「那由多も選んでいいぞ。六個あるから、一個は那由多に譲る。恋人だからな」
有瀬くんに差し出されたパンフを毟り取り、私は噛み付く勢いで尋ねた。
「譲るって何!? どういうこと!?」
「どういうことも何も、那由多が言ったんじゃねぇか。コンビニの商品、何でも買っていいって」
有瀬くんが平然と言い放つ。
え……?
「だからケーキにした。パンフ見て、食いたいって思ってたからちょうど良かった。でもさすがにナマモノは一気に六個も食べ切れないから、皆に分ける」
ウ、ソ、で、しょ……?
パンフの商品もコンビニの商品といえば商品だけど……いや、それにしたって。
「ねえ、ここじゃ何だしイートインスペースに移動して相談しながら決めましょうよ」
「うん、そうしよう。ついでに何か買うか。腹減った」
城咲さんが綺羅びやかな笑顔で言えば、有瀬くんが頷きながら答える。
そういや家で何か眺めてるとかどうとか言ってたけど……城咲さん、あなたこうなることわかってたの!? わかってて止めなかったの!?
「有瀬くん、ありがとう! ずっとこのコンビニ限定のゴリバのチョコケーキ、食べてみたかったの! 悪魔なんて言ってごめんね……わたし、認識改めた。有瀬くんは天使だよ! これからもよろしくね!」
「わかってくれたか、キラキラ。よろしくな」
茉絢が眼鏡まで輝かせて腕を伸ばして手を出せば、有瀬くんがハイタッチする。
茉絢ーー!?
私に負担かけないようにって言ってた愛しの親友はどこいったの!? よりにもよって一番高いやつ狙ってんじゃん!
入れ代わりで、お前が悪魔になったとでもいうのかーー!?
「那由多ちゃん、ありがとねー。おかげでクリパのケーキ、用意しなくて済んだよ。料理の方にお金かけられそうだから、今年のクリパは豪華になるね」
「紅、違う。那由多のおかげじゃない、俺の功績だ。MVPももらった。俺のおかげだ。豪華なクリパで盛大に祝えよ」
久月くんが可愛さの中に黒さを滲ませた微笑みでお礼を言えば、有瀬くんがすかさず反論する。
ありがとう、じゃないよ! 久月くんなら止めてくれると信じてたのに、面白がって乗ってんじゃないよ! こっちはひとっかけらも面白くないのよ!
「柊、太っ腹だなー。全員にケーキ一個ずつって余裕で二万超えんだろ。その分、有瀬のプレゼント、ケチられんじゃね? ケケケ、ざまぁねぇな。お前のざまぁ分も美味しくいただいてやんよ」
「八重樫は本当にアホだな。金額なんか問題じゃない、これがアオハルってやつなんだ。リアタイで経験できるのは今だけなんだぞ? 那由多が身を以て教えてくれてるってのに、んなことも理解できねぇのか。アホだから」
八重樫くんがザマーザマーと煽り立てれば、有瀬くんがアホーアホーと煽り返す。
八重樫くん、具体的な金額を言うのはやめて……想像しないようにしてたのに! 考えないようにしてたのに!
あと有瀬くん! あなたにだけは八重樫くんをアホ呼ばわりする権利はないよ? 今日でアオハルの何をどう学んだのかさっぱりわからないけど、今の言い分を聞いた感じだと何もかも間違ってるからね?
アオハルの何たるかをちっともわかってないくせに、偉そうに知ったかこいてんじゃねーよ!
心の中で主犯を含めた全員に物申しながら――私は、鬼と悪魔の息子はやはり鬼で悪魔なのだなぁとドボドボザボザボ泣いた。
有瀬くんなんか嫌い……今だけは嘘偽りなく嫌い。今に限っては、閻魔様だっていくら好きでもこれは仕方ないよねーって許してくれると思うの!
城咲さんに嘘ついちゃったからもう舌抜かれることは確定してるけど、嘘つきは二枚舌っていうよね?
だったらギリで私の本音の残機は保たれてるはず……と信じてる!




