16-11 ストーカーしてた相手に実はストーカーされてて監禁暗黒微笑メリバエンドだった
負けてばかりで嫌気が差したのか、ババ抜きにはもう飽きたと駄々をこね出した志貴さんの提案で、家にあるもので簡易な仮装をして撮影会をしよう! という流れになった。
「おおー、やっぱりおっきいなー! 今はこれより大きいのかぁ……そうかぁ……健やかに育ってるね……すごいね、えらいね……っ」
「毎日見てるだろ。泣くほどのことか?」
「や、やめてよ、柊さん……私まで泣いちゃうじゃない。うぅっ、あんなに小さかった留佳が、本当に大きくなって……」
「明日香までどうした? 何だ、このノリ。ついていけない俺がおかしいのか?」
三人で有瀬くんの部屋に行くと、私は投げ捨てられたまま放置されてた学ランを、城咲さんは例の『バカっていう奴がバカっていう奴がバカって……』と無限に続くクレイジーなTシャツを有瀬くんに借りて着て、それぞれ咽び泣いた。
しかし、下はどう考えても長さ的に無理だったので城咲さんが貸してくれる……と申し出てくれたんだけど。
「うっわぁ……」
有瀬くんの部屋の隣にある、城咲さんの部屋に一歩踏み――入れるより前に、私はドン引きして凍りついた。
壁という壁に、有瀬くんの写真、写真、写真、写真、写真! むしろ壁紙が有瀬くんの写真のコラという有様だ。
ひぃぃ……天井も見えなくなってる。ヤバいじゃん、これ……ストーカーの活動拠点じゃん。
「どうしたの、柊さん? 入っていいわよ、だって私達、お友達だもの。お友達なら大歓迎よ」
数百、もしかしたら数千の有瀬くんの中から、城咲さんが婉然と微笑みかける。
こっっっわ!
まさに人怖系ホラーじゃない!
無自覚ストーカーの女の子が悪意なく秘密を見せて、怯えた友達に『あなたまで私を否定するの? 友達だと思っていたのに!』って襲いかかってくるやつ……いやぁぁぁ、何でそんなトラウマなお話を思い出したの、私!
あれ、途中までほっこり日常系だったんだよね! 女の子同士の友情を描いた優しい物語だったんだよね! なのに急転直下して、ホラーになったんだよね! 何の心の準備もなくホラー展開ぶち込まれて、怖すぎて泣いたよね!
「学ランなら黒よね……レギンスでいいかしら? タイツはさすがにイヤでしょ? あ、ストレートパンツの方がそれっぽく見えるわね。これ、サイズ合えばいいんだけど……ねえ、柊さん、早くこっちに来て。私もコーデしてほしいわ」
「アッハイ、行きます行きます、すぐ行きます!」
あの漫画の子みたいに滅多刺しにされては敵わない。意を決して、私はストーカーの本拠地に踏み込んだ。
しっかし、こえええ……落ち着かねえええ……。
目線が合ってないのばっかりだから、ほぼ盗撮した写真なんだよね……幼稚園の制服着てるのもあるんだけど、そんな小さい頃からカメラ持って追い回してたのか……対象を付け狙い続ける妖女な幼女がカメラのシャッターを切り、あどけなさの中に潜む狂気を滲ませた笑みを浮かべて……バカぁぁぁ! もう余計な妄想膨らませるのやめなって、自分! ますます怖くなるでしょうが!!
「……ん?」
ウォークインクローゼットで衣類を物色している城咲さんを待ち、部屋の真ん中で棒立ちになっていた私は、低い位置に貼られた写真の多くがちょっと奇妙なことに気付いた。
「ねえ、城咲さん。有瀬くんってちっちゃい時は日常的にコスプレさせられてたの?」
「ああ、幼稚園時代のこと? 小学校に上がるまで、志貴が外出する際には必ずマスク着用させてたのよ」
クローゼットから澄んだ声が返ってくる。
マスク。
そういえば真央さんがそんなこと言ってた。
でも普通はマスクっていったら、口元を覆う方を想像するよね?
「最初は普通のマスクにしてたそうだけど、息苦しいって言ってすぐ外してどこかに捨てちゃうから、逆に上半分を隠すことにしたんですって。視界は多少悪くなるけど、そのタイプならそれほど嫌がらずに大人しく着けてくれたらしいわよ」
私の心を読んだように、城咲さんは続けた。
なるほどね。活動量の多い子どもに、マスク必須は酷だよね。でも上半分のハーフタイプならお祭りのお面っぽいし、喜んで着けてくれそうだと思ったんだろう。
今日のベネチアンマスクを着けた有瀬くん――と似たような姿で映る、ずらりと並んだ幼い有瀬くんに、私は再び目を落とした。
アメコミヒーロー、特撮ヒーロー、戦隊ヒーロー、ゆるキャラ、面白パーティグッズ、目元は様々に飾られていたけれど、露出した口元はほとんどが引き結ばれていた。
ああ……ごめん、有瀬くん。
喜んで、なんてそんなことなかったよね。たまになら楽しいかもしれないけど、毎日じゃイヤだよね。イヤだけど、ママのお願いだから諦めるしかなかったんだよね。
どの写真でもちっとも楽しそうじゃない有瀬くん達に、私は心の中で語りかけた。
顔が良すぎるってのも大変だよね。
小学生になったらその面倒なマスク必須令が解除されるみたいだから、もう少しだけ我慢してね。
あと、めちゃでっかく育つから、楽しみにしてて。その狭い視界からじゃ想像もできないくらい、見える世界がすごく広く大きくなるから。




