16-10 おっぱいが粉ミルク缶に見える系男子
「じゃあ今回は、留佳のお尻派について話してもらうわよ!」
先程のゲームでトップだった城咲さんは、勝者の権限でお題を宣言して、隣の志貴さんが掲げたトランプから一枚引いた。
「ええっ!? 留佳、お尻派なの!? 道理で私のおっぱい見ても反応しないわけだ。年頃の男子ならもうちょっと狼狽えてくれてもいいのにって軽く落ち込んだけど、そうかあ、お尻派かあ」
志貴さんが同じように、反対隣の有瀬くんからトランプを抜く。そして手持ちとペアになったカードを、円座となった皆の中心にぺいっと捨てた。
「何をどう反応しろってんだ? 粉ミルク見たって粉ミルクだとしか思わねぇだろ」
有瀬くんが面白くもなさそうに吐き捨て、真央さんからカードを引く。
「おい、勘違いするなよ。あれは必要な期間限定で、栄養源として一時的に寄与していただけだ。お前のものじゃねぇ、調子に乗るな」
真央さんは眉間に皺を寄せて有瀬くんを睨むと、私の手札から一枚引いた。が、わかりやすく肩を落とす。
「うわ、気持ち悪。息子にまで敵対心剥き出しとか、独占欲やばいっすね。城咲さん、どこで有瀬くんがお尻派だって知ったの? 噂でも耳にした?」
無事ジョーカーから逃れた私は、城咲さんからカードを一枚引きながら尋ねた。
あ、ペアになった。やったね。
「クラスの女子に話しかけられたのよ……柊さんの誕生日に。理想のヒップを目指したいから、何かエクササイズをやっているなら、教えてほしいって」
理由を問い質すと、有瀬くんのお尻派発言から美尻トレーニングに目覚めたのだと明かされたらしい。
だからといって有瀬くんとどうにかなりたいわけではない、自身に自信をつける自分磨きの一つとして取り入れたいだけだと真剣に訴えられ、城咲さんは、自分が日常的に行っている簡単かつ有効なエクササイズを伝授したんだって。
それを聞いた私の胸に、ふんわりと喜びが広がった。
あの集団痴漢の子達、城咲さんに話しかけてくれたんだ……近付くのも畏れ多いと遠巻きにするばかりだったのに、勇気を出して声をかけたんだ……。
きっかけは、もしかしたら私だったのかもしれない。クラスで大騒ぎしちゃって申し訳なく思っていたけれど、あれを見て、何だ普通の子とも話すんじゃんって皆の緊張が解けたのかもしれない。
だったらいいな。
友達を孤独から救う力になれたなら、こんな嬉しいことないよ!
「ふーん、留佳達の学校では今美尻がアツいんだね。留佳もそれでお尻派になったの?」
ここで志貴さんがまたペアになった手札を捨てながら、有瀬くんに最もやめてほしすぎる質問をする。
この人、ほんっとーに真央さんに口を縫ってもらうべきだと思うんだよね!
しかし自分の番の時以外は喋ってはいけないというルールなので、歯を食い縛って耐えるしかない。
「美尻がアツいとか知らない。ケツに転んだのは『うんち、むりり。』のせいだ」
お前も言うなよ、黙れよ、縫われてしまえ!
ほらみろ、ジョーカー回ってきたじゃん。真央さんとおんなじで、表情ないくせにわかりやすく固まるからバレバレなんだよ。罰が当たったんだよ、ざまあみろだよ!
「ああ、あれか……確かにあれは衝撃だったな。この世にこんなアホなパンツ履く奴がいるのかと俺も目を疑った。だったらケツじゃなくてパンツ派になるんじゃねぇのか?」
ジョーカーを手放せて明らかにほっとした様子の真央さんだったけれど、私からカードを引いて深々と溜息をついた。またペアにならなかったらしい。
「真央さんも見てたの!? いつの間に!? サイッテー! 人のパンツを笑い者にする奴はずっとジョーカーの呪縛に囚われてればいいよ! あっ、城咲さん、クラスメイトとお話できて良かったね! 私も集団痴漢に遭った甲斐があるってもんだよ!」
「何何!? 集団痴漢って! 教えて教えて、那由多ちゃん!」
すると、志貴さんが押し倒すように飛びかかってきた。
あーあ……やっちゃった。
「志貴、ルール違反で失格。あなたの負けよ」
城咲さんが冷酷に告げる。
それで我に返ったようで、志貴さんは頭を抱えて蹲った。
この人ってば、喋っちゃいけないルールで何回も失格になってるんだよね。このババ抜きももう十周目だけど、半分は志貴さんのルール違反で強制終了してるんだよなぁ。運も駆け引きも恐ろしく強い志貴さんを牽制……というより陥れるために作られたルールなんだろうね。
罰ゲームの志貴さんによる一発芸は、夫の物真似だった。似すぎてて腹筋死んだ。顔真似までしてくるとかズルい。
ご本尊は憮然となさってた。まるで真央さんの罰ゲームみたいだった。
その後、志貴さんが集団痴漢の詳細を聞きたがったから、有瀬くんがお尻派だと知った女子達に、お尻を触らせてとお願いされて一人一撫で限定で許したのに、エスカレートして揉み倒されただけだと伝えた。なのに。
「…………おい、その、一応スクールカウンセラーとかに相談した方がいいんじゃねぇのか? 今は平気でも後々フラッシュバック起こして心の傷になることもないとは言い切れねぇだろ? 学校で言いにくいなら、知人のカウンセラーを紹介するぞ?」
真央さんが真剣な表情で言うもんだから、ほっこりしつつも申し訳ないけどちょっと引いた。
この人、本当に教師なんだなぁ……しかも生徒思いの良い先生やん……良い先生なのはわかるんだけどね……。




