17-6 傾国の美女と化学反応起こしたら人類滅亡させるタイプ
「俺も那由多が八重樫の恋人になるところなんか想像したくない。でも、ありえないことが起こる可能性もある」
お次は後方からの攻撃の対処だ。
「だからないっつってんでしょ! 過去に戻って歴史改変するなんてできないし、今私は有瀬くんの恋人なんだから起こる可能性もないの! 八重樫くんはどうしようもないくらいアホだけど、血迷っても友達の恋人に手出しするほどのアホじゃないからね!? それに八重樫くんにはちゃんと好きな人がいるんだから、NTR性癖があるなんて勘違いしたら可哀想だよ!」
「え」
「え?」
またもや二人が固まる。
「八重樫って、救いのないアホじゃねぇのか……まじか……底なしのアホだと思ってた」
有瀬くんが口元を押さえて声を震わせる。
この上なく失礼なことを言ってるけど、一応こっちも解決だ。
「八重樫くん、好きな人なんているの!? 柊さん、知ってるの!? 誰、誰!? 何よ、もしかして口止めされてるの? いいわよ、教えてくれないなら自分で聞くから!」
うわぁ……城咲さん、思いっ切り食い付いてきちゃったよ。
そうだよね、この人ってば恋人サポーターになった上に最近になって恋愛漫画読み始めたから、恋愛の話題に興味津々なんだよね。
あーあ、新たな問題勃発したわ。
ごめん、八重樫くん……つい口滑らせちゃった。
でもあんなにわかりやすい行動取ってたのに、ちっとも伝わってないってどうなのよ?
これじゃ勢いで名前言っちゃっても『へー、シロサキサンっていうんだーどんな人だろー』ってなってたかもなぁ……。
「那由多」
「なーに?」
城咲さんが料理の写真をダシに好きな人を聞き出してやる! と意気込んで八重樫くんとラインを始めたので、放置して食事を再開すると、隣の有瀬くんに呼びかけられた。
「知ってるか? 恋人がいるのに他に恋人作ったら、二股っていうんだ。二股は大罪だ。地獄に落ちる」
「二股って単語と意味は知ってるよ……? でも地獄に落ちるってのはどこ情報かな?」
「母から聞いた。ナントカ地獄って言ってたけど忘れた」
なるほど、ソースは志貴さんか。あの人ってば、本当に息子を地獄ネタでビビらせるの好きだよね……。
「那由多が二股したら、俺、そいつを殺すと思う。思うじゃねぇな、確実に殺す」
真央さんの料理を食べる手も呼吸も止まった。
「は……?」
小さく息を吸うついでに、私は問い返した。
俯き気味に視線を落とした有瀬くんの横顔はいつもと同じで、近寄り難いのに惹き付けられるほど綺麗で、相変わらず何も考えていないように無表情で、何物もの侵入を拒む聖域みたいに無垢だった。
「八重樫でも明日香でも、紅でもキラキラでも、父でも母でも、誰でも殺す。じゃないと那由多が地獄に落ちるから」
「は……?」
息を吐くついでに、もう一度問い返す。
すると有瀬くんはこちらを見て、何故理解できないのかとでも言いたげに眉をひそめた。
「は? じゃねぇよ。恋人の魂を守るのも恋人の役目だ。二股はとても悪いことなんだからな。わかったら二股だけはするなよ。俺も絶対しない。那由多も人殺しなんてしたくないだろ?」
「は……はい……私も二股などという恐ろしい行為は決していたしません……」
敬語で答えて、私はタコさんウインナーを飲み込んだ。何の味もしなかった。
こっっっわ!!!!
志貴さん、有瀬くんにいつ何をどう教えたの!?
恐怖しか教えられなかったからって、何事もトラウマ植え付け方式で指導してるんじゃないでしょうね!?
だとしたら、その情操教育に物申したい!
このまま成育したらあなたの息子、やたら身体能力の高いヤンデレ殺人鬼になるよ!? 交際相手によっては、歴史的シリアルキラーになっちゃうかもしれないよ!?
私の作った主食を食べ尽くし、ちくわ海苔チーズ巻きをもぐもぐ食べる有瀬くんを横目に、私はミートボールうずら串を噛み締めて心から願った。
ああ……どうかいつか有瀬くんが恋を知ることになっても、浮気性の尻軽なタイプにだけは捕まりませんように。
茨の中の浮遊霊になるのは仕方ないと諦めるとしても、有瀬くんがその人を中心に死体の山を積み上げるような未来だけは何としても阻止したいよ……。




