17-8 大神様の御前に一年一組総員、清き舞を捧げ奉る
皆と円陣を組んで気合を入れて、私達のグループはグラウンドに入場してそれぞれの立ち位置に着いた。
そして、曲が始まる。
選んだのはミニラルル60の『ハピハピ☆パラパラ☆パラダイス』だ。
グループメンバー達との放課後の練習はもちろん、土日も峯岸さんと打ち合わせがてらカラオケに行って、彼女の歌に合わせて私もダンスの練習をさせてもらった。おかげでフリは完璧だ。
だけど、完璧なだけじゃオーディエンスは物足りないようだ。延々とダンスを見続けているせいで、退屈してるらしい。そんな微妙な空気が伝わってくる。
大きな音楽イベントに初出場する新人バンドって、こんな気分なんだろうな……。
うぅ、あんなに頑張ったのに。今だって、過去イチうまくやれてるって実感あるのに。
悔しいやら腹立たしいやらいたたまれないならで、ちょっと泣きそう。
「ソイヤソイヤソイヤソイヤッ! オリャオリャ、ウリャウリャ、ソリャソリャ、ワッショイワッショイ!」
笑顔が歪みかけたところで、野太いドスの効いた雄叫びが会場の空気を裂いた。
驚いて声がした方を見ると、城咲さんが応援席の最前列でメガホン片手に叫んでいる。
えっとぉ……何すか? この曲、そういうテンションではないんすけど……。
さらに、ピョエーという謎の高音が耳を突き刺す。
音の源は、城咲さんの隣で何故かリコーダーを吹く有瀬くんだった。
いや……ほんと何なんです? てかどっから出してきたの、あのリコーダー。
ピョロロロロポエーとやたら大きく響く笛の音に、城咲さんの威勢の良い掛け声が激しくぶつかり合う。城咲さんと有瀬くんが生み出した謎のノリは瞬く間に広がって、やがてグラウンド全体を包み、気付けば全応援席の全生徒が荒々しい掛け声を放つまでに発展した。
こうなるとキュートな想いを綴った恋の歌はもう見る影もない、祭りだ。和の空気に満ちた熱い祭りだ。
唖然としつつも踊っていたら、何だか自分が御神輿に乗せられているような気分になってきた。これが不思議と楽しい。バカバカしいと思いながらも、どんどんテンションが上がっていく。
すっかり巻き込まれていることに気付くと、思わず笑ってしまった。
何なの、あの二人。影響力、ヤバいじゃん。美形が二人して、何やっちゃってくれてんの……って、そうか。私を応援してくれてるんだ。
そうと察するや、胸が熱くなった。
大切な友達の応援が嬉しすぎて、こんな素敵な友達に恵まれたことが幸せすぎて、涙の代わりに笑顔が溢れた。
ああ、今私、神と繋がってるような心地すらする! 何という熱さだ!
そうだよね、体育祭って祭りの文字が入っているんだもん! これも一種の祭りなんだよね!
そう、我々は今ここにある命を、決して疎かにしてはならない……!
この地で生かされていることへの感謝を、決して忘れてはならない……!
その御礼として、我々は舞い踊るのだ……!
ああ……これが、祭り……!!
この熱の源となった巫女と覡――城咲さんも有瀬くんを、そっと見る。隣り合ってこの儀を執り行っている二人は、まるで神に最も近い存在のように遠く厳かに映った。
けれど、少しも心は痛まなかった。それよりも、畏怖と敬意の気持ちが勝った。
全員一丸となって祭りに興じたのはほんの数分だった。それでも、素晴らしい達成感に満ち満ちていた。
入賞は逃したけれど、ウチのクラスは何故か特別賞をいただいて、メンバー全員で抱き合って喜んだ。
「城咲さーん! 有瀬くーん!」
ダッシュで二人のところに戻ると、私は最前列の応援席で待っていた二人に飛び付く勢いで抱きついた。
「応援ありがとー! 二人のおかげで特別賞もらえたよー! 二人共、好き好き! 大好き!!」
左腕を有瀬くんの胴体に回し、右腕に城咲さんの華奢な肩を抱いていたんだけど……その両方の体が、強張っているのを触れた手に感じた。
それに気付いたのはとっくに好き好き発言した後で――有瀬くんと城咲さんの隙間に埋めた顔から、一気に血の気が引いた。
やば……まだ引かない祭りの熱と歓喜に心湧いてて、冷静さを失っていた。
ひええ、何と浅はかな行動をしてしまったんだ! 馴れ馴れしくしすぎた? しすぎたね!? これ、二人にしばかれるパターンよね!?
ど、どうしよう……恐ろしすぎて顔上げられないし離れられない……。
「そ、そう……お役に立てたなら良かったわ。実行委員の仕事を思い切って他の人にお願いして、応援の時間を取らせてもらったんだけど……そ、その、こっそり小道具を持参した甲斐があったわね……ま、まさか、す、好きとまで言ってもらえるとは……あ、あの、こちらこそありがとう……」
恐る恐る城咲さんの方を見ると、誰もが憧れ誰もが羨む美し麗しい顔を真っ赤にしていた。
あっ、こっちは大丈夫そう。デレてるデレてる。可愛い可愛い。
問題は、反対側なんだけど……城咲さんが味方についてくれるなら、ブチ切れられても制圧できる、よね?
縮こまった首を動かしてそっと視線を向けると、有瀬くんは凶器のように綺麗に研ぎ澄まされた目でこちらをじっと見ていた。怖いくらいの無表情だ。
ひぃやぁぁ……これはもしかして、もしかしなくても殺すかしばくか尻子玉抜くか噛み付くかで悩んでる? だったら噛み付きでお願いしたい! できたら死なない程度に! 叶うなら噛み千切らない程度に! 許されるなら跡が残らない程度に!
「俺もだ」
が、何とか死を回避できないかと焦り狂う私に、有瀬くんが告げたのは、それだけだった。それだけなのに、あまりにも破壊力が高すぎた。
驚いて飛び退いて、背後にあった椅子に躓いて引っ繰り返って、立ち上がろうとして今度は置いてあった荷物に足を取られてまた転んで、その拍子に他の椅子まで巻き込んでドミノ倒しにして、バラバラに崩れた椅子の中に埋もれながらも藻掻いていたら額と脛を思い切りぶつけて、私は悶絶した。
「うぎぃあああ! いだいいだいだい! 死ぬ死ぬ死ぬ!」
「何やってんだ、那由多。コントか?」
「何してるの、柊さん。一人コント?」
助け起こしてくれた二人が、揃って同じ台詞を吐く。
似た者同士で何よりですね!
でもくだらない一人コントを披露してデコにコブと脛に青アザ作ったおかげで、何とか誤魔化せたよ。
この状況で城咲さんより真っ赤になってたら、訓練だ実験だなんて言い訳、きっと通用しなかったもん!




